実写版『美少女戦士セーラームーン』ファンブログ


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【第329回】DVD第2巻:Act. 8の巻(その7)


『モップガール』第5話より。たおれかかる鉄パイプをはっしと受け止め、同僚の高岡蒼甫さん(元スターダスト所属)のピンチを救った北川景子さん(スターダスト所属)。
この機会に(どんな機会だよ)高岡蒼甫と北川景子のツーショット画像をトップに載せたいと思い、モップガールをざっとおさらいしてみたんだが、意外と良いアップが少ないんだよ。高岡君が演じる若山は、女子高生バイトの環(夏菜)にご執心という設定なので、夏菜とのツーショットには、けっこういいのがあるんだけどね。
というわけで、着地点の見えない高岡君の騒動、北川さんの終戦記念ドラマ、たまらさんの帰国、といろいろなニュースが引きも切らずの夏ですが(もっと大事なニュースがいっぱいあったような気もするが)みなさんお元気でしたか?
北川景子スペシャルドラマ『この世界の片隅に』については、以前『筆談ホステス』をオンエア後すぐにレビューしたこともあったし、今回もそういう企画も考えてはみました。でも現在「MarsPowerWeb」のトップに、原作ファンの火星発動機さんによる微妙な期待のコメント(笑)が載っていて(ここ)、それを読んでいると、やっぱり原作を読んでからレビューしてみよう、という気になります。
それに今月は後半に北川さんのお誕生日もあるので、まるまる北川景子月間になってしまうわけです。別にそれでいいじゃん、という方もおられるだろうが、しかし一応、本サイトのメインコンテンツになっている実写版レビュー(そうだったのか)がこれ以上中断するのは、ちょっと望ましくないかな、と思ったので、とぎれとぎれになるとは思いますが、再開します。

1. 宿題の謎:解決のない解決編


ということでAct.8、レビューはどこまで行ったかというと、レイとまことの喧嘩がクスリになって、やっぱり自力で宿題をやりきろうと、夜遅くまでがんばるうさぎ。
このとき、うさぎが開いている宿題の問題集について、以前こっちよ!研究員に調査依頼を出したんだけど、わりと投げやりな返事が返ってきた。いや投げやりというか、美術スタッフの仕事がちょっとズサンだと言いたげなニュアンスを感じました。

もう見るからにお分かりいただけるとおり、裏表紙、いわゆる表4の部分は紙が貼られていて、しかもシワが寄っています。だから定価もISBNも表記がないという、現実にはありえない造本になっています。私もシワくらいはまあ、気づいたんですが、裏表紙だけ紙を貼り付けたのかな、と思ったわけね。
でも、こっちよ!さんによると、表紙の方も「学習教材 ニューホライズン」とか「学習内容にあった予習・復習ができる」とかいうフレーズは明らかに怪しくて、市販本とは考えにくいとのことです。結局、表紙の側も含めて一冊丸ごと、スタッフが何かこの手の参考書を見て適当にでっち上げた小道具ではないか、それにしても出来はあまり良く無いね、というのが研究員のご意見であった。そうですか。ありがとうございます。
で、何だっけ、台本のシーン16「月野家・うさぎの部屋の中(夜)」はこうなっている(台本の全文はここ)。

  
   時計は12時を回っている。
   うさぎが問題集を閉じる。
うさぎ「よし、終わった! 後はコンテストの準備!」
   うさぎは眠そうな目をこすりながら、かぶり物を取り出して頭に被って、鏡の前に立つ。
うさぎ「くぴっ、くぴっ?くぴっ〜」
   と色々ポーズを研究するメゾピアノのうさぎ。
  
   だが、それをドアの隙間から見ている育子。
育 子「う、うさぎ……?」
うさぎ「くぴっ」
   育子が飛び込む。
  
育 子「うさぎー!しっかりしなさい」
うさぎ「え、ちょ、やだ!何なのー!」
育 子「うさぎー!」


ト書きでは「時計は12時を回っている」となっているが、ま、小さいお友達への配慮ということか、演出上は、夜空に月を見せるだけで、うさぎちゃんがどのくらい夜更かししたのかは分からない。でも中学2年生にとって12時過ぎというのは、夜更かしの部類には入るけど、それほどとんでもない時間ではないよね。
また台本上のママは、深夜にそーっと(たぶん進悟も寝た後で)うさぎの様子を覗きにきたような感じもするのだが、完成作品のママは、下の階で進悟と話をしていて、進悟が「ムリするとプツッていっちゃう事もあるし」なんて不吉なことを言うもんだから、心配になってすぐさま、そこにあったお茶とお菓子をお盆に載せて様子を見に来た、という雰囲気である。だからたぶん演出家の想定した時間は12時よりも前ではないかと私は思います。

