1. 送る言葉
そろそろ卒業式シーズンである。諸般の事情により、私は今月から来月にかけて、いくつかの卒業式に出ることになっていて、式辞をしなきゃならないものまである。まいったね。しゃべる方も大変だが、聞く方も辛かろう。まことに済まないと思う。
というわけで、この春は「旅立ちの日に」を何回も聴くことになる。1991年に埼玉県の秩父の中学校の先生が、自分の生徒たちに贈る曲として作って、あっという間に全国に広まり、今では中学・高校において最もポピュラーな卒業式ソングとなった曲だ。
でも私、2012年の春にさくら学院がシングルを出すまで、この曲のことを知らなかった。我々にとって卒業式の歌といえば「仰げば尊し」である。でも「旅立ちの日に」の普及と入れ替わるように、「仰げば尊し」は近年の卒業式であまり聴かれなくなった。
それでも私は「仰げば尊し」という曲がけっこう好きだ。1984年に、ザ・スターリンの遠藤ミチロウが、ソロ名義でこの曲のパンク・ヴァージョンを出している。
かつてセックス・ピストルズのシド・ヴィシャスが、シナトラの「マイ・ウェイ」をパンク風におちょくり倒してカヴァーした、あのやり方を丸ごとパクって、有名な卒業ソングを歌っただけなのだが、すごく良い。「仰げば尊し」という曲が、実はパンク・ロックのアレンジにぴったりであることが証明された。それを発見しただけで遠藤ミチロウは偉かったなと思う。
そのことを改めて痛感したのが、昨年の春に出たシングル『仰げば尊し 〜from さくら学院 2014〜』であった。なんかさくら学院ばかりで申し訳ないけど、これもアイドルソングなんだけど、OiOiOiとかかけ声もあって、ロックンロールでパンクで、やっぱり良かった。プロデュースはかつてベースギター界の神童と謳われたKenKen。
要するに「仰げば尊し」とパンクは相性が良いんだって。私はこの曲が好きなので、もっと多くの学校でパンク・ロック調の「仰げば尊し」をやって欲しいなぁと思う。ていうか、そうでもしないと、いくらメロディが良くても「仰げば尊し我が師の恩」なんて言いまわし、もうパロディとしてしか通用しないし、忘れ去られていく一方だ。そういえば「謝恩会」という言葉も廃れて、うちの娘なんかも「卒業パーティー」と言っていた。つまり卒業にあたって「恩師」に「感謝」する、みたいな発想はもう時代遅れなんである。我が師の恩なんて、ねえ。
もちろん、だったら今の若い子は先生なんか必要としないか、というとそうでもないんだけど、でも最近の卒業ソングといえば、そういう縦の上下関係みたいなものよりも、むしろ同級生との友情、横のつながりをテーマにした曲の方がポピュラーである。
その意味では、実写版セーラームーンの挿入歌「Friend」なんか、そういう「友情の絆」的な部分に対応する今風の卒業ソングとして、リバイバルされてもいいんじゃないかと思う。どうにかして今からヒットさせて広めたいんだが、どうしたらいい?
♪別々の道を歩き始めても心の奥のどこかつながってる♪「Friend」(作詞:丸山眞哉/作曲:高見優)
ということで、今週末も土・日がふさがっているんだけど、ちょっとだけ本編を進めておこう。Cパートの最初からだね。
2. 男祭り
断っておくけど今日は野郎ばっかり。美少女を期待している方々には申し訳ないけど、たまにはこんな回だっていいやね。
アユミって女の子が襲われた翌朝。早朝っぽい雰囲気の朝もやの中を帰宅するシン。
出迎える衛。引きこもりのはずが朝帰りとはどういうことかと、不審の表情を浮かべている。
無言で見つめあう二人。ここ、台本には次のやりとりがあるんだけど、監督はこれをすべてカットしちゃっている。たしかに、削っても話の理解にさほど大きなさしさわりはない。
シ ン「あ……。確か、衛……」衛 「こんな早くからどこ行ってたんだ? 外に出ないんじゃなかったのか?」シ ン「俺、気づいたら外に立ってて……」
BGMの使用も比較的少ない舞原監督だが、セリフも削れるところは削るタイプである。確かにここは、ちょっと説明セリフっぽくて、かえって削っちゃって良いかもしれない。もっとも、監督としては、野郎だけで美少女がまったく登場しないシーンなので興味なかったのかも(笑)。
家の中に入って、衛がテーブルの上に、花、貝殻の入った瓶、海岸の小石、絵はがきを並べてゆく。
衛 「昨日一緒にいた子が集めたんだ。お前が何か思い出すかもって」
衛 「お前が自分を思い出すのは怖い気持ちはわかる。俺も最初はそうだった」
シ ン「君も……?」
衛 「けど、自分から逃げる事は出来ない。例え記憶がなくても……。だから俺は自分を追う事にしてる」
シ ン「そうだね……。でもおれが本当に怖いのは、こういうものを好きな自分じゃ、なくなるような気がするからだよ」
シ ン「おれ、きのう夢で人を襲ってた……。夢じゃないかも」
シ ン「……おれが、人間じゃないって言ったら、信じる?」
と、突然、白い花を取り落とし、うめき声をあげて苦悶し始めるシン。
衛 「おい……」
シ ン「来るな! 俺に近づくな!」
衛 「シン!」
部屋のなかにカラスの羽毛みたいなものが無数に舞い、衛は衝撃に吹き飛ばされる。
