実写版『美少女戦士セーラームーン』ファンブログ


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【第590回】北川景子『ヒポクラテスの誓い』第5話の巻(上)


 前回のお話に対して、コメント欄で「副作用に気づいた時点で対処すれば良かったのに」(Nakoさん)「その程度の副作用は試験段階で分かりそうなものなのに」(こっちよ!さん)といった御指摘があった。まあ確かにそうだ。このへんは、脚色がアダとなった部分である。
 原作では薬品の名前はセフトリアキソン。カルシウムを含む薬品と併用しないよう、発売当初より製薬会社およびアメリカ医薬品局から警告されていた。ところが津久場教授はその情報を見落として、数名の患者に誤投与していた。後に中国の病院で、韓国公使がまさにこの医療ミスのために急死してニュースになり、それを見て津久場教授は初めて自身の犯した深刻な過ちに気づく。だが投与した数名の患者たちはすでに退院していた。医療ミスが発覚すれば自分が責められるだけでなく、病院の信頼にも多大な影響が及ぶ。そう考えた津久場は、ことを闇に葬ることにしてしまう。ところが一人目の犠牲者がよりによって光崎教授の司法解剖を受ける巡り合わせになってしまい、光崎は天才的な直感で永年の盟友の誤診に気づく。
 これだったらドラマのような疑問は一切生じませんね。でもそれだと津久場教授が(「病院のため」とか言い訳はするが)自己保身に走るだけの悪党になってしまう。



 で、これも前回コメント欄でM14さんがおっしゃっていたが、ドラマ版のそもそもの発想としては、たぶん古谷一行の人物像にもっと重みをつけたかったんだろう。そのためカルシウムとの併用が危険なことはつい最近、中国大使館の事件で発覚したことになっている。その時点ですぐに使用中止にすれば良かったのだが、しばらくのあいだ見逃していて、しかも比較的ポピュラーな薬だったので、気づくまでの間に300名ほどの患者に誤投与してしまっていた。そういう設定だ。
 でも確かに、ごく最近発覚した事例だとすれば、多少対応が遅れて謝罪が必要だったとしても、対策を打った方が適切だったと思うし、そもそもそんな重要な副作用がごく最近まで判明していなかったとすれば、それは製薬会社の責任だよなぁ。
 という意味では、ドラマ版のプロットにはやや疵があることになるが、でもまあ、ここから先は原作を離れて大いに盛り上がるので、そのへんは目をつぶって、ハラハラドキドキの最終話を楽しみたい。

1. 真相



 腹膜炎を再発して再入院していた少女、倉本紗雪(内田未来)の容態が急変した。しかし真琴は、これは本当に腹膜炎だろうかという疑問を感じる。以前だったら津久場教授の見立てを疑うなどあり得なかったが、法医学教室の光崎教授のもとで学んでいるうちに、何ごとも先入観に惑わされず批判的に見る目が養われていたのである。
 だが津久場教授は真琴の進言など気づかなかったかのように対処を進める。その姿を見ているうちに、真琴の疑惑は次第に、津久場教授に対する決定的な不審感へと変わっていった。



津久場「鎮痛剤、1アンプル追加」
看護師「はい!」



真 琴「肋弓下に肝腫大が認められます。これは腹膜炎ではなく、血栓による……」
津久場「DoA、用意して」
看護師「はい!」



看護師「血圧、60切りました!」



津久場「DoA、10γ上げて!」
看護師「はい!」



真 琴「……セチルミン……」








津久場「アンビュー! 挿管準備……」



╳    ╳    ╳





 それまで何かあれば津久場教授に相談していた真琴は、激しく動揺しながら法医学教室に戻る。今ではもう、内科よりはこっちの方がホームグラウンドだ。
 このレビューをずっとご覧くださっている方はお気付きと思うが、内科の病棟は最新の機器をそなえ、隅々まで明るく照らされている。でもそれは虚飾の明るさだ。一方、法医学教室は建物も設備も古く、常に画面はうす暗い。でも手術道具はどんな時にもそなえてピカピカに磨かれており、光崎教授の手もとを照らすデスクライトはいつも闇の中の真実を明るみに引きずり出す。



