実写版『美少女戦士セーラームーン』ファンブログ


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【第1008回】お靴はもうありませんの巻(北川景子『あなたを奪ったその日から』レビューその4)


 実は私『失踪人捜索班 消えた真実 』をまだ観ていないんですよ。ドラマW『松本清張 眼の壁』(WOWOW、2022年)の小泉孝太郎と泉里香が出ているし、できれば『あなたを奪ったその日から』と並行してレビューするつもりでした。
 だから『あなたを奪ったその日から』については、本筋である「誘拐犯になった主人公」に焦点を絞り、これと絡む「子どもを誘拐された社長とその家族」「事故に異様なこだわりを持つジャーナリスト」の話には触れずにてきぱき進めて、余裕があったら泉里香ドラマも少し観たいとか思っていたのだが、北川さんの百面相演技がツボに入ってしまって、どうにも困ったね。



 今シーズンは、ほかにはドラマはほぼ観ていないのだが、『天久鷹央の推理カルテ』(テレビ東京、2025年)という知念実希人原作の医療ミステリはお気楽に楽しんでおります。



 原因不明の病気や、時には刑事事件まで解決してしまう診断医が探偵役で、知能指数が恐ろしく高く、超人的な記憶力や計算力や観察力をそなえている天才……だけどアスペルガー(自閉スペクトラム症)でサヴァン症候群で、他者とのコミュニケーション能力が皆無に等しくて、喜怒哀楽の感情表現もできない、という設定がむちゃくちゃすぎて、演じている橋本環奈の芝居も、上手いんだか下手なんだかぜんぜん分からない。でもこういう非現実的な役って、非現実的に可愛い橋本環奈には似合っている、ような気がする。



 彼女の推理能力を買っている刑事(平山浩行)が刑事コロンボのファンで、いつもレインコートを着ていて、時には「ウチのカミさんがね」と言ってみたりする、という趣向は原作由来のものらしい。



 あと橋本環奈のお姉さんで、病院の事務部長をしている佐々木希が、休日にはソフトボールチームのエースピッチャーで、球を放るたびに「にょほほ〜」と口にするのは、水島新司の漫画『野球狂の詩』の岩田鉄五郎が元ネタだが、さらに(ソフトボールだから当然だが)アンダースローで投げる姿もまた『野球狂の詩』の水原勇気にちなんでいるとしか思えない。



 なぜここに、若い人には通じそうもない水島新司の野球漫画ネタを出すのか、製作者の意図が全く分からないが、実写映画『野球狂の詩』(監督:加藤彰、日活、1977年)では木之内みどりが演じていた水原勇気に佐々木希を重ねるというのは、すごくよく分かる。(個人の感想です。)コロンボと併せて、1970年代へのノスタルジーか。



 まあそういう、昭和なパロディもあちこちに出てきて、面白いので観ています。
 余談であった。『あなたを奪ったその日から』レビューの続きだ。オンエアは第4話まで進んでいるが、こちらはまだ第1話が終わったところ。がんばろう。第2話です(2025年4月28日放送、脚本:池田奈津子/撮影:白石利彦/照明:磯辺大和/演出:松木創/企画:水野綾子/プロデュース:三方祐人/制作:カンテレ・共同テレビ)。



 知らないうちに車に乗っていた結城旭(大森南朋)の娘、萌子をさらい、そのまま家に連れて来てしまった紘海(北川景子)は、復讐のためにこの幼い生命を奪うことも思い立つが、そんなことできるわけもなく、洗面台で顔を洗い、気持ちを落ち着けようとする。



 結局、自分は奪った子どもをどうするつもりか。このまま手もとに置いておくことなんて、できるのか。返してしまおうか。だがそんなふうに思うとき、あの時のあの顔が脳裏をよぎる。



 旭 「仕事なんてやってらんないよ、こんな天気の良い日に」


 すると怒りの炎がまた燃え上がる。もう子どもは返さない。あの男に、自分と同じ思いを味わってもらう。こうなったら、誘拐犯にでもなんでもなってやる。



紘 海「しっかりしろ」


 自分を奮い立たせてリビングに戻ってみると、萌子(倉田瑛茉)の姿が見えない。この子はかくれんぼが大好きなのだ。



紘 海「……萌ちゃん。萌ちゃんどこ?」



萌 子「ばあ」



紘 海「きゃあ!」



萌 子「お母さん見つけた」



萌 子「ねえお母さん、ママとお母さんて同じ?」


 このアパートに連れてきて最初に彼女は「おばちゃんは萌のママ? 萌に会いに来てくれたの?」と訊ねた。結城は離婚して萌子を男手で育てていたらしい。この子は母親の顔を知らない。だから「ママじゃなくて、お母さん」と、亡くなった灯が自分をそう呼んでいたように、呼ばせることにした。



そうしたらやっぱり、灯とイメージが重なって可愛い。一度は手がけようとまでした子なのだが。紘海はちょっと、感情の整理がつかない。



萌 子「お母さん、ねえお母さんてば」



紘 海「……今は、忙しいんです」



 そう言って腰掛けた紘海はスマホを手に取り「江東区」「誘拐」で検索をかける。萌子失踪のニュースは、もう出ているか。



 検索ワードに引っかかるのは、防犯を呼びかける警察や区役所のサイトばかりで、萌子のことはまだネットニュースになっていない。とはいえ時間の問題だろう。警察はすでに動いているかも知れない。



 結城の家の近辺に、うっかり何か手がかりのようなものを残して来なかったか、記憶をさぐっていたそのとき、インターホンが「ピンポーン」。まさか、もう捜査がここまでたどりついてしまったのか?



