実写版『美少女戦士セーラームーン』ファンブログ


最新記事〕 〔過去記事〕 〔サイト説明〕 〔管理人

【第902回】理想を語って何が悪いの巻(『女神の教室』最終回)

 まずは小林靖子先生の新作『犬神家の一族』の放送日が決定した。



 NHKBS「スーパープレミアム」枠の横溝正史シリーズは、最初に長谷川博己が金田一耕助を演じた『獄門島』が放送されて(2016年11月19日)、それから金田一耕助役が長谷川博己から吉岡秀隆に代わり、『悪魔が来たりて笛を吹く』(2018年7月28日)と『八つ墓村』(2019年10月12日)の2本が制作されたので、今回が4作目という扱いになる。ここまで全作、脚本は喜安浩平で演出は吉田照幸と一貫していたが、ここへ来て脚本が小林靖子に交替、しかも前後編あわせて3時間というボリューム。



「犬神家の一族」新たな出演者・放送日決定のお知らせ(NHK公式 2023年3月13日より)

前編:2023年4月22日(土)夜9:00〜10:30
後編:2023年4月29日(土)夜9:00〜10:30
BSプレミアム・BS4K同時
90分✕2本 (前後編)

脚本】小林靖子
演出】吉田照幸
制作統括】樋口俊一 西村崇 大谷直哉
出演】吉岡秀隆 古川琴音 金子大地 南果歩 堀内敬子 芹澤興人 野間口徹
皆川猿時 小市慢太郎 倍賞美津子 大竹しのぶ ほか


 過去作のなかでは『悪魔が来たりて笛を吹く』が、原作にかなりエグい変更を加えていて賛否が分かれた。個人的には筒井真理子のエロ怪しさに磨きがかかっていて良かった。



 今回はどうかな。古典中の古典とも言える『犬神家の一族』である。みんな知っている横溝ミステリを、小林靖子がどうアレンジするか。何にせよ、『岸辺露伴』に次いでこういうのを任されて、NHKドラマとのご縁もだんだん深くなってきたのかな。この勢いで近い将来、北川景子主演の大河ドラマの脚本を手がけて欲しい。



 金田一耕助役は3度目となる吉岡秀隆、松子夫人は大竹しのぶ、そして映画では島田陽子が演じていた野々宮珠世役はなんと、古川琴音である。古川琴音、この前のNHK総合『岸辺露伴は動かない』第7話「ホット・サマー・マーサ」(2022年12月26日)や、今年に入ってからは大河ドラマ『どうする家康』」第7回(2023年2月19日)にも出演していて、何なんだろう、NHKに愛されたエキセントリック少女。


「ホット・サマー・マーサ」


「どうする家康」


 さて、それでは本題。いよいよ本当の本当に最終回。『女神の教室』第11話である(2023年3月20日/制作:フジテレビ/脚本:神田優/照明:藤本潤一・川埜允史/撮影:大鋸恵太・長谷川諭/監督:森脇智延/プロデューサー:野田悠介)。



 このドラマ、演出はほぼ澤田鎌作(第1話、第2話、第3話、第6話、第10話)と谷村政樹(第4話、第5話、第7話、第9話)の二人が担当してきたのだが、第8話では「イチケイのカラスSP」の森脇智延が参加している。いわば助っ人的な存在かと思っていたら、意外なことにこの最終回も森脇智延の担当だ。また、脚本も、これまでずっと大北はるかと神田優の二人でやってきたのが、この最終回だけは大北はるかと蓼内健太の名義になっている。


『大病院占拠』第7話の浅川梨奈さん


 蓼内健太って今シーズン日テレ土曜ドラ『大病院占拠』でも第5話と第7話の2話のみ書いている(残りは福田哲平の執筆)。そういったあたりからも、なんとなく番外編的な雰囲気である。



 この最終回の舞台は2026年11月。このブログでは、最終回は2025年の話だろうと予想したが、さらに1年後の話になっている。しかも我々の住む現実世界とは違って、コロナ禍というものが存在しなかったマルチバース。



