1. マーズ、あの子が逝ってしまった
七木奏音(ななき・かのん)は私立恵比寿中学(エビ中)の初代メンバーで、かつ結成半年くらいで最初に脱退した「幻の出席番号1番」である。そんな彼女と入れ替わるようにエビ中に入ったのが、出席番号9番の松野莉奈(まつの・りな)で、だからエビ中メンバーとしては、活動時期が互いにちょっとズレるのだが、同じスターダスト芸能3部所属の少女タレントのなかで、二人は大の仲良しだった。
2013年にセーラームーンミュージカルが復活し、奏音がセーラーマーズ/火野レイ役に抜擢されたとき、もちろん松野は舞台に駆けつけている。そしてその年の暮れのエビ中クリスマスライブには、奏音が松野に会いに来ている。
昨年2016年の夏、田尾下哲によってミュージカル版『ダンガンロンパ』が再演されて(この舞台は愛知県の東海市にも来てくれた)奏音が腐川冬子を演じたときは、松野莉奈はミュージカル版セーラームーンの大久保聡美と一緒に観劇したらしくて、奏音のブログには、エビ中のりななんとセーラーマーズとセーラームーンという、ちょっと珍しいスリーショットが披露されていた。
セーラームーン的にそういうご縁のある方なので、ってこともあるけど、何より私がエビ中のファンなので、どうしても追悼したくて書いてみた。それにしても、本当に永遠の中学生になってしまったのだなあ。歌もダンスも身長も伸びざかりだったのに。
神戸みゆきが2008年に24歳で急逝したときにも「早すぎる」と思ったけれど、18歳なんて、ほんの子どもではないか。どうしようもない。
2. 『嫌われる勇気』第4話
さて本日のお題は、小松彩夏と泉里香がそれぞれ出演したフジテレビのドラマ二本。
まずは『嫌われる勇気』第4話「一族全員容疑者! 承認欲求を否定せよ」(2017年2月2日フジテレビ、脚本:ひかわかよ/撮影:小林元/演出:及川拓郎)の小松彩夏だ。こまっちゃん、ひさしぶりだな。
このドラマは篠原涼子の『アンフェア』や北川景子の『LADY 〜最後の殺人プロファイル〜』なんかと同様、美人で性格きつめの女捜査官が難事件を解決する刑事もので、香里奈が協調性のないワンマン美人刑事を演じている。タイトルはアドラーの個人心理学を下敷きにした自己啓発書から採られていて(岸見一郎・古賀史健『嫌われる勇気』2013年)、版元は『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカー(以下略)』のダイヤモンド社。ドラマの主人公、女刑事の蘭子(香里奈)は、この本に基づいて、アドラー的に理想のパーソナリティとして設定されている。そんな彼女が、自己形成中というか人格完成の発展途上にある若手刑事の青山(加藤シゲアキ)と共に、犯罪事件を解決しながら、その背後にある犯人のコンプレックスを指摘する、みたいな流れが毎回のフォーマットらしい。この一話しか観ていないので間違ってたらすみません。
第4話で蘭子が手がける事件は、政治家、狸穴勝利(山田明郷)の不審死。保守党の大臣まで務めた大物で、普通だったら大々的な葬儀をやるところだが、なぜか身内だけで手早く密葬を済ませて、出棺しようとする場面から始まる。
遺影をもつ娘(前田亜季)。背後には家政婦の吉川(小松彩夏)の姿も見える。
勝俊は書斎で発作を起こして倒れていたが、経緯については不明な点が少なくない。担当医は検死を勧めたが、にもかかわらず、家族はとにかく遺体を早く火葬にしたがっている。そこに不審を感じた蘭子は、いつもどおり上司の許可もとらず、出棺しようとした霊柩車の前に立ちふさがり、遺族の許可もなく遺体を解剖へと回してしまう。いいのか?
