実写版『美少女戦士セーラームーン』ファンブログ


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【第564回】北川景子『黒い樹海』の巻(4)



 ご出版おめでとう。かわいい。
 でも今日は時間がないぞ。本題に入る。松本清張スペシャルドラマ『黒い霧』レビューの4回目。

1. パーリナイツ


 事故死した姉の上司のはからいで、姉の勤めていた東都新聞文化部に、契約社員として入社した笠原祥子(北川景子)。出勤初日は、先輩の町田知枝(酒井若菜)に連れられ、姉が担当していた文化人たちを訪ね、後任の記者としてご挨拶することになった。
 ところが午前のスケジュールをこなしたところで、携帯で何か話していた知枝が、ふいに「ごめん、次、先に行っててもらえる」と、祥子を置き去りに行ってしまう。しかも去りぎわ、ためらいながら謎の一言を残していったのであった。



知 枝「お姉さんがあんなことになってしまったのには、責任をとるべき人がいる」



祥 子「それ、どういう意味ですか?」


 だが知枝は、何も答えずに去ってしまう。しかたなく祥子は、言われた通り、自分ひとり一足先に次の目的地に向かう。小児科の西脇満太郎の出版祝賀会である。



 すでに夕暮れ時だが、陽は沈みきっていない。



 中に入ってみると、会場はかなりセレブな雰囲気、時節柄ちょっとしたクリスマス・パーティーである。ただの外回りのつもりで、普段着で来てしまった祥子は、思わずその辺にあった鏡をのぞき込む。こんな恰好でよかったかしら。いやいや、何を着ていても北川景子は北川景子。



 変わらない自分の美しさに自信を取り戻した、わけでもなかろうが、ともかく気を取り直して受け付けに向かう祥子。



祥 子「すみません、東都新聞社文化部の……」
受付嬢「ご記帳お願いします」


 出勤初日のわりに物怖じししない。なかなか行動的な性格なのである。
 前回も少し触れたが、原作の祥子が短大卒の貿易会社のOLだったのに対して、こっちのドラマ版は(根拠はないが)たぶん四年生大学を出ていて、就職したけど「ちょっとしたことで我慢ができない」向こう見ずな性格のために現在は無職で、お姉さんを嘆かせていたという。ひょっとするとすでに二つ、三つの職歴があるかも知れない。原作が二十代始めぐらいの設定なのに較べて、こっちは二十代半ばだと思う。ただところどころで、北川さんは(たぶん役の設定よりも明らかに三、四歳上の)実年齢に近いアラサー女子に見えてしまう。
 ドラマ的にはそれは欠点なのかもしれないが、でも北川景子ファンとしては、そこもちょっと見所である。私はこれを観て、ルックス的に北川景子は実にいい歳の取り方をしているなと思った。凄くきれいなのに、妙な若作りもしていなくて、ちゃんと三十代に入ろうという女の顔にもなってるのだ。
 さて受付の場面に戻る。祥子が名前を記帳しようとしていると、お姉っぽい声が。



佐 敷「あら花山ちゃん!」



祥 子「!」



祥 子「先ほどは……」
佐 敷「なんだ、あなた来てたのね。ほら、じゃちょっと書いちゃいなさい」



佐 敷「花山ちゃん」



祥 子「……」



祥 子「はい……」



 というわけで、いまさらあれは偽名でしたとも言えず、花山姓を書き込む。

2. 疑惑の医師


 そして祥子はそのまま、佐敷泊雲に導かれてパーティー会場に入り、いきなりこのパーティーの主役、小児科医の西脇を紹介される。泊雲の前なので、結局「花山」で通してしまうことになる。



西 脇「東都新聞文化部の……」



祥 子「花山と申します」



西 脇「……花山さん……」



 死んだ笠原信子の妹であることを隠し、偽名を押し通さざるをえない状況に追い込まれた祥子は、西脇に勧められるままにソファに腰を下ろす。前回も述べたように、祥子が偽名を名乗るのは原作にないドラマオリジナルの趣向で、ここらへんのやりとりも、そこそこ伏線になっています。



