さてみなさん、3年ぶりに制限なしの大型連休も終わった。名残惜しい日曜日、いかがお過ごしですか。私も、別にはしゃぐつもりはなかったのですが結局、上京して娘に会ったり、実家の親の様子を見たり、ついでにアイドルのライブに行ったり(どっちがついでなんだか)、あと所用で京都にも行って、等々いろいろありまして、けっこう疲れた。昨日も帰省中の息子と『名探偵コナン 黒鉄の魚影(サブマリン)』を観に行ってしまった。
『名探偵コナン』は、冒頭いきなり、子供が絶対に入れないような国家機密レベルの施設にあっさりコナン君が入ってしまい、見つかってもツマミ出されないので「おいおい~、いくらアニメでもなぁ」とか思うが、まあこの世界の約束事みたいなもんだから、と目をつぶれば、そこから先の話はすごく面白かった。ただ「小学生と身分を偽っている高校生探偵」「同じく小学生を装っているが実は悪の組織から抜け出してきた研究者」「悪の組織の一員のフリをしているCIAの情報部員」「殉職したことになっているが実は偽名で生きているスナイパー」とか、身分を偽っているレギュラーが多すぎて、なんかちょっと人間不信になりかけた。
そんなふうに、はからずも連休を満喫してしまいまして、予告していた『特捜9』Season6 第3話「ゲリラ取材で悪徳商法を追っていた映像ジャーナリスト(水崎綾女)の怪死。彼女が最後に会った主婦(沢井美優)は妊活中で、ただの水道水を『願い水』として高額で売りつける不妊治療セミナーに通っていた!」(というタイトルではないが)<後編>のレビューは間に合わない。次回に回す。間延びしちゃってすみません。
で、実家に帰ったとき、先日このブログでも話題にした『犬神家の一族』前・後編(NHKBSプレミアム、2023年4月22日・29日)が録画されていた。時々、実家に帰っては一人暮らしの父の様子を見てくれている東京の姉が、予約録画したのだろう。
私は名古屋の自宅では、TVerとかの配信ばかり観ている。妻が大量の韓流ドラマとジャニーズの出る番組を録画しつつ観ていて、私がテレビに触れる機会は少ないのだ。犬神家も、そのうちNHKオンデマンドとかで観ようと思っていた。なのでこれ幸いと、実家で夜更かしして一気見した。姉が横溝正史や小林靖子のファンだという話は聞いたことがないが、なにしろ『犬神家の一族』だからね。世代である。いや、もとは1950年に書かれた小説で、1954年の映画版や1970年のドラマ版もあるが、やはり1976年の角川映画第一弾、市川崑監督・脚本、石坂浩二主演っていうのは、時代の代名詞みたいなもんだからね。
以降、テレビドラマだけでも(Wikipediaによれば)6回もリメイクされた。NHKでも、以前ファスト映画のような30分短編(!)形式で、池松壮亮の金田一耕助で映像化されている(『横溝正史短編集2 犬神家の一族』2020年1月)。
横溝作品のなかで最も映像化回数の多いこのビッグタイトルを、この後に及んでどうアレンジすべきか、さすがの小林靖子も大変だったんじゃないかな、と思いながら鑑賞したが、予想を上回る健闘ぶりだった。
横溝正史の本格推理の多くは、プロットを組み立ててから人物設定を考える、という順序で構想されている。謎解き小説なんだから当然だが、ミステリとしてのアイデアが大胆で奇抜になればなるほど、登場人物の人間心理や行動のリアリティはそのぶん犠牲にされる。金田一耕助が最後に犯人の動機などを語っても、読者としては「ええっ、そういう理由?」と思ってしまう場合だってある。でも、たとえば『犬神家の一族』の場合、そもそも犬神家の人間関係が尋常じゃないし、さらに物語の発端となる犬神佐兵衛の遺言がとんでもないものなので、ハナからリアリティもへったくれもない、とも言える。
で今回、小林靖子は、そういう普通のモノサシでは測れない犬神家の人々の心理をもう少し深掘りして、犯人を中心とする主要登場人物の関係性を再解釈した。したがって事件篇はだいたい原作どおりなのにもかかわらず、後編の謎解き篇がなかなかの新味に満ちていて、これは良くできていたと思う。また、この変更が結果として、NHKが「これまでの犬神家を覆す衝撃のラスト」と煽るエンディングにもつながっている。
実を言うと私は、この「これまでの犬神家を覆す衝撃のラスト」というNHKの惹句を聞いた時、今回の小林靖子版の結末について、別な予想を立てていた。でも(このブログをお読みいただいている方にはお分かりのとおり)またまた外れちゃいました。
というのも、今回のキャスティングでいちばん意外だったのは、ヒロイン野々宮珠世に、先日の『岸辺露伴は動かない』第7話「ホット・サマー・マーサ」(2022年12月26日)でイブを演じていた古川琴音が選ばれたことだ。これまでこの役は、島田陽子、財前直見、牧瀬里穂、加藤あい、高梨臨といった、ふつうにヒロインを演じそうな方が演じてきた。高梨臨、綺麗だったね。