蘭 子「葬儀は中止です」
治 子「ちょっと、危ないじゃないですか」蘭 子「嘘泣きも中止で結構です」
青 山「すいません!警察です」
青 山「庵堂さん、何やってるんですか?」武 藤「警察?」
蘭 子「狸穴勝利さんの死に不審な点がありますので調べさせていただきます」治 子「何なんですか」
蘭 子「狸穴勝利さんが殺されたとすればあなた方も容疑者です」治 子「主人は病気で死んだんです」寿 也「そうですよ」
治 子「何を言うんですか」蘭 子「誰かが嘘をついています」治 子「はあ?」青 山「あの、病気だって言うなら詳しく調べ……」治 子「狸穴がどれだけ国民のために……」
青 山「ちょっちょっちょっ、庵堂さん、えっ?」
蘭 子「この人とその棺、帝都大学までお願いします」
う〜ん。どうも突っ込みポイントが多い。
(1)家族の意向とはいえ、けっこうな大物政治家らしいのに、関係者抜きでそんなにさっさと密葬できるのか?
(2)担当医は、死亡状況に不審な点があると警察にたれこんでいる。でもこの人、本人のセリフによれば、親の代からこの家のかかりつけのお医者だったそうである。ふつうは遺族の意向に従ってひっそりと病死で処理するんじゃないか?
(3)それを受けてまず香里奈が独断で動き出すのはいいとして、すぐに捜査一課全体が、確たる証拠もなしに他殺の線で捜査を開始するのはどうか? 普通の人ならともかく、相手は警察に圧力をかけることもできる大物政治家の家系なのである。
(4)北川景子の『ヒポクラテスの誓い』にも出てきた通り、不審死の遺体の検死って、遺族の了承とか経費の問題とか難しくて、そう簡単に実行できるもんじゃない。しかし香里奈は未亡人の反対を押し切って遺体を大学病院へ回してしまう。これはありなのか?
いくら「これはフィクションの世界ですから」「小松彩夏の家政婦姿が見られるからまあいいじゃないですか」と言われても(言われてないけど)もうちょっと台本を練って欲しいと思う。
ともかく、蘭子(香里奈)は『ドクターX』の米倉涼子や『家売るオンナ』の北川景子と同様、信念をもってグイグイ行くタイプの強いヒロインなので、周囲が何と言おうと捜査を進める。家政婦の小松彩夏が気弱なのにつけ込んで(推定)、相棒の青山(加藤シゲアキ)を連れ、治子未亡人(朝加真由美)の許可もなく狸穴家に上がり込んで一家のアルバムとかを見ている。家政婦の吉川(小松彩夏)は、二人にお茶まで出したりして。
青 山「ありがとうございます」
蘭 子「すみません、このアルバムお借りしてもよろしいですか?」有 美「私はちょっと」
治 子「なぜ勝手にお通ししたの?」有 美「すみません」青 山「僕らが吉川さんに無理を言って」
治 子「あなたたちの首を飛ばすぐらい簡単なことなのよ」
治 子「いただきます」治 子「いったいどういうお育ちなのかしら。きっと、まともなしつけもされなかったのね」
蘭 子「こちらの湯飲みはどちらの作家の物ですか?」治 子「息子が遊びで作ったものですよ」
蘭 子「なるほど。寿也さんは今、工房に?」治 子「えっ? そんなの知りません」
蘭 子「嘘ですね」
治 子「はあ?」蘭 子「私は嘘が大嫌いです」
青 山「あっちょっ……すいません。失礼します」
治 子「いいかげんになさいよ!」
いきなり「嘘ですね」なんて、これだけ相手の神経を逆なでにしちゃったら、協力的な態度は得られないだろうし、そうなると捜査も難航するよね。この人、刑事として大丈夫なのか?
