実写版『美少女戦士セーラームーン』ファンブログ


最新記事〕 〔過去記事〕 〔サイト説明〕 〔管理人

【第567回】北川景子『黒い樹海』の巻(5)

1. アディオスマスター



 フジテレビ系のドラマ『火の粉』は、今シーズンから始まった「オトナの土ドラ」という新しい枠での第一回作品で、制作は東海テレビ(全9話)。先週の回にマスター渋江譲二が出ているというので観てみた(第6話「邪魔者はアディオス GW最後も眠れない」2016年5月7日放送、脚本:香坂隆史/撮影:布川潤一/監督:竹村謙太郎)。
 原作は雫井脩介。平穏な中流家庭が、隣に引っ越してきた異常性格の青年との関わりのなかで次第に崩壊してゆくという話で、ユースケ・サンタマリアがサイコパス青年を不気味に演じている。
 でも一見おとなしそうだから、知り合いの中にはユースケを信頼してしまう人もいる。木南晴夏はDV夫の渋江譲二と離婚して、女手ひとつで一人息子を育てているが、最近になって元夫が、子供のためにももう一度やり直そうと執拗に迫ってくるので困っている。うっとうしいので返事もしないでいたら、ついに息子と二人のところを待ち伏せされてしまう。





 楽しそうに水鉄砲で息子の陸(中野遥斗)と仮面ライダーイブキごっこやって遊ぶ稲葉(渋江譲二)。不安そうにそれを見守る母の雪見(木南晴夏)。



稲 葉「ババババババーン。アディオース」
 陸 「アディオース」



 陸 「じゃあ僕にも貸して」



稲 葉「よーし、じゃやってごらん」




木南晴夏は渋江譲二に抵抗して殴られたらしく、口のあたりが切れている。直接、暴力をふるう場面がないので、どうしても渋江譲二が殴ったようには思えないのがマイナスだが、それは実写版セーラームーンのファンだからそういう気がするだけかも知れない。
 その晩、ユースケのもとを訪ね、思いをぶちまける木南晴夏。


雪 見「あーもうホントむかつく。陸があいつと仲良くしているのもむかつくし、あいつと結婚した自分にもむかつく」



雪 見「もうあの時の自分を殺してやりたい。もうあいつのこともホントに殺してやりたい」



雪 見「私いやなんですよ。あいつの顔を見ているだけで、本当に殺してやりたいと思っちゃうんです」



 心優しい異常性格のユースケはその願いを聞き届ける。



 仕事帰りの渋江譲二を信号で待ち構え、トラックが来たタイミングを見計らって突き飛ばす。









武 内「アディオス」




 というわけで渋江君の出番は終わり。なのでレビューもこれで終わりにします。
 ここに紹介したのは渋江君が出ていた全シーンの半分くらいで、実際にはもっと出番が多くてけっこう活躍していましたよ。ドラマ自体は狂気じみたサイコサスペンスだけど、キャストがユースケ・サンタマリアとか優香とか木南晴夏とか伊武雅刀とかで、なんか撮影現場はいかにも明るく楽しそうで、ちょっとおかしい。

2. 門前払い



 さてそれでは『黒い樹海』レビューに戻るね。
 今回はまず新キャラクターを紹介したい。ヒロイン祥子(北川景子)と同じ東都新聞の記者、吉井(向井理)である。実はこの人、もっと最初の方からドラマには出ていた。ていうか北川景子のパートナー役なんだ。






 けど、これまでぜんぜん紹介しなかった。だって向井理といえば、『Paradise Kiss』で北川景子史上最も濃厚なキスシーンを披露した相手なので、反省をうながすために少しうちのブログでは干したのである。



 なんでもリハーサルのとき、向井理はいきなり糸を引くような舌入れキスをやって、それでしばらく現場は騒然としたとかしなかったとか、事務所マネージャーと監督は大激怒とか、まあいろいろ話題になった。これほどさように、向井理というのはなかなか油断ならない男である。
 松本清張のヒロインもの推理小説には、わりとよく頼りになる男が登場して、情報収集などの面で主人公を積極的にサポートする。ミステリ的に深読みすると、なんか下心がありそうで怪しい、実はこいつこそ犯人なんじゃないか、とさえ思ったりもするんだけど、それは勘ぐりすぎで、単純に物語にロマンスを持ち込むためのキャラクター配置にすぎない。で、最後に事件が解決するころには、二人の心はいつしか接近していたりしちゃうのだ。



