前回『正直不動産2』第1話冒頭で、なぜ山﨑努が突然、登坂不動産で出前のラーメンを啜っているのか分からないと書いたが、カウボーイハットをかぶっているではないか。つまりこれは『タンポポ』(1985年東宝/脚本・監督:伊丹十三)なのであった。
簡単なオマージュにすぐ気づかなくて、すみませんでした。
それから日本テレビ「土ドラ10」の『マル秘の密子さん』第4話(2024年8月3日)。そもそも『M14の追憶』で紹介されるまで、私はこのドラマについては全くのノーマークだった。福原遥が主演なのにうかつだ。これも齢のせいか。
泉里香は第4話からの登場。ドラマの中ではすでに故人。だが、その死を巡る謎が物語の中核をなすというキーパーソンである。NHKの大河ドラマ、WOWOW、そしてプライム枠の「土ドラ10」。
すごいぞ泉里香。なんでだ泉里香。あと個人的には、なんかすごく見覚えのある場所に福原遥が座っていたのも嬉しかった。
横浜ビジネスパーク。こうやってまいんちゃんと一緒に眺めているだけで、20年前の戦士たちの戦いが、走馬灯のようによみがえりますね。
さてそれで『マル秘の密子さん』第4話は、次回予告編で福原遥が誰かに「あなたの全てを奪いますから」と言い放って終るんだが、何かこのセリフ、聞いたよね。
神 木「お前からすべてを奪ってやる」
というわけで『正直不動産2』第2話「思いを伝える」レビューです(2024年1月9日、原作:大谷アキラ・夏原武・水野光博/脚本:野本ノンジ/照明:長谷川誠/撮影:山﨑一央/演出:川村泰祐/プロデューサー:樋渡典英・室谷拡/制作:NHKエンタープライズ/制作・著作:NHK・テレパック)。
咲 良「永瀬先輩」
永 瀬「なんだその呼び方。猫か俺は。先輩だぞ」
咲 良「永瀬先輩、榎本美波さんのこと、どう思ってます?」永 瀬「えっ何いきなり」咲 良「どう思ってます?」永 瀬「どうって良い人なんじゃないの?」
咲 良「それはお仕事関係の人として? 友だちとして? それとも……異性として?」
永 瀬「……何が言いたいの?」
咲 良「だからぁ……」
咲 良「永瀬先輩、思っていることがあるんだったら、ちゃんと伝えないと駄目ですよ」
永 瀬「はぁ?」
咲 良(なぜか壁ドン)
咲 良「失ってからじゃ遅いんですから」
永 瀬「何それ?」
永 瀬「何?」
咲 良「遅いんですからね」
永 瀬「いやいや、気になるだろう」
さて今回は、輸入家具のバイヤーをやっている寺島大助(迫田孝也)が登坂不動産にやってきて、持ち家の処分を依頼するところから始まる。
粗大ゴミはあるが空き家なので、できるだけ早く売却したい、と、その場で鍵を渡される。事業がうまく回らずに負債を抱えているので、家を売ってきれいに返済してしまいたい様子である。
ところが、永瀬(山下智久)が咲良(福原遥)と十影(板垣瑞生)を連れて物件を調べに行くと、粗大ゴミどころか、この家にはちゃんと住人がいて、泥棒と間違われてしまう。
住んでいたのは、売却を依頼してきた寺島の父、喜助(苅谷俊介)と息子の直也(松本怜生)である。喜助はパジャマ姿で、明らかに健康ではない。そういう状態の自分の父と、その面倒を見ている息子が現に住み続けている家を、空き家として売ろうというのだ。
永瀬たちはいったん引き上げて事情を聞くが、寺島は、二人とはとっくに家族の縁を切ったという。そして「すぐに追い出す。あそこはおれの家だ」と息まく。実際、家の名義は彼のものだ。とはいえ実の親子である。
もう少し家族で話し合いをしてみては、という永瀬の提言に、寺島は「もういい。よそで頼む」と出てゆく。向かう先はもちろん登坂のライバル、ミネルヴァ不動産だ。
ミネルヴァの神木(ディーン・フジオカ)は、この地域に介護施設付きマンションを立てる計画があることを理由に、永瀬よりも遙かに高額で売却することを約束。さらに「粗大ごみ」の処理も申し出る。寺島は即座にミネルヴァとの契約をきめる。
その翌週。息子の直也から連絡を受けた永瀬が寺島邸に駆けつけると、神木の指示で業者が家財を次々に運び出している。抗議する永瀬に神木は「家財処分委任状」を突きつける。
所有者の寺島の依頼で、すでに一週間前に退去依頼も出しているのに、喜助と直也が「居座って」いるため、強行手段に出た、というのだ。
しかしそのとき、肺炎を患っている喜助が発作を起こしたため、さすがの神木も「今日のところはいったん引き上げて下さい」と頭を下げる永瀬の頼みを聞き入れるしかなかった。
余談だが、孫の直也を演じている松本怜生は、この芝居をNHK(もしくは脚本の野本ノンジ)に買われたのか、2024年秋から始まる朝の連続テレビ小説『おむすび』(野本ノンジ:作)で橋本環奈の先輩役に抜擢された。