2. おっちょこちょいと秀才


しかも翌日はまだ「ナコナコなりきりコンテスト」の本番ではなくて、うさぎは学校で、あくびをしながらなるちゃんたちと「クピっ!」とかやっている。ということは、うさぎは他人の力を借りずに、わりとテキパキ宿題を片付けちゃったわけである。こういうふうに考えると、やっぱり実写版のうさぎは、アニメ版ほど勉強にだらしない子でもなければ、そんなに成績が悪そうでもない。冒頭の「宿題を捨てちゃった」という言い訳と「だから手伝って」という理屈が非常識なだけだ。
この件についてはこれまで何度か言及しているし、最近も【第313回】で触れたが、小林脚本&田崎演出の大事なポイントと思うので、もう一度しっかり確認しておきたい。実写版のうさぎはそんなに劣等生ではない。

Act.1のうさぎは、登校途中にルナを拾ったせいで遅刻してしまい、担任の桜田春菜先生から「今週3度目」とほっぺをグニグニされるけど、べつだん成績のことは言われていない。
 
これが原作やアニメ版の第1話になると、遅刻だけではなく「そんなことだから赤点を取るんですよ」と、30点の英語のテストを見せられて叱られる。
ただ、ご存じのように実写版でも、Act.2では、ママは成績の悪いうさぎを塾に行かせる。

育 子「これ塾の地図。あんな成績とってたんじゃ心配だわ。申し込んどいたから、今日から行って基礎からやり直しなさい」


こういうのを観ると、確かに成績がうんと良いわけではなさそうだ。でもその塾は、アルトゼミナールの向いにある「よいこのなかよし学習教室」で、うさぎは「ママったら、基礎すぎるよ……」とぼやくのである。ここではむしろママのおっちょこちょいが強調されているし、さらにそこから穿った見方をすれば、うさぎの成績不振も、どちらかというと学力の問題ではなく、この母ゆずりのおっちょこちょいから来る不注意、勘違い、ケアレスミスのたぐいに原因があるのではないか、とも思える。
このように、実写版のうさぎのキャラクターが(実写版にふさわしく)「劣等生」から「おっちょこちょいの普通の子」寄りに修正されたぶん、実写版の亜美のキャラクターもそれに併せて変化している。原作やアニメ版では、極端な劣等生のうさぎと対照的に、亜美もまたマンガチックなほど天才的な頭脳を誇る少女ということになっていた。だが実写版では、亜美もまた「普通の秀才」に近いものになった。
原作の第2話やアニメ第8話の冒頭では、まず全国統一模試の結果で亜美の天才ぶりが示される。水野亜美は全国トップなのである。ちなみにアニメ版の順位表では、二位以下は芸能人の名前のもじりで、浦和良の存在はまだ想定されていない。



原作第2話のうさぎは、水野亜美の天才ぶりに感心しながら、ため息をついて自分の成績表に目を落とす。けっこうひどい点数である。ここまでマンガチックに対照的だから(マンガだけど)この後うさぎが「勉強を教えてもらえるかも」という下心をもって亜美に接近しても、かえって、あまり嫌味にならないのである。
一方、実写版Act.2で掲示されるのは、学内の中間考査の成績上位20名である。あえてそういう言い方をするなら、水野亜美は学内の成績トップにしか過ぎない。うさぎも同様である。「なるちゃんすごいねー」と喜びつつ、自分に関しては落ち込んでいるが、つまりトップ20に入れなかったことで凹んでいる、と解釈できないこともない。とすると、劣等生どころか、調子が良ければ上位を狙える実力者ということになって、だいぶ印象が違ってきますよね。
あるいは、基本設定でのうさぎは、アニメや原作に準拠して「成績が悪い」ことになっていて、だから初期エピソードや、Special Act.の亜美の設定などにその痕跡は伺えるのだが、小林靖子の脚本、田崎竜太の演出を経て、そういう要素はシリーズ本体のなかでは極力消されていった、ということなのかも知れない。ていうか私はそう思っています。
だからレイだって、このAct.8で「うさぎ、自分の失敗は自分で取り返さなきゃ」とたしなめるのだ。さっきも触れた【第313回】のなかで書いたので繰り返さないけど、レイは「あなたの実力なら自力で挽回できるでしょ」という含みでこのセリフを言っているのである。だから、何に対しても甘えん坊なうさぎに、いつもかんしゃくを起こしているアニメのレイちゃんとは、これまた印象が違う。

