実写版『美少女戦士セーラームーン』ファンブログ


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【第111回】DVD第1巻:Act.4の巻(その3)


恥ずかしいくらい近所にまる聞こえの大きな声で、毎日小島よしおの物真似ばかりやっているバカ息子をどうやって黙らせたらいいのか、妙案をお持ちの保護者の方、コメント欄にご教示をお待ちしております。

1. しきりなおし


前々から書いているように、私はこれまで、Act.4をけっこう低く見ていた。その理由を「脚本」「演出」「演技」という点からまとめると、だいたい以下の通りとなる。

(1)<脚本>仮装パーティーのドタバタの狙いが分からない。
(2)<演出>アクションシーンの演出が、いかにも間が悪い。
(3)<演技>セーラー戦士、特に北川さんの芝居がまだ硬い。

詳しくは再放送時のレビューに書いてみたが、このうち(2)については、改めてDVDで観ても、やはりあまり感想は変わらない。(3)も同様。ただし、再放送レビューでも述べたとおり、もうかなりうさぎとシンクロしている沢井さんや、天性のカンで自在に亜美をコントロールしている千咲さんに対して、この段階ではまだ未熟な北川さんが、火野レイの複雑な内面をなんとかモノにしようと、きまじめに取り組んでいる姿はとても初々しく、かえって見入ってしまう。それに今となっては、これはあの北川景子の貴重な初期映像でもある。
問題は(1)だ。仮装パーティー場面での、クマの着ぐるみとか、うさぎに対する地場衛のぞんざいな態度に目をとられて、私はこのエピソードを、脚本レベルで出来の良くない作品、と見なしていたのである。でもよく観てみると、本当はそうでもない。そう評価を改めるきっかけになったのは、このAct.4のうさぎ・亜美・レイの心理描写について「実は、脚本上ではどこも間違ってないんだよ」と説明している『失はれた週末』を再読したことにある。それはもう書いたか。
というわけで、ここにあらためて、Act.4における彼女たちの心理の流れを、冒頭から細かくしつこく追って、演出と照らし合わせてみたい。なお、ついでに書いておきますが、【第106回】の日記で『失はれた週末』の辛辣な高丸監督批判をおもしろがってご紹介したところ、当の黒猫亭とむざうさんから補足コメントをいただいた。確かにAct.4レビューのころは、かなり高丸批判をやっていたが、中盤以降はむしろ積極的に評価しているし、最初は投げやりにも思えた高丸演出が、徐々に変貌を遂げていくプロセスこそ、ある意味で実写版セーラームーンの最も感動的な事件とも考えているので、そこんところお忘れなく、とのことでございます。みなさんコメント欄で読まれたかとも思うが、高丸監督の変容というのは興味深いテーマであり、私も膨大な『失はれた週末』を、改めてゆっくり再読しながら、今後また取り上げさせていただこうと思っているので、明記しておきます。
一方、佐藤ヘリコプター健光監督に対しては『失はれた週末』は一貫して手厳しいようだ。この点について当名古屋支部は、『M14の追憶』の流れをくんで、佐藤監督「さえ」擁護するスタンスを取っている。とはいえ、今回のAct.4、佐藤監督じゃなくて本当に良かったなあ。前半に池袋西口公園のロケシーンがあるのだ。いや私の池袋の印象なんて、「ウエストゲートパーク」なんて言葉が夢にも浮かばないくらい昔の記憶に基づいているので、なに言ってるんだ今はぜんぜん違うよ、と突っ込まれそうだが、ともかく西口だろうが東口だろうが、条件反射的に「汚い」「怖い」と思っちゃうわけですよ。佐藤監督が池袋なんかにロケに行ったら、きっとまだどこかにこっそり残っている青いビニールシートとか段ボールとかゴミの山とか、そういう昔ながらのビューポイントをしっかり見つけだして、うさぎや亜美が会話する背景に映りこませていたんじゃないだろうか。そんなことされたら、さすがの私も弁護できなかっただろうね。