台本のト書きによれば黒い花びらだそうである。ダーク・キングダムでベリルの息を浴びた白い花が黒く染まり、はらはらと落ちる。それがこの部屋で狂い舞っているということか。
3. 台本を読み込み、書き込む監督
ここで場面は「学生定期演奏会」の場面へとスイッチ。この会場で、昨夜クンツァイトに襲われた少女アユミが、客席で演奏を聴いているのである。
看板によれば「第35回 城南地区 学生定期演奏会」だそうである。城南地区の「城」とは江戸城(皇居)のことで、その南側に位置する大田区・品川区・目黒区など……ということはいまWikipediaで知った。
実は舞台設定は台本にない。台本のシーン30の場所は「ビル・エントランスホール」とあるだけで、別に演奏会の会場だとか、そういうことは指定されていない。そして場面は(何のビルかは分からない)そのエントランスホールから悲鳴を上げて逃げ出す人々、それを襲う妖魔化したアユミ、という緊迫した状況から始まっている。
舞原監督はそれを、「学生定期演奏会」の客席で、まだ妖魔となっていないアユミが演奏を聴いている場面から始める。そうすることで、洋館でシンに起こる怪現象と、アユミの妖魔化が、より密接にリンクする感じになる。
この設定のために、実は舞原監督は、前回取り上げた深夜のシーンで、台本にはなかったセリフをだいぶ付け加えている。比較しながらもう一度、観て見よう。小林靖子の台本(フルテキストはここをクリック)のシーン27はこんなふうになっている。
27. 街(夜)
歩いてくる女性。アユミ。
その前方に立つ男のシルエット。
そこから飛んだ数本の髪の毛がアユミの首に巻き付く。
アユミ「!」
髪の毛はすぐ首の中に埋まって消える。
同時にアユミの目が金色に光る。
これだけ。アユミはただの「歩いてくる女性」である。年齢とかの指定はまったくない。このあとのセリフも、セーラームーンに向かって「助けて」というくらいなので、台本を読む限り、アユミがどんな女の人かを特定するような描写はない。
それを制服姿の女子学生にしてしまうところが舞原賢三の業である(笑)。ではなぜ制服姿の十代の女の子が、そんな夜おそくに道を歩いているのか。その疑問に対して、舞原監督はぬかりなく、彼女の片手にバイオリン(多分)のケースをにぎらせている。さらに、空いた方の右手で携帯を持ち、友人と会話しているのだが、これはまったく台本にはなかったセリフだ。
アユミ 「うん、今やっと練習終わった」
アユミ「次の演奏会、サトミ来れんの?」
つまり彼女は部活で音楽をやっていて(もしくは高校の音楽科の生徒で)練習で遅くなったとところを、クンツァイトに襲われたわけである。
というわけで話を戻すと、舞原監督はシーン27で、台本には書かれていなかった伏線をこういうふうに張っておいて、次に台本のシーン30で、ただ「ビル・エントランスホール」と指定されていた舞台を「第35回 城南地区 学生定期演奏会」の会場に設定した。
その客席に座っているアユミは、おそらく自分の演奏発表が終わって、客席に来て、他校の生徒の演奏を聴いている、という設定なんでしょうね。おとなりの子は昨晩、襲われたとき電話で話していた「サトミ」だろうか。
つまり舞原監督は「部活で帰りが遅くなった制服姿の少女」を襲いたくて(笑)その流れで、翌日の発表会で彼女が妖魔化する、という展開にしたんじゃないかと思うんだが、演奏会という舞台設定を選んだ理由は、たぶんもうひとつある。洋館で苦悶するシンの表情にかぶせて、いつもと違うBGMがかかる。
ムソルグスキーの「禿山の一夜」だ。私はディズニーの『ファンタジア』の曲……ぐらいのことしか知らないけど。で、その曲が不吉に盛り上がったところで場面はアユミのいる演奏会場にスイッチする。つまりBGMの「禿山の一夜」は、実はこの時アユミが聴いていた学生演奏の演目だったという趣向である。ゾイサイトのシーンにおけるショパンの使い方に似ている。
そんなふうにBGMの使い方にもいろいろこだわる舞原監督であるが、ついでだから妖魔化してからのアユミの描写も、以下、台本のト書きと比較しながら確認しておこう。
悲鳴を上げて逃げる人々。
正面階段から降りてくるアユミ。
金色の目、伸びた爪で、周囲の女性に襲いかかって、エナジーを吸う。
ぐったりした女性に、さらに悲鳴の輪が広がる。
高い位置から見ているルナ。
ル ナ「大変だわ……」
ルナは高い位置から見ているわけではないし、アユミも女性を襲っているようには描かれていないけど、おおむね台本の流れに忠実である。で一方、ダーク・キングダム。
ベリル「ようやくか……」
悪の妖花ベリルがいとおしげに、自らの黒ずんだ花弁を愛撫する。そして開く花弁。
ってこの表現ちょっと良くないかな。
一方、うさぎもシン君のために早起きしてやってきた。こっちはもうぜんぜん、花弁が黒ずんだりはしていませんよ、という舞原監督の声が聞こえそうだ。
……いやすみません、すべて私が悪かった。
小走りなので、のでキャプチャ画像がブレブレである。
ということは今に始まった話ではなく、沢井さんは本当によく動くってことなんですけどね。ようやく可愛いうさぎちゃんの笑顔が見えたところで、今回はおひらき。また次回。