1. バズりドラマ
TBS『最愛』第2話(2021年10月22日)より、小松彩夏と仲良しの水崎綾女さん。コメント欄で教えていただいて観たのだが、確かに水崎綾女が良い。自分のプライドを守るために、いろいろな感情を押し殺してラーメンをすするシーンなんて、ぐっと来ました。
最近のドラマあるあるとして、意外な展開で視聴者を毎回あっと言わせ、クセのありそうな役者を配して物語の先読みをうながす、というパターンがある。リアルタイムのSNSで「バズる」要素をできるだけ入れこもう、という意図は分かるが、それだけ物語の整合性は犠牲にされがち。ただ逆に、話が破綻しているぶん、それをフォローして視聴者を引っ張る力があるかどうか、俳優の技量が見えやすくなってもいる。『最愛』の話が破綻しているかどうかは、まだ第2話なので分からないが、過去と現在を行ったり来たり、慌ただしい筋運びではある。そのなかで、過去の物語でさらに過去の傷を語る水崎綾女の芝居は、とりわけ強い印象を残した。
そういえば「SNS狙いのどんでん返し系」ドラマの主流、日テレ日曜ドラマ枠の『ボクの殺意が恋をした』(2021年7月~9月)なんて、やっぱり過去と現在を行ったり来たりする話だったが、なんかめちゃくちゃだった。しかしそのぶん、男優では、心優しく人から騙されやすい若者がいきなりトップ殺し屋にスカウトされるという主演の中川大志、女優では、こけしを詰めたスーツケースひとつで中川大志のもとに転がり込む自称フィアンセの松本穂香、この二人の演技が突出して良かったなぁ。
特に松本穂香は、後半から登場するキャラクターにもかかわらず、ヒロインの新木優子や(女優としてはまだ新人の)田中みな実はもちろん、水野美紀まで食ってしまいそうな存在感で、やっぱこの子すげえわと改めて感心しました。
あっ、さらに話が脇道に逸れるが、日テレの日曜ドラマっていえば『私たちはどうかしている』(2020年8月〜9月)の浜辺美波と岸井ゆきのが、2022年春公開の映画『やがて海へと届く』(ビターズ・エンド)で親友の役で共演することになったという。監督は、松本穂香主演『わたしは光をにぎっている』の中川龍太郎。たのしみですね。
まあそういうわけで、『最愛』も薬師丸ひろ子や井浦新をはじめ、一筋縄ではいかなそうな方々を揃えていますが、個人的には水崎綾女である。今年に入って積極的にグラビア復帰したり、充実した活動ぶりでいらっしゃいます。
2. 例の件 続き
ラーメンつながり、ってわけでもないけど、ちょっと前に、元バイトAKBでラーメン店を経営する梅澤愛優香さんにセクハラ行為をした「フードジャーナリスト」はんつ遠藤の話を書いた。そしたら今度はその梅澤愛優香さんのほうが炎上しているみたい。私は「ひょっとしてはんつ遠藤は、こうなることを見越して、わざと謝罪になっていない長文で相手を挑発したのかな」とも考えた。それで、はんつのブログを読み直してみたんだけど、やっぱりそんな深慮遠謀が潜んでいるようには見えないダメな文章だった。一方、梅澤さんも梅澤さんで、全国から選りすぐりの食材を集めているはずが、近所のスーパーで仕入れていることを指摘されたとたん、原産地の表記を削除した。
ここまで露骨に消すのもすごいですね。慌てたせいで「甘味のあるる塩」なんて誤植もあるし。まあ素材の原産地がどこだろうが、化学調味料を使っていようが、うまいかどうかの問題なので、産地の表記はもともと要らないと思う。最初から書かなかったらいいので、指摘を受けてから無かったことにするのは、一番みっともないやり方だ。
3. 小学生のプレゼン
とはいうものの、世間はそういうものを求めてくるのだろう。ハナさん(泉里香)と弱木(小越勇輝)の企画「五重の塔ドーナツ」も、原産地をばんばん前面に出してくるんだな、これが。
というわけで『高嶺のハナさん』第10話(2021年6月12日、BSテレ東、原作:ムラタコウジ/脚本:岡庭ななみ・内藤亮瑛/照明:丸山和志/撮影:神田創/監督:内藤亮瑛/プロデューサー:瀧川治水・清家優輝)。
ハ ナ「それではCOPの新商品を提案させていただきます」
ハ ナ「五重塔ドーナツです」
ハ ナ「コンセプトは日本の食文化で彩った洋菓子です」
ハ ナ「栃木のいちご、茨城の丹沢栗、富良野のかぼちゃ、京都の宇治抹茶、沖縄の紫芋。日本的な食材を使ってカラフルなドーナツを作り、五段重ねて五重塔を模したフォルムに仕上げます」
ハ ナ「視覚的なインパクトもあり、SNS映えも期待できます」
続いて弱木が訴求ポイントを説明する番だが、なにしろこういうのに慣れていないので、あたふたしてしまう。今日のプレゼンに期待していた社長(しゅはまはるみ)も怪訝な顔。そんな弱木を気づかうハナさん。
ハ ナ(落ち着いて!)