紘 海「かくれんぼ、してなさい」
萌 子「え?」



紘 海「かくれんぼ。いいですね」



 紘海はおそるおそるドアに向かい、外の様子をうかがう。外からもこっちを見ている様子。



 向こう側にいたのは、最近おとなりさんになった、ガールズバー店員の野口初芽(小川李奈)だった。たんなる引っ越しの挨拶だ。



初 芽「遅い時間にすみませぇん」



初 芽「隣に引っ越してきた野口でぇす」



初 芽「あ、どうも。昼前に来ようと思ったんだけど、つい寝ちゃって」



初 芽「うちのお店のママお勧めのどら焼きっす」



紘 海「どうも」



初 芽「私、夜の仕事なんで、あんまり顔合わせることないかもですけど、今後ともよろしくお願いします」



萌 子「どら焼き?」
初 芽「あ、お子ちゃま!」
紘 海「あ、ええ」
初 芽「私、こう見えて子どもめっちゃ好きで」



紘 海「あの……料理の最中でしたので」



初 芽「あ……でしたか……すいません。それじゃまた」
紘 海「失礼します」



 どらやきに釣られて「かくれんぼ」していた萌子が出てきてしまったわけであるが、隣同士ならいずれ子どもがいることは分かってしまうわけだから、良いタイミングともいえる。



 初芽が出ていったあと、紘海は見えないように足で隠していた萌子の靴を手に取る。そこには萌子の名前が。



 「ゆうきももこ」これを処分しなければならない。さあどうする、というところで、紘海はあることを思いつく。



 萌子にどらやきを与えると、次第にうとうとして、そのまま眠ってしまう。抱き上げて自分のベッドに連れてゆく。



 疲れた萌子が眠っている間に、脱がせたジャケットと靴を持って車を出し、結城の自宅に近くの河川敷に向かう。隅田川ってことだけど、ロケ地は市川市の真間川排水機場の近く。



 そして萌子が着ていた上着をそのあたりの木に引っかけ、靴を川に投げ込む。



 素手でやっているんだけど、上着から指紋とか検出されないのだろうか。革じゃないから大丈夫か。



 要するに、萌子が誤って川に落ちたように偽装したのだ。帰りに24時間営業のディスカウントショップで買い物をして帰宅すると、なんと萌子が起きて帰りを待っていた。



紘 海「お母さん!」




╳    ╳    ╳



萌 子「おうちに居てっていったでしょ!」
紘 海「お母さん、萌子のお靴は?」



萌 子「うさぎのミミちゃんのお靴」



紘 海「……お靴は、もうありません……」



萌 子「どうして……ミミちゃんのお靴……」



紘 海「お靴は、お靴は逃げました」



萌 子「萌子さんが言うことを聞かないので、お靴は逃げてしまいました」



紘 海「食事にします」



 実はディスカウントストアで代わりの靴は買ったのだが、当然「ミミちゃんのお靴」ではない。仕方なく紘海は、泣いている萌子を放置して食事を用意する。




 といっても今は台所に包丁ひとつない。冷凍のスパゲティやハンバーグを温めるだけだ。でもアレルギーチェックだけは怠らない。



紘 海「食べないんですか?」



紘 海「何だったら食べるんですか?」
萌 子「お母さん、きらい」
紘 海「そうですか」



萌 子「きらい」
紘 海「それでけっこう。早く食べてください」



萌 子「いらなぁい」



萌 子「おうちかえる」



紘 海「ここがあなたのおうちです」




紘 海(……どうしよう……)



紘 海(子どもには馴れているはずなのに。この子と接するのはこんなにも難しい)


 そして就寝の時間。紘海は萌子をベッドに寝かせて、自分はフロアに横になり、萌子の失踪がニュースになっていないかスマホで検索していたのだが、気づけば萌子はベッドを出て、傍らに立っている。



紘 海「何? 眠れないの?」



紘 海「いつも夜は誰と寝ているんですか?」



萌 子「ひとり」
紘 海「お父さんは?」



萌 子「お仕事」



萌 子「お母さん、ギュッとしていい?」



╳    ╳    ╳



紘 海「あぁ疲れた」



 灯 「お母さん、ギュウしたい?」



紘 海「うん。ギュウしたい」



 灯 「じゃあしてあげる」



紘 海「うふふ。ぎゅう〜」


╳    ╳    ╳



 目薬などなくても自在に涙を流せる北川景子(推定)。思わず萌子のほうを向いて毛布を掛けなおし、頭を優しく撫でてやる。



 と、おでこがめちゃくちゃ熱い! まあ見たところ、そこまで慌てる必要はなさそうなのだが、なにしろこの人、一度は実子を失っているのだ。他所の子、それも復讐の相手の子どもなのに、こうなると気が動転してしまう。



 すぐさま近くの小児科医のところへ萌子を運び込む。こうなると、誘拐がばれるかどうかなんて、もう頭の中にはなさそうだ。



 う〜ん、今日はこのくらいで限度か。この第2話、誘拐した萌子をめぐって紘海の心があっちへ行ったりこっちへ来たりと激しく往来し、やはり親許に返してやろうか、というところまで行くんだけど、最後は育てることを決意する。この揺れ動きを北川さんがどんなふうに演じているか、一気にレビューしたかったのだが、やはり細かく拾いすぎて時間が尽きた。次回は第2話後編ということで。ますます遅れてすまん。
 『失踪人捜索班 消えた真実 』もよろしくね。