真 琴「腹膜炎で入院していた患者です」



真 琴「急性の胃腸炎で腹膜炎を併発し、再入院後、容態が急変しました。症状は腹痛と嘔吐、それから……」
樫 山「栂野さん落ち着いて」
光 崎「患者の名前は」
真 琴「倉本紗雪です。現在は腹水と嘔吐に加えて、急速な肝腫大の症状が見られます。この症状は腹膜炎の悪化でしょうか?」



光 崎「君はどう思うんだ?」



真 琴「腹膜炎ではなく、体内に出来た血栓によって肝不全を起こしている疑いがあります。バッド・キアリ症候群です」



光 崎「おれも同意見だ」
真 琴「でもそれじゃあ、津久場教授が紗雪ちゃんにセチルミンを誤投与していたということになります」
光 崎「その可能性は高いだろうな」






真 琴「すでに疑っていらしたんですか? 津久場教授を」



真 琴「何で言ってくださらなかったんですか?」



光 崎「他人の師弟関係に水を差す趣味はないからな」



真 琴「津久場教授に直接聞いてきます。何か間違いがあったのかも知れない」



樫 山「気持ちは分かるけど……」
真 琴「津久場教授がそんなことをするわけないんです!」



(部屋の電話が鳴る)



樫 山「法医学教室です」



樫 山「埼玉県警から、梶原先生の司法解剖をお願いしたいそうです」



光 崎「……分かった……」


 梶原医師の動揺ぶりを知っている埼玉県警捜査一課の古手川(尾上松也)は、梶原が口封じのために謀殺された可能性も視野に入れ、光崎に司法解剖を依頼する一方、岡村刑事(橋爪遼)を連れて医学部長の坂元(金田明夫)と津久場を訪問する。



坂 元「梶原君の自殺に心当たりはないか、お聞きしたいそうです」



古手川「まだ自殺と断定したわけではないんですが、ただ最近、何か悩まれていた様子でもありましたか?」



津久場「実は、梶原君が担当していた患者さんが三人、立て続けに亡くなりましてね。いえ、亡くなったのは完治して退院した後ですので、梶原君の責任ではありません。しかし医者としてはやはり、忸怩たる思いが残るものでして……」



古手川「責任がなかったというのは確かなんですか?」



津久場「不幸な偶然です」
坂 元「気の毒に、独りで悩まれていたんですよ。こんな事態になるまで気づかなかった責任を深く感じております」



╳    ╳    ╳




樫 山「ご遺体、入ります」





 冷静な光崎だが、自分の大学の期待されていた若手医師、しかも自殺死体となると、その瞳には苦悶の色が滲み出ている。


2. 決別



 一方、内科の教授室前では、古手川刑事の事情聴取を終えた津久場を真琴が待っていた。



 ここは最終回の前半のヤマ場だ。





真 琴「お聞きしたいことがあります」
津久場「まあ入りなさい」



真 琴「教授……」
津久場「僕が倉本紗雪にセチルミンを誤投与した、そう疑っているんだろう。さっき病室で気づいたが、一刻を争っていたんでそのままにしてしまった」



津久場「悪かったね……うん、入りなさい」


╳    ╳    ╳



真 琴「紗雪ちゃんの体内には血栓ができているんじゃないですか? 肋弓下の肝腫大、嘔吐、腹痛、腹水……これは腹膜炎ではなく、急性のバッド・キアリ症候群の症状です」



真 琴「大至急、外科手術をしないと生命の危険があります」



津久場「手術の必要はないよ。彼女は腹膜炎だ」
真 琴「でも……」



津久場「確かに肝腫大の症状は出ている。だがそれは腹膜炎の悪化によって敗血症を発症し、結果、バッド・キアリと同じく肝不全を起こしているからだ。血栓が原因ではない」



真 琴「警察には話したんですか? 梶原先生のセチルミンの件」
津久場「まだ証拠もないのに話すわけにはいかないよ。いたずらに彼の名誉を傷つけることになる」
真 琴「でも梶原先生は、自分に責任を感じて自殺されたんじゃないですか」