弱 木「……ドーナツは、みんなで食べると楽しいし、おいしくて、人気が出ます」
役員A「なんだね それは?」役員B「小学生じゃないんだから」
社 長「……」
ハ ナ(握り拳)
ハ ナ「そのとおりです」
ハ ナ「彼は小学生のような男です」
ハ ナ「しかし 今回の企画は」
ハ ナ「これは彼のまさに小学生のようなまっすぐな心や」
ハ ナ「純粋さなくしては決して生まれませんでした」
ハ ナ(……持ち直して!弱木くん……)
弱 木「訴求ポイントは お裾分けです」
弱 木「五段のドーナツは、ちぎってお裾分けすることができます」
弱 木「家族や友だち、同僚にお裾分けして、感謝を伝えたり、一緒に食べたり、交流することができます」
弱 木「この五重塔ドーナツのお裾分けは、味だけではなく、思い出を届けるお菓子なんです」
弱 木「クールジャパン・オカシ・プロジェクトに欠かせないものだと、自信を持って提案させていただきます」
社長たち(拍手)
というわけで結果は大成功。高嶺さんのレジェントは続く。嬉しくて思わずハイタッチなんかしてしまう二人。
4. ふさわしい男
だが問題はその後だ。弱木の言っていた大事な話ってなんだろう。ここまでは弱木を男にしてやりたかったハナさんのリードだが、ここから先は弱木がハナさんをリードするターンである。
プレゼン会場の撤収。ブラインドが上がり、明るくなる屋内に走る緊張感。外から覗き込んでいるイチゴ(香音)とチャラ田(猪塚健太)も、ただならぬ様子を察知している。
ハ ナ(うわ~!ハイタッチなんかしちゃって、ちょっと調子に乗りすぎちゃったかなぁ。恥ずかしい~!)
弱 木「あの」
ハ ナ「はい!」
ハ ナ(来たっ)
弱 木「プレゼン、うまくいって良かったです。高嶺さんのおかげです。ありがとうございました」
ハ ナ「こっこちらこそ……弱木くんがいたから……」
弱 木「昨日」
ハ ナ(き……昨日?)
弱 木「高嶺さんから好きだと言ってもらえたこと、本当にビックリしたし、うれしかったです」
弱 木「あれからうちに帰って、布団に入っても、夢か現実か」
弱 木「何が何だか、わからないまんまで、気がついたら朝になってました」
ハ ナ(……私も……)
弱 木「ですが」
ハ ナ(ですが?)
弱 木「僕は高嶺さんとおつきあいすることはできません」
弱 木「だけど」
ハ ナ(だけど!?)
弱 木「僕はちゃんと、高嶺さんにふさわしい男になります」
ハ ナ(どういうこと!?)
莓 (どういうこと!?)
更 田(どういうこと!?)
ハ ナ(つきあえないのに「ふさわしい男になる」って、ちょっとよく分かんないんだけど……)
弱 木「僕が小学生みたいな、発表をしたとき、もし高嶺さんが助けてくれなかったら、僕は小学生のまんまで終わってました」
ハ ナ(どういうこと~)
弱 木「事前に、自分の力でプレゼンを乗り切るように言われたのに」
弱 木「このミツバチ製菓に入って、一人ではまだ何一つ成し遂げていません」
弱 木「だからなりたいんです、高嶺さんみたいに」
弱 木「高嶺さんは、ずっと僕のあこがれでした」
弱 木「だから、高嶺さんにふさわしい男になるまでは、おつきあいなんて、とてもできません」
ドラマのほうは、こんな感じなんだが、ムラタコウジ先生の原作(ニチブンコミックス『高嶺のハナさん』第3巻、日本文芸社、2020年9月)は違う。そもそも原作ではこの場面は二人きりで、会話にはもう少し続きがある。
ドラマでいうと第7話、このCOPを始めるとき、弱木に「でも僕は、かなうならずっと高嶺さんの隣にいたいです」と言われ、ハナは思わず「ずっと隣りにいなさい!」と言ったけど、そのあと屋上で「それって、仕事としてってこと?」と悩んでいた。あの時のやりとりの決着が、原作ではここでつくわけ。実写版は、そこは飛ばして、代わりにイチゴとチャラ田がこっそり二人の様子を見ている。特にイチゴちゃんは、弱木の真っすぐさにある意味打ちのめされて、すごすごと引き上げる。そしてここから先、イチゴちゃんはもっとアクティブに仕事に向きあい、チャラ田もチャラ田なりにハナさんへの恋愛感情に向き合う。前に触れた原作と実写版ドラマの分岐点って、このあたりだからなんですね。
というわけで、次回は「イチゴの決意」再びイチゴちゃんメインの回になる模様です。では。