実写版『美少女戦士セーラームーン』ファンブログ


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【第588回】北川景子『ヒポクラテスの誓い』第3話の巻



 今週は久しぶりに土・日と休みなので『ウルトラマンオーブ』を観ていたら、カイ(石黒英雄)がナオミ(松浦雅)をお姫様だっこしたり後ろからぎゅっと抱きしめたり、大変だったぞ。ナオミも最初から最後までパジャマ姿だったし。亜美ちゃんのパジャマパーティー。



 そもそも第1話でも、お姫様抱っこしていなかったかな。ともかく『ウルトラマンオーブ』ってこんなに松浦雅を本格的にフィーチャーしてくれる話だったんだな。もっとちゃんと観よう。過去回も観直せば壁ドンとかあるかも知れない(何が見たいんだ?)。



 ま、それはともかく後れをとっている『ヒポクラテスの誓い』本編レビューにさっさと入ろう。

 

1. 親友の死



 「裕子を治せるような内科医になりたい」と夢を語っていた研修医の栂野真琴(北川景子)だが、その柏木裕子(佐藤めぐみ)の容態が急変して浦和医大病院に搬送された。突然の親友の危機に、真琴も法医学教室から駆けつける。



 必死に処置を行うが、どうしようもない。
 すでに停まっている心臓を必死でマッサージし続ける真琴を、先輩で裕子の主治医だった梶原(相島一之)が制する。



梶 原「もういいよ。もう無理だ」



真 琴「まだです」



梶 原「もういい!」



梶 原「16時45分、死亡、確認しました」




 急な事態に内科の津久葉教授(古谷一行)も愕きと落胆を隠せないようだ。



津久場「亡くなった……」



梶 原「急激な肺炎の悪化による呼吸不全だと……」



梶 原「もっと早く検査に来てくれれば……」



津久場「ご遺族には僕から説明しよう」



津久場「ああ、君はいいよ。少し休んでいなさい」



 裕子の死の訃報は法医学研究室にも届く。

 



樫 山「そうですか。分かりました」



樫 山「駄目だったそうです。栂野さんのお友だち」
古手川「亡くなったんですか?」
樫 山「昼ごろまではいつもどおりだったって。夕方、急に胸痛を訴えて意識混濁。発熱はなかったそうです」



光 崎「うちの病院で入院治療をしていたと言ったな」



樫 山「はい。今は自宅治療だったそうですけど」



光 崎「カルテを用意してくれ。入院中からのものも全てだ」
樫 山「分かりました」


 光崎教授(柴田恭兵)は樫山准教授(濱田マリ)の「夕方、急に胸痛を訴えて意識混濁。発熱はなかったそうです」という一言を聞いただけで、すでに裕子の死に疑惑を抱いている。解剖するつもりである。当然、親友を失って傷心の真琴とは激しく衝突する。



真 琴「いま遺体が病院を出ました」



真 琴「留守をしまして申し訳ありませんでした」



光 崎「黙って見送ったのか?」
真 琴「え?」
光 崎「多少なりともここで研修をして、それでも何の疑問も抱かずに遺体を送り出したのかと聞いている」



真 琴「どういう意味ですか?」
光 崎「柏木裕子の遺体は病理解剖の必要がある」



真 琴「何をおっしゃってるのか分かってますか?」



光 崎「解剖の必要はないとか、肺炎に決まっているとか、ご託を並べるなよ。もう答えるのも飽き飽きだ」
真 琴「そんなことじゃありません」



真 琴「またデータのためですか? 裕子は必死に病気と闘ってきたんです。まだ二十代で、これから楽しいこと、嬉しいこと、いっぱいあったはずなのに、こんなふうに壊されて……」



真 琴「おばさんだってそうです。スーパーとコンビニのパートかけもちして、愚痴も言わずに寝ないで看病して……」



真 琴「それなのに、強引な解剖のことしか頭にないんですか? 法医学は人の心よりも大事なんですか?」



光 崎「では聞くが、君はなぜその強引な解剖に何度も立ち会ってきた。解剖の必要性を納得したからじゃないのか?」
真 琴「それは……」
光 崎「その経験がありながら、患者が友人なら感情を優先させる。君は知人か否かで患者を区別するのか?」



真 琴「裕子は肺炎で亡くなったんです」
光 崎「親友の身体を解剖したくないだけだろう。公私混同して、見えるものが見えなくなっているんだ。柏木裕子は発熱もなく倒れたそうだな? 発熱のない肺炎など聞いたことがない。疑問は抱かなかったのか? 」



