実写版『美少女戦士セーラームーン』ファンブログ


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【第404回】変身バンクの秘密の巻



この週末、用事で実家に帰省中、安座間さんを発見。通りすがりに撮ってみたが失敗だなこれは。風が強いです。


1. 変身バンクという「発明」


さて、前回のレビューの最後の方で述べたように、鈴村監督がローテーションに加わったこのAct.9とAct.10から、複数の戦士たちの同時変身を表現するのに分割画面が用いられるようになった。スーパー戦隊ではしばしば見かける手法だが、アニメ版セーラームーンでは、戦士たちの変身バンクは毎回、一人ずつキチンとフルバージョンで流されるのが常で、分割画面で一気に、というやり方はたまにしか用いられなかった。
アニメ版がそんなふうに変身バンクを多用したのは、経費節約ってこともあったんだろうね。たとえば細田守はこう言っている。ちなみに細田氏は劇場版『セーラームーンSuperS』(1995年)および『セーラースターズ』(1996年)に原画マンとして参加して、その後、幾原邦彦の誘いで『少女革命ウテナ』(1997年)のスタッフとなり、白井千秋名義で台本を書いたり、橋本カツヨ名義で絵コンテを切ったりしていたんだって。知らなかったなぁ。ていうか私は『おジャ魔女どれみドッカ〜ン!』第40話「どれみと魔女をやめた魔女」(2002年)を観るまでこの人を知らなかった。すみません。




で、以下の引用はネットでみかけたものだが、もとは『フリースタイル Vol.7  特集 細田守 『時をかける少女』を作った男』(2007年、フリースタイル出版)に掲載されたロングインタビューの一部らしい。



細田:幾原さんの「枚数を使わずに面白いものにしろ」という指令の意味も、やっていくうちにわかってきました。幾原さん自身も、『セーラームーン』をセル画二千五百枚で作ったんですよ。
――テレビアニメは最低三千枚必須というところを、二千五百枚だったんですか。
細田:『ドラゴンボール』は三千五百枚で、『スラムダンク』が三千枚。でも『セーラームーン』は二千五百枚だったそうです。『セーラームーン』は受注額が他の作品より少なかったらしい。
 でもその制約のなかで、手間をかけずに見事に面白く作って人気を博していた。こういうことを出来るのが本当の演出なんだと幾原さんは言うんです。
 だから、『ウテナ』では絵コンテのなかに「ここは止め絵」だとか、「ここは止め絵で口パク」だとかを明示して描きました。そうやってなるべく製作現場に負担を強いらせないことが、結果的には、むしろ現場に絵コンテの意図が明確に伝わる。制約をはっきりと自覚することで、逆に絵コンテは限られたなかで面白いことを必死でひねり出せるし、それが結果的に新しい表現につながるんです。


アニメ版セーラームーンの変身バンクの多用は本来、そういう厳しい製作状況のなかで、時間(と枚数)稼ぎの一環として取られた措置だったのではないかと思う。でもそれがセーラームーンの爆発的人気の一要因となったことはご存じのとおり。女の子にとっては戦いよりも変身、ていうか「メイクアップ」が魅力だったのだ。だから今日のプリキュアでも、やっぱり一人一人の変身バンクは、毎週たっぷり見せてくれる。サザエさんのエンディングみたいに、変身バンクで毎週、視聴者にジャンケン勝負を挑んでくるやつまで出て来た。



一方、実写版は、アニメ版に較べれば非常にしばしば、分割画面による同時変身という措置をとる。演出サイドの心境を推察すると、せっかく特撮部門が手間ヒマかけて作った変身バンクなんだからできるだけ使いたい、という気持ちと、でも伏線がいろいろ張られた小林靖子の台本を削りたくもない、というせめぎ合いのなかで出て来た案かもな、とも思うがどうだろう。各戦士の変身バンクは、M14さんの計測(ここ)によれば30秒弱。「ムーンプリズムパワー」等のかけ声もコミで30秒ちょっとというところ。したがって二人ないしは三人の戦士の変身バンクをひとつにまとめれば、30秒から1分の節約になるわけだ。それで本編にどのくらいの余裕が生まれるのだろうか。

2. パッション舞原は抱き合わせが嫌い


実写版セーラームーンは、各エピソードの長さが基本24分30秒、アヴァン・タイトルと主題歌に要する時間が毎回2分から2分30秒なので、本編のランタイムは22分から22分30秒である。これに対して台本のシーン割りは、各話おおむね30シーン以上40シーン以下で、単純に割り算すると各シーンの平均所要時間は40秒から50秒といったところになる。しかしこういう机上の計算は当てにならんな、と思って実際に計測しながらAct.10とAct.11を鑑賞してみたが、、セリフがあってそこそこまとまったワンシーンって、もちろん長ければ2分近いものもあるが、だいたい40秒から1分くらいが基本単位と言えるのではないだろうか。ということはつまり、小林先生の台本のワンシーンがどうしても本編に入りきらない、でもこれだけは入れたいという場合、変身バンクを分割画面で処理するという措置はそれなりに有効なわけだね。
それではAct.1からFinal Actまでの全49話中、分割画面を使った同時変身は何回ぐらい出てくるのかというと、全部で14エピソードに出てくる。


