実写版『美少女戦士セーラームーン』ファンブログ


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【第335回】DVD第2巻:Act. 8の巻(ホスト部番外編)


コカ・コーラから発売されたミネラルウォーター「い・ろ・は・す」のCMに沢井美優が出ている。……と、このあいだ本人が『MY HEART』にチラっと書いて、すぐに消してしまったんだけど、どういうこと?
沢井さんはそのちょっと前にも、ファンからの質問にあれこれ答えた記事をアップしたとたん、何かの手違いで消してしまって、それは何かの操作ミスだったようだ。だから今回もそのたぐいかな、と思ったんだけど、その後、ブログに再アップもされていないみたい。CM出演情報なのに。どういうことなのかな。言ってはいけない事情があるのか。
まあ名古屋支部の場合、問題がある場合には、事情通の万丈さんあたりから「い・ろ・は・すのCMのことはブログに書いちゃダメ!」とか伝令が来ることになっている。その時は、この冒頭部分は、即刻サックリ削除します。しばらく経ってもここまでの記事が消えていなかったら、別に「い・ろ・は・す」のCMの件はNGでもなんでもない、というふうにご理解くださいね。




1. 『桜蘭高校ホスト部』


ところで前回、実写版『桜蘭高校ホスト部』について「台本はほとんど原作どおりで、オリジナル色は少しもないけど、このくらい原作に忠実なのも気持ちいいよね」とか、そういう意味のことを書いた。

でも原作漫画もしばらく読んでないし、ちょっと気になって、改めてちゃんと較べてみたら、間違っていた。これ見よがしな筋の書き換えなどが無いから気づかなかったけど、原作エピソードのチョイスと組み立て、セリフ、細部のアレンジなどに、さりげなくドラマオリジナルの工夫がこらされていて、ちょっと私は反省した。脚本担当の池田奈津子さん、すみませんでした。良いホンです。
このドラマは、私立桜蘭学院高等部に入学したヒロインの藤岡ハルヒ(川口春奈)が、ホスト部員になるところから始まる。桜蘭学院というのは、家柄・資産・学力と三拍子揃った良家のお子様たちが通う日本有数の名門私立で、普通は「庶民」の娘なんか入れない。母親もとうに亡くなり、父と娘二人きりの貧乏家庭で育ったハルヒがなぜ入学できたかというと、成績が抜群に優秀で、授業料そのほか一切免除、そのうえ高額の奨学金までつく特待生になれたからである。

それから終始マイペースで、周囲がどうであろうと振り回されないハルヒの性格も重要なポイントだ。だいたい普通の庶民は、たとえ授業料が免除になって、どれだけ教育環境や設備が充実していても、こんな人種の違う人たちばかりが通うセレブ学校に進もうとは思わない。
第1話でハルヒは、お坊ちゃんお嬢様たちのサロンと化している図書室を離れ、静かに自習できる場所を求めて、偶然ホスト部の部室に入り込んでしまう。そしてホスト部長の須王環(すおう・たまき)に、その貧乏人キャラを面白がられ、もてあそばれているうちに、誤って部室の備品だったルネの花瓶(時価800万)を割ってしまう。それで弁償代のカタに、無理やりホスト部に入部させられる。
ホスト部というのは「暇をもてあます美男子が、同じく暇をもてあますお嬢様をもてなし潤わす華麗なる遊戯集団」だそうです。それ以上は聞かないでください。
というわけで、自分で切ったバラバラ髪に時代遅れのメガネ、どこの学校のものかも分からない制服、というルックスのハルヒだったが、ホスト部員たちが腕によりをかけて立派な美少年ホストに仕立て、華麗にデビューさせる。



で、もともとの美形が映えたことと、金持ちには珍しい貧乏トークが話題となって、固定客もつく人気者になるのだが、実は彼女は女の子だった……というところまでが第1話。
ここまでは、まあ原作どおりだ。ただ、学生証を見て「ハルヒ、おまえ女だったのか!?」と絶句する環に対して、ハルヒは悪びれた様子もなく「驚かせてすみません。別に男に思われているんならそれでもいいかと思ったんです。外見に興味ないし」と答えるだけだ。当然「いやしかし、いくら外見に興味ないって言っても、なんでわざわざ男装までして学校に通ってるんだよ」と思うだろうが、ドラマ版ではその疑問への説明はまったく抜きのまま、第2話に引っ張っている。