光 崎「彼女のカルテ」



光 崎「入院中は症状が確実に改善されている」



光 崎「だが同じ薬を飲みながら、退院後、なぜこんなにも悪化した?」



真 琴「……裕子が運動できなくなって、免疫力が落ちたのもあって……」
光 崎「そんなことだけでこんなに症状が進むか? すぐ近くで患者を見ていて、そんな不確かな理由で君は納得するのか!?」



光 崎「君から遺族に話せ。近い人間の方が説得しやすい」



真 琴「……いやです……」
光 崎「……ではいい……」



光 崎「説得に行ってくれ」



樫 山「分かりました」



樫 山「お疲れ様です」


 
 ところで、第1話のレビューで私は、濱田マリはちょっと原作とイメージ違いすぎなんじゃないか、と書いたと思う。原作の准教授は合理的思考のアメリカ人女性で、日本とのカルチャー・ギャップの説明や、コミカルな日本語会話の行きちがいで、物語の箸休め的な役目も果たしていた。たとえば原作のこの箇所では、彼女は次のように真琴に追い打ちをかける。


 「ワタシが教授の立場でも、きっと同じ判定を下すでしょうね。今のあなたは法医学教室どころか学究の徒としても失格です」
 どこでそんな言葉を覚えたのかはともかく、キャシーにまで断じられたのは少なからずショックだった。
 「医者には、そんなに論理が必要ですか?」
 「ノー。あなたは全く理解していません。感情を無視しろとは教授は言っていません。論理に優先させるなと言っているのです」
 キャシーは話している最中に足を組んだ。今まで見せたことのない横柄な態度が癪に障った。
 「真琴。あなたは完全に間違っています」
 「それはアメリカ人のキャシー先生と日本人のわたしでは倫理観や死生観に違いがあっても……」 
 「それもノー、です。これは国民性とか民族性の違いではありません。同じヒポクラテスの末裔として認識が共通しているかどうかなのです」
 「共通の、認識?」
 「最初に真琴がここを訪れた時、ワタシが示した<ヒポクラテスの誓い>を憶えていますか? ヒポクラテスは患者の身分や出自で分け隔てすることを良しとしませんでした。患者が聖者であろうと咎人であろうと区別することがあってはならない。しかし真琴は区別しました。区別の根拠が身分から感情にシフトしただけなのです。ああ、この国にはもっと適切な言葉がありました。公私混同、でしたね」
 「あんまりです。キャシー先生」
 思わず訴えた。
 「公私混同って……じゃあ逆に質問しますけど、キャシー先生は自分の両親を解剖させろと言われたら、無条件で承諾できるんですか」
 幼稚な喧嘩腰の理屈だった。口に出してしまってから、猛烈な自己嫌悪に襲われる。
 すると、ふっとキャシーの目が和らいだ。(中山七里『ヒポクラテスの誓い』祥伝社文庫)


 キャシー・ペンドルトン准教授はマンハッタンのスラム街で生まれ育った。両親は早くに離婚して母子家庭だった。ある日、母親が強盗に撃たれ、屍姦され、金品を奪われた状態で発見された。幼かった彼女が検死官の言葉を信じて司法解剖を承諾すると、銃の入射角と目撃情報によって容疑者が特定され、さらに体内に残った弾丸のライフルマークと精液が決定的な証拠となって犯人と断定され、裁きを受けた。親の遺体を切り刻まれることに内心、抵抗がなかったわけではないが、でも事件が早期に解決されたのは、解剖によって有力な手がかりが得られたからだ。なんて話を聞かされて、こうなると真琴はグウの音も出ない。
 原作はこういうロジックで行くんだけど、このドラマ版の方はもうちょっと情緒的で、こっちの濱田マリもなかなか良い。二人のツーショットは『悪夢ちゃん』のファンには懐かしいしね。



樫 山「気持ちを捨てろ、って言っているわけではないのよ、教授は」



樫 山「論理よりも感情を優先させるのは、医学を志す者の態度ではない」



樫 山「そういうことよ。お疲れ様」



 これはこれでなかなか良い感じである。ていうかドラマとしては、ディスカッションよりこっちの方がいいか。

2. 代理ほら吹き症候群


 何か悩みがあれば、真琴はいつも医大のエントランスにある「ヒポクラテスの誓い」を見に行く。でもいまはさすがに見上げる元気もなくて、階段にへたり込んでいる。そんな彼女のもとに古手川刑事(尾上松也)が姿をあらわす。