 その世界にも、私たちの世界と同じように「法科大学院等特別委員会」が開催されている。ただし、オンラインではなく対面で。



梶 山「ピーク時には70校以上あった法科大学院ですが、その存在意義の薄さからいまや半数以下、この際、司法試験合格者数の多い法科大学院だけを残すなど、新たな仕組みに切り替えるべきだと考えます」



守 宮「それには賛同いたしかねます。目先の成績や司法試験の合格者数だけを重視するのなら、予備校と何ら変わりありません。ロースクールにはロースクールにしか出来ない人材育成の役割があるはずです」



梶 山「それはどのような役割ですか? 具体的に成果を見せていただけますか?」


 ドラマの世界で2026年の委員会の座長、法務省の梶山将史(小林隆)は、すでにロースクールの存続そのものに懐疑的になっている。まあ実際には、具体的な成果と言われても困るわけだが、そこはドラマ。青南ローの守宮院長はニッコリ笑って、大学に戻ると柊木先生を呼び出す。



守 宮「法科大学院等特別委員会。御存知ですよね」



 雫 「はい」



守 宮「その会に出席していただきたいんです」



 雫 「えっ、私がですか? どうして?」



守 宮「実際にロースクールを卒業した柊木先生の口から、ローの意義について語っていただきたいんです」



 雫 「そんな大役、私に勤まるでしょうか」



守 宮「あなた以上の適任はいませんよ」



守 宮「お願いします。ロースクールの未来があなたにかかっています」


 けっこうなプレッシャーがかけられる。そういうとき、いつもそうするように、雫は学生時代の同期と飲みにいったりもするのだが、意外なことに、最も力になる励ましとヒントをくれたのは藍井先生だった。



藍 井「通行の邪魔だと思いますが」



 雫 「話す内容を考えていたんです。法科大学院の委員会に出席することになったので」



藍 井「聞いています。せいぜい恥をかかないよう祈ります」



 雫 「ちなみに、藍井先生なら何を話しますか? 何かヒントだけでも」
藍 井「そういえば最近、桐谷を見かけませんね」



 雫 「え?」



藍 井「自習室に向かう彼を毎日のように見かけていたのに……合格発表前に怖じ気づいたか」



 雫 「彼なら心配しなくて大丈夫ですよ」



藍 井「なぜ、そう断言できるんです?」



 雫 「彼は一人じゃないので。いざというときは、助け合える仲間がいます」



藍 井「……ローにはそうした価値もあるかと」




 司法試験の合格率の低さゆえに、ロースクールの存在意義がいま厳しく問われていることは、このブログでも調べてみたし、またドラマのテーマでもある。守宮院長のつぎのようなセリフは、実在する幾つもの中堅法科大学院の現実をそのままトレースしたものだと思う。



守 宮「柊木先生は、これまでに何人の学生が青南大学法科大学院を卒業していったか、御存知ですか?」



守 宮「1031名です」
 雫 「そんなに」
守 宮「ではそのなかで司法試験に合格し、実務家となったのは何名でしょう?」



守 宮「48名です」



 雫 「それだけ……」



守 宮「日ごろ私が気にしているのは、合格できずに法曹界への道を諦めていった983名の元学生たちです」



守 宮「合格できなかったかれらにとって、ローでの3年間はどういうものだったのか」



守 宮「ただ無駄な時間とお金を費やした後悔の場所なのか、それとも実りある3年だったと思える場所なのか」



守 宮「願わくば後者であって欲しいと思っています」



 雫 「きっと後者だと私は思います。ここで身につけた法律の知識は、たとえ法曹界に入れずとも、必ず日々の生活のなかで役に立ちます」



守 宮「やはりこの大役をあなたにお任せして正解だったようです。明日は思い切り、頼みましたよ!」



 雫 「はい」


 まあともかく、こんなふうに同僚、仲間、先生との会話を経て腹を括った雫は、いざ、とばかりに守宮先生と、法科大学院等特別委員会の公聴会へ出陣する。



 雫 「決して成績優秀ではなかった、平凡な私が裁判官となり、今こうして教員としてこの場に立てているのも、ロースクールで沢山の人たちと出会い、時間を共に過ごしてきたからです」



