実写版『美少女戦士セーラームーン』ファンブログ


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【第903回】プラーナとかに気をとられるな、の巻

 【注意】本日のブログは実写版セーラームーンとはほぼ関係ありません。


田崎竜太監督『仮面ライダー THE NEXT』(2007年)の本郷猛(黄川田雅哉)



 『シン・仮面ライダー』は制作発表時から突っ込みどころ満載で、当ブログも(1)白倉伸一郎は『真・仮面ライダー 序章』(1992年)、『仮面ライダー THE FIRST』(2005年)『仮面ライダー THE NEXT』(2007年)の二部作、そして『仮面ライダー1号』(2016年)と、いったい何回「原点回帰」をしたら気が済むんだ、(2)庵野秀明は等身大ヒーローアクションが苦手で、『キューティーハニー』(2004年)は赤字過ぎて制作会社が倒産まで追い込まれたが大丈夫か、(3)浜辺美波は東宝シンデレラのくせに『ゴジラ』に出ていないうちから東映特撮の看板タイトルに出るのか、(4)池松壮亮は松竹の実写版『鉄人28号』(2005年)で金田正太郎を演じていたね(それがどうした)、などなど、さんざん茶々を入れながら完成を待っていたわけだが(タチの悪いファン)、いざ観てしまうと、やっぱりいろいろ書きたくなる。



 がしかし、パンフレットがフィルム包装されて中が見えないうえ「ネタバレ注意」と書いてある厳戒態勢なので、あまりレビューを書けそうにない雰囲気だ。そもそも何を書くとネタバレにあたるのか、私にはイマイチ分からなかったりする。エンドクレジットを見ると、事前に宣伝されていない豪華なキャストが沢山でているんだけど、出演者の名前を書いちゃいけない、ってことかな。でも誰がどこに出ていたか分からなかったぞ。たぶんショッカーの怪人たちはみんな有名俳優だったんだろう。



 でもちょっとだけ書く。『キューティーハニー』ではハニー(佐藤江梨子)の「おじさま」こと如月博士(京本政樹)を巨大化させてしまった庵野秀明。今回の『シン・仮面ライダー』の戦闘シーンも、ちょっとそのときの「ハニメーション」を髣髴とさせるところがあってハラハラした。というか「ハニメーション」って仮面ライダー初期のコマ抜きアクションの模倣だったんだと気づいた。ほかにも決め技などの場面は初期シリーズの再現に徹していて、それである意味、誤魔化せてはいるが、やっぱりこの人は等身大ヒーローのアクション演出が苦手なのかな、と思っていた。そしたら『シン・ウルトラマン』の中の人が『シン・仮面ライダー』にも登場してきた。なので「これは、こないだ大コケしたあの映画みたいに、最後はこの人がベータカプセルを取り出して巨大化するな」と私はすぐにピンと来た。その予想が当たったかどうかは、すみませんネタバレになるので書けません。



 というわけなので、今回は映画には直接触れず、漫画版について書く。『シン・仮面ライダー』公開にあたり、「原作漫画」について書いてあるレビューや記事もいくつか読んだが、読んでいてちょっともの足りなく感じたものが多かったので、まあみなさん御存知のこともいっぱい書いてあるとは思うが、よかったら雑文におつき合いください。



 石森章太郎(石ノ森章太郎)の『仮面ライダー』は、1971年の春から『週刊ぼくらマガジン』(講談社)で連載された。『ぼくらマガジン』は、当時読者層の年齢が上がりつつあった『少年マガジン』の弟雑誌として、より低い年齢層をターゲットに1969年に創刊されたが、結果的に『少年マガジン』の発行部数が激減してしまったために2年後の1971年夏に廃刊、一部『少年マガジン』と再統合された。そんなわけで『仮面ライダー』も、連載開始後わずか2ヶ月で『少年マガジン』に移籍している。『あしたのジョー』と『仮面ライダー』が同時に連載されていたなんて、なんかすごいね。



 もともと『仮面ライダー』は、石森章太郎が『少年マガジン』に特別読み切り中編として発表した「スカルマン」(1970年)をベースに、これを東映特撮の新しい仮面ヒーローに発展させようということで、つまり元から映像化を前提に、東映と石森プロの共同作業で立ち上げられた企画である。なので原作漫画も、ほんとうは「原作」というより「漫画版」(石森先生は後年「萬画」と言っていたけど)と呼ぶべきタイアップ作品である。