 でも向井理って正直、そこまで明朗会計な二枚目には見えないよね。最後に、実は彼こそ真犯人だった、という展開になってもおかしくなさそうな雰囲気を持っている。実際、原作を知らない人の中には、実は向井理こそ怪しいんじゃないか、なんて思った人もいるんじゃないかね。そういう意味では良いひっかけキャラというか、ドラマ版のナイスキャスティングである。
 さて、場面は都内のホテルで行なわれた、小児科医の西脇(沢村一樹)の出版記念パーティーのところまででしたね。同僚の町田知枝(酒井若菜)は結局、その夜のパーティー会場に姿を現わさなかった。



 そして翌朝、まだ布団にくるまっていた祥子(北川景子)に町田知枝の死を伝えたのは、同じ東都新聞の記者、吉井(向井理)だった。




 祥子は大あわてで警察に向かう。




吉 井「町田さんのご家族が遺体を確認したよ」



祥 子「町田さんは私に姉の事故死のことで話したいことがあるって」




吉 井「えっ? そう、何か知っていたのかな町田さん」
祥 子「その時はとても自殺をするような感じでは……」



吉 井「……ま、本当に自殺をする人間てのは誰にもさとられない。だから自殺が成功するんだ」



祥 子「……成功って……」
吉 井「町田さんね、頻繁に高額な洋服とかアクセサリーを買ってたみたいで、相当な借金もあったらしいよ」



倉 野「町田ちゃんは? あの人よく買ってくれているの」



吉 井「で、精神的に追い詰められて、ってことなんじゃない?」
祥 子「そういえば、昨夜のパーティーで、デザイナーがこんな風にもいっていた」



倉 野「あの人いくら言っても買ってくれなくてね。代わりに誰かを紹介してくれるって約束だったのに……死んじゃったら元も子もないわ」


 あのデザイナーの倉野むら子なら、町田知枝と姉の死の周辺について、何か手がかりになることを知っているかもしれない。よくしゃべる人だから何か教えてもらえるかも知れない。



 そう思い立っていきなり倉野の事務所に押しかけた祥子だが、かえって迷惑がられる。まあ当然である。ちなみに原作では、祥子は自分が前任者の妹であることを隠してもいないし、町田知枝も思わせぶりな言葉など遺さないまま縊死しているので、以下のようなやりとりはそもそも出てこない。




倉 野「あなた、何が言いたいの?」
祥 子「ですから私の前の担当だった笠原信子が仕事上どんな方々とどんな交流があったのかを……」



倉 野「知らないわよそんなの」



祥 子「でも、先生のドレスを買ってくれる誰かを紹介する約束もしていたって」



倉 野「はぁ……要するにだ、町田ちゃんが自殺したのは私のせいだっていいたいわけか。私がみんなにドレスを買うように無理強いしたせいだって」



祥 子「あ、いえ、そういうことではなく、私はただ姉……あの、前の担当の笠原信子の人間関係……」



倉 野「だから、そんなのは知らないって言っているでしょう……ったくなんなのよ」
祥 子「すみません」
倉 野「ていうかその笠原さんのことなんだけど」
祥 子「何か?」
倉 野「そういえば町田ちゃんがさ、バス事故のことで誰かを告発したいからって、私の知り合いの弁護士を紹介してくれって言ってたけど」



倉 野「バス事故のことで、町田さんが誰かを告発?」



倉 野「なのに何?本人は自殺?は、ふざけんなって感じよね」



祥 子「町田さんは本当に自殺だったんでしょうか」



倉 野「ちょっと何よ、なに言ってんの?」


╳    ╳    ╳



倉 野「たのむから私を変なことに巻き込まないでくれる?」



倉 野「これでもね、世間に顔が売れてる身なの」



倉 野「二度と来んな!」


 事務所を叩き出される祥子。しかしそんなことよりも、祥子の心には様々な疑惑が立ちこめ、まさに「黒い樹海」のなかを惑い歩くようであった。



祥 子(自殺に見せかけた殺人。口封じ)



祥 子(そう考えれば辻褄が合う)



祥 子(そうなのだ。この感覚だったんだ)



祥 子(姉の死から数日、私は深い闇の中で、自分がどこに行きたいのかも分からず、たださまよっているような感覚がしていた)



祥 子(今もそれに変わりはない。ただはっきりしたのは、姉の死の裏には何かが隠されていること)



祥 子(何者かが明確な意志をもち、その真実を隠そうとしている。もしかしたら殺人まで犯して)



祥 子(そしてその人物は私を、まるで樹海のなかで、出口のない黒い樹海のなかで、永遠に彷徨わせようとしている)


