実写版『美少女戦士セーラームーン』ファンブログ


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【第589回】北川景子『ヒポクラテスの誓い』第4話の巻



 WOWOWドラマ『ヒポクラテスの誓い』もいよいよ佳境である。原作は全5話からなる連作短編で、ドラマも全5回だが、ドラマ版は原作の第1話をパスして、原作第2話がドラマ第1話、原作第3話がドラマ第2話、原作第4話がドラマ第3話に対応している。ここまでは、わりと忠実な原作の映像化作品であった。そしてここからが怒濤のオリジナル展開になる。原作の最終話を大胆に脚色した第4話・第5話(前後編形式)でございます。

1. 医療ミス


 ここしばらくの間に光崎教授(柴田恭兵)が解剖した三人の死者は、みな浦和総合病院内科への入院歴があり、しかも担当医は梶原だった。病名は三人とも異なり、それ以上の共通点は見出しがたいが、明らかに何かの秘密がある。おそらくそれは医療ミスにかかわるもので、だからこそ光崎は、強引とも言えるやり方で検死解剖を断行したのだろう。



 そう直感で類推した真琴(北川景子)は、古巣の内科に飛んでいって、大胆にも梶原医師(相島一之)本人に向かって問い糾すのだった。



真 琴「梶原先生」



梶 原「ん?」



真 琴「お聞きしたいことがあるんですけど」


╳    ╳    ╳



梶 原「どうした」



真 琴「栗田益美さんと真山真司さん。憶えていらっしゃいますか?」
梶 原「ああ、ええと……」
真 琴「うちの病院の患者さんで、主治医は梶原先生でした」
梶 原「ああ、ごめん。沢山いるから」



真 琴「この二人が亡くなられたこと、ご存じでしたか?」
梶 原「亡くなった?」
真 琴「私の友人の柏木裕子と同じように、法医学教室で光崎教授が解剖しました」



梶 原「そう。驚いたなぁ」



真 琴「梶原先生の治療を受けた患者さんが続けて三人、違う病気が原因で亡くなったことになります。どう思われますか?」
梶 原「どうって、残念としか言いようがないよね。せっかく治ったのに……あ、ごめん、もう行かないと」



真 琴「確かに既往症は治っています。なのに三人ともすぐに違う病気を発症して亡くなるなんて、偶然でしょうか」
梶 原「そう言われても……」
真 琴「主治医として何か心当たりはありませんか?」
梶 原「ないよ!いい加減にしてくれないかな。何の話だよ!」


梶 原「柏木さんのことは残念だと思う。だけど妙な言い方をするのは止めてもらえないかな」



 やはり梶原医師の態度は完全におかしい。



 真琴はすぐに法医学教室に戻ってきて、おそらくすでに事実をつかんでいるであろう光崎から、ことの真相を聞き出そうとする。



真 琴「おかしいと思います、あの反応は。自分の患者ですよ。亡くなったと聞いたら、もっといろいろ知りたいはずです。それをあんな逃げるみたいに……」
光 崎「何が言いたい」



真 琴「光崎教授は、梶原先生の医療ミスを疑っていろいろ調べていたんじゃないんですか。どんな医療ミスだったんですか?」



光 崎「君はどう思うんだ」



光 崎「解剖には君も立ち会った。どこにミスがあった。つまり君は、俺の行動から推測しているだけで何の事実も把握していないわけだ」



光 崎「そのくせ感情のままに突っ走り、医療ミスなどという言葉を簡単に口にする。医療にたずさわる者の言動とはとても思えん」



真 琴「……すみません……」



真 琴「あの、私にも手伝わせてください」
光 崎「断る」
真 琴「軽率な言動は慎みます。知りたいんです。裕子に何が起ったのかを」



光 崎「医者なら自分の目で確かめるんだな」


2. セチルミン


 一方、医学部長の坂元(金田明夫)の部屋には、津久場教授(古谷一行)と、頭を下げっぱなしの梶原がいる。



坂 元「それで、いったい何があったんです?」



津久場「セチルミンの副作用だと思われます」



坂 元「セチルミン。ごく一般的な抗菌薬じゃないですか」
津久場「おっしゃる通り、うちの病院でも日常的に使われている薬剤です。ただし最近、製薬会社から連絡があり、セチルミンの新たな副作用が報告されています。カルシウムを含む薬剤と同一ルートで投与すると体内で血栓が生じ、それが、脳や心臓など重要臓器において塞栓症を引き起こす可能性がある。そういう報告でした」