3. うさぎママ revisited



先日、こっちよ!研究員から教えていただいて、NHK-FMの『インディーズファイル』を聴いた。うさぎのママを演じている森若香織がパーソナリティのラジオ番組で、月に1回、毎月の最終日曜日の夜という変則的な放送のようである。全国各地からエントリーされた、インディーズシーンで活動するバンドやミュージシャンの曲を森若さんが紹介していく番組です。
そんなわけで森若さんは、次々に流れるインディーズの曲に寸評を加えるんだけど、やはりガールズバンドの批評の仕方に、ちょっと独自のセンスを感じました。番組の最後で、彼女イチオシの曲をひとつだけ選んでアンコールオンエアするのだけれど、今回(2011年7月31日放送回)選ばれた一曲は、やはり女の子がリードボーカルを取っているバンド、PiPPiの「おすもうしよう」だった。なんか、ジョナサン・リッチマン&ザ・モダン・ラヴァーズみたいな脱力系パンクの音。なんて言ってもわかんないか。知りたい方はNHK-FMのページ公式ページ(ここ)やPiPPiの公式ページ(ここ)でどうぞ。
DJとしての森若さんは、うさぎママと一脈通じながらも、もうちょっとほんわりした包容力のあるキャラクターで、私は正直、実写版のうさぎママも、できればこっちの雰囲気で演じて欲しかったな、と思った。うさぎのママをなぜあれだけエキセントリックなキャラクターにしたのかについては、これまでにも考察したとおり、たとえば月野家における「パパの不在」を不自然に感じさせないための目くらまし的意味もあったとか、それなりに事情はあったのだろう。ただ月野家は、これから前世の使命だとかプリンセスだとか、過酷な運命に翻弄されることになるうさぎの、現世における心の拠りどころになっていくわけで、その象徴がママなのだから、もうちょっと普通で暖かい「お母さん」の方が良かったよな。

4. ハミィは変身しないのかなぁ


そういう意味で、私は前に書いたように、三石琴乃に実写版の月野育子を演じて欲しかったと今でも思っている。
三石琴乃は以前どこかで、出産後はもう、うさぎの声を出せなくなった、みたいなことを語っていた。本人的にはそういう部分があるかも知れない。でも一方で、いまだに「うさぎは自分だけの役」という強烈なプライドをもっていることも確かだ。そういう彼女に育子ママをやらせてみたかったですね。たぶん実写ドラマで女優を演じた経験はないはずだが、大丈夫だと思う。
私がこんなことを思ったのは、実写版が制作されるよりも何年か前、2000年に主婦の友社から出版された『山寺宏一のだから声優やめられない!』という対談集があって、それを読んだからだ。「声優・山寺宏一と30人の声の役者たち」というサブタイトルで、どういう内容か分かると思いますが、そのなかに三石琴乃の回があって、なかなか面白かったんですね。


山 寺 この番組(セーラームーン)は作品の人気と同時に、声優個人の人気も出てきたよね。
三 石 声優ブームがきちゃったのね。
山 寺 琴ちゃんは今はアイドルというよりも、実力派なんだけれどさ、いまだに表紙飾ることあったり、グラビアになったりしているでしょ。どういう気持ちでそういう仕事しているのか、いろいろ聞きたかったんだ。
三 石 なんかうまい具合にビッグウェーブに私は乗っていて、それでかなり仕事は広がったんですよ。それで、ほとんど仕事していないころ思っていたことがあって、私の所属する事務所にアニメ誌とか置いてあるんだけれど、女優さん、役者さんがインタビューされているのを見ると、なんてダサイんだって。ファッション雑誌に登場する女の人の撮られ方と違うなって。自分の名前を看板に仕事をしている人たちなのにどうしてちゃんと撮ってあげないんだろうってね。そんな思いがありつつ、で、写真を撮られる機会とか多くなって、私はそこからなんとか脱出したいなと。
山 寺 自分が写るからにはね。
三 石 声優という裏方の仕事ではあるけれど一般的になめられたくなかったんです、どっか心の中で。どうせやるなら、私が理想としているところに近づこうという思いはありました。

実写版が制作されたのは2003年。25歳からのほぼ5年間、20代の後半をセーラームーンに捧げた三石琴乃が、30代の後半を迎えた頃合いである。色々な意味で、うさぎのママをやらせてみたかったと思いませんか、ご同輩。