古手川「やっと見つけたよ。解剖するって言っているんだって、あんたの友達」
真 琴「どうせ古手川さんも賛成なんですよね。光崎教授に協力しているんだから」



古手川「やつあたりするなよ。おれは光崎教授が何をしようとしているのか見極めたいだけだよ」



真 琴「私には無理です。感情を優先させるなって言われても」
古手川「自分の感情で考えるから悩むんじゃないのか?」



真 琴「え?」



古手川「あんたがどう思うかじゃなく、あんたの友達が何を望むのか、それを考えたらどうかな」



古手川「光崎教授が強引に解剖する遺体には、必ず真実が眠っている。あんたの友達が真実を知りたいかどうかだよ」


 ここでちょっと第2話を振り返ってみましょう。前回のレビューでは取り上げなかったけど、自宅にお見舞に行ったとき、裕子と真琴の間にこんな会話があった。


 

裕 子「ね、それより真琴の話、聞かせて」



真 琴「ん?」
裕 子「光崎教授の話」
真 琴「なんで?」



裕 子「だって、逮捕覚悟で解剖とか、なんかすごいじゃん」
真 琴「すごい……のかなぁ」
裕 子「え?」



真 琴「法医学は人を救えるのかも知れない……って思い始めていたんだよね。」
裕 子「うん」
真 琴「亡くなった患者さんも、ご遺族も……でも、光崎教授はやっぱり、解剖がしたいだけなのかも……」



裕 子「でも、さぁ(不意に咳き込む)」



真 琴「ごめんね、しゃべるの止めよう」



裕 子「でもさぁ、いいと思うな、私は」



真 琴「え?」



裕 子「だって、誰だって、自分に何が起こって死んじゃったのか、本当のことを知りたいでしょ。自分だけじゃなくて、大事な人のためにも、ね」



裕 子「人はさぁ、真実を知って初めて、悲しみに立ち向かえるんじゃないかな」



裕 子「真琴ならそういうお医者さんになれるよ、きっと」



真 琴「そうやって、裕子はいつも力をくれるんだね」



裕 子「がんばれ、真琴」
真 琴「がんばる」



 そして翌朝。樫山が裕子の家に向かうと、家の前には真琴の姿が。
 



 遺体に線香をあげると、樫山は「ちょっと御手洗いを……」と言って座を外す。






母親の寿美礼(大塚良重)と二人きりになった機に、話を切り出す真琴。しかし母の拒否反応は予想以上だった。



真 琴「おばさん、相談があるんです」



寿美礼「どうしたの?」
真 琴「裕子を病理解剖しませんか?」



真 琴「なぜ急激に肺炎が悪化したのか、何か理由が見つかるかも知れないと思うんです」
寿美礼「何かって?」
真 琴「これまでも疑問だったんです。いつまでたっても、どうして悪くなる一方なのか」
寿美礼「そうよ! だから私、聞いたわよね。このままの治療でいいのかって。本当に治るのかって」



寿美礼「言われたとおりに薬飲ませて看病して、それで治らなかったら今度はほかにも理由があるかも知れないっていうの? そんな無責任な」



真 琴「でも、最後に検査をしてから、だいぶ期間が経っていたし」
寿美礼「私のせいだって言うのね」



真 琴「違います。私がもっと気をつけて診ていれば良かったと……」
寿美礼「あなたには関係ない!あの子の側にいたのは私よ。私があの子のことを一番に考えてたの」



寿美礼「あんなに苦しんだあの子をさらに傷つけるようなこと、よく言えるわね」




寿美礼「この子に言えるの?ようやく楽になれたのに、またすぐに身体を切り刻むって、あなた言えるの?」




寿美礼「裕子が可哀相、裕子が可哀相」



 でも実は樫山はこのとき、お手洗いを理由に中座しながら、ひそかに屋内を情報収集していたのであった。




 その結果、台所に置かれていた裕子の服用薬が、不自然に多く残されていることに気づき、証拠をスマホカメラに収めていた。



真 琴「裕子の薬?」
樫 山「台所の引き出しから見つけたの。あなたが母親を説得している間に探して、写真に撮ったのよ」
古手川「何か変な薬なんですか、これは?」



真 琴「変なのは薬じゃなくて量です。用量を守っていれば、こんなに残っているはずがないのに……」
樫 山「飲ませる量を減らしていたんでしょうね。その可能性があるから調べろって、光崎教授に言われていたの」



