実写版『美少女戦士セーラームーン』ファンブログ


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【第39回】さよなら!タキシード仮面の巻(Act.25)


 前回の日記を書いている途中から手首に異様な痛みが走るようになって、台所で包丁も持てないようになった。で、病院に行ったら「腱鞘炎(けんしょうえん)です」と言われちゃいました。「作家、タイピスト、ピアニスト、ギタリスト。自分の筋力以上に手先を使う人がかかりやすい職業病です。最近ではゲームのやり過ぎでなってしまう人もいます。あなたの場合はパソコンのキーボードの打ちすぎでしょう。お仕事熱心もいい加減にね」はは、先生。本当の原因はたぶん仕事じゃないです。
 というわけで現在、包帯でぐるぐる巻きの手で書いているわけだが、腱鞘炎の一番いい対策は「手を休めること」以外にないらしい。それに、ちゃんと治しておかないとあとあと慢性化して苦しむらしい。なのでしばらくは、湿布を貼り替えて書き初め、痛みがひどくなる前に書くのを止めるという、時間限定のやり方でこの日記を続けます。内容的にものすごく中途半端になりますが、しばらくは再放送のペースについていくのを最優先としたいので、ご容赦ください。あとせっかくコメントいただいても、全部にレスつけられるかどうか分かりませんけど、今後ともヨロシク。
 というわけで今回は

  • 衛のこと
  • 元基のこと
  • 陽菜のこと
  • うさぎのこと

という順で書きたいと思ってはいるのだが、どこまでもつか。

1.「なんで、気づかなかったの」

おぼえている。その、少しひくい声。その、タキシードのタイ。
その、ふかい、すいこまれそうな目の色
……なんで、気づかなかったの……?
(なかよしKCコミックス『美少女戦士セーラームーン』2巻)

 原作のうさぎ=セーラームーンがタキシード仮面の正体を知るのは連載第6回目である。これは実写版ではAct.10のラストにあたる(実写版Act.9およびAct.10と原作第6回の関係はややこしい。詳しくはこちらを参照して下さい)。実写版Act.10では、ゾイサイト作曲「プリンセスへのレクイエム」に倒れた某国のプリンセスや、かぐや姫が大好きなエリカちゃんたちを、セーラームーンがヒーリングの力で救う。そのあと、力を使い果たしてがっくりくるセーラームーンのもとに、仲間の戦士が寄り添うように集まるのだけれど、原作漫画では、気を失ったセーラームーンをタキシード仮面が抱き上げて連れ去るのである。
 そしてうさぎは見知らぬ部屋のベッドで目ざめる「どこ、ここ?」。そばのソファにはタキシードとマスクが無造作に投げ出してある。入ってくる地場衛。「ここはオレの部屋だよ」そして上のセリフにつながる。だから原作のうさぎは、実写版とは逆に「なんで、気づかなかったの」と言いながら、ソファに放り出してあった仮面を取り上げて、衛の顔につけてみるのだ。
 一方、アニメ第34話「光り輝く銀水晶!月のプリンセス登場」はだいぶ話が違っている。ゾイサイトの挑戦状を受け、スターライト・タワーでの対決に向かう地場衛。でも衛は肩に負傷をしていて、それを心配してついて来たうさぎ共々ピンチにおちいる。なんて言っても、ご存じない方にはなんのことやらという感じでしょうが、ともかく重要なことは、ここで二人がほぼ同時に変身して、その時、互いにセーラームーンでありタキシード仮面であることを初めて知るのである。非常に慌ただしい展開の真っ最中で「え、お前がセーラームーン?」「あなたがタキシード仮面?」という感じで、その場の盛り上がりにも欠け、ものすごくもったいない感じがした。
 それが残念だった原作ファンにとって、「なんで、気づかなかったの」というセリフを復活させただけでも、実写版は偉大だったのである。しかも、これも何度か書いているように、そこに至るまでのプロセスがぜんぜん違う。原作でもアニメでも、うさぎは衛の正体を知るまでは、基本的には彼のことを「むかつくヤツ」と思っていて、その正体を知ってからラブラブになるのである。つまり、うさぎが本当に好きなのは「タキシード仮面」なのか「地場衛」なのかという問題は棚上げにされたままなのだ。それを、はじめは会うとケンカばかりしていた衛がだんだん気になって、最後には、好きで好きで、会えばせつなさで息苦しくなるようにさえなる、ところまでもっていって、ようやく「なんで、今まで、気づかなかったんだろう」であるから、まるで感動が違う。
 で、衛にしてみれば、Act.19(バレンタインの義理チョコを貰う)で、うさぎに好きな人がいることを知って、しかもこの、Act.24でそれが「地場衛」であると知るのだから、これはちょっとしたシラノ・ド・ベルジュラックである。なんて書いても意味不明ですね。でも解説できなくてすみません。そろそろ手がズキズキしてきて。簡単にどの辺がシラノかというと、ここだ。

タキシード仮面「オレをかばったせいで……済まない」
セーラームーン「ううん。それより、男の人、見てない?」
タキシード仮面「男の人?」
セーラームーン「背はちょうどあなたぐらいで、地場衛って言うんだけど、敵に襲われたかもしれないの。見てない?」
タキシード仮面「いや」
セーラームーン「早く、助けないと」
タキシード仮面「無理だ。もう敵もいなくなったんだし、放っとけばいい」
セーラームーン「そんな、倒れてるかも知れないんだよ」
タキシード仮面「まて、どうしてそんなに」
セーラームーン「前に、マフラー渡したい人がいるっていったでしょ。その人なの。だから、助けなきゃ!」