2.飲み物を用意するのは誰だ


ともあれ、まずは話がその池袋へ行く前、主題歌が終わった直後の、クラウンの会話シーンからだ。
前回Act.3で新たな戦士マーズが登場、しかしレイはラストで「私、あなたたちの仲間になったつもりはないんだけど」とそっけない態度。がっくりしたうさぎが「なんでかなあ、レイちゃん。仲間になりたくない、なんて」とぼやくところから始まる。
想えば、クラウンの作戦室が、少女たちが自分の思いをうちあけ、語り合い、時には激しくぶつかりあう場所になるのは、このAct.4からだ。Act.2では、まだうさぎとルナしかいなかったし、Act.3では、ただのクイズ大会の会場だった。でもここでは、テーブルの前でヘコむうさぎと、それを控えめに見守る亜美という、これからお馴染みになる光景が初めて描かれる。
ふたりの前にはそれぞれ、パイナップルをあしらったトロピカルな感じの飲み物が置かれている。イメージカラー通りに、うさぎはピンクで亜美にはブルー。ソーダ水ですかね。でもここは秘密のスペースだから、古幡元基が注文を受けて持ってきたわけではない。だからこれは、この部屋で作られた飲み物であろう。
Act.20、亜美がクラウンで編み物をしていると、レイが慌ただしく入って来る。亜美は、レイの気持ちをリラックスさせるためのハーブティー(というのは私の想像だ)をいれて、二人ぶんのカップを持ってくるが、レイはさっさと出て行ってしまう。そんなふうに一人とりのこされた亜美に、ダーク化を狙うクンツァイトの魔の手が伸びる。また、Act.42では、うさぎがプリンセス・ムーンを克服する特訓として、暑さに耐え、苦手なレタスを食べている最中、レイとルナはそれを囲んでかき氷を食べている。レイがイチゴでルナがレモンかな。これもどこか外から買ってきた感じではない。要するに、この部屋には簡単な給湯室があって、お茶は自分たちでいれることができて、冷蔵庫にはフルーツや氷やアイスが冷えて、かき氷器も置いてあるってことでしょうね。だからこのAct.4の飲み物も、ここでこしらえたものであろう。でも作ったのはいったい誰なんだい?
って言ったって、まあ、ルナ以外には考えられないよね。で、まだAct.4だったからよかったものの、もし高丸監督が、後期の調子の出た状態でこのシーンを撮っていたら、ネコのルナが「お待たせ〜」とか言いながら、二人に飲み物を運ぶシーンだってありえたんじゃないかな。いやしかし後半のルナだったら、そういうことは小池里奈の姿になってやればいいわけか。
そうかそれで、高丸監督はやたらとアルテミスに芝居をつけたのかも知れない。この日記で何度も書いたとおり、高丸回のアルテミスはよく動く。Act.20では病床の美奈子のためにタオルを絞り、Act.46では子どもたちのために目玉焼きを作った。目玉焼きづくりが、台本に書かれていない高丸オリジナル演出であることは、M14さんの台本比較で確認できる(ここ)。本当は高丸監督は、ルナにももっと様々なお芝居をやらせたかったんだけど、人間体になっちゃったので、仕方なくアルテミスにばかり演技を要求したのかな、なんてね。
馬鹿な話をだらだらしていないで先へ進もう。まだ会話の内容にさえ入っていないじゃないか。

3.不合理ゆえに我信ず


えーと、クラウンでのうさぎと亜美とルナの会話でしたね。

うさぎ「なんでかなあ、レイちゃん。『仲間になりたくない』なんて……。カラオケ嫌いなのもショック」
ル ナ「説得するしかないわ。戦士は四人揃ってこそなんだから」
亜 美「でも、無理やり仲間に入れても……」
うさぎ「そうだよねぇ。でも私は、レイちゃんがどう思ってても、仲間だって思ってるから」
亜 美(ほほえむ)

