最近あちこちのまとめサイトで「中国の特撮ヒロインの変身シーン」というタイトルを見かけるので、何かと思って覗いてみると、こんなGIF動画が出てくる。みなさんもちょっと検索すれば見つかると思う。
これは『人造人間キカイダー』第24話「魔性の女?? モモイロアルマジロ」(1972年12月23日放送)の冒頭部分である。「誇り高き女」モモイロアルマジロ人間体を演じているのは司美智子さん。いわゆる肉体派女優っていうか、実相寺昭雄監督の『無常』(1970年ATG)では主役の田村亮と近親相姦の関係になる姉を演じ、藤田敏八監督の『野良猫ロック 暴走集団 ’71』(1971年日活)では原田芳雄や藤竜也や梶芽衣子たちと新宿のフーテンを演じ、渡辺裕介監督『ポルノギャンブル喜劇 大穴中穴へその穴』(1972年東映)では、主人公の山城新伍を惑わす暴力団組長の愛人を演じていた。夜のムード歌謡ふうのレコードも出している。
とにかく、有名なキカイダーの怪人を「中国の特撮ヒロイン」なんて、無知にもほどがある。まあこれは(司美智子さんはどう思われるか知らないが)そんなに害のない間違った情報の拡散だけど、何にせよ、自分で本当かどうか責任をもてない情報を流すのはよくないことです。
と叱って通じたかどうかわからないが、本編にまいりましょう。Act.16、延々と続くシーン20。いまはなき東映公式番組サイトのコメントを見てみよう。
ということで「泊りがけの挑んだ撮影」のどのあたりが一日目の撮影でどのあたりが二日目の撮影か、それは分かりませんが、やっぱりマーズのお説教なんかは、二日目の、かなり感情的に昂った状態で撮ったような気もする(笑)。
セーラームーン、マーキュリー、マーズのエネルギー光線を束ねてもエナジーファームを防護している結界は破れない。セーラームーンは「ちょっと待ってて」とその場を離れる。とりあえず戻ってくるのを待つ二人。
マーズは、しばらく前から何か思い詰めたようなマーキュリーの表情が気掛かりで仕方ない。ロングショットからの鈴村監督得意の口元アップ。
マーズ「大丈夫?」
マーキュリー「……私、優しくなんかない」
マーズ「え?」
マーキュリー「大阪さんを助けたいのは、自分のせいかもしれなくて、怖いからだよ……」マーズ「そんな、亜美ちゃんのせいなわけじゃない」
マーキュリー「私……大阪さんにすごい嫉妬してた」
マーキュリー「うさぎちゃんは私だけの友達じゃないし、大阪さん達とだって一緒にいたいのは当然だって、頭ではわかってるんだけど」
マーキュリー「うさぎちゃんと楽しそうに話しているの見るだけで、大阪さんの事嫌いになりそうで」
マーキュリー「あの時、大阪さんを助けられなかったのは、私の中に、そういう気持ちがあったから……」
マーズ「亜美ちゃん!」マーキュリー「もしかしたら、いなくなればって思ったかも……」
マーキュリー「私、自分がこんな嫌な人間だって知らなかった」
マーキュリー「それなのにうさぎちゃんは私の事優しいって思ってくれて……」
うさぎの声「亜美ちゃんはそんなんじゃないって。ホントに優しすぎるんだよ」
マーキュリー「うさぎちゃんも騙してるんだよ……。最低……」
生まれたときに自分のことが嫌いな赤ん坊はいない。人はいつから自分のことが嫌いになるのか。もう忘れたけど、自己嫌悪は青春の特権ですね。そういう大人の目で見ると、ほほ笑ましいくらいの告白ですが、もちろん思春期の少女には大問題だ。
そのマーキュリーの気持ちを受け止めるのが家族でも先生でもないのはもちろん、クラスメイトで主人公のセーラームーンでさえない、というところが実写版セーラームーンである。
過度の干渉を避けて距離をとってきた者同士だからこそ、マーキュリーはつい、自分の苦しい胸の内をさらけだしてしまい、その告白を聞いたマーズもいつもとは打って変わった熱量で説得する。
マーズ「何よ、そんな事ぐらい、何でもないじゃない」
マーキュリー「え……?」
マーズ「裏表のない人間なんていないわよ。誰だって、いろんな自分がいるわ。私だって……」
マーキュリー「レイちゃんも?」
マーズ「いいじゃない、嫉妬ぐらい。亜美ちゃんは満点を狙いすぎよ」
マーズ「でも、大阪さんを助けられなかったのは、そのせいじゃないわ。亜美ちゃんなら絶対にない。私が保証する」
マーズ「だから自分を嫌いにだけはなっちゃダメ。いいわね?」
マーキュリー「レイちゃん……」
セーラームーン「まこちゃん頑張って、ここだから!」ジュピター「大丈夫。風邪ぐらい平気だよ。最初っから呼んでくれれば良かったんだ」
やはりこの結界を破るには力持ちのまこちゃんのエネルギーが必要ということで、セーラームーンに連れられて、すでに変身し終えた姿でジュピター登場。「最初っから呼んでくれれば良かったんだ」とぼやいているところからして、さっき三人に電話がかかったとき、ジュピターは呼ばれなかったようだ。ちょっと呼び出し場面をもう一度確認しましょうね。
ルナの声「みんな、人を集めてる場所がわかったわ!」
ルナの声「すぐに来て」
この描写からすると、ルナはハンズフリーで(まあそれはそうだ)パソコンかなんかを通じて、三人に対して同時一斉通話で連絡をしている。でもそのとき、まことが体調を崩していることを想い出して、少し休ませておこうと思って、まこちゃんにだけは連絡しなかったわけだねきっと。ルナの思いやり。