 雫 「お酒が大好きなシングルマザー。泣き虫で気が弱いのに検事になった友人。そして法律を学ぶ楽しさを一から教えてくれた恩師」



 雫 「そうしたすばらしい人たちとの出会いのおかげで私は、それまで知らなかった新しい視点や考え方、感情を知り、人として豊かになることができました。その豊かさは私が法律家として生きていく上で、かけがえのない武器になっていると思います」



 雫 「なぜなら私たちが扱う法もまた、様々な人々の豊かな人生の上に成り立っているものだと思うからです」



 雫 「私はロースクールで得たものを、この先もこの身をもって伝えていきたいと思っています」



 雫 「ですから、どうかそのチャンスを与えてください」



 雫 「よろしくお願いします」



梶 山「あなたが見せたかったロースクールの成果は、彼女でしたか」



守 宮「はい」



梶 山「もう少し、見守ってみますかね」



守 宮「ありがとうございます」


 現実世界の文部科学省の公式サイトによると、リアルの「法科大学院等特別委員会」は3年前からオンライン開催になっている。近い所では令和5年(2023年)2月16日(木曜日)に「第110回中央教育審議会大学分科会法科大学院等特別委員会」が開催されており、Youtubeを通じてライブ配信された。現在もアーカイブを視聴することができるので、私もちょっとのぞいてみた。北川さんのドラマを観なかったら、こんな会議を視聴してはいなかったと思う。



 これが第110回目の「法科大学院等特別委員会」で、シーズン11の総括議論だということで、参加者のみなさんが少しずつ意見を言っていた。1時間30分もあるので、ごく一部しか聞かなかったが、実際の法科大学院の現場や法曹会の様々な立場にいる方々が真剣に議論していらっしゃいました。



 そういう意味では、北川景子の科白に心動かされた小林隆が「もう少し、見守ってみますかね」という場面は、まったくのフィクションでもないように思った。現実の法科大学院等特別委員会で議論している方々は、だいたい「教育効果」、倫理観や道徳観や人間観が身に付く、といった、そう簡単に具体化して見せられない成果が法科大学院に期待されていることも、ちゃんと踏まえているように見える。



 ただ組織の上部へ行けば行くほど、そういう良識が失われていることも事実だ。現在の文部科学省は、特に2000年の省庁再編で旧文部省が実質的に科学技術庁の傘下に入ってからのこの20年は、目に見えない「教育効果」のエビデンスを提出させようとする傾向が年々エスカレートしていて、いまでは教育現場をすっかり疲弊させている。倫理観や道徳観、人間性が身に付いたという教育の効果を、どうやって数値化できるのか。それでも効果を可視化できなければ助成金が打ち切られるので、みなさん必死である。



上智大の法科大学院「不適合」評価
 文部科学省の認証を受けて大学などを評価する「大学改革支援・学位授与機構」は23日、上智大法科大学院を「不適合」とする評価結果を公表した。
 機構によると、同大学院の司法試験合格率は低迷(2022年は13.33%)しており、直近4年間は全法科大学院の平均合格率(同年は37.65%)の半分にも満たず、継続的な改善の取り組みが認められないとした。国の補助金には「適合」認定を条件とする場合がある。文科省は今後、大学に報告書の提出を求め、法令違反の有無を確認する。
(『読売新聞オンライン』2023年3月23日より)


 青南ローは、現実世界に置いたら、やっぱり不適合のグループだと思う。現実は厳しい。でもだからこういうドラマを作ることが無意味だとは思いません。むしろ、だからこそきちんと理想を訴えるのは大切なことだ。たとえ視聴率が低くて、現実の流れに歯止めをかけるような「具体的な成果」を示すことができないとしてもね。



 ということで、いろいろ考えさせられるドラマであったし、いろいろ予想を立てて外れて、楽しい三ヶ月でもありました。何より、北川さんが女優として、またワンステップ成長されている様子を見られたことが嬉しかった。そして最終回はこの人まで出てくるサプライズがあった。



沙 織「結構です。お若い先生じゃ、ねぇ」


 沢井さぁん! 新婚なのにスワッピングとか離婚調停の役ばっか。でもいいや。いやほんとうにありがとうございました。では。