香里奈には悪いが、私はこのへんで物語の筋を真面目に追うことをあきらめて、もう小松彩夏だけに集中することにした。しかしこのシーンには小松彩夏のアップがない。もうずっと背景の一部みたいな扱いなのかな、と思ったら、わざわざ捜査一課まで来てくれた。
三 宅「あの……」
青 山「吉川さん」
有 美「すみません、わたし、嘘をついていました」
╳ ╳ ╳
有 美「あの日の午後六時過ぎくらいに、二階から言い争うような声が聞こえて」
浦 部「それ誰の声でした?」
小宮山「心配しないで本当のことを話してください。あなたから聞いたとは決して誰にも言いません」
有 美「旦那さまと……」
╳ ╳ ╳
寿 也「僕は陶芸家として生きていきたいんです」
寿 也「お願いします!お父さん」
寿 也「お願いします!」
╳ ╳ ╳
有 美「寿也さんです」
浦 部「やっぱり」
有 美「でも寿也さんはホントに善い方なんです。きっと何か事情が……」青 山「分かりますよ、大丈夫」
小宮山「係長!」半 田「うん」
蘭 子「もう一つ、お聞きしたいことがあります」
捜査一課の浦部刑事(丸山智己)と小宮山刑事(戸次重幸)は、親子ゲンカが昂じて殺害に及んだと即断し、長男・寿也(水橋研二)の身柄確保に走る。課長の半田(升毅)もこれに同意する。あっ、小松彩夏の前に三人ならんだ刑事のうち、右手前の人、レイパパの升毅ですから。
一方、蘭子(香里奈)は、ちょっと違うことを考えているみたいで、家政婦の吉川(小松彩夏)にさらに何か質問を投げかけようとする。
というところでこのシーン終わり。しかし、求められもしないのに警察に出頭して、ご主人様一家のプライバシーを自分からペラペラしゃべる家政婦って、ちょっとイヤだし、普通ありえないよね。何か別に動機があるならまだしも。
私も、これはたとえば小松彩夏の家政婦と水橋研二の長男がひそかな恋仲で、愛しい寿也さんを守ろうと思って出頭した小松彩夏の愛情がアダになった、みたいな展開かと思ったんだけど、そういうわけでもない。だから小松彩夏は主人の守秘義務も守れない、ただの頭の弱いメイドである。
で、小松彩夏の出番も以上で終了なので、レビューも終わり。物語を最後まで紹介することはしません。すみません。結局、家族というか親子の確執が原因であることには違いなくて、子どもが親からの(あるいは家庭からの)精神的自立の仕方を間違ったがゆえに起こった悲劇という感じで終わる。私はアドラーのパーソナリティ論をそんなにちゃんと学んだわけでもないのだが、それがアドラー心理学の解説として適切かというと、さらに首をかしげざるをえない。
小松彩夏が何かと世話になっている香里奈姐さんのひさびさの主演で、応援したいのはやまやまなんだけど、正直ちょっと困っちゃったドラマでありました。
あともうひとつ。このドラマの制作は東映で、撮影は「小林元」とクレジットされている。実写版セーラームーンの撮影も担当されたあの小林元カメラマンだと思う。エピソードでいうと、このドラマのレギュラーでもあるレイパパ升毅が登場するAct.33とAct.34、ライブ中に美奈子が倒れて入院するAct.35とAct.36、そしてセーラーV誕生篇のオリジナルビデオ「Act.ZERO」もこの人がカメラマンだ。なので、今回のお仕事に感謝しつつ敢えて苦言を呈しておきたい。本人のコンディションが悪かったかも知れないが、もうすこし小松彩夏を魅力的に撮ってください。物語のバランスを崩して小松彩夏が輝いちゃってもいいから、アラサーになってもきれいな小松彩夏の魅力を引き出して。実写版セーラームーンやってたんだから、できるでしょう。以上。
3. 『大貧乏』第5話
続いては『大貧乏』第5話「嘘の婚約話で嫁姑争い勃発? 250億奪還は敵仲間入りで新展開」(2017年2月5日フジテレビ、脚本:安達奈緒子/撮影:大石弘宜・篠田忠史/監督:土方政人)。