津久場「ところが手違いからその報告が周知されておりませんでした。気づいた時点で使用を中止しましたが、すでに患者の多くは退院しており、手の打ちようがありませんでした」
坂 元「しかし、また死んだらどうするんです」



津久場「いえ、その可能性は極めて低いと思われます。この副作用は、発症率のデータがないほどのレアケースです。現にうちの病院でも、この三年間で発症した患者は一人もいませんでした」



坂 元「つまりこれ以上問題が大きくなることはないということですね」
津久場「そう思っています」



坂 元「分かりました。では私は聞かなかったことにしましょう。梶原先生もまだお若い。将来のことを考えなければなりませんからね」
津久場「ご配慮ありがとうございます」



坂 元「光崎君のことは私が考えます。あなた方は今後の対応をしっかりと頼みますよ」



津久場「承知しております」



 津久場はすでに問題の所在を十分に把握していたのである。坂元医学部長には「この副作用は、発症率のデータがないほどのレアケース」と言い切ったが、梶原はどうしても不安をぬぐい去れず、改めて津久場に進言する。が、津久場は頑として聞き入れない。



梶 原「本当にこれ以上被害者はでないんでしょうか。やはり全員検査しませんか。もちろん本当のことは言わずに、何か適当なことを言って、それで呼ぶんです。もし発症していたら、何か対処できるかも知れない」



津久場「これだけの数をどんな理由で呼ぶんだ。該当する患者は、ここ半年だけでも数百人に上るんだ。ことが公になればこの病院は終わる。病院を守ることは、ほかの大勢の患者を守ることになるんだ」



梶 原「そうかも知れませんが……」
津久場「そもそも血栓なんてものは、様々な原因でできるもんだ。これから先、セチルミンによる血栓症の患者が現われる確率は極めて低い」



津久場「病院が蒙るリスクと、発覚の可能性を天秤にかければ、このまま静観するのがベストな選択なんだよ。責任は僕がとる」


 津久場は「病院を守るため」という大義名分のもと、たとえ副作用が出てもそれは本当にレアケースなのだからと、すべてを「なかったこと」にしようとしているのだ。



 そうとも知らず、津久場を信頼しきっている真琴は、梶原への疑惑を恩師に打ち明けにやってくる。




真 琴「失礼します」



津久場「よう、どうした」


╳    ╳    ╳



津久場「梶原君が?」
真 琴「すみません、こんなこと」
津久場「しかしなぜだ」



真 琴「栗田益美、真山真司、柏木裕子。最近、光崎教授が強引な解剖を繰り返していましたよね。それがこの三人です」



真 琴「この三人には不自然な共通点があるんです」
津久場「共通点?」
真 琴「血栓です」



真 琴「栗田さんは硬膜下血腫、真山さんは網膜動脈閉塞症、裕子は肺塞栓症が原因で亡くなっています」



真 琴「どれも血管の中に血栓ができることによって発症する病気ですよね。梶原先生の治療になにかの間違いがあって血栓ができた。そうは考えられないでしょうか?」



津久場「……正直言って、にわかには信じられない話だね。梶原君は熱心で優秀な医者だ」
真 琴「はい」
津久場「分かった。僕の方でも事実関係を確認してみよう。ただし、はっきりするまではくれぐれも他言無用だ。重大な問題だからね、慎重に進めたい。分かったね」



真 琴「はい。分かりました」



津久場「飲みなさい。冷めるよ」



真 琴「いただきます」



津久場「それで、光崎君はどう言っているんだね」



真 琴「私には何も教えてくれません。もしかしたら、最初からすべてご存じだったのかも知れません。解剖する患者さんを選んでいましたから。どういう医療ミスだったのか、分からなければ選べませんよね」