 このあたりは同じ講談社の『るんるん』に掲載された武内直子の読み切り漫画『コードネームはセーラーV』(1991年)から、東映とのタイアップ作品『美少女戦士セーラームーン』(1992年~1997年)が生まれた事情と似ている。原作といっても微妙に別物というか、そういったニュアンスが一緒である。



 漫画『仮面ライダー』の基本設定は、この(1)「スカルマン」をベースに、やはり石森自身の代表作である(2)『サイボーグ009』、それに(3)『バットマン』、(4)『ロボット市民』、(5)『虎よ、虎よ』といった海外コミックやSF小説を参考にしてできている。



(2)『サイボーグ009』については、説明は要らないですね。悪の組織に捕らわれて身体を改造された主人公が、自分を改造した博士と組織を脱出し、正義のために孤独な闘いを挑む、という基本的な流れは、主人公が単独かグループかという違いだけで、ほぼ一緒である。



(3)『バットマン』に関して言うと、主人公の本郷猛が大富豪の遺児で、ショッカーと戦うために莫大な私財を投げ打って秘密基地を作っているところとか、その秘密基地を管理する戦いの伴侶が、先代から本郷家に仕えてきた立花藤兵衛という老執事であるとか、そういったあたりは、かのダークナイトの設定に影響されている。



 本郷猛から「仮面ライダー」の屋号を継いだ二代目、一文字隼人に秘密基地の案内をする立花藤兵衛。もろにバットマンのアルフレッドだよね。そもそも当時『月刊別冊少年マガジン』には『スパイダーマン』、『ぼくらマガジン』には『ハルク』の日本版が連載されていたから、そういうことも刺激となっていたと思う。



 『仮面ライダー』が最初のエピソード「怪奇くも男」で戦うショッカーの怪人はクモ男(スパイダーマン)で、次の「空とぶ吸血魔人」の敵がコウモリ男(バットマン)というあたりも、わざと狙っているのだろう。しかし当時『ハルク』が連載されていたというのもなかなか。たぶん単行本化はされていないと思う



(4)イアンド・バインダーの『ロボット市民』(Adam Link Robot)は1940年代のSF短編連作小説である。SF史的には、アイザック・アシモフに影響を与えたことで知られているが、こっちに出てくるロボットは、AIのように自分で学習して成長するので、人間がロボット三原則とかを入れてやんなきゃなんない(そしていつまでもそれに縛られる)アシモフ型よりも進んでいる、とも言える。



 1939年に発表された第1話「ロボット誕生」(I, Robot)で、チャールズ・リンク博士によって創造された主人公のアダム・リンクは、自宅で事故死した博士を介抱しようとしたところを家政婦に目撃され、殺人犯の濡れ衣を着せられる。それ以前から博士の家の家政婦には気味悪がられていたんだけど、愛犬には懐かれていたところが可愛い。



 『仮面ライダー』では、本郷猛は自分を改造した緑川博士とショッカーの基地を脱出するが、追ってきたクモ男の蜘蛛の糸に絡めとられた緑川博士を救おうとしたところを、駆けつけた娘の緑川ルリ子に目撃され、人殺しの汚名を着せられる。
 創元推理文庫のイアンド・バインダー/青田勝訳『ロボット市民』は1970年にから出版されている。カバーイラストは真鍋博だけど、あまり真鍋博っぽくはない。



 で、その翌年の1971年に仮面ライダーが始まっているわけね。特にこの頃の石森章太郎って、月産300枚という多忙ななかでも小説や映画に対する好奇心は旺盛で、良いSF小説やSF映画のアイデアやヴィジュアルはすぐパク……ええと引用しているから、これも影響関係はたぶんあると思う。ただ指摘している人はあまりいないんじゃないかな。



 一方(5)アルフレッド・ベスター『虎よ、虎よ』からの影響は有名で、石森作品では『サイボーグ009』の「加速装置のスイッチが奥歯にある」という設定もここから来ているが、「本郷猛が戦闘モードに入ると、ショッカーへの怒りから虎の縞のような改造手術の跡が顔に浮かび上がる」というのも、けっこうそのまんまである。



 ほかにもあるだろうが、私の思い浮かぶ範囲で言うと、ざっとこんな先行作品からインスパイアされて『仮面ライダー』の基本設定は成り立っている。ということで、今からごくおおまかに、この漫画の物語を紹介したい。ネタバレっていえばネタバレになるけど、50年以上前の漫画だから、まあ良いんじゃないかと思う。(嫌な方は御遠慮ください。すみません。)映画『シン・仮面ライダー』を鑑賞しようという方には、このくらいは知っておいていただかないと、という基礎知識を中心に並べるつもりです。