ところが今回は古川琴音だという。古川琴音ってふつうにヒロインというのとはちょっと違う。何よりも彼女はユマニテ所属である。ええとユマニテという芸能事務所にどういう女優がいるかというと「安藤サクラ」「門脇麦」「岸井ゆきの」そして「伊東蒼」(先日『どうする家康』でお市の侍女、阿月を演じた子。お市と家康のために戦国40キロマラソンをやって死んでしまったね)。私の言いたいこと、分かりますよね。
小林靖子が岸辺露伴に続いてNHKと組んだ作品ならば、ここは珠世役は「古川琴音」ではなく「飯豊まりえ」のはずなんだけどなぁ、と思っていたわけだが、そこで私、ピンときました。
原作では前半けっこう長い間、金田一が野々宮珠世に対して疑惑の目を向けている。彼女は事件に先立ってボートに穴が空けられていたり、ベッドにマムシが放り込まれていたり、いち早く「命を狙われているアピール」をしている。そしてゴムマスクの男が帰還すると、自分の持っていた懐中時計や、神社に奉納されていた手形を利用して、彼が本当に犬神佐清か身元確認することを誰よりも先に思いつき、周囲の人間を動かしてそれを実行するよう仕向けるくらい、頭の回転が速い。どんな頼みもお嬢さんの言うことなら黙って従う猿蔵という頑強で忠実なしもべもいる。そして常に落ち着いており、容易に近寄りがたい雰囲気を醸し出している。
だから原作の金田一耕助と警察が、長いこと珠世を容疑者圏内にいれていたのも無理はないし、実際、原作を読む限り、彼女はすべてを見抜きながら、邪魔者が消えてゆく様子をひっそり静観していたのではないか、とも思える節がある。一方で過去の映像化作品では、どう考えても犯人ではありえない清楚系ヒロイン女優ばかりが演じてきたので、そもそも金田一が珠世を疑うという描写も、原作ほどにはなかったと思う。
今回、珠世役が飯豊まりえではなく古川琴音に行ったと知り、さらに「これまでの犬神家を覆す衝撃のラスト」という宣伝文句を聞いたとき、私は「ははぁ、なるほど、最後の最後に態度を豹変させる珠世、そのための古川琴音か」と思ったのだ。が、まんまとはずれましたね。でも私だけじゃなくて、M14 さんもそう思われたそうなので、けっこう引っかかった人がいるのかな。
ただそうすると、なぜ古川琴音を起用したかな、というふうに話は振り出しに戻るんだが、ひとつだけ思い当たるふしがある。
唐突ですが、実写版セーラームーンのAct.12って、みなさんどんな話か憶えていますか?
Act.12は、美奈子が仮面の下で抱える葛藤がテーマだ。セーラーVのマスクをつけてプリンセスの影武者を演じることに、美奈子は迷いを感じている。そこへ本当のプリンセスであるうさぎが現れ、一時的にアイドル美奈子の代役を買って出る、というけっこう複雑な構造の話になっている。実は、うさぎが本当の月のプリンセスであることは、作品内でまだ明示的に語られてはいないのだが、だいたいの視聴者がそれを知っているという前提で話が進んでいる。
『犬神家の一族』最大のアイコンである白いゴムマスク、その仮面の下で行なわれている入れ替え劇も似たようなものである(そうか?)。ミステリとしてのキモにあたる部分なので、金田一の口から謎解きされるまで、視聴者はそのことを知らない前提になってはいるが、なにしろ超有名作品なので、多くの視聴者が、実は知っている。そして小林靖子の台本も、多くの視聴者が知っていると言う前提で、仮面の下の入れ替え劇を書いている(ように思う)。
その意味では、仮面の男と対峙するたびに表情や態度を変えて、何が起っているか知っている視聴者に同伴する、劇中のナビゲーター役が珠世である、とも考えられる。ちょっと面倒な芝居が求められるので、古川琴音を使ってみたってことかなあ。ま、ぜんぜん見当違いかもしれないが。
それにしてもマスクの男の役は、本当はこの人にやって欲しかったなあ。超売れっ子だから無理なんだろうが、顔の質感も目の感じもばっちり、何ならマスクしなくてもそのまま演じられそうだ。
ということで今回はこれまで。連休疲れで気の抜けた雑文で失礼しました。それに、ネタバレを避けて書いたけど、その結果、どういう話か知らない人が読んでも、まったく意味不明の内容になってしまったと思う。
だから小林靖子版のオンエアを観てからお読みください、と言いたいところだが、これが地上波で放送される機会はないだろう。差別用語だらけの横溝正史の作品なんて、もうコンプライアンス的にBSプライムがせいぜいですよね。そういう意味ではマイナーな素材を取り上げてしまった。反省して、今日の残りはゆっくり休養にあてます。ではまた来週。