津久場「それは上司としての僕が調べるべきことだ。気持ちは分かるが、この件はもう少し預けてくれ。何か手を考える」



津久場「どうした?」
真 琴「私が法医学教室に行ってから、何か相談するたびにそう言って下さいましたね。僕に預けて、任せてくれ、って」



真 琴「余計なことを考えるな、首を突っ込むな……あれはそういう意味だったのですか?」



津久場「どうしたんだ栂野君」



真 琴「梶原先生がしたこと、最初から知っていたんですか?」
津久場「……」



真 琴「津久場教授も紗雪ちゃんにセチルミンを誤投与したんですか?」




真 琴「“能力と判断の及ぶ限り、患者の利益となる治療法を選択し、害と知る治療法を決して選択しない。この誓いを守り続ける限り、私は人生と医術とを享受できる”」



真 琴「“しかし万が一この誓いを破るとき、私はその反対の運命を賜るだろう”」




津久場「倉本紗雪は」




津久場「腹膜炎だ」






 最後まで津久場教授を信じたかった真琴だが、ここでついに袂を分かつ。恩師の認めない医療ミスを自分が暴かなければならない。それも紗雪の生命を救うために、一刻も早く。

3. 告発


 とはいえ、相手は大病院の内科教授、こちらはその下で働く一介の研修医である。手も足も出そうにない。途方にくれた真琴は、とりあえず古手川刑事に相談してみる。



真 琴「手術を拒むのは、すれば体内に血栓のあることが分かってしまうからだと思います」
古手川「とにかく証拠を集めるしかないな」



真 琴「でも相手が津久場教授じゃあ……どうやって……」



古手川「“能力と判断の及ぶ限り、患者の利益となる治療法を選択し、害と知る治療法を決して選択しない”」



古手川「あんたの好きなヒポクラテスだ。おれも憶えたよ」



古手川「しっかりしろよ。その子の生命、助けられるのあんただけだろ」


 こうなったら当たって砕けろである。少なくとも、自分がどうなるかなんてことを考えている場合じゃない。
 一方、法医学教室では、梶原の司法解剖が終了する。なんとか捜査令状を得る口実を見つけて真琴をサポートしたい古手川刑事だが、こっちの結果は当然、空振りに終わる。



古手川「どうでした」



光 崎「死因は脳挫傷だ」
古手川「誰かに薬物を飲まされていたってことは?」
光 崎「……」



古手川「死ぬ必要はなかったのに……」



光 崎「生命ってのは、強いんだ。医学的にはそう簡単に死なない」



光 崎「だが人間は社会的理由で自ら死を選んでしまう」



光 崎「どんなにデータを集めても、心の死だけは防げない」


 真琴は、紗雪が腹膜炎ではない証拠を得るために、津久場教授が母親と病室を出たわずかな隙をついて紗雪の病室へ忍び込み、すばやく超音波検査装置で検診。それから採血だ。



紗雪の母「どうして急にこんな」



津久場「紗雪ちゃんは腹膜炎から全身に菌が回ってしまっていて、非常に危険な状態です」
紗雪の母「そんな……助けてください。お願いします」












真 琴「絶対助けるからね!」



看護師「栂野先生、どうされました?」
真 琴「津久場教授に血液検査を頼まれていて、急ぐからって」



看護師「私やりましょうか」
真 琴「大丈夫」






真 琴「じゃあ検査に出してくるから」



看護師「はい」






真 琴「!」



津久場「君?」


ピンチ! だがちょうどそのとき、奥から「津久場先生」と看護師の呼ぶ声が。紗雪ちゃんに何かしら変化があったらしい。津久場はすぐに紗雪のベッドに急ぎ、母親も慌てて後を追う。ほっと胸をなでおろし、そそくさと部屋の外に出る。



真 琴「……失礼します……」


 間一髪で紗雪の病室を抜け出した真琴は外科に飛んでいく。ドップラー検査と血液検査の結果を若手医師たちに見せ、一気に手術へ持ち込もうという算段である。強引な検死解剖も辞さなかった光崎の下で学んでいるうちに、こんな行動的なやり方も身についた。

 