 大富豪の本郷家の御曹司にして城北大学生物学研究室の大学院生にしてモトクロスライダーの本郷猛は、ショッカーの手でバッタの改造人間にされるが、洗脳される直前、ショッカーに拉致され行方不明だった恩師の緑川博士の手引きで、改造オートバイと共にショッカーの基地を脱出。



 しかし本郷が立花藤兵衛に緑川の娘のルリ子を連れてくるよう指示を出すと、それを予期していたクモ男は、ルリ子の持ち物にクモ型GPSを仕込んで隠れ場所を察知。先回りして緑川博士の首にクモの糸を巻き付ける、本郷がそれを解こうとしたところにルリ子が駆けつけ、本郷を人殺し呼ばわりするくだりは先ほど紹介した。



 さらにクモ男はルリ子をかっさらって逃げて行く。実は、ここでよく分からないのは、なぜクモ男は、改造手術の知識や技術を持つ緑川博士をあっさり殺したくせに、娘のルリ子は丁寧に生け捕りしたまま拉致したのか、という点である。緑川を人質に仮面ライダーを呼び寄せせようということか。



 なのでまあ、穿った見方をすれば、緑川ルリ子はただの娘ではなくて、ショッカーにとって何らかの意味で必要かつ有益な存在なのかな、という気もする。ただ原作漫画にはそのへんの事情がまったく語られていないので、読者が想像力で補完しなければいけない。



 「仮面ライダー」となった本郷猛は、サイクロンでクモ男を追う。ベルトから風を吸い込みエネルギーを蓄える。というように、初代はいわゆる「変身」ポーズをとらない。これが出るのはテレビ版の2号ライダーからで、藤岡弘の不慮のバイク事故のため、急きょ後任となった佐々木剛がバイク免許をもっておらず、一文字隼人がライダーに変わるキッカケとして考案されたのが「変身」ポーズ、という話は有名ですね。



 蜘蛛男は結局、ライダーに緑川ルリ子を奪回され、ボコボコにされて四本の腕ももぎ取られ、ほうほうの体でショッカー基地に戻る。普通なら粛正されてしかるべきところだが、泣きの一回でリヴェンジ・マッチを許される。



 その様子を見ていたハチ女は、コウモリ男のもとをたずねる。実は瀕死のクモ男を見つけて基地に連れ帰ったのはウツボ男だし、この時点でショッカーにはけっこうな数の改造人間のストックがあって、しかもそれぞれ個室をあてがわれていることが分かる。



 すでに石森章太郎は、テレビ版スタッフの依頼に応えて怪人のデザインを沢山作っておいたので、余るくらいの数があったのだろう。このハチ女も、テレビ第1シリーズではハチ女に引っかけて第8話に登場したが、漫画のハチ女には本格的な出番もない。同様に、ライダーと直接闘うことのない怪人も結構いる



 というわけで、復讐を誓うクモ男をいまいち信用できないショッカーの首領は、第二の刺客としてコウモリ男を送り出す。本郷猛の用意した洋館に匿われているルリ子を、クモ男は屋根の上から虎視眈々と狙っているが、すでにコウモリ男は、ヒロミというルリ子の親友を手先に変えて、ルリ子を訪問させるのだった。



 コウモリ男のウィルスによって吸血鬼となった親友のヒロミが、ルリ子に襲いかかる。が、剣道の有段者である立花藤兵衛老の奮闘によって追い払われる。一方、仮面ライダーは彼女を操るコウモリ男の片翼を刺して飛べなくしてから、爪に隠された吸血鬼ウィルスのワクチンを回収する。ただ手遅れで、ヒロミを救うことはできなかった。



 クモ男もライダーに敗れ、泡になって溶解する。初期のショッカーの怪人たちは倒されると泡になって音もなく溶ける。これはテレビシリーズも同様であって、第8話のハチ女までは溶けて消えていた。第9話のコブラ男が、倒されて爆発した初めての怪人である。


 
 そのコブラ男と蛇女のメデューサは、漫画版ではショッカーの改造人間になる前は恋人同士だった。カップルでライダーを倒しにいったが、ライダーと間違えて愛するコブラ男を誤爆してしまったメデューサは、悲しみのあまり自ら命を絶つ。



 と、出来合いの怪人が使えない奴らばかりなので、ショッカーは趣向を変えて「13人の仮面ライダー」作戦を立てる。これは仮面ライダーのレプリカを12体作って、「13人目の仮面ライダー」である裏切り者を粛正させようという計画である。12人ライダーの初登場シーンは、黒澤明の映画が大好きな石森章太郎らしく、豪雨のなかである。