真 琴「だって薬を減らせば肺炎は治らないんですよ。あんなに必死に看病していたのに、故意に病気を悪化させるなんて、それじゃあまるで……!」



光 崎「まるで何だ?」



真 琴「いえ、そんなはずは……」
光 崎「言ってみろ」



真 琴「……代理ミュンヒハウゼン症候群……」


 代理ミュンヒハウゼン症候群。ミュンヒハウゼンというのは実在の人物で、ビュルガーの『ほら吹き男爵の冒険』の主人公のモデルになった人だから、病的なウソつきということなのだろうけど「代理」とはなんであろうか。



 関係ないけど、星新一に『ほら男爵 現代の冒険』という連作短編があって、小学生のころ、そのラジオドラマ版を聞いたのがきっかけで、私は星新一を愛読し始めた。NHKラジオ第一放送で21時30分から放送されていた30分番組「日曜名作座」の一編で、1974年4月21日〜6月9日(全8回)、原作は星新一で脚本が別役実、出演は森繁久彌と加藤道子。すでにそれ以前にNHK総合テレビの「少年ドラマシリーズ」で、筒井康隆原作の『タイム・トラベラー』(1972年)や光瀬龍原作の『暁はただ銀色』(1973年)なんかと一緒に、星新一原作の『気まぐれ指数』(1973年)というのも、たぶん観ているはずだが、全く記憶にありません。



 閑話休題。ミュンヒハウゼン男爵は大げさな武勇伝でみんなの人気者になったが、「ミュンヒハウゼン症候群」は、みんなの同情を買うために自傷行為を重ねる病気らしい、で「代理」は自傷行為の代わりに、家族を傷つけておきながら、自分が被害者として振る舞って同情を買いたがる、ということのようだ。



真 琴「自分で自分を傷つけて周りの関心を惹こうとするミュンヒハウゼン症候群という病気があるんです。それに対して、傷つける対象が自分ではなく、身近な人間になるのが代理ミュンヒハウゼン症候群」



真 琴「毒物や虐待で子供を病気にしておきながら、人前では健気で献身的な母親を演じてみせる。その目的は他人の同情を買い、精神的満足を得ること」



樫 山「あるのね、思い当たるふしが」
真 琴「信じられません。だっておばさんは……」



光 崎「薬を減らせば必ず体内に証拠が残る。だから解剖を拒否したんだろう」
真 琴「そんな人じゃないんです本当に」



古手川「ちょっといいかな。あんたの友達を調べるのと一緒に、母親のことも調べたんだけどね」



古手川「亡くなった夫っていうのは、けっこうな浮気者で、まあ彼女もずいぶん苦しんだみたいでね。ある時期、自分で怪我をしては病院へ行って、周りの同情を買おうとしていた」



古手川「医師は彼女にミュンヒハウゼン症候群という診断を下したらしい。よくあるらしいね、ミュンヒハウゼン症候群を患った女が母親となり、今度は自分のこどもを身代わりにしちゃうことが」



真 琴「……だって……それじゃあ……それじゃあ裕子は病気じゃなくて、殺されたってことじゃないですか」



樫 山「どうする? 母親を任意同行で引っ張れるの?」
古手川「無理でしょうね。薬だけじゃあ証拠が弱いですよ」



真 琴「引っ張るってそんな言い方」

光 崎「鑑定処分許可状はどうだ」

真 琴「え?」



古手川「裁判所の許可を得て、強制的に鑑定ができる礼状だよ。遺族が犯罪の被疑者の場合、承諾なしで解剖ができる」



真 琴「強制的に……」
樫 山「それいいわね。埼玉県警から請求してもらって」
真 琴「その前に、おばさんに話を聞きに行って来ます」



樫 山「だめよ。素直に認めるわけがないし、疑われてるって知られたら、何か手を打たれちゃうわよ」




光 崎「とにかく調べればはっきりする。葬儀は週末だったな。それまでに礼状を取れるか?」



古手川「やってみます」


 親友の母親をハナから容疑者扱いして話を進める研究室の空気に辟易した真琴は、内科に戻り、担当医の梶原(相島一之)と、責任者の津久場(古谷一行)に事情を報告し、自分の考えも併せて伝える。危ない情報漏洩だが、なにしろ真琴は内科の先輩と先生である二人に全幅の信頼をおいているのだ。



