泉里香Tシャツ。Amazonにはあい変わらずこういう、肖像権や著作権など、あらゆる権利を無視した違法商品が平然と販売されている。ふつう、店頭にこんな品物を置いたら、置いている店舗まで信用を失うわけだが、許されているのが不思議である。
あと小松彩夏。着ているモデルの人がまったく同一なので、はめ込み画像であることがわかる。
北川景子。グラビアアイドルの水着ものの写真が多いなかで、そうじゃないのに商品化されているあたり、さすがである。
そしてグラビア時代の吉岡里帆を素材としたTシャツ。泉里香以上のナニで、これを着て外を歩くのは勇気が要る。
さあ、というわけで(どういうわけだ)、『花のれん』とかも気になるところだが、とりあえず連続ドラマW 湊かなえ「落日」第2話レビューに戻りたい(2023年9月17日、全2話/原作:湊かなえ/脚本:篠崎絵里子/照明:井上真吾/撮影:伊藤麻樹/監督:内田英治/チーフプロデューサー:青木泰憲/制作:WOWOW)。
笹塚町一家殺人事件を調べる香(北川景子)の調査で、立石力輝斗(竹内涼真)が幼少時、親から虐待を受けていたらしいこと、また、力輝斗は自ら死刑になることを望んでいて、過去を語らなかったらしいことが明らかになった。香としてはさらに事実を掘り下げてから、映画の構想に取り掛かりたいところである。
一方、真尋(吉岡里帆)は思わぬライバルの出現に衝撃を隠せない。師匠である大畠凜子(黒木瞳)が自ら脚本の執筆を買って出たという。もちろん制作会社としては、無名の新人より、恋愛ドラマの大家の名前のほうが欲しい。
真尋がこつこつ足で稼いで、ようやくファイル一冊ぶんの資料を収集したというのに、執筆宣言をしたばかりの大畠先生のところには、いきなり段ボール一箱ぶんの資料ファイルが届く。
中には当時の新聞報道のスクラップや裁判所の記録などがぎっしり詰まっている。しかも先生のデスクには、プロットの第一稿が、真尋を挑発するかのように、これ見よがしに置いてある。
焦る真尋は、自分もプロットを書き上げ、香に送、感想を聞くために、香のもとを再び訪ねる。ここから第2話後半から第3話前半の正味25分ほどは、間に回想シーンを挟みながらも、香の自宅兼事務所(たぶん)で、真尋と香がずっと対話を続けながら、お互いの心の闇に触れあう、静かな緊迫感のあるシーンである。
真 尋「プロット読んでいただき、ありがとうございます」
真 尋「サイコパスだった沙良を中心に、力輝斗との関係をドキュメンタリータッチに作ってみたんです」
香 「面白かったし、こんなに早く書いてくれてありがとう」
香 「でももっと調べてから作りたいの。まだ取材中だから」
真 尋「でも大畠先生はもう書いてますよ」
香 「大畠先生のことは私も聞いた」
香 「でも私は真尋さんに書いてもらいたいと思っているから」
真 尋「そうおっしゃっても、監督一人が決められることじゃないですよね」
真 尋「……すいません」
香 「気持ちは分かる。でも焦らずに、真実を映画にしたいの」
香 「どうぞ」
香 「家族が憎いから道連れに死のうと思った」
香 「力輝斗はそう言っていたけど、私にはやっぱり、そんなふうに考える人に思えなくて」
真 尋「子どものころ励ましあったからですか?」
真 尋「力輝斗には本当の動機があるっていうのは、カウンセリングした医者の主観ですよね」
真 尋「そんなものは本当はないのかも知れない」
真 尋「監督は過去の想い出を美化しすぎて、それこそ真実が見えなくなっているんじゃないですか?」
真 尋「それに、もし力輝斗に本当の動機があったとして、どんな理由だったら人を殺しても良いんですか?」
真 尋「家族全員を殺した殺人鬼なんですよ」
香 「彼の犯行を肯定はしない。ただ、そうなってしまった彼の気持ちを知りたいの」
真 尋「何がどうしたって、殺された被害者が可哀想に決まっています。殺した方にどんな理由があっても、それを世間に公表して、同情を買ってやる必要なんてないですよ」