でも現場で結界にアタックして、やっぱりまことの力が必要なことが分かった。だったらその場でまことに電話することもできたはずだ。実際、Act.5の戦闘シーンでは、ピンチに陥ったマーキュリーが変身携帯テレティアSを取り出して、うさぎにSOSしようとする場面が出てきた。
もっともこのときマーキュリーはうさぎと気まずい関係で、結局のところ電話をかけることができなかった。でも今回は別にそういう気兼ねもなく、電話で呼び出せるはずだ。なのにセーラームーンはテレティアを使わず、まことの自宅まで呼びにいった(推定)。それはなぜか。考えつくのは、確かにまことの力は必要だけれど、かといって風邪で寝込んでいるのなら、それを起こして連れてくることも良くない。だから電話一本で呼びつけず、わざわざ本人の様子を見に行ったのだ。まことの家は2ヶ月もしない前、Act.10で訪問してるから、行き方もまだよく憶えていたしね。
それで本人に直接会って、まあこれなら一緒に戦ってもらっても良いかな、と思ったので協力を依頼した。だいたいそんなところだろう。セーラームーンらしい優しさである。
セーラームーン「ごめんね」
マーズ「うさぎの理想なんか裏切っちゃえばいいのよ」
セーラームーン「え? なに?」
マーキュリー「ううん」
ト書きには「マーキュリーにも、やっと小さな笑みが浮かぶ」と書いてある。この場面も良いですね。マーズは、セーラームーンの前でわざと「うさぎの理想なんか裏切っちゃえばいいのよ」と言うのだ。
元々はうさぎが勝手に亜美を理想化し「亜美ちゃんってホント優しいんだよ、なるちゃんたちのこと、心配してくれて」「亜美ちゃんってスゴイね。あんなケンカした後なのに、こんなに一生懸命でさ」と手放しで誉めるから、亜美は逆に激しい自己嫌悪に追いつめられてしまったので、そういう意味ではうさぎがいちばん悪い。だから少しうさぎも懲らしめなくてはいけない。もちろん、うさぎはぜんぜん悪気がなくて、素直に自分の気持ちを口にしているだけだし、そういううさぎに、亜美もレイも救われている。純粋すぎるから人を救うし、傷つけもするのだ、もう少しそういうところに自覚をもってよ。でも持ってないところが、やっぱりうさぎなんだなぁ。というふうに気持ちが往ったり来たりするところで、マーズは「うさぎの理想なんか裏切っちゃえばいいのよ」とやや当てつけっぽく言い、マーキュリーに小さな笑みが浮かび、セーラームーンは「え? なに?」となって、ジュピターは多分なにも考えていない。この時点での四人の人間関係が凝縮された、良い場面です。
そのときマーズが、結界の表面にわずかなヒビ割れを見つける。結界ってエネルギーをぶつけられるとヒビが入るような物理的実体だったのである。
マーズ「見て。少しヒビが入ってるわ」
セーラームーン「ホントだ! じゃあとどめの一発!」
マーズ「いち」
ジュピター「に」
マーキュリー「さん」
(ガラスの砕け散る音)
セーラームーン「やった!」
マーズ「やったわね」マーキュリー「うん!」
ついに結界が破れる。台本にはセーラームーンの「やった!」というセリフがあるだけだ。マーズとマーキュリーが向き合って「やったわね」「うん」とやりとりするくだりは鈴村監督のアイデアかな。
ともかく、障壁はなくなった。戦士たちはエナジー・ファームの中に駆け込むが、その時、結界の内にいた人々は突如エナジーをまとめて奪われ、次々に倒れる。そのなかにはもちろん、なるもいた。
セーラームーン「なるちゃん!」
マーキュリー「妖魔を探さなきゃ!」
>セーラームーン「うん」
ここは撮影台本とちょっと変えてある。台本ではマーキュリーの「妖魔を探さなきゃ!」というセリフの直後にマーズが「待って! 来るわ!」と鋭く警告し、排気口のダクトを突き破って妖魔が急襲、という展開になる。つまり台本では、妖魔との戦いも引き続きこの場所で引き続き行われる。「シーン20:エナジーファーム・エントランス内」はまだ終わらないのだ。でも完成作品はここでひと区切り。さらに建物の奥に、妖魔を捜しに進んでいくところでBパート終了、CM開けはエナジーファームのもうちょっと奥、地下倉庫みたいなところにシーンを移しての対決となる。
しかしこれを観た小林靖子は、鈴村監督に次なる試練を与えることを決意する(推定)。それがAct.36で、またしても後半1/3ほどが「大草原」というワンシーンで展開する、戦士、ベリル、四天王勢ぞろいでナパームあり、Pムーンありの大イベントで、この時はさすがの鈴村監督も逃げ場がなくって、CMを挟み、BパートからCパートにまたがってラストまでシーンを割らずに乗りきっている。
というあたりで本日はおひらき。最後のオマケは2月1日に始まったばかりの土曜ナイトドラマ『アリバイ崩し 承ります』(テレビ朝日)より、なぜかお風呂場でコロッケを食べる浜辺美波さんのサービスショット。お口からソースがこぼれています。
どうも浜辺さんはこれから毎回、お風呂で何かを食べるようだ。この作品、原作をとても上手にドラマ仕様にアレンジできていて、私はたいへん楽しめました。今シーズンの心のオアシスですね。では。