津久場「……なるほど……最初からね」


 さすがの津久場もいささか動揺を隠せない。そもそも津久場が真琴に法医学教室での研修を命じたのは、光崎の動向をそれとなく探らせ、不穏な動きがあれば先手を打つためだったが、真琴によれば、光崎はとっくに真相を見抜いており、それを証明すべく内科を退院した既往症患者の遺体をことさらに解剖していた、というのだ。



 一方、光崎教授は准教授の樫山(濱田マリ)に命じて、過去一年以内に内科で治療を受けた患者のカルテをすべてコピーさせた。



 ここからセチルミンを誤投与された患者を抽出しようというのだ。
 もっとも光崎は、すでに津久場の指示でカルテは改竄ずみで、セチルミンは別の薬名に上書きされてしまっていると予想していた。



 したがって投与された薬をチェックするのではなく、病名から逆に推測して、セチルミンとカルシウム製剤を同時に投与した可能性のある患者を、厖大なカルテから選り分けなければならないわけだ。でもカルシウムなんてほとんどの溶液に含まれているものらしいから、これは大変だ。



樫 山「教授の指示には何も聞かずに従う。それで今まで後悔も疑問もありませんでしたが、今回だけお聞きしていいですか?」



光 崎「ん?何だ」



樫 山「栂野さんに手伝わせないのは、津久場教授がこの件に絡んでいると思っていらっしゃるからですよね。津久場教授を信頼する栂野さんに関わらせたくないんでしょう」



樫 山「でも本当は光崎教授も同じじゃないんですか?」


 樫山准教授の問いに光崎はなにも答えず、かといって否定もしない。
 かつて内科にいた光崎にとって、津久場は最も尊敬する先輩だった。津久場にはとても叶わないとの思いが、彼を内科から法医学に転向させたのである。津久場を心から信頼している真琴の姿は、実は光崎にとって、過去の自分自身にほかならなかった。

3. 隠蔽と究明


 真琴は「医者なら自分の目で確かめるんだな」という光崎の言葉を受けて、自ら真相究明に乗り出す。まずは親友の裕子を担当していた看護師を捕まえて、データの確認だ。



真 琴「橋本さん、柏木裕子って憶えてる?肺炎で入院していたとき、担当してくれていたでしょう」
橋 本「はい。先生のお友だちですよね」



真 琴「これ裕子のカルテなんだけど、内容に間違いないかな」



橋 本「えっ?」



真 琴「法医学教室で内科の症例をいくつか参考にしたいの。処方された薬とか、投与された薬剤とか、この通りかな?」



橋 本「そうだと思いますけど、正直、細かいところまでは憶えていなくて……師長に聞いてみましょうか」



真 琴「え?」



橋 本「あのころ私、小児科から異動してきたばっかりだったんで、師長に作業をチェックしてもらっていたんです。師長だったら憶えてるかも知れません」
真 琴「そう」


 ナースステーションで師長を待っていると、偶然にも梶原医師が姿をあらわす。



梶 原「河合さん」
看護師「はい」



梶 原「306号室の安田さん、血液検査お願いします」
看護師「はい」




 真琴の疑惑の視線に耐えかね、ロビーに降りた梶原は、自分を先生と慕ってくれる年老いた患者に声を掛けられ、ほんの少し心和む。



 が、そこへ真琴と連絡を取り合っている古手川刑事と岡村刑事が登場、最重要容疑者の梶原に揺さぶりをかける。



古手川「すいません、少しいいですか。失礼ですが、梶原先生ですか」
梶 原「そうですが……」



古手川「埼玉県警の古手川です。法医学教室の光崎教授には、いつもお世話になっておりまして。今回も続けて三件、教授には助けてもらいました」
梶 原「……そうなんですか……」