そして夜、登坂不動産では永瀬が残業しているその頃。
美 波「とっても美味しかったです」
神 木「それは良かった。光友吟銀行さんは大事な取引先なので」
美 波「嬉しい……(溜息)永瀬さんとは大違い」
神 木「だったら僕とお付き合いしてください」
美 波「へっ?」
╳ ╳ ╳
永 瀬「サウナでも入って帰ろ」
永 瀬「!」
咲 良「永瀬先輩、思っていることがあるんだったら、ちゃんと伝えないと駄目ですよ」
咲 良「失ってからじゃ遅いんですから」
永 瀬「これかぁ、月下が言っていたの」
美 波「じゃあ、ごちそうさまでした」神 木「御自宅までお送りしますよ」
美 波(じっと神木の目を見る)
美 波(納得して)「いえ、ここで失礼します」
神 木「では、また」
永 瀬「榎本さん!」美 波「◎△$♪×¥●& #!」
このとき突然駆け寄ってきた永瀬に驚く美波のセリフがいまいち聞き取れないのだが、やはり秋田弁だろうか。あと、この歩道橋は、汐留シオサイト、ゆりかもめ新橋駅付近の歩道橋でよろしかったでしょうか。
『高嶺のハナさん』第1シーズン第9話で、華が「弱木くんのことが好き、大好き」と告白した場所と同じだと思うんだが、間違いないですか? 私は行ったことがないので、御存知の方がおられたらよろしくお願いします。
話を戻しましょう。いつもの居酒屋「しょうじきもん」。最初は無関心に背を向け(るフリをし)ているマスター(湯江タケユキ)と奥さん(伊藤麻実子)。
永 瀬「あの人だけは絶対やめといたほうが良いっす」
美 波「なぜですか?」永 瀬「あの人、言っていたんですよ」
神 木「お前からすべてを奪ってやる」
永 瀬「お前からすべてを奪ってやる、って」
永 瀬「だから榎本さんに近づいたのも、絶対ウラがあるはずです」
美 波「すべて奪うって(笑)私、永瀬さんのものでも何でもないんでけど」永 瀬「ま確かに」美 波「ていうか永瀬さん、私のこと何だと思っているんですか?」
永 瀬「えっ?」
永 瀬「そうっすね、うん」
永 瀬「えー、うんとぉ」
美 波「答えられないんですね」永 瀬「いや……」
美 波「だったら、私が誰と付き合おうと関係ないですよね」
美 波「失礼します」永 瀬「ちょっ……」
それはともかく、寺島は、なぜこんなに急いで自宅を売却しようというのか。早く借金を返したいというのもあるにはあるが、実は何よりも、この家は亡くなった妻の美由紀(田山由起)を思い出させてつらい、という理由があった。
自分が仕事で海外を飛び回っているあいだ、父はひどい嫁いびりをして、そのせいで美由紀は身体を壊して、栃木の実家に逃げ帰り、回復せず死んでしまった。父が憎い。
……と大助は思っているが、実はそれは彼の誤解で、本当は、喜助はとても嫁思いの義父だったのである。
病弱な美由紀の様子を見て、自分のことは自分でなんとかするからと、しばらく栃木の実家に帰省して静養するよう奨めたのが、他ならぬ喜助だったのである。
永瀬たちは時間稼ぎのために、長年この家に住んでいる喜助と直也には「使用貸借契約」(無償で家を借りる契約)が生じている、と主張して立ち退きを引き延ばし、神木とミネルヴァを牽制しながら、その隙に大助と喜助の誤解を解いて、親・子・孫と三代に渡る確執を和解に導いた。
結果、父と仲直りした大助は家は売らず、再就職して借金を返す道を選ぶ。めでたしめでたし。(またしても成約はとれなかったが。)ただ心残りは……。
咲 良「永瀬先輩、榎本さんのことなんですけど」永 瀬「分かってる。ちゃんと今日話してくる」
咲 良「本当ですか?」永 瀬「おれもちゃんと思いを伝えないと」
╳ ╳ ╳
美 波「何でしょう、お話って」
永 瀬「いろいろ考えました。榎本さんが僕にとってどういう存在なのか」
永 瀬「榎本さんは僕にとって」
美 波「ストップ」永 瀬「え?」
美 波「それ以上言わなくてけっこうです」永 瀬「何で……」
美 波「よく考えたら、なんで私があなたにジャッジされないといけないんですか?」永 瀬「い、いやジャッジ、じゃなくて僕の、気持ちの……」
美 波「私は私の考えで行動します。なので、放っといてください」永 瀬「じゃ、神木さんとも」
美 波(鼻で笑って)「つき合うわけないでしょ」
永 瀬(ホッとして)「はぁ」
美 波「私、言いましたよね。嘘をついているかどうか、眼を見れば分かるって」
美 波「あの人、大嘘つきですよ」
永 瀬「さすが……」
美 波「あんまり私を舐めないでください」
美 波「へば」
永 瀬「榎本さん!」
永 瀬「まあこれで良かったんだよな、ああ、いいんだよ」
永 瀬「はぁ?」
咲 良「どんまい、永瀬先輩」
最後、泉里香がさらっていったなぁ。てことで今回はこれくらい。以下次回。