2分割】6例


  Act.09 亜美とまこと(鈴村監督)
  


  Act.10 うさぎとレイ(鈴村監督)
  


  Act.11 うさぎとまこと(高丸監督)
  


  Act.16 亜美とレイ(鈴村監督)
  


  Act.24 うさぎとまこと(佐藤監督)
   *変身バンクが回る「健光くるくるヴァージョン」
  
  


  Act.25 レイとまこと(高丸監督)
  


  Act.26 うさぎとまこと(高丸監督)
  


3分割】4例


  Act.16 うさぎと亜美とレイ(鈴村監督)
  


  Act.22 うさぎとレイとまこと(舞原監督)
  


  Act.42 うさぎと亜美とルナ(佐藤監督)
   *変身バンクが回る「健光くるくるヴァージョン」
  
  


  Act.47 うさぎと亜美とまこと(鈴村監督)
  


4分割】3例


  Act.31 うさぎと亜美とレイとルナ(高丸監督)
  


  Act.37 亜美とレイとまことと美奈子(高丸監督)
  


  Act.43 亜美とレイとまこととルナ(鈴村監督)
  


というように、監督別による13エピソードの内訳は、鈴村展弘監督と高丸雅隆監督が5回ずつ、あと佐藤健光監督が2回、舞原健三監督は1回というように、舞原監督は明らかに、分割画面に消極的である。
 なぜか。同時変身とは言っても、変身前のかけ声は、3人同時にかぶせたら視聴者に聞き取れない。だからかけ声の部分だけは、たとえば「ムーン・プリズム・パワー」「マーズ・パワー」「ジュピター・パワー」と順番に言わせてから「メイク・アップ!」の部分だけ一斉に発声、それから分割画面で同時変身という展開になるわけだ。分かりやすさを重視する鈴村監督がこの手法を取り、特に何も考えていない高丸監督がそれを踏襲し、ヘンな効果をかけるのが好きな健光監督はくるくる回した。
しかし舞原健三はそれがイヤだったのである(推定)。同時変身をやるならやるでスピード感を出したいが、三人がそれぞれかけ声をかけていたのではその勢いがそがれる。だから舞原監督は、ただ一度だけ分割画面を使用したAct.22において、レイとまことにかけ声をかけさせなかった。うさぎだけが「ムーン・プリズム・パワー」と叫んだ後、三人で「メイク・アップ!」と声を揃える。そして変身バンク。



こういうところにもこだわりを見せるのが我らが舞原健三なのだ。

3. 戦士それぞれの個別調査


う〜ん、前回「画面分割の同時変身が出る回をリストアップする」と言ったときには「何かそれなりに発見があるかな」と思ったんだが、実際にやってみたらそんなに面白くもない。何の考察にもならないな。しようがないので引き続き、そもそも(単独のものも含めて)各戦士の変身バンクが、シリーズ全編通してそれぞれ何回ぐらい使われているかを調べてみた。
本当を言えば、これに加えて「流れ的には変身バンクが出て来て良いのに出てこない場面」のリストも必要だ。たとえばAct.14の亜美。夜の街を走りながら「マーキュリー・パワー」と叫ぶと光に包まれ、次の瞬間には変身してしまっている。



ここだって、正面からのショットでこちらに駆けてきて、いったん立ち止まってポーズとかけ声、変身バンクで変身してから再び駆け出す、という普通の演出でも十分構わないと思うのだが、舞原健三は、それでは「うさぎちゃんを助けなきゃ」という亜美の切迫感が出ないと判断したのであろう。どうも舞原監督は、基本的に変身バンクの安易な流用を嫌っていたのではないか。そのあたりの問題については、以前、第252回で考察してみたので、よかったらお読みください(ここ)。

あるいはAct.48(鈴村監督)、最終決戦直前、黒木ミオに連れ去られたうさぎを追って、亜美・レイ・まことが敵の本拠地に乗り込もうとするシーン。小林靖子の台本(こちら)を読めば、分割画面で変身バンクを入れても良さそうな場面なのだが、鈴村監督は三人が「メイク・アップ!」と声を揃えたところで、場面をダーク・キングダムでのクンツァイトとマスターの対決にもっていく(この場面は台本では、その前のシーン22に描かれる)そして再びこっちの世界に切り替わった時には、三人は変身を終えているのだ。



こういう「演出が意図的に変身バンクをカットしたシーンとの対比」の考察も必要だとか、変身シーンの考察には、様々なアプローチの仕方が考えられるが、そういうのはまた将来の宿題としておく。いまは戦士一人ずつ、変身バンクが使用された回のみ、機械的にかぞえてみるね。