古手川「三件とも梶原先生の患者さんだったとか。驚かれたでしょう。ご自分の患者さんが三人も」



古手川「どうかされました?」
梶 原「いえ、私に何か?」



古手川「ほんのご挨拶ですよ。長いお付き合いになるかも知れませんしね。何しろ三人も死んでるんで」



梶 原「急ぎますんで、失礼します」



岡 村「グラグラですね」
古手川「ボロが出るのも時間の問題だな」


 梶原医師、もう完全にやばい状況で、もともとそんなに悪い人ではないだけに可哀相になってくる。

4. 倉本紗雪


 一方、真琴はナースステーションで師長さん(そうか最近は「婦長さん」って言わないのか)を待っていたが、まだすぐには戻ってこないという。



橋 本「すみません。師長は30分くらいで戻るそうです。それからでもいいですか」
真 琴「もちろん。じゃあ戻られたら電話して」


 というわけでその場を離れようとした真琴に声を掛ける人がいた。
 ここで、ようやく原作第5話の冒頭になった。そもそも原作には梶原医師が出てこないしな。



紗雪の母「真琴先生?」



真 琴「あ、どうも」


╳    ╳    ╳



真 琴「いつ再入院されたんですか?」



紗雪の母「先週なのよ。せっかく退院できたのに」


  実は原作の第5話は、実質的にはこのパートから始まる。倉本紗雪ちゃん10歳。しばらく前に腹膜炎を患って入院した時に、真琴が知り合いになった女の子だ。この子がすごく真琴先生になついている。



 『Dear Friends』のリナも、入院中に小学生の女の子になつかれて閉口していた。北川景子は病院で子供になつかれるという属性をもっている。その遠因は何かと言えば、やはり実写版セーラームーンAct.23で「マーズれい子」なんていって病院コンサートをやったからではないかな、と私は思う。






 すみません。本題に戻ります。



紗雪の母「この子、入院するっていうのにまた真琴先生に会えるって喜んじゃって」
真 琴「本当ですか?」
紗雪の母「あ、起きた?」



紗 雪「真琴先生!」
真 琴「久しぶりだね。お腹痛くない?」
紗 雪「うん。やっぱ入院になっちゃった」
真 琴「じゃちょっと様子見せてね」



真 琴「じゃあ目標を決めようか。何か楽しいイベントを考えて、その日までに頑張って退院するの」



紗 雪「じゃあ12月1日」
真 琴「私の誕生日?」
紗 雪「前に教えてくれたでしょ、パーティーしようよ」



紗 雪「先生、12月1日までに治してね?」



津久場「12月1日、何の日?」
紗 雪「教えない」



津久場「なんだよ。よし、治るように診察しておこうか」



紗雪の母「頻繁に様子を見に来てくださるのよ。有難いわね」
真 琴「そういう方なんです」


 もちろん津久場が「頻繁に様子を見に来る」理由は、この再入院してきた子が、セチルミンとカルシウムを誤投与された患者リストに入っていたからに外ならない。





 が、真琴はまだ、津久場のことを微塵も疑っていない。



5. 誠実な医師


 原作では、少女の出番はここまでだ。その夜、容態が急変し、知らせを受けた真琴が病院に駆けつけたときには、もう手遅れで、亡くなっている。しかし腹膜炎という診断に不審を感じた真琴は、なかば強引に紗雪の遺体を法医学教室に運び込む。そして光崎教授の検死解剖によって、病院ぐるみで隠蔽された薬剤誤投与の事実が暴き出される。だいたいそんな流れである。
 でもこのドラマ版はここから、原作とはまったく違う展開を見せる。キーパーソンは原作に出てこない梶原医師である。



津久場「あの子とは仲が良かったのかね」



真 琴「はい。前回の入院中にお喋りをして」



津久場「そうか。済まなかった。君にとっても大事な患者なのに」



真 琴「いえ。紗雪ちゃんも安心ですよ。なにしろ担当医が津久場教授なんですから」



真 琴「あ、そういえばあのカルテ、改竄されているんじゃないでしょうか」



真 琴「梶原先生があのカルテどおりに処置をしたのなら、やっぱり血栓が生じることはないと思うんです」



真 琴「本当は何か別の薬剤を投与していて、その副作用で血栓……」


(真琴のPHSの呼び出し音が鳴る)