2. 話はまだ続く 〜第2話の問題〜


第2話は、原作コミックの第2巻に収められたエピソードに沿って進む。新学期なので、全校生徒を対象にした健康診断が行われる。男のフリをするのもこれまでかな、とあっさり観念するハルヒだが、彼女を部から手放したくないホスト部の面々は、なんとか「ハルヒは男」という設定のまま健康診断をやり過ごそうと策を練る、という話だ。
そのなかで、ホスト部のみんなと次のような会話が交わされる。

  


ヒカル「しっかしさあ、なんであんな可愛かったのが、こうなっちゃうわけ?」


  


ハルヒ「入学前日に、近所の子に、髪にガムをひっつけられました」


  


ハルヒ「それで、めんどくさくなって、自分で髪を切りました」


  


ハルヒ「コンタクトは先月なくして、祖父のお古のメガネを使っていました。制服は高くて買えなかったので、父のお古を適当に…」
ヒカル「何も、あんな服じゃなくてもいいじゃん」
ハルヒ「あんな服しかないんですよ。父の服は派手なボディコンばっかりで」
 環 「ボディコン!?」


  


ハルヒ「あ、父はオカマさんなんです」


  


一 同「えーっ!」


  


ハルヒ「そんなに驚くことですか?」
ヒカル「だって、貧乏で父子家庭のうえに」
カオル「お父さんがオカマさん……でしょ」
ハニー「ハルちゃん、苦労したんだねぇ…(涙)」
 環 「ハルヒ、お父さんの胸でお泣き!」


  


ハルヒ「やめて下さい。どんな風貌でも父は父ですから」
鏡 夜「つまり何はともあれ、お前は男装していたわけではなかったんだ」
ハルヒ「はい」



つまり、お父さん(戸次重幸)が常に女装しているのを小さいときから見て育ったから、女子生徒用の制服がないのなら、男装して学校に通っても、まあいいかとザックリ考えただけで、本人にはそれ以上の魂胆がないと、そういう話なんですね。ポイントは、お父さんがオカマじゃ苦労したろう、と勝手にハルヒを憐れむ先輩たちに、ハルヒがきっぱり「やめて下さい。どんな風貌でも父は父ですから」と言い切るところだ。このセリフをここにもってきたのは脚本家のアレンジである。
一方、女子生徒の間で、学園内に不審者が侵入して、あちこちをうろうろしている、という情報が駆け巡る。健康診断の医者たちとは違う、明らかに怪しい風体の白衣の男(神保悟志)が、女子更衣室をのぞこうとしたり、なにやら挙動不審だというのだ。

学園の治安を守るために起ち上がったホスト部の活躍で、この男は捕まる。しかし話を聞いてみると、この人は変質者でも何でもなかった。白衣を着ているのは、隣町で医院をやっている本物の内科医だからで、しょぼくれているのは、野武(やぶ)という名前のせいか病院も繁盛せず、貧乏生活に愛想を尽かした奥さんが、娘を連れて出て行ってしまったからだった。
そんな人がどうして学園内をうろついていたのか、と尋ねると、しばらく会ってない娘が高校に進学したという。せめて進学祝いのプレゼントぐらい渡したいと学校へやって来たが、あまりに広くて迷ってしまったのだ。この人、娘が通っている庶民の学校(黄林高校)と桜蘭高校を勘違いしていたのです。

誤解が解けた野武医師に、黄林高校までの地図を渡して送り出そうとするホスト部部長、環(山本裕典)。でも野武は、自分が不審者に間違われたショックを隠せず、もうプレゼントを渡すのはあきらめたと言う。

  


野 武「やっぱりこの風貌じゃ、娘に恥をかかせるだけだ」
ハルヒ「なに言ってるんですか。そんなわけない!」


  


野 武「自分はどこへ行っても、不審者に間違えられるんですよ……娘もきっと恥ずかしい思いをしています。そんな思いをさせるくらいなら……」


  


 環 「野武さん、ある女の子が言っていました。どんな風貌をしていても、お父さんはお父さんだと。……娘さんを信じてください、お父さん」


  
  