 セーラームーンから、地場衛の容貌を教えられ「見てない?」と尋ねられて「いや」と答える澁江譲二の芝居はなかなか良いよ。ここは本当は「ああ、あいつか。それなら心配するな、さっきオレが逃がしたから」とか適当なことを言ってセーラームーンを安心させてあげればいいのだ。でも(え、なんで地場衛が気になるの?知りたい)という気持ちが邪魔して、しばしためらった後「いや」と答える。その辺の微妙な感じがけっこう出ている。
 とにかくそういうわけで、Act.24のラストシーンへ行くまでの展開は、どれだけ誉めても誉めたりないくらいのものである(のわりに前回だいぶラストに文句を言っていたような気もするが)。その前回に続いて、今回も良いなあ。まず前回、自分の意中の人が地場衛であることを、あろうことかタキシード仮面相手に告白したことを思い出し、取り乱すセーラームーン。で、走り去ろうとするところを「うさぎ!」と手をつかんでひきとめるタキシード仮面、ていうあたりですね。いつの間にか心惹かれるようになっていた少女うさぎ。そのうさぎも自分を好きでいてくれたことの喜び。しかし陽菜のことがあるからなあ。ということで、いったんつかみかけた手を離す。そして去っていくときの苦悩の表情は、マスク越しなのにとてもよく表現されている。澁江譲二も成長したぞ。
 でも渋江君、あなたの将来の目標である『実写版アンパンマン』の食パンマン役は、たぶんタキシード仮面よりむずかしい。もっともっと演技力が要求されるぞ。何しろ食パンだからな。あんパンとか焼きそばパンとか、なんかそういうオカズにたよることのできない、もっともベーシックな演技力が試される一番むずかしい役だ。今は「マジヨ」公演の真っ最中だとおもいますが神戸ちゃんともども頑張ってください。

2. 「これが、最後だ」


 さて、今回をもって「タキシード仮面」は物語から退場する。なので第2クールにおけるタキシード仮面の動向を見ておこう。どうして第2クールに限定したかというと、ちょうどAct.13が、シン(クンツァイト)の記憶を取り戻すための鴨川へのバイクドライブの回で、ここでうさぎと衛の心が初めて寄り添い合うので、それ以降、ということである。そんなに深い意味はない。
 で、2クール目13回(Act.14〜Act.26)中、タキシード仮面が出た回は

Act.14 クンツァイトと初対決「どうやら本当にシンという男は消えたらしいな!」「最初からいないのだよ」
Act.19 セーラームーンに義理チョコを渡される
Act.20 まことに正体がばれる(そして次回の回想シーンで殴られる)
Act.24 セーラームーンに正体がばれる。
Act.25 「これが、最後だ」

の5話だけである。けっこう少ない。で、これを見ていると、要するにAct.15をもってタキシード仮面の本来の出番は終わっていることが分かる。Act.15は、美奈子の宝石が盗賊団に盗まれる回だ。詳しくは第22回の日記に書いたが、つまりこの回で衛は、うさぎと一緒に宝石泥棒をやっつけることで、タキシード仮面=泥棒としての自分に引導を渡してしまったのである。そしてその次のAct.16の最後には陽菜が登場し、衛は前ほど単独で自由に活動できなくなる。そうするとそれ以降の、Act.19、Act.20、Act.24、Act.25のタキシード仮面の変装とは何か。これは「浮気のカムフラージュ」だ。
 Act.19ではバイクで陽菜を待っていると、街のどこかで妖魔が登場し、大騒ぎになっている。そこへ陽菜がやってきて「なんか今すごい音聞こえた?」。「ああ」と気がかりな表情の衛。で、うさぎが心配で、適当な理由で陽菜をその場に置いて、タキシード仮面に変身してピンチに駆けつけたのだろう。そしてそこで義理チョコを貰う。まだこの時点で衛は、うさぎの本命が自分であることを知らないが、ともかく婚約者を放ったらかしにして、別な女のためになんかコソコソやって、チョコを貰っちゃうのである。これは素顔ではできない。
 Act.20は公園デートの回で、うさぎが妖魔の気配を察して飛び出してゆくと、衛もすかさず変身してその後を追う。でまことがその前に立ちはだかって「あんただったんだ、地場衛」とぶん殴られる。
 で、あとは前回と今回である。つまり2クール目の衛にとってタキシード仮面の衣装というのは、うさぎを助けに行くにあたって「これは陽菜の婚約者である地場衛ではなく、セーラームーンを助けるタキシード仮面なのだ」と自分に言い訳するためのツールなのだと思う。だから今回「これが、最後だ」というのは、つまり、これでうさぎへの想いを断ち切る、という意味に理解して間違いないのである。


 前回のコメント欄にM14さんが書いていらっしゃるが、要するにうさぎも陽菜も良い子にしたために、衛はこの三角関係のなかで一番損な役回りをさせられている。そういうつらい立場をかくまうのがタキシードなんだと思う、というようなことが書きたくて、あと元基のことと、それから今回の主役である陽菜のことぐらいは書いておこうと思ったが、ちょっと今日はこのへんで手が限界です。少しずつ様子をみながら復調していきたいと思いますので今後ともよろしく。


(放送データ「Act.25」2004年3月27日初放送 脚本:小林靖子/監督:高丸雅隆/撮影:松村文雄)