真 琴「これからもう一度、おばさんと話してきます。鑑定処分許可状のことは言いませんでもこんな、おばさんがいないところで犯罪者扱いするなんて」



津久場「いったん僕に預けてくれないか。何か方法を考えてみよう」



津久場「君の気持ちも分かるが、遺族感情というものもある。対応を誤ると大問題になるから」



真 琴「わかりました。ありがとうございました。失礼します」


 でも、もうこのあたりでは視聴者にも分かっちゃっているけど、津久場が真琴を解剖学教室に派遣したのは、見聞を広めるために(だけ)ではなく、光崎の動向を伝えるスパイ役を期待してのことであった。




 真琴はそうとは自覚しないまま、津久場に必要な情報をまんまと運んでいったのだ。さっそく津久場は手を打つ。

3. 解剖



 翌日、裕子の家を訪れた真琴は、意外な事実を聞かされる。



ご近所「あら、ねえ、柏木さんならもうお寺に行ったわよ」



真 琴「お寺?」
ご近所「ほら、今日お葬式でしょ」



真 琴「お葬式は週末ですよね」
ご近所「聞いてないの? ご親戚の都合とかで、今日に早めたのよ」


 誰かが(といっても、視聴者から見れば津久場に決まっているが)裕子の母親に、鑑定処分許可状のことを伝えて、早めに遺体を火葬にしてしまうよう示唆したのである。今日の昼を過ぎれば、裕子の遺体は焼かれてしまう。



 真琴はさっそく古手川に連絡をとり、上司と裁判所にかけあって一刻も早く鑑定処分許可状を取るよう伝え、なんとか裕子の出棺を遅らせようと、葬儀中のお寺に駆けつける。




真 琴「この間のことなんです。裕子が亡くなった原因を」
寿美礼「後じゃ駄目なの? もう式、始まるのよ」



真 琴「裕子の薬が大量に残っていたのはどうしてですか?」
寿美礼「悪いけど時間ないの」



真 琴「もしかして、おばさんが薬を減らしていたんじゃないですか?」
寿美礼「いいかげんにしてくれない! どうして今さら解剖する必要があるの?」


騒動を聞きつけて、葬儀社の男達がやってきてしまう。



葬儀社「どうされました」
寿美礼「病院の死亡診断書も出ているのに、娘を解剖しろって何度も」



葬儀社「申し訳ありませんが、お式の妨げにもなりますので」
寿美礼「すみません。娘の親友なので、ちょっと精神的に……」



真 琴「おばさん」
葬儀社「こちらへ」



 いよいよ出棺する裕子。真琴の最後の抵抗。




真 琴「おばさん、裕子は言っていました。本当のことが知りたいって。真実を知らなきゃ乗り越えられません。おばさんだってそうじゃないですか。このままじゃずっと、おばさんだって、つらいままで、悲しいままで………」



真 琴「裕子の声を聞かせて下さい」



寿美礼「ありがとうね。裕子と仲良くしてくれて」





真 琴「おばさん、おばさん、聞いて下さい」



真 琴「おばさん、おばさん」






古手川「埼玉県警です。この遺体はただちに司法解剖に回されることになります!」


 解剖学教室に搬送される裕子。身体にメスを入れられる親友を、万感の思いで見守る真琴。このエピソードのクライマックスであり、とても印象的な場面だ。手術着でマスクをして、ほぼ目だけで様々な感情を表現するという芝居も、北川さんにとっては初めての挑戦ではないかな。