環のひとことで勇気づけられた野武は、娘に会いに行く決心をする。ここのところのやりとりは原作漫画にはない。実写版オリジナルである。
何が言いたいかというと、第1話の前半では、ハルヒに「男とか女とか外見とか、どうでもよくないですか?大切なのは中身でしょ」というテーマを言わせて、最後に、実はハルヒは女だった(最初から分かっているんだけど)というオチをつける。で「でも、いくら外見にこだわらないっていっても、なぜまた男装なんてしているんだろう」という興味を、次の回へのフックとして残しておく。そして第2話の前半で、お父さんがオカマだったから、娘のハルヒも男装にそんなに抵抗がなかったという事情説明があって、そこで「どんな風貌でも父は父ですから」というセリフを出す。このセリフがラストで「この風貌じゃ、娘に恥をかかせるだけだ」と怖じ気づくゲストキャラの父親に対する励ましの言葉として反復される。
こういうふうに、各エピソードの前半のセリフと最後のセリフ、最後のセリフと次回の前半のセリフをさりげなく響き合わせて、だんだんシリーズ全体のテーマを浮かび上がらせ、少しずつ変化していく人間関係を巧妙に表現している。このドラマのそういうところが、私はとても好きなんです。
第3話以降も、ホスト部の個々の部員を描くキャラクター回しみたいなお話もはさみつつ、でも単独読み切りエピソードに終わらない重層的なドラマを展開している。日本版『美男ですね』やリメイク版『花ざかりの君たちへ〜イケメン☆パラダイス〜2011』なんかだと、派手な愁嘆場やドラマチックなイベントを放り込んでくるところを、そういうギミックなしで非常に品良く話を運んでおりまして、私としてはこれ、セーラームーン以来ひさびさに「実写版」にヒットが出た、と楽しませていただいております。

3. パパと姉貴


でも前回も書いたように、深夜ドラマということもあって、初回視聴率1.1%、最高視聴率3.4%、平均視聴率2.73%という、『イケメン☆パラダイス』も真っ青というぶっちぎりの数字を叩き出している。しかも、にもかかわらず来年3月に劇場版の公開が決定済みという、考えようによってはけっこうやばい状況なので、ぜひ一人でも多くのみなさまに観ていただきたいと、思わずたくさん書いてしまいましたですよ。
で、あと何話ぐらいで終わるのかと思って調べてみたら、意外なことが発覚した。名古屋では、全11回のうち、6話が放送されたところなんだけど、実はこっちのスケジュールは東京より3週間ぶん遅れているそうなのだ。東京ではすでに第9話まで放送されていて、物語が終盤にはいっている。
それでちょっと調べてみたら、なんかややこしいんですよ。全国のみなさん良いですか。『桜蘭高校ホスト部』を関東(TBS、金曜深夜0時20分)と同時放送しているのは静岡(SBS)だけです。ここはもう残り2話。後は近畿(MBS、水曜深夜2時40分)、熊本(RKK、月曜深夜1時30分)、北海道(HBC、火曜深夜1時)が一週間遅れてオンエアされていて、私の観ている中京(CBC、金曜深夜1時30分)と福岡(RKB、火曜深夜1時30分)は三週間遅れ、さらに一ヶ月以上遅れているのが長野(SBC、木曜11時50分)と富山(TUT、月曜深夜1時)です。曜日も時間もけっこうバラバラ。興味をお持ちのみなさんは、金曜深夜だと思わないで、ご自身の地方の情報を確認して下さい。ちなみに、まだ放送が始まっていないのが金沢(MRO、9月28日から毎週水曜深夜1時に放送)と鹿児島(MBC、10月13日より毎週木曜深夜0時10分に放送)だそうである。北陸と鹿児島の方、これを読んでいて下さるのなら、ぜひ一度実写版『桜蘭高校ホスト部』をご覧ください。


そういうわけで、まだ名古屋ではオンエアされていない第8話で、いよいよ須王環のお父さんが登場する。それが升毅だと聞いた時は笑っちゃいました。じゃあやっぱり東映ブラザーズの姐さんと弟じゃないの。


今日はさっきまで共演の山本裕典くんと、
東映で撮影していました。
お互い東映出身なので、「懐かしいね〜」と話しました。
裕典とはもう3回目の共演なので気心がしれていて、
一緒のシーンは楽でしょうがないです。
お互いブレザーがもうそろそろキツいね、という
お決まりの会話をして先程のシーンは終えました。
(『KEIKO'S BLOG』2010年10月22日「東映にて」)


これは『パラダイス☆キス』撮影時のブログだが、共演も多いこの二人、私にはどうしても姉弟っぽく見えてしまうんだよね。『太陽と海の教室』の最初の方で、裕典が北川さんに結婚を迫るシーンとかでは、けっこう笑ってしまった。だから環の父親がレイのパパと同じ升毅というのはすごくよく分かる。北川景子同様、山本裕典も、しっかり升毅の芝居のDNAを受け継いで欲しい。