 ここらへんで、(理由は不明だが)緑川ルリ子を狙っていたショッカーも、もうすっかりルリ子を狙わなくなっている。あの設定は何だったんだろう。まあともかく、12人のライダーは本郷猛殲滅のために画策するが、そのうちの一人、普段はフリージャーナリストの一文字隼人が本郷に接触しているとき、別の仮面ライダーが本郷を狙撃して、結果的にはショッカーの仲間である一文字のこめかみをかすめる。集団プレーで足並みが揃わないのがショッカーの弱点である。



 この一発が脳改造手術を施された部分を破壊したため、一文字隼人はショッカーのマインドコントロールからめざめる。本郷と共にショッカーと戦う決意をかためる一文字だが、すでに本郷は、残る11名のライダーの罠に落ちていた。



 林の中で周囲を仮面ライダーたちに囲まれ、思うようにバイクのスピードが出せない。だから変身ベルトに風を取り込んで改造人間としてのパワーを出せない。ついに包囲網につかまり、本郷は11人ライダーの凶弾に斃れる。



 一文字隼人、立花藤兵衛、緑川ルリ子が駆けつけたときには、もはや手遅れだった。



 それでも一文字隼人は、急いで本郷を秘密基地まで担ぎ込む。莫大な財力で、科学技術の粋を集めて設営された本郷の秘密研究所には、ものすごい設備があって、たぶんものすごい高給で引き抜いた医師たちもいる。



 それでも本郷を救うことは絶望的に思われた。一文字は本郷猛の遺志を継ぎ、仮面ライダー2号となることを宣言する。そのとき医師たちが一文字に提案する。




 本郷の身体は回復不可能だが、脳だけは培養液のなかで生き延びさせることができる。医師たちは、仮面ライダーのマスクを通じて、その本郷の脳が一文字の感じるものを共有できる装置をつくったのである。仮面ライダーの仮面を媒介して一文字と本郷の「心」はつながる。一文字が見るものは本郷の脳にも見える。一文字に聞こえる音は本郷にも聞こえる。



 「おれの魂は……おれの頭脳は地下研究所のガラスのうつわの中だが……サイクロンの排気音も、そのにおいも、そしてからだにぶちあたる風の力も、おれはすべて感じているんだ!! さあはしれ。もっとスピードをあげるんだ……隼人!」「よし!! ——いくぞ猛。これからは、おれたちはもうひとりぼっちじゃない!」



 「いつもふたりだ。ふたりでショッカーと戦おう」
 ここまでが石森章太郎の漫画版『仮面ライダー』の前半、いわば本郷猛篇である。『シン・仮面ライダー』は、まだ映像化されていなかったこの話を、説明不十分な設定を補完しながら、テレビシリーズ第1クールの藤岡弘=本郷猛篇の特撮・アクションのヴィジュアルで再現する、という企画である。だからやっぱり「原典」をよく知った上で鑑賞しないと、その意図を踏まえて十分に楽しめないのではないか。そう思って今回のブログを書きました。
 たかが映画鑑賞にそんな予習は面倒だよ、という人には、この新作よりもむしろ『仮面ライダー×仮面ライダー W&ディケイド MOVIE大戦2010』(2009年12月、田崎竜太)をお薦めしたい。電波人間タックル(広瀬アリス)とハチ女(及川奈央)がヒロインの夏海(森カンナ)を挟んで戦う、というシーンもあって、たいへん豪華キャストである。男性陣も桐山漣に菅田将輝、瀬戸康史、吉川晃司と豪華豪華。



 ただ、エヴァンゲリオンのファンの人であれば、『シン・仮面ライダー』を予備知識なしでも楽しめるかもしれない。特に今回、浜辺美波は「実写版綾波レイ」としてほぼ完成型だったと思う。



 生身で綾波が演じられる人ってそんなにいるわけではないが、いまの浜辺さんくらいの美少女だったらそれが可能だということを証明した。しかし綾波といえばあのプラグスーツである。



 ファンとして申し訳ない発言だが、あの身体のラインは浜辺美波には出せない。そこで今回、庵野監督は浜辺美波にコートを着せた。仮面ライダーも、首から下はライダーのまま、という状態が多かったため、コートを着ていたけど、より重要度が高いのは浜辺美波のコートだと思う。



 あれで動きの激しいシーンも演じて、時々脱ぐと下は身体のラインが出るニットだったりして、かなりしっかり綾波感を出していた。
 ということで、以上、本日のお題は、珍しくセーラームーンをほとんどこすらず、『仮面ライダー』でした。おしまい。