真 琴「どう思われますか?腹膜炎の患者なんですよ」



医 師「腹膜炎? いや違うでしょ。なあ、これだけで見ただけでも、典型的なバッド・キアリだ。ていうかこれ、かなり進行している、誰の患者?」
真 琴「すぐに廻しますのでオペをよろしくお願いします」


╳    ╳    ╳



真 琴「これって……」



津久場「ああ、プラスミノゲン・アクチベーター。血管内皮細胞から分泌される成分で血栓のフィブリンを飛ばすんだ。言わば血栓溶解剤だ」


 紗雪の血液から血栓溶解剤が見つかった。やはり津久場は、彼女の体内に血栓があることを知っていて、溶かすための薬をひそかに射っていたのである。





 これだけ証拠があれば上も動く、かに思われた。

4. 隠蔽


 しかし、そこで真琴が行った先は医学部長の坂元教授だったのである。まあ当然そういうことになるだろうけど、これはマズイですよね。



坂 元「血栓溶解剤?」



真 琴「体内で生成されるには高すぎる数値で、外部から注入された可能性が高いそうです。血栓を溶かすために……津久場教授が投与したんだと思います。津久場教授は患者の体内に血栓ができていることを知っているんです」



坂 元「(溜息)驚きましたね、まさか津久場教授がね……」



真 琴「ドップラー検査と血液検査の結果から見て、かなり進行した急性のバッド・キアリ症候群です。一刻も早く手術をしないと、今日中にでも患者は死にます」



真 琴「津久場教授を尊敬しています。こんなかたちも本意ではありません。ただ、患者を死なせたくないんです。大至急手術に回せるようによろしくお願いします!」

坂 元「確かに……」



坂 元「……患者の生命が最優先です。津久場教授には私から話をしましょう」



真 琴「ありがとうございます!」



坂 元「よく知らせてくれましたね」


ところが、こうやって坂元医学部長に事実をありのままに打ち明けたとたん、さっきは協力的だった若手の医師たちが、掌を返したように態度を変えてしまった。


真 琴「どういうことですか? さっきは、この血栓溶解剤は外部から注入されたって言っていましたよね?」
医 師「いやその可能性が高いって言ったんだよ。……詳細な分析の結果、患者の体内から生成されたものだと確定したってこと」



╳    ╳    ╳



真 琴「あの、さっきの患者の件なんですが」



医 師「悪いけどオペがある」


 院内の端末から情報収集しようとしても真琴のアカウントはすでに削除されていて、もはやデータベースへのアクセスすらできない。





 さらに、警察では古手川にまで上司の渡瀬(稲健二)から捜査中止の命令が届く。



古手川「戻って来いってなんなんですか? 改竄されたカルテの記録が残ってるんですよ。ガサ入れの令状が取れれば……」



渡 瀬「捜査終了だ。もうその病院には手を出すな」



古手川「ふざけないで下さい!」


 いったいどうなっているのか。再び医学部長を訪ねた真琴は、信じられない言葉を耳にする。



坂 元「私の方でよく調べたんですけれど、あなたの言うような事実は見つかりませんでした」



真 琴「嘘です。病院ぐるみで無かったことに!」



坂 元「ああ、それから、これは以前から内定していたんですが、光崎教授は今月末をもって系列の大学へ異動となります」



坂 元「それに伴いまして、あなたの法医学教室の研修も終了となりますが、実は提携している九州の総合病院から、あなたにぜに来て欲しいと打診がありまして」



坂 元「あなたは優秀だ。広い世界で研鑽を積んで、より素晴らしい医者になってください。期待してますよ」


 みんな崖っぷちだ。そしてそんな苦境にはお構いなしに、紗雪ちゃんの生命はじりじり燃え尽きようとしている。一分一秒でも早い外科手術が必要だが、外科にも内科にも協力者は一人もいない。この困難に真琴はどう立ち向かっていくのか。
 原作のヒロインは、なにしろエピソードの始めの方で紗雪ちゃんが亡くなってしまうので、あとは遺体を光崎教授の司法解剖に回すしか行動しようもないんだけど、このドラマでは、紗雪ちゃんの生命を守りたい一心で、北川景子はもう死にものぐるいで行動していく。その姿につい引きずり込まれて魅入ってしまいます。続く。