と、話が北川さんにつながったところで、Act.8本編レビューの続きに入る予定だったのだが、エネルギー配分を間違えて、私はすでに力が尽きかけている。残りとちょっとだけ本編に入るけど、さすがにこれで「Act.8レビュー」を語るのもおこがましいので、今回は番外編ということにさせていただきます。
それにしても『桜蘭高校ホスト部』の山本裕典は良いね。「ウザイけど憎めない王子系」という面倒な設定をきれいにこなしてブレがない。主演は川口春奈なんだろうけど、ドラマ全体をきっちりしめているカナメは明らかに山本裕典だ。最近なにやっているのかよく分からない水嶋ヒロとは対照的な活躍ぶりである。

4. 倉田さん最後のお仕事


誘拐と勘違いしてホテルの一室に飛び込んでしまったまこと、父親と面会するために、意に染まないお嬢さん風の服を着せられたレイ。お互い何となくバツが悪くて、でもそれが却って、二人の間にこれまで張り詰めていた緊張の糸を少し弛める。
といっても、何か事態が好転したということもない。アンニュイな雰囲気で窓の外を見下ろすレイに、そのレイの背中をみつめるまこと。



この停滞した空気を動かしたのは、意外なことに倉田さんであった。倉田さんが勝手にドアを開け、首を突っ込み、「お父様がもうレストランの方へ向かわれたわよ。レイさんも急いで。それと今日は取材も入っているから、そのつもりでね」と言い放つ。この余計な一言がレイのファイヤーソウルに油を注いだ。

  


レ イ「取材って?」
倉 田「理想の親子っていう記事ですって。さ、行きましょ」
レ イ「理想……?記者の人に言ったら? パパはママが死んだ時だって帰ってこなかったような奴ですって!」


  


倉 田「レイさん??」
レ イ「何が理想よ。こんな事するのだって、政治家のイメージを気にしてるだけのくせに!」
倉 田「レイさん! お父様はそんなつもりは」


そんな弁明は聞きあきたとばかりに「出て行って」と倉田さんを押し出そうとするレイ。思わず加勢するまこと。倉田さんは「ちょっとやめなさい」とか言いながら部屋から閉め出されてしまう。さっきはレイの背中を見ていたまことだが、今度はまことが倉田さんの方をまっすぐ見つめ、レイはまことを背後から見つめるという逆の構図になる。



そして倉田さんを追い出し、入ってこないように、くるっと回ってドアを背中で押さえつける。きっと、にらむように顔をあげると、自分を見つめているレイ。ここで再び、二人の視線がストレートに交錯する。



倉田さんの役目はこれで終了。M14さんの推測によれば、この失敗が尾を引いて、彼女は火野隆司代議士の秘書をクビになり、Act.33で隆司(升毅)が登場した回には姿をみせなかったのだという。かわいそうな話だが、倉田さんという共通の仮想敵がいたことで、レイとまことの関係が大きく一歩前進したのだから、倉田さんグッジョブだ。ありがとう。


5. カメラワークと視線

ここでカメラがいったん廊下に出て、倉田さんが黒服の男たちに「ちょと時間を置きましょう。火野先生に少し遅れるって伝えてくるわ」と指示を出す場面があってから、再び室内に戻ると、やっぱり二人の視線は見つめ合っていない。でもバラバラでもない。レイはベッドルームでどこかをぼんやり見つめているが、まこともこっち側で、ほぼ同じ角度を向いていて、二人の視線は平行線である。まことが見つめる先にあるのは、パパからのプレゼントとカード。

ここから先はカメラワークがちょっと複雑だ。いやプロの人が観たらそう複雑でもないのかも知れないが、二種類の切り返しらしきカメラポジションが混在しているので、素人目には、ちょっと風変わりに見えるんですね。
切り返しショットというのは、ドラマの会話シーンでよくある、こういう構図ね。Act.4から。



対話をしている二人の人物(レイと亜美)の中間地点にカメラがいて、同じ位置から、レイがしゃべるときにはレイ、亜美がしゃべるときには亜美のバストショットないしはクローズアップ、という撮り方。これがいちばよく見ると思う。それから、カメラがそれぞれのキャラクター寄りになる場合もある。サンプルはAct.2。