だったらなぜこの作品の脚本を書きたい? と思わず突っ込みたくなるくらい唐突な激昂ぶりで、ふつうだったら相手は戸惑う。しかし香はむしろ興味津々といった表情で、真尋を見つめている。この人は人間観察力に長けた優秀な映画作家、というよりは、観察せずにはいられないタイプの人なのだ。
香 「前にも同じようなことを言っていたよね『事件に係わる人たちの想いを知りたいとは別に思わない』って」
香 「真尋さんは脚本家なのに、どうしてそんなふうに思ってしまうのかな」
香 「ごめんなさい、もしかしてお姉さんのことと何か関係があるの?」
香 「お姉さんがピアニストになったって聞いて嬉しくて、どんな活動をしているのか調べてみたの」
香 「そしたら17年前に交通事故で亡くなったっていう記事が出てきて」
香 「……ごめんなさい。どうして生きているふりをしているの?」
真 尋「……監督の『ごめんなさい』は便利ですね」
真 尋「『ごめんなさい』『ごめんなさい』って言って、何でも知りたがって」
真 尋「他人のプライバシーに踏み込んでくる」
そう言っても香は真尋をじっと観察し続けている。仕方なく真尋がいままで黙っていた秘密を語り始めると、香はノートを出してきて、真尋の話を克明にメモにとる。他人のプライバシーに土足で踏み込むなと嫌みを言われ、『ごめんなさい』と口では言いながら、興味津々の視線をまっすぐ真尋の顔に向けたまま、無言の圧をかける香の表情には、わずかながら常軌を逸した空気が感じられる。こういう「静かな狂気」みたいな感情もふつうに演じられるようになった。
真 尋「……姉は高校一年の時、ピアノ教室の帰り道、自転車に乗っているところを車に轢かれました」
真 尋「姉が赤信号で飛び出したそうです」
真 尋「目撃者はいなかったけど、運転手は真面目な善い人で」
香 (慌ててメモを取り出す)
真 尋「警察も周りもみんな、その人の言うことを信じました」
真 尋「結婚一年目、会社での人望も厚くて、もうすぐ子どもが生まれる予定で」
真 尋「減刑だか執行猶予つきだかの署名が、社内で集められたそうです」
真 尋「結局その人は刑務所にも入ることなく、会社をクビになることもなく」
真 尋「子どもも無事に生まれて、その赤ん坊と奥さんを連れて謝りに来たんです。怒れますか?」
男 「本当に申し訳ありませんでした」
妻 「本当に申し訳ありませんでした」
加奈子「……わざわざ、お見舞いに来てくださってありがとうございます」
加奈子「千穂もおかげさまで怪我が治って」
加奈子「無事に留学先のパリに送り出すことができました」
良 平「……娘は小さい頃からピアノを習っておりまして、パリ留学は夢のひとつだったんですよ」加奈子「うん」
良 平「そういうわけですから、もうお引き取りください」
真 尋「姉は海外でピアニストをしている。そういうことにしたんだなと、子どもながらにさとりました」
真 尋「2年前、母親が亡くなってからも、それは続きました」
香 (メモを続ける)
真 尋「運転手の人となりなんて知らなければ良かったんです」
真 尋「善い人だって知っちゃったから、気持ちのやり場を失って、悲しみを昇華することができなかった」
真 尋「ただ女子高生を撥ねただけの人でいてくれれば、みんなで思い切り罵って終わらせることが出来たかもしれないのに」
香はもう相槌をうつでもなく、淡々とメモを取り続ける。まるで真尋のことも映画の素材にするために、記録をとっているようにも見える。
異様さに圧倒されながらも、次第に怒りがこみ上げてきた真尋は、メモを取る香の手を抑える。
その瞬間、香ははっと我に返る。別に真尋の話をどこかで使おうと思ったわけではない。こういうときに聞いたことをすべてメモしてしまうのは、無意識の反応なのだった。
真 尋「監督は『知りたい』って言い続けてますけど、知ることで、その先に何があるんですか?」
香 (逃れるように窓際へ)
香 「知らないと、前に進めないから……」
香 「知ることによって次の道を探して、やっと生きてきた」
真 尋「どういう意味ですか?」
香 「私ね、人を殺したの」
今度は香が闇を告白するターンである。というところで、『落日』第2話終了。今回はここまで。