西 脇「笠原信子さんには僕の連載のコラムを担当してもらってたんです」



祥 子「あの……小児科のドクターでいらっしゃるんですよね、有名な」



西 脇「ええ、まあ」


祥 子「本もたくさん出されたりして、ご活躍なんですね」



西 脇「まあ、これは笑える話なんですけどね……」



西 脇「僕は結婚しているんですけど、子供がいないんですよ」



西 脇「小児科医だっていうのに子供を育てた経験がない……笑えるどころか、笑えませんよね」



 そういう西脇の表情に、祥子はある種の葛藤というか翳りを感じとる。でもそこへ、いかにも軽い女の子たちがやってくると、西脇はいきなりチャラいお医者さんに早変わり。



女たち「西脇センセ、あとで箱根までドライブ連れて行ってくださるんでしょ。この子たちもいっしょにいいかな?」



西 脇「いいよもちろん。でもあれだよ、向こうのお店、温水プールあるけど、水着もってなかったら裸になるんだからね」



女たち「いやだぁ」
西 脇「さあ乾杯しよう」



 さっきまでシリアスモードだった西脇医師の豹変に、なあんだ、という冷めた表情の祥子。

3. 評論家と婚約者、そして服飾デザイナー


 そこへまた新たな関係者が登場、西脇医師に出版のお祝いと挨拶を述べる。



 彼も信子の葬儀に献花してくれた人物のひとり。翻訳家の妹尾郁夫(鈴木浩介)だ。



 西脇医師はそつなく妹尾を祥子に引き合わせる。



妹 尾「経済評論家の妹尾と申します」



祥 子「花山です。よろしくお願いします」



妹 尾「ちょっと宜しいですか」


 初対面の祥子を、妹尾はなぜか西脇医師から引き離して密談したがる。ちょっと変であるが、とにかく今はいろんな意味で情報収集が第一の祥子はついていく。



 疑惑のまなざしで二人の行方を追う西脇医師。




妹 尾「悪いことはいいません。あの西脇ドクターにはあまり関わらない方がいい。決して女ぐせがいい男ではない。いや、最低の男です」


そこへ、さらにもう一人の関係者が絡んでくる。地底の民ビクトリアンの女王キサラ改めファッションデザイナーの倉野むら子(山本未来)。



倉 野「妹尾先生さ、それ、ただのヒガミにしか聞こえないから」
妹 尾「ちょっとあのね、ヒガミってあのね」



妹 尾「倉野さん、僕はこの方が、どうしようもない女ったらしにひっかかる前に……」



倉 野「大きなお世話よねえ」



倉 野「ほらほらいいのかしら、フィアンセ放ったらかしにして」



妹 尾「あっ、沙織」


 と、倉野むら子が指さす方には、育ちの良さそうなお嬢様が、知らないおじさん相手に所在なさげに立っている。



 このフィアンセは大財閥のご令嬢で、しがない評論家の妹尾は頭が上がらない。




妹 尾「三ツ川沙織さんです。私たちこのたび正式に婚約を」



男たち「こちらが三ツ川財閥の……おめでとうございます」



紗 織「遅かったわね」



妹 尾「ごめんごめん、前の仕事が長引いて……」


 お嬢様を演じているのは堀田茜。『CanCam』専属モデルで、エビちゃん二世とか言われているらしい。でも(私はモデルの世界には暗いので見当外れかもしれないが)最近はエビちゃんとか安座間さんみたいに目つきのキリッとしたカッコいいい系より、この子とか山本美月みたいな、何て言うのかね、そういうタイプが主流なのかな(意味不明)。