この『山寺宏一のだから声優やめられない!』という対談本はなかなか面白いのだけれど(でも実は、一番最後に「あとがき」代わりに収められた、山ちゃんが声優になるまでの半生を語ったインタビューがいちばん面白かったりする)この三石琴乃の回も興味深い発言があれこれ出てくる。三石さんの自伝本は有名だが、こっちは知られていないと思うので、本題とは関係ないけれど、もうちょっと紹介させていただきますね。


山 寺 『セーラームーン』は初めての主役?
三 石 そうです。キンチョーしたよ〜。
山 寺 周りは誰がいたの?
三 石 最初は(古谷)徹さん(地場衛役)と潘(恵子)さん(ルナ役)がいて。戦士の人たちはひとりずつ1年を通して増えていきましたね。
山 寺 増えていっても、みんな先輩だよね。テレビシリーズは、新人が主役やることが多いから、周りが先輩っていうのはよくあることかもしれないけれど。
三 石 アフレコの前の日に夢見ちゃった。スタジオが暗いんですよね。普通はマイクが3本均等に立っているのが、はしっこのほうにかたされていて、そこだけオレンジのライトが当っていて、周りに諸先輩がいて、台本を見るんだけれど、暗くて見えなくてたいへんって夢なの(笑)。
山 寺 俺も見るよ。いまだに、台本が暗くて読めないっての。そうか、最初はそうだったんだ。でもうれしかったでしょ。

三 石 うれしかった。今だから言えるんだけれど、オーディションのとき、「これ絶対やりたい、私しかいないよ〜っ」っとか、思ってね。オーディションやったときも、ものすごく気持ちよくできて、すがすがしい気持ちでオーディション会場から出てきた。
山 寺 決まったとき、祝杯あげたとか何かしたの?
三 石 何も。早く台本ほしかった。『セーラームーン』って、『きんぎょ注意報』の後番組なんだけれど、これがすごい人気があったのに、なんでやめちゃったんだっていう状況でスタートして、しかもヒロインがドジで泣き虫っていう初めてのパターン。キャピキャピで衣装もセーラー服で、そんな主人公らしからぬ主人公が悪と戦うというストーリー。
山 寺 でも、原作は人気あったんでしょ。
三 石 原作と同時スタートです。
山 寺 それじゃ先がぜんぜん見えなかったわけだ。俺、原作が人気があってアニメ化されたんだと思った。
三 石 原作者の武内直子さんもまだ新人。私と同じ年だったんですけれど。作品の見通しがどうのこうのというより、私は自分のことだけで必死でしたね。
山 寺 そうか。初めての主役だものね。
三 石 ダビングにも行って、何回も何回も見て、どこがダメで差し換えられたのかとか、口パクがこんなに余っていたんだとかさ。
山 寺 ダビングにも行っていたんだ。そうなんだよね。新人のころは。今は行かなくなったよね。


セル画枚数も少なかったし、『美少女戦士セーラームーン』って、東映アニメのなかでも、そんなに作品の質が高かったわけでもない。なのにあれだけ多くの人々を夢中にさせたのは、なにかこう、作っている側の初々しさや意気込みが渾然一体となって、視聴者にダイレクトに伝わってくるような独特の訴求力があったからである。その中心にあったのが「これ絶対やりたい、私しかいないよ〜っ」という25歳の三石琴乃の熱い思いだったのかも知れないと、これを読んで私はそう思った。

5. 不思議な楽譜

さて、次は翌朝の学校で、あくびをしながらもなるたちと「くぴっ!」の練習をするうさぎ、そしてそんな様子を遠くからそっと見守るまことと亜美、という場面だが、けっこう字数を使ったので今回はこのくらいで。そうだ、その後のダーク・キングダムのシーンは、特にコメントすることもないので(失礼)先に見ておこうか。

   ゾイサイトが弾くピアノの横に立つジェダイト。
ゾイサイト「心を飛ばせ。セーラームーンの所へ」
ジェダイト「場所は……」
ゾイサイト「知らん。ただ想い、飛ばせばいい」
   ジェダイトが両手を広げる――


そういえば、森若さんの「NHK-FMインディーズファイル」で、ゾイサイトのメタルバンドLAST REUNIONやジェダイトのバンドAS A SIGHN OF THE HUMANの曲もかかればいいのにな、と思う。
……いや、ひょっとして、もう曲をかけてもらっているのかな。
ま、ともかく、今回はこのくらいで。


今月がお誕生日の北川景子さん