こっちのドラマは、前回書いたように「会社が倒産して職を失ったバツイチ子持ちの肝っ玉母さん奮闘記」「エリート弁護士だけど本命からは振り向かれない純情片思い恋物語」「倒産した会社の資産隠しを暴く社会派サスペンス」という三つの要素がごった煮状態なんだが、今回はホームドラマとラブコメ的なパートは前半30分くらいで終了で後半は企業サスペンス、というふうに、ちょっと分離現象が起きていたように感じる。
ホームドラマ部分の今回の趣向は、群馬の田舎からどっさりネギを抱えてやってきた柿原弁護士(伊藤淳史)の母親(山本道子)。柿原弁護士が七草ゆず子(小雪)や加瀬春木(成田凌)たちと戦略会議をしているブリーフィング・ルームにいきなり乱入だ。
柿 原「もう母ちゃん、ちょっと向こう行っててって、もう」正 美「はいはい。ごめんごめんごめんごめん」
正 美「あっすいませんねえ。わたし今日ね、嬉しくって嬉しくって」
正 美「ついにこの子が結婚するって言うんです」
柿 原「う〜母ちゃん!」
ゆず子「えっ、結婚?」
╳ ╳ ╳
柿 原「七草さん……結婚とか違うんだ。嘘なんだ」
ゆず子「よかったじゃない」
柿 原「あっ、いやちょっ……違うんだよ」
柿 原「あの…40までに結婚するって前から約束してて、あと1年だ何だって最近うるさくて」
柿 原「で仕方なく、婚約した人がいるんだって……」
ゆず子「えっ嘘ついたの? そうなんだ」
柿 原「で、あの……」
柿 原「お願いします! 婚約者の役、やってください!」
ゆず子「はい?」
ここまでがアバン。で、タイトルが出ます。このドラマ、タイトルの画像は毎回違うんだね。第5話
上京した母親のために婚約者がいるフリをする息子(もしくは娘)というパターン、要するにキャプラの『一日だけの淑女』(『ポケット一杯の幸福』)の親子逆パターンの物語が、いつから日本のドラマのルーティンとして一般化したのかはよく知らない。特撮ものでも定着しており、近いところではこのあいだの『ウルトラマンオーブ』で、松浦雅が田中美奈子相手にやっていた(第11話「大変!! ママが来た」2016年9月17日)。
さて後日、柿原はゆず子に、ニセの婚約者を演じて欲しいと改めて依頼する。
柿 原「この間の話なんだけど、あした母に会ってもらえない?」
ゆず子「えっ?」
柿 原「いや……会わせるって言っちゃったんだ。あの、ホントその場だけでいいから。あ……2時間、あっいやいや1時間でいいから」
ゆず子「柿原君それ無理だよ」
で、翌日、仕事のお昼休み。あいかわらずなついているレイコ(泉里香)と話しているうち、ゆず子は成り行きで婚約役をレイコ(泉里香)に振ってしまう。
前回、私は合コンの時に亜香里(沢井美優)をお持ち帰りした元DOH社員の加瀬春木(成田凌)が、結局レイコも「マシュマロみたい」に食っちゃった、と書いたけど、あれは勘違いだったらしい。泉里香のセリフを信じるならば、ドラマ内で里香の貞操はきちんと守られたようだ。
レイコ「加瀬さんから、ゆず子さんと柿原さんは高校の同級生で、ホントに何でもないって聞いて」
ゆず子(春木くん、案外いい人なのね)
レイコ「柿原さんフリーだし、全然可能性あるからガンガン行けって」
ゆず子(若干おもしろがってるな)
レイコ「私あきらめないで頑張ります」
レイコ「あ〜柿原さんみたいな人と結婚できたら幸せだろうな〜」
ゆず子「結婚?」
ゆず子「あっねえレイコちゃん、本気で柿原君と結婚したい?」
レイコ「えっ?はい!」
ゆず子(あっいや駄目だな、人の結婚とか、そんな軽々しく……)
ゆず子「ごめん。忘れて。レイコちゃんが傷つくようなことになるかも知れないし」
レイコ「えっ何ですか何ですか?」
レイコ「大丈夫です私。こう見えて意外とずぶといですから」
ゆず子「うっ……うん(そうだね)」
というわけで、レイコにぐいぐい迫られた結果、ゆず子は柿原の婚約者役をふる。翌日二人はさっそく母親と御食事。