ここで示されているのは、うさぎの「信じるチカラ」の強さだ。このやりとりがAct.2の反復になっていることは言うまでもない。Act.2では、亜美が戦士になることを断る。うさぎはガッカリするが、でも「私が説得するわ」というルナの強引なやり方には反対する「やめなよ。いやだって言ってるのに、かわいそうだよ」。
今回も同じだ。うさぎはレイに仲間になることを断られて、ひとり落ち込んでいる。ただしここで「説得するしかないわ」というルナの言葉に「でも、無理やり仲間に入れても……」と消極的ながら反撥するのは、亜美である。そしてうさぎはその意見に賛成する役だ。
亜美は前回からレイを注意深く観察していた。だから具体的なことは分からないけれど、ともかくもレイが、亜美自身と同様、何か非常に屈折した内面を抱えていて、それで「仲間になりたくない」と心を閉ざしているのだろう、とは、すでにおおむね察しがついている。ところが、うさぎの方は、そのようなことに何も気づいていない。
そういう意味では、ここでレイの心をよく理解しているのは、うさぎよりもむしろ亜美である。だからこそ、亜美は後半で「レイさん……もしかして、仲間が怖い?」と思い切って問いかけ「ちょっと、分かるような気がしたから」とフォローを入れた。そしてその短い会話は、確かに、レイがうさぎや亜美の仲間になるための、大事な第一歩となった。
けれども、それはあくまでも手がかりに過ぎなかった。そしてそんなふうに、亜美がかりそめににつなぎ止めたレイの心を一気につかんだのは、今回もうさぎだった。レイの複雑な内面など分かっていないくせに「レイちゃんがどう思ってても、仲間だって思ってるから」と言いきった、そのほとんど理不尽な信頼感が、サボテン妖魔との戦いが終わるころには、レイの心をいつの間にか開いていたのである。
レイちゃんが何であんなつっけんどんなのかは、どう考えてもさっぱり分からないし、あんな態度をとられたら、こっちだってかなり落ち込む。でもレイちゃんは仲間だ、きっといつか、気持ちが通じ合える。うさぎはそう信じる。これは亜美にとっては、不合理で、理解できない考え方である。であるのだが、そういう、根拠もないのに強力な「信じる力」が、孤独な少女の閉ざされた心を開く鍵となる。亜美はそのことを、すでに自分の身をもって知っている。
うさぎが、亜美の意見に「そうだよね」と同意して、「でも私は、レイちゃんがどう思ってても、仲間だって思ってるから」と言うとき、亜美は控えめだが、とても嬉しそうな笑顔を浮かべる。やっぱり私の意見に賛成してくれた。私が戦士になるのを断ったときも、月野さんはきっと同じようにがっかりしたけど、私の気持ちを尊重してくれて、私のことを「仲間だって」思い続けてくれたんだ。私がなぜ戦士になりたくなかったか、そんなこととは関係なく、ただ私を信じて、守って戦おうとしてくれたんだ。だから私も月野さんを信じて、セーラーマーキュリーになった。そういう思いに背中を押されたからこそ、いままで他人の心にじかに触れるような言葉なんて、言ったためしのない亜美が、勇気を出して「レイさん……もしかして、仲間が怖い?」と尋ねることができたのだ。

4. 亜美の信頼と不安


それに、もう少し亜美の心境を考えると、Act.2でセーラーマーキュリーになり、戦ったことについて、後から色々と思うところがあったはずだと、私は思う。みなさんもそう思いませんか。
確かに、ハニワ妖魔に襲われて手すりから落ちかけた時の亜美は「嫌なのに変身しちゃ、駄目だよ」というセーラームーンの言葉に打たれて、本心から「私、月野さんと戦いたい!」と言ったのだろう。その瞬間の気持ちにウソはなかったと、私も思う。
でも亜美みたいに内省的な子だったら、後からどう考えるだろう。あの時点で、二人とも助かって、妖魔を倒すには、どう考えたって亜美がマーキュリーに変身するよりほかに、選択肢はなかった。そういう追い詰められた状況におかれて、とっさに「私、変身する」と口走ってしまったという側面が、全くなかったと言えるだろうか。いやそうではない、あれは月野さんの友情を信じることができたからああ言ったので、それ以外の理由はない、と100%の確信をもって断言できるだろうか?後になってそんなふうにクヨクヨ考えていても、おかしくないですよね。というか、亜美ちゃんならきっとそう考えたはずだと、私は思うのだ。
で、たとえそうだったとしても、今回のクラウンの会話で、亜美の迷いは払拭されたんだろう。やっぱり良かったんだ、レイさんがあんな態度をとっても、月野さんの仲間を思う気持ちは、ぜんぜん変わっていない。やっぱりこの人を信じて良かった。「レイちゃんがどう思ってても、仲間だって思ってるから」とうさぎが言ったときの、亜美ちゃんの柔らかい笑顔に、私としてはそういう意味を読んでしまうわけです。
もっとも、だからといって、それで亜美ちゃんの悩みがすべて円満解決したわけでもない。こういう、どんなときにもポジティブ思考を失わないうさぎの前向きな姿勢は、亜美を力強くはげます反面、自分自身にそういう明るい力をもっていない亜美を、不安にもさせる。
今回のエピソードで、このあと二人は、池袋西口公園の大型ビジョンのニュース画面で、桜木財閥の桜木由加お嬢様の誕生パーティーが催され、そこで、桜木家に伝えられる宝石「幻の青水晶」が公開されるという情報を得る。で、この宝石が「幻の銀水晶」かどうかを調査するために、パーティーに潜入することになるわけだが、うさぎの関心は使命よりも「あ!衣装どうする?」という方に向いてしまう。で、街角で見かけたショーウィンドウのドレスを楽しげにテレティアにメモリーして、亜美(とルナ)にため息をつかせる。妖魔との戦いにあれこれ悩むよりも、潜入捜査のための衣裳選びに楽しみを見いだすという、これもある意味うさぎのポジティブ思考の表れである。バカとも言うが。
そして亜美は、大丈夫かなあこの人、という表情を浮かべている。でもそればかりではなく、そんな気持ちの底の方では、こんなふうにどんどん、新しい関心事に向かっていくうちに、ひょっとしたら月野さん、そのうち私なんかに飽きちゃうんじゃないだろうか、という疑惑も、少しずつ芽生えているはずだ。いまはそんな不安を抑圧しているが、次回、Act.5で、はやくもそれが顕在化することになる。

5. 可愛いだけじゃダメかしら?