この時点で、うさぎは衛を「ヤな奴」と思っているから、Act.4のレイと亜美より距離感がある。衛を撮るカメラはうさぎの目線に近く、うさぎを撮るカメラは衛に近い位置にあるわけですね。
で、Act.8のここは、このふたつのパターンが混在しているような感じ。でもそれだけじゃない。図に表すと、こうなる。



おおざっぱにいえば、視聴者から見て、まこととレイの視線を結ぶライン(イマジナリー・ライン)の向こう側(Aエリア)にある「カメラ1」と「カメラ2」の切り返し、そしてこっち側(Bエリア)の「カメラ4」による左右切り返しのふたつの組み合わせなんだけど、これがさらに、寄ったり引いたり、上から見下ろしたり、下から見上げたり、カットごとにアングルやポジションを変える。そして最後に「カメラ3」からのショットが入るので、理論家の田崎監督にしては珍しく、カメラが主観的に自在に動き回っている印象をあたえる。舞原監督ならそういうことはよくあるんだけどね。あっ、それからイマジナリー・ラインの法則とかそういうことについて、「分からん」という方は、ご面倒ですみませんがこちらの記事、さらに黒猫亭さんのご指摘をいただいて再考察したこちらの記事をご参照ください)。


じゃ最初から見ていこう。最初はまことの右後ろに置かれたカメラ1からのショット。脚本では「ベッドに座るレイを見詰めるまこと」と書いているが、田崎監督は、まことの視線をすぐにそらせて、二人の視線が平行線になるように演出している。それからまことの視線の後を追って、パパからのカードを確認する。まるで舞原監督のようなカメラワークである。

  


   ベッドに座るレイを見詰めるまこと。
   話す事もなく、手持ち無沙汰のまことは、床に広げられた洋服の入った箱をテーブルに置く。
   落ちたカードには『レイへ パパより』とある。
   拾って見るまこと。


  
  


次にカードを手に寝室に入ってくるまことを捉えているのは、切り返しのカメラ2。ベッドサイドのランプの位置や大きさでポジションが分かる。
  


そしてレイのセリフが入ったところで、カメラ4からのレイのショットに切り替わる。ここでの二人の会話(ほとんどレイのモノローグに近い)は、基本的にカメラ4を左右に振っての切り返しだが、まずロングでベッドに座るレイのショット。それからまことの方に振って、次にやや下から寄ってレイ、逆に上から見下ろす感じでまことのアップと変化する。

  


レ イ「見せかけよ。パパはね、私の持っている力が嫌いなの。だから神社に預けたのよ」


  


まこと「……ホントに?」


  


レ イ「私は、パパなんかいなくたって一人でやってける」


  


まこと「……」


で、次の、レイが靴を脱ぐカット(台本ではイヤリングを外すことになっている)で、再びカメラ1に戻る。最後のまことの「逃げちゃおうよ。何か、もういいじゃん」は、カメラ2からの切り返しショットだろう。最初より、かなり寄っている。

レ イ「強くなれたってパパに感謝してるくらいだけど、でももう見せかけはうんざり!」


  


まこと「じゃあ……逃げちゃえば?」


  


レ イ「え?」


  


まこと「逃げちゃおうよ。何か、もういいじゃん」


そしてしめくくりに、靴をじっと見つめるレイの後ろ姿は、とつぜん、レイを軸にカメラ2の反対側からのショットとなる。これを一応、カメラ3と呼んでおきましょう。

  


レ イ「……」


いちばんセリフを聞かせたい箇所は、カメラ4の切り返しである程度の安定感を与えながら、カットごとにズームやアングルや構図に変化をつけて、正面から見つめ合うのではなく、心のどこかが重なり合うような二人の交感を表現しようとしているのだと思います。
台本のラストに示されるように、このエピソードでまこととレイの関係は、あれこれあったすえに「二人の距離は縮まらず、広がらず」といったあたりに落ち着く。一気に仲良しなんていう単純なことにはならない。そういう微妙な距離感やズレを出すために、このシーンの複雑なカメラワークが必要だったんだろう。でもその複雑さが、舞原賢三のように情熱的かつ主観的に突っ走ったものではなく、それなりに冷静で客観的で理路整然としているあたり、田崎監督らしいな、と納得します。




今日は前フリが多すぎて、ブラウザや環境によってはものすごく重いんじゃないかと心配です。それでも、レイが思い切って靴を捨て、立ち上がったところで、次回へ続く。



いやしかし、やっぱり実写版セーラームーンは何度観ても飽きないね。