真 琴「すみません、またご報告します。紗雪ちゃんのこと、よろしくお願いします」
津久場「もちろん、任せなさい」



 師長が戻ってきたとの知らせを受けて、真琴は看護師の橋本のもとへと引き返す。ところがほんのわずかなあいだに、様子がまったく変わってしまっていた。



真 琴「ごめんね……あれ、師長は?」
橋 本「すみません。師長には聞いていません」
真 琴「え?」



橋 本「やっぱりカルテに間違いはないと思います。だから……すみません」



真 琴「ちょっと待って、誰かに口止めされた?」



橋 本「すみません」



真 琴「橋本さん、ちょっと……」





 ともかく、このままでは証拠が得られない。まともなやり方は通用しない。




 仕方がないので真琴は、夜遅くなってから内科に忍び込み、図書室の端末を利用して、薬剤のデータベースを調べあげようとする。




 しかしそこに忍び寄る影が。梶原だ。




 危ない、と思ったところで真琴の携帯が鳴る。古手川刑事からである。



古手川「もしもし」



真 琴「脅かさないでくださいよ」
古手川「なに。今どこ?」
真 琴「内科の図書室です。うちで使っている薬のデータベースを見ていたんです」



真 琴「裕子たちの治療に使われる可能性があって、なおかつ、副作用で血栓ができることがある薬を探しているんです」
古手川「副作用?」
真 琴「副作用を知らずにその薬を投与してしまって、それで血栓ができた。それを隠すためにカルテを改竄した。これ、どうですか?」
古手川「で、あったの?その薬」



真 琴「いえ。まだですけど」
古手川「梶原は仮にも大学病院の医者だろう。君じゃあるまいし、そんな副作用知らないなんてことあるかよ」
真 琴「そりゃありますよ。副作用の報告は山ほどあって、医者がすべてに目を通しているわけじゃないんです。しかも新たに報告された副作用だったら……」



真 琴「……それかも……」
古手川「え?」
真 琴「すみません、切ります」




 思いついた真琴は、部屋の奥に飛んでいって、封筒の束を引っかき回す。




まだデータベース化されていない、世界中から送られてきた医療データに関する最新のレポートだ。




 そしてついに「セチルミンの添付文書改訂のお知らせ」という通知書類を探し出す。





 在中国韓国公使が、昼食後に激しい腹痛を訴え、北京市内の診療所に運ばれ、点滴と同時にセチルミンの投与を受けて死亡したという症例の報告だ。これだ!





 書類を抜き出した真琴が、エレベーターを待っていると、そこに梶原の姿が。







 恐怖を感じた真琴は早足で階段を降りてロビーに向かうが、梶原は後を追ってくる。






 次第にかけ足になる真琴。



泣き声ともうめき声ともつかない声を漏らしながら追いかけてくる梶原。







 でもそこへ、電話の様子に心配した古手川刑事が、法医学教室から駆けつけてきた。梶原は即座に逃げ去る。



古手川「何してる」



古手川「大丈夫か」



真 琴「分かったんです。分かったんです。血栓が、血栓ができた理由!」

 そして二人は法医学教室の光崎のもとへ急ぐ。



真 琴「セチルミンの副作用だったんですね」



真 琴「ここに、ある医療事故の報告が載っていました。少し前に中国で起った事件です」



真 琴「在中国の韓国公使が昼食の後に激しい腹痛を訴え、北京市内の診療所に運ばれました。韓国公使は診療所で点滴を受けている最中に亡くなりました。点滴と一緒にセチルミンを投与していたからです」



古手川「そんなに危険な薬なのか?」



真 琴「いいえ。セチルミン自体は問題のある薬じゃありません。ただ投与の方法を間違えると血栓が生じる副作用が起ることがあると,この報告に書いてありました」
古手川「血栓……」