こんなふうに、冒頭のクラウンの会話から、池袋西口公園のシーンまでの展開を観ていると、結局、今回のエピソードって、セーラームーンとタキシード仮面のロマンス、そしてマーズの仲間入り、というテーマが前面に出ているわりに、話の心理的な流れの中心は亜美で、それがそのままAct.5に続いていくんだなあと思いましたね。いやしかし、例によってクドクドしくなって済まない。時間があればもう少しすっきりまとめられたと思うんですがって、ただの言い訳ですね。
で、以上のような前提のもとに、ディティールを検討してみたいと思うわけですが……もう明け方だ。徹夜しちゃった。後は衣裳のことだけちょっと触れて、続きは来週に回します。
今回もうさぎの服はLOVERS HOUSEである。Tシャツには「BURGER LOVERS」とか書いてありますね。これはいつも通りなんだが、亜美ちゃんの方が問題だ。何というブランドかは知らないが、要するに可愛すぎるのである。
ご存じの方も多いと思うが、東映公式の記事によれば、Act.14の、クラウンでの新年パーティーのシーンで、舞原監督は、浜千咲の着る服が「可愛いけど、亜美にしては可愛すぎないか?」とNGを出したそうである。しかし「その服が超気に入ったらしい浜千咲さんが(監督、お願い……!)とじっと見つめているのと目が合ってしまった」舞原監督はあえなく撃沈、そのまま撮影に入ったそうである。
浜千咲とはこういう人だ。たとえば沢井美優の場合は主役なので、番組が狙う視聴者層とかスポンサーの意向とかを踏まえて、衣裳スタッフがDaisy LoversとかMezzo Pianoとかを持ってくる「ごめんね〜美優ちゃん、お子ちゃまっぽいのばっかりで」でも沢井美優は「ぜんぜんいいですよ〜」と、たとえ内心で恥ずかしく思っていても、そんな表情はちらりとも見せずに、いつものように、周りのみんなを癒す笑顔で準備を整えているわけ(すべて想像)。
しかし浜千咲は違うね。監督は「亜美は優等生で、まだ自分を解放しきっていないのだから、初めのうちは、ママの好みにあわせたような、上品で大人しめの、ブラウスと無地のカーディガンとスカートの三点セットくらで」とか言うんだけど、スポンサーはあまり地味では困るし、衣装スタッフも、せっかくの腕の見せどころなので、監督の目を盗んではいろいろ持ってくる。で美少女モデル浜千咲は「あっこれかわいい〜。着たい〜」とか、もう好き勝手に、自分のお気に入りの衣裳を着てしまうのである。で、いざとなったらあの大きな瞳をうるうるさせて監督に「お願い光線」を発射して、監督のオジサマたちをまんまと落とすのだ(すべて想像)。
とにかく千咲さんは、ちょっとスタッフが手綱をゆるめると、亜美の本来のキャラクターとはぜんぜん違うことでも平気でしてしまう。次回Act.5のパジャマパーティーで、塾の時間が気になって仕方ないシチュエーションのはずなのに、カラオケマイクを渡されるや否や、亜美としての芝居を忘れて、とびっきり楽しそうに『C'est la vie』を歌い出してしまっている。それが浜千咲だ。そんでもって、ちゃっかり監督たちに許されちゃうような人である。
それでも、妥協を許さない田崎監督の指導が厳しかったAct.2では、いかにも優等生的な、かな〜り地味なブラウスとスカートをイヤイヤ(推定)着ていたし、舞原監督初登場となる次のAct.5では、亜美がメインのエピソードにも関わらず、私服一種類と、あとは制服しか着ていない。
しかし、Act.3とAct.4の千咲さんは、それぞれ前半で「亜美ちゃん」にしてはちょっと可愛すぎる服を着ているのだ。こういうとき「ドラマはファッション雑誌ではない。もうちょっと話が進んでからならともかく、視聴者に各キャラクターが浸透するまでは、何を着るかということも、重要な性格描写の一環だ!」と、ぴしっとアパレル系スポンサーや衣裳スタッフを一喝するのが、監督のあるべき姿だと思うのだが、うーん高丸監督、見たところほとんどお任せ状態である。亜美はブリッコだし、池袋西口に、初めて私服姿で登場した北川景子も、むちゃくちゃカッコ良すぎて、とても世間ズレしていない巫女さんには見えない。目の保養にはなるが、やはりいかんのではないだろうか。
ってことで、来週に続く。今週も尻切れトンボだ。