まず主人公。うさぎがセーラームーンに変身するバンクが使用されたエピソードは全49話中32話におよぶ(01, 02, 03, 04, 07, 08, 10, 11, 12, 14, 15, 16, 19, 20, 21, 22, 23, 24, 25, 26, 27, 28, 29, 30, 31, 32, 38, 39, 41, 42, 44, 47)。もちろん戦士のなかでは最多数だが、65%という数字はアニメ版に較べればかなり低いとも言える。
ただ前半はそれほどでもなくて(Act.05, 06, 09, 13, 17, 18の5回のみ)、特に19話から32話までは毎回必ずセーラームーンへのメイクアップが見られる。ところが32話でロンドンから衛が帰国して以降、変身バンクの使用回数は激減する。話が重たくなってきて、笑顔で軽やかに変身するどころではなくなってきたのだ。そしてほとんど「必然性がなければ変身バンクやりません」状態になってくる。たとえばAct.41は、なるちゃんに正体を見せる回だったりね。あとゾイサイトが死ぬAct.44と美奈子が死ぬAct.47にそれぞれ変身バンクを披露しているのが興味深い。それから他の戦士と一緒に分割画面で変身した回数は9回(Act.10, Act.11, Act.16, Act.22, Act.24, Act. 26, Act.31, Act.42, Act.47)で、変身バンク全体のうち7割以上が単独変身である。うさぎは基本的に、一人で変身して戦う孤独なプリンセスなのだ。



うさぎの次に変身バンク使用回数が多かったのはいちおう亜美で、計17回を数える(Act.02, 03, 04, 05, 09, 16, 21, 22, 25, 27, 28, 31, 37, 42, 43, 47, 49)。ただしAct.21からAct.27までの間、つまりダーク・マーキュリーの変身バンク4回ぶんを引くと計13回になって、トータル14回のまことに負けてしまうが、ダーキュリーも認めるのがウチの方針である。亜美の変身バンクが分割画面ではなく単独使用されるケースは9回(Act.03, 04, 05, 21, 22, 25, 27, 28, 49)で、ダーキュリー4回分を含むとはいえ、単独の変身バンク使用率が5割を越える。こちらは孤独な戦士というよりは「私ひとりを見て」という声が聞こえてきそうだが、まあそれは個人の印象です。



他方まことは、ジュピターへの変身バンクが14回使われるうち(Act.06, 09, 11, 21, 24, 25, 26, 28, 31, 37, 41, 43, 47, 49)、実に7割以上、9回が分割画面による変身である(Act.09, 11, 24, 25, 26, 28, 37, 43, 47)。この点から見ても、まことが基本的に「誰かと一緒」の同伴戦士であることが分かる。そんなまことが、どんな場合に単独でジュピターに変身するかというと、初登場のAct.6、ダーク化した亜美をクンツァイトの魔手から果敢に救おうとしたAct.21、元基を振って戦士として覚醒したAct.31、元基の前で変身してしまったAct.41、そしてFinal Actの計5回で、どれもそれなりに必然性があるときばかりなのが微笑ましい。普段は決してでしゃばらないのである。



次。レイの変身バンク使用は計12回(Act.03, 04, 10, 16, 22, 25, 28, 31, 33, 37, 43, 49)。うち単独使用は5回(Act.03, 04, 17, 33, 49)で、6割が分割画面。回数そのものはやや控え目(だから貴重感もちょっと出る)、一人で見せ場も作るけど、戦士たちのリーダーとしてアンサンブルも大切にする。理想的なバランスである。



これに対して美奈子の変身バンクはみなさまご承知のとおり極端に少なくて、総計たったの5回(Act.17, 23, 35, 37, 46)しかもフルバージョンでオンエアされたのは最初のAct.17のみである。そして分割場面での変身はAct.37のみで、あとは常に単独で画面を占有している。さすがは世界のアイドル。



おまけがルナ。セーラールナの変身バンクは4回ほど登場するが、単独で使用されるのは、ルナ人間体の初登場となるAct.27のみである。以降はAct.31(うさぎ・亜美・レイとの4分割画面)、Act.39(うさぎとの2分割画面)、Act.42(うさぎ・亜美との3分割画面)と、常にだれかと抱き合わせ。まあ致し方ない。ちなみに初登場のAct.27は、セーラールナとダーク・マーキュリーの変身バンクがあるが、レギュラー戦士たちの変身バンクはひとつも出てこないという変わった回である。


ほかにも戦士たちの変身バンクがまったく使用されないエピソードが8回ある(Act.13, 18, 30, 34, 36, 40, 45, 48)。これも一つ一つ見ると面白くて、たとえばAct.45は、美奈子が変身ポーズをとってもメイクアップできず、その傍らでさっさと変身してしまったジュピター(変身バンクなし)が茫然と見守るという切ない回である。




てなわけで、イマイチな調査結果だったような感もあるが、今回はこれまで。


あっ、みんな知っているけど大事なことを忘れていた。五人の戦士が「せーの」で一緒に変身する機会は、実写版ではついぞ訪れない。