 結局その後、警察の公式発表は、町田知枝は自殺であると断定され、当然姉の事故死との関連性など調べるはずもなく、その年は暮れた。

3. ここがハイライト




 2016年、元日。仏壇の姉に手を合わせた祥子は、自力で姉と知枝の死の謎を解き、この黒い樹海から脱出する決意を固める。



 ノートパソコンを開き、まず関係者のデータベースを整理する。



 結局のところ、事件に深く関わっている可能性が疑われる人物は五人だ。



華道家元の佐敷泊雲(古田新太)



小児科医師の西脇満太郎(沢村一樹)



経済評論家の妹尾郁夫(鈴木浩介)



デザイナーの倉野むら子(山本未来)



そして画家の鶴巻完造(六平直政)



 祥子はまず鶴巻完造邸に年賀の挨拶に向かい、探りを入れることにする。







鶴 巻「いらっしゃい」



祥 子「本年もどうぞよろしくお願いします」
鶴 巻「ゆっくりしていけるんだろ」



鶴 巻「描かせろよ。前の担当は黙って描かせたよ」




鶴 巻「これ以上頑として肌を出そうとしなかったがね。堅物のつまらん女だったよ」



鶴 巻「君は知っているんだろう。私の芸術のテーマを」



祥 子「女は全て娼婦たれ」



鶴 巻「よく勉強しているじゃないか。分かっているならあそこに立って着物を脱ぎなさい」



 松本清張の旅情ミステリのヒロインたちは、みなだいたい印象が薄い。これはたぶん意図的なもので、読者が感情移入をしやすいように、わざと個性を抑え気味に描いたのだろう。主人公のキャラクターが希薄なぶん、読者がそれぞれ自分を投影して謎解きを楽しめるようになっているのだ。そういう意味では女優の個性を選ばない、ドラマ化しやすい原作といえる。
  ただ北川さんは、できれば作品ごとにまったく違うキャラクターを演じてみたいと思っている女優さんである(推定)。結果として「何をやっても北川景子」みたいになっちゃうのは、実はスターとしての天賦のオーラを彼女がもっている証ではあるのだが、本人としては、作品に応じて変幻自在に演じわけのできるカメレオン女優を理想としているはずである。
 そういう意味では、松本清張ドラマの無味無臭なヒロインは、北川景子には逆に演じづらい部分もあったと思うが、ここまでこのドラマの北川さんは、小池栄子という「姉」を手がかりに、かなり意図的に「妹」キャラを作り込んで芝居をしていた。しかしこのへんで、あぶらぎった六平直政相手に、北川景子の王道を見せてくれてもいいわけだ。
 それにだいたい、これから祥子は、姉の死と、そして町田知枝の死にまつわる疑惑を開明すべく切り込んでいこうとしているのだ。いつまでも甘えん坊の妹ではいけない。もともと気が強くてなかなか就職できないというドラマオリジナルのキャラクター設定もあるのだから、ここは行っていい場面である。さあ行け行け。


鶴 巻「ほら、何やってる。分かっていて来たんだろう」




祥 子「くっだらない」



鶴 巻「ん?何か言ったか?」



祥 子「私などお描きになったら先生の芸術を汚すことになりますわ」




鶴 巻「まあ待ちなさい」



(註:咄嗟に出る手は利き手です)




祥 子「……あの……」





鶴 巻「いいねぇ〜!!」



祥 子「きゃあ」




鶴 巻「ぎゃっ」



鶴 巻「待て、気に入った!」



 最後は逃げだしてばたんと扉をしめる北川さんの主観映像で終わる。まあ北川さんにひっ叩かれれば、みんな恍惚となるよなぁ。ここは北川景子と六平直政だからこういうシーンになったという感じで楽しい。このドラマで一番好きな場面かも。

4. 次回へ続く


 ともかく分かったこと。姉は鶴巻完造のご機嫌を損ねないよう、仕方なくモデルに応じていた。でも一線を越える要求はきっちり拒否していた。あのシチュエーションで出た、鶴巻の「堅物のつまらん女だったよ」という言葉がウソとも思われない。というわけで、姉がひそかに旅行した相手、事故に遭った観光バスに同乗していたであろう相手が、この好色な画家だったとは、とても考えにくい。



 と、だいたいの感触が得られたところで、祥子は東都新聞社に戻って段ボール箱いっぱいの資料を整理中。そこへ吉井が登場。




吉 井「お姉さんは即死ではなかったそうだ」



祥 子「え?」



吉 井「あの日、同じバスに乗っていた人を見つけた」



 というわけで、いよいよ姉の死の状況が、ちょっとだけではあるけれど、明らかになってきた。以下次回。