4. 強引な日本画家


 余談でした。そんな財閥令嬢の衣装を指さしてドヤ顔の倉野むら子。



倉 野「どう、あの財閥令嬢の着ているドレス、私のデザイン」
祥 子「ああ、ステキです。あの……申し遅れました私、東都新聞の……」



倉 野「あっ、あなたもけっこう似合うかも、私のブランド」



倉 野「東都新聞の前の担当の人、何て言ったかしらほら、この間のバスの事故で亡くなった」
祥 子「笠原信子」



倉 野「そうそう、あの人はいっくら言っても買ってくれなくてね」



倉 野「代わりに誰かを紹介してくれるって約束だったのに、死んじゃったら元も子もないわ」



 てなあたりで、陽気な酒豪の女デザイナーを適当なところでかわすと、こんどは脂ぎったオヤジが祥子に噛みついてきた。これも姉が担当していた日本画家、鶴巻完造(六平直政)である。



鶴 巻「おい東都新聞!あれはどうなるんだ!」



鶴 巻「おれが三笠展で賞を獲った画を新聞で紹介するって前の担当が」



祥 子「すみません今すぐ調べますので」



鶴 巻「赤ワインもってこい」



祥 子「赤ワイン」


╳    ╳    ╳





妹 尾「いいですよ。僕が鶴巻先生にもっていってあげますから」
祥 子「すみません」



妹 尾「いやらしい世界でしょう。つき合いで仕方ないけど、僕もこういう場だいっ嫌いなんですよ」
祥 子「はあ」



妹 尾「適当に抜け出したって誰も気にやしませんから」


 


 すみません、もうちょっと書きたいこともあるんですが、時間がないのでもうどんどん話だけ進めます。

5. 回想そして事件


 虚飾のバカ騒ぎに少々疲れ気味の祥子は、ついつい目の前の現実を離れ、物思いに耽る。



祥 子(きっと姉も、仕事上のつき合いからこういう場にはときどき顔を出していたのだろう)



祥 子(住む世界の違うこういう場所で、あの姉がどういうふうにしていたのか、私には想像がつく)




祥 子(ここにいる人たちのなかで、姉を知る人たちは、その突然の死を悼んではくれるものの、あくまでそれは型どおりの言葉でしかなく、この先ずっと姉のことを思い出してくれる人など、いないのだろう)



祥 子(でもそんな姉の死について……)

╳    ╳    ╳



知 枝「責任をとるべき人がいる」



知 枝「有名人だったらなおさらよ」


╳    ╳    ╳



祥 子(まさかこのなかにその人物が……)









祥 子(結局最後まで町田知枝さんは現われなかった)


 現われないはずである。町田知枝は、翌朝未明、郊外の雑木林で首を吊った状態で発見され、警察は自殺と断定した。





 というわけで、大方の予想どおりこれは自殺ではなくて殺人である。いよいよただの事故ではない展開になってきた。
 このレビューでネタバレを気にされる方はもはやいないと思うのでハッキリ書いてしまうが、ドラマの常識として、さっきのパーティーで北川さんが出会った面々のなかに犯人はいる。しかも北川さんは町田知枝と別れてこのパーティーに向かっている。したがって犯人は、この日の午後に町田知枝を呼び出して殺し、木に吊して自殺に見せかけたことになる。



 今回の記事の冒頭に戻っていただきたい。このパーティー会場のシークエンスは、沈みかかる夕陽のカットから始まっている。この時間帯は、屍体を雑木林に運んで自殺に見せかけるなんて大胆な細工をするには、ちょっと明るすぎる。
 つまり犯人は、あたりが暗くなってから屍体を木に吊し、すでに始まっているパーティーに大急ぎで駆けつけ、アリバイ工作っぽいことをしているのだ。
 という前提で本日の場面をもういちどチェックすると「仕事の都合でこのパーティーに着くのが遅れてしまった」という趣旨の発言をしている人物はただ一人なので、もう犯人はこの人で確定である。そして動機も暗示はされている。でも事件の全貌はまだまだ分かりません。いつまで続くこのレビュー。
 てなわけで今回はここまで。