光 崎「13時15分、開始する」




光 崎「27歳女性、慎重164センチ、体重43キロ」



光 崎「死体硬直は全身の諸関節に強度を発現。直腸温15度」



光 崎「頭髪の長さは頭頂部で50センチ。黒色だが栗色に染色されている」



光 崎「頭部、耳介に損傷なし。顔面は蒼白。弛張はなし」



光 崎「胸部に変形なし、腹部は平坦。手術根なし」



光 崎「四肢にも損傷は見られない」





光 崎「体表面に損傷は見られないが、両足の筋肉に肺葉性委縮を認める」




光 崎「外表検査終わり。内検に移る」



光 崎「切開する」









╳    ╳    ╳






古手川「どうした?」



真 琴「肺に炎症がないんです」



光 崎「かすかに炎症の痕跡がある。一度は肺炎にはかかったが、順調に治りつつあったということだ」



岡 村「治っていた?肺炎で死んだわけじゃないってことですか」



真 琴「じゃあ、死因は……」



╳    ╳    ╳




光 崎「肺動脈を開く」



光 崎「これを見ろ」



真 琴「血栓!」
古手川「どういうことですか?」
真 琴「肺炎じゃない」



真 琴「肺炎じゃなく、肺塞栓症だったんですか?」



古手川「肺塞栓症?」



樫 山「簡単に言うと、この血栓が肺動脈につまって、右心不全に至ったということね」



光 崎「肺塞栓症は判断が難しい症例だ。肺炎の症状から特定することはまず不可能だろう。しかし発熱がなかった時点で、選択肢のひとつとして考慮するべきだった」




古手川「医者の、誤診……」



真 琴「おばさんのしたことはどうなりますか?」
樫 山「肺炎だと思って薬を減らしていたんだから、肺炎じゃないなら……」
真 琴「おばさんのせいで死んだってことじゃないですよね?」



光 崎「そうとも言えない。運動不足からも悪化するのを忘れたのか。若し母親が故意に運動させてなかったら、それも原因のひとつだ」



光 崎「まぁ本人が否定すれば証明は難しいがな」




 結局、裕子の死は、母親がきちんと薬を与えず、運動もさせなかったために全体的に衰弱していたところに、肺に血栓ができたことが直接の引き金となって起こったことが分かった。自分がもっと様々な可能性を考えていれば防げたかも知れない。そう思うとやりきれない。



 光崎教授は最後に、親友と二人きりで別れを告げる時間を真琴に残してやる。



光 崎「後は任せる」



真 琴「はい」





真 琴「ごめんね」



真 琴「気づいてあげられなくて」


4. 疑惑


 後日、裕子の母親が自供、事件が解決したという知らせを受けて、真琴は警察を訪問する。迎える古手川刑事(尾上松也)と岡村刑事(橋爪遼)。ただ、真琴は何か古手川に言いたいことがありそうである。



古手川「母親は自供している。殺意はなかったが看病を続けたかった、そう言っている」



真 琴「はい」



古手川「何?ほかにも用事がありそうだね」
真 琴「……古手川さんは光崎教授を調べているんですよね。私にも協力させて下さい」



真 琴「古手川さんの言うとおり、光崎教授が解剖するご遺体には必ず真実が眠っています。だからこそ知りたいんです。何のために解剖をしているのか。データって何なのか」


╳    ╳    ╳



古手川「これまでに教授が選んで解剖した遺体はこの三人。おれなりに分析した結果、三人には共通点がある」




古手川「ひとつは生前、死んだ原因とは別に病気にかかっている。栗田益美は敗血症、真山真司は気管支炎、柏木裕子は肺炎」



岡 村「まあ、でも病気にかかったことのある人は沢山いますよね」



古手川「まあな、でもこの三人は全員、あんたの病院で治療を受けている」
真 琴「うちで?」



真 琴「主治医は全員、梶原先生」



真 琴「じゃあ光崎教授は、梶原先生の患者さんを選んで解剖していたってことですか? どうしてそんな……」
古手川「柏木寿美礼は、何で急に葬式を早めたと思う?」



真 琴「え?それは……私が解剖を勧めたから」
古手川「梶原に鑑定処分許可状の話をしたんじゃないか」
真 琴「梶原から柏木寿美礼に話したってことですか」



古手川「梶原には解剖されたら困る理由があったとしたら……」
真 琴「困る理由って……」



古手川「おれは単純だから、医者が隠そうとすることといえば、医療ミスしか思いつかない」


 視聴者もおおよそ検討のついていた「大学病院ぐるみの医療ミスの隠蔽」という疑惑が浮かび上がってきて、物語はいよいよ終盤に入っていく。
 そして、ここまでほぼ原作どおりに進んできたドラマは、ここからだいぶオリジナルな展開になる。実は原作どおりだと、あとはもう柴田恭兵と古谷一行の直接対決みたいな感じになって、北川景子の真琴は傍観者的な立場に回ってしまう。ところがこのドラマ版は、古谷一行の下に梶原医師(相島一之)というオリジナルキャラクターを配置して、まず先輩の梶原を疑った真琴が動き出す、という展開にすることで、ヒロインの北川景子を、より積極的に事件にかかわらせるので、次回、北川景子は原作にはないハラハラドキドキのサスペンスに巻き込まれる。乞うご期待。