真 琴「私はこの副作用を知りませんでした。梶原先生もきっと、何かでこの報告を読むまで知らなかったんですよね」



真 琴「いつも使っている薬だからと、何の疑問も持たずに裕子たちに投与した」





真 琴「これ」



樫 山「セチルミンを誤投与された可能性のある患者よ。光崎教授がピックアップしたの」
古手川「こんなにいるんですか?」



光 崎「多忙な医療の現場で、日常的に使う薬をそのたびに調べ直せというのは確かに過酷な注文だろう」



光 崎「だが残念ながらそれを理由に出来ないのが医者なんだ」



光 崎「ひとつしかない患者の生命を預かる以上、たった一度の失敗も許されない。それが医者の宿命なんだ」



真 琴「……せめて気づいたときに対処していれば……」



真 琴「そうしていたら、助かったかも知れないのに」


╳    ╳    ╳



真 琴「とにかく、このなかからセチルミンを誤投与された患者さんを探さないと」



古手川「梶原に任意で話を聞きます。ここまで分かっていると知れれば、観念するでしょう」



真 琴「私は津久場教授に相談してきます」



光 崎「無駄だろうな、それは」



真 琴「……え……」





 一方、すべてを知られたと観念した梶原医師は、完全に壊れちゃった顔で、亡くなった三人のカルテを見ている。





 そもそもこの人は、とても良心的な医者なのだ。亡くなった患者たちのことを「知らない」と言ったのはもちろん嘘で、それどころか、いろいろ言葉をかけてコミュニケーションも欠かさなかった。だからむしろ一人一人に思い出があるくらいなのだ。






 患者に感謝され、そのことに自分も満足する。画に描いたような誠実なお医者さんだ。ただ、日ごろ利用している薬剤の副作用について、最新の情報を絶えずチェックする作業をほんの少し怠ってしまっただけだ。それが命取りになった。




 でも、副作用の問題に気づいたときにも、この人は真っ先に津久場に報告に行っているのである。



梶 原「セチルミンに新たな副作用の報告です。カルシウム製剤と同一ルートで投与することで、体内に血栓を生じる可能性がある、と!」



津久場「僕も読んだよこの報告は」



梶 原「ご存じでしたか。患者のリストを作ります。至急全員と連絡をとってすぐに検査を……」
津久場「その必要はない」



梶 原「?」


 津久場教授の一言が躓きの始まりだった。そして仲の良かった後輩の真琴に疑惑の目を向けられ、最悪なかたちで真実が暴かれようとしている。
 病院の屋上で、梶原は亡くなった患者たちのカルテを抱きしめ、嗚咽していた。













 この梶原医師、さっきも書いたとおり、原作には出てこないドラマのオリジナルキャラクターなんだけど、ここまで重要な役回りだとは正直、予想もしませんでした。でもまあ、最終回一歩前なんだけど、これで退場である。
 ……いや違った、最終回にも登場して、光崎教授に遺体解剖される。考えてみれば、これまで出てきたのは一見するとただの事故死とか病死とか、そういう案件ばかりで、ここまできっちりした不審死はない。




 事情聴取のために駆けつけた古手川と真琴も、現場に遭遇する。




 津久場にとっては愛弟子の死である。がその悲しみにくれる間もなく、緊縛したコールがかかる。



 「腹膜炎」で入院中の少女、紗雪の容態が急変したというのだ。



母 親「もうすぐ先生来るからね、頑張って!」



津久場「どうした!」



看護師「腹痛を訴え嘔吐しました」



津久場「固いな……腹膜炎の悪化だ」



真 琴「手伝います」



真 琴「紗雪ちゃん、痛いところ教えてね」




真 琴「あの……この症状は本当に腹膜炎でしょうか?」



津久場「何を言っている!」






真 琴「……血栓!?……」


 この症状は腹膜の炎症によるものではない。肝臓から血液を運ぶ大動脈に血栓ができて生ずる、肝静脈塞栓(バッド・キアリ症候群)という難病である。それが真琴の見立てだ。津久場教授ほどの名医なら、その可能性を考えて当然なのだが、腹膜炎という前提をみじんも疑わず、真琴の疑問を頭ごなしに否定する。どうして? 真琴の胸に、信頼していた恩師に対するどす黒い疑惑が大きく広がっていく。そして紗雪ちゃんの運命は。
 というところで次回は最終回。といってもレビューは2回か3回に分けると思います。病院ぐるみの隠蔽にヒロインはどう立ち向かうのか?