よしっ! 8.8%まで戻った。
【第520回】に書いた通り、当方は放送開始前より、『探偵の探偵』の目標平均視聴率を7%としております。7%を越えたら大成功という意味です。現在の平均視聴率は8.2%で、残りは2回。女子バレーボールで深夜帯に移動したり、東海地震で最終回が延期になったりしなければ、クリアは見えてきた。浜岡原発も菅直人が止めてから再稼働していないしな(何の話だよ)。気を緩めずにがんばろう。
さて第9話だが、今回は非常にテンポよく原作第3巻どおりに進行して、違うところはスマ・リサーチ社の雰囲気ぐらいだろう。対探偵課の紗崎玲奈は、社内でも嫌われ者の異端児だった。でも前回の最後にちょっと触れたとおり、そのとげとげしい空気が次第にやわらいで、社長以下スマ・リサーチ社の面々に、玲奈をサポートしようというある種の連帯意識が生まれつつある。これだって原作にないわけじゃなくて、ドラマ版の方が、そういうニュアンスがより濃く感じられる、という程度の話である。
前回と今回で、実はこのドラマ版、すでに原作の3分の2まで消化してしまっている。だから次回で原作の結末まで行けてしまうんだけど、残り放送回数は2回。この2回をどう使って、気持ちよく物語を着地させるか。これはけっこう難しい課題だ。その鍵を握るのが川口春奈。
実は残り2回の命運は、北川景子より川口春奈の演技力にかかっていると思う。私はこれまで、コメント欄のみなさまに抵抗して、底視聴率女王とも呼ばれる川口さんを応援し続けてきた。その気持ちは今も変わりないんだが、ここまでの川口春奈20歳の演技を見る限り、正直いって不安である。
以下、ほんのちょっとネタバレになるけどごめんなさい。
今回のラストで、琴葉はお姉ちゃん(中村ゆり)からメールを受け取る。妹に絶縁され、悲しみのあまり、踏み切りから身投げしてお詫びしたい、という別れの挨拶を送ってきたのだ。
琴葉は当然、激しく動揺する。そしてそのせいで正常な判断力を失い、任務に失敗して、物語はそのままクライマックスへなだれ込む。最終的には玲奈の活躍で事件は解決するが、琴葉は自分の失敗に、深い自己嫌悪におちいる。玲奈も信頼していた琴葉に裏切られた気持ちを、心の底にひそかに背負い込む。
もちろん娯楽作品なので、それなりに娯楽作品らしいラストにはなっていて、玲奈と死神との対決は第3巻で決着がつく。一方、琴葉の心は自責の念に沈んだままで、玲奈との信頼関係も修復されない。二人がそれぞれの傷を乗り越えて、どうやって自己回復するかは、続く第4巻のテーマなんですよ。ここのところをドラマがあと第2回でどう処理するかが問題ですね。原作どおり、川口春奈が壊れちゃったままエンディング、廃人状態になった「底視聴率の女王」のていたらくに視聴者が溜飲を下げる、とかね。
ともかくあと2話、川口春奈はかなり喜怒哀楽の振幅の広い、しかも複雑に入り組んだ感情を演じなければならない。もう少しはっきり言うと「真っ暗な絶望」や「痛いほどの哀しみ」が、「困った顔」や「何かじっと考えている顔」に見えては、マジ困るのである。大丈夫か?
ということで、今回の物語に戻りますね。前々回のラストで、窪塚刑事が自分の生命と引き換えに救ったDV被害の女性、市村凜(門脇麦)が、DV夫のクワガライジャー(姜暢雄)に追いかけられて、スマ・リサーチ社に助けを求めに飛び込んでくるところから始まる。
女性の身柄は無事確保、DV夫のクワガライジャーは、スマ社の土井(伊藤正之)と佐伯(六角慎司)が追いかける。玲奈(北川景子)も、土井と佐伯のスマートフォンをGPS代わりに位地を確かめ、自転車で走り出す。ここが今回の見せ場だ。
自転車にスマートホンをマウントして、地図アプリを見ながら走っている。が、そのわりには、Googleマップでは拾いきれないような裏路地をびゅんびゅん飛ばす。
ロケ地は新宿四谷新木町。昭和の名残りの残る旧花街。
うまいこと先回りして、クワガライジャーを挟み撃ちにする玲奈。
一度はマウントポジションをとるが、追いつめられた男の、火事場の馬鹿力にてこずる。ナイフを振りかざして玲奈に襲いかかるクワガライジャー。
そこへ飛び込んでくるのがスマ探偵社の佐伯(六角慎司)。男のナイフで腕に傷を負いながらも玲奈をかばう。ちょっと玲奈に気があるので、勇気のあるところをみせた。このあたり原作どおりの流れです。
なかなか殊勝な六角慎司だが、しかしこの人は昔『モップガール』第8話で、北川さんに園児服を着せてママゴトをして、さらにはリコーダーを吹かせるという幼児プレイで悶絶していたロリコン作家、という前科があるから、みんなそのことだけはしっかり忘れないようにね。
結局、クワガライジャーには逃げられ、一同は探偵社に戻る。そして市村凜に、どうしてスマ・リサーチに逃げ込んできたのか尋ねる。
彼女の答えによれば、事件後、玲奈から、御見舞いの言葉と「もしなんらかのトラブルに見舞われることがありましたら、遠慮なくご連絡ください。会社に直接お越しになられても結構です」という文面の手紙をもらったからだという。
しかし玲奈には、そんな手紙を送った記憶はない。DVシェルター事件が終わった以来、被害者との接触は一切していないはずである。
つまり本当の送り主は「死神」だ。
「死神」はDVシェルター事件被害者の女性たち全員に、玲奈の名義で手紙を送っていた。事件後、警察は彼女たちがDV夫に見つからないように、細心の注意で新しい住居を提供した。なのに、すでにその所在をつかんで、情報をDV夫たちに流している。だから市村凛は、見つからないはずなのに夫に見つかって、追いかけられたのである。
それだけではない、死神は被害者たちに玲奈の名を騙って手紙を送った。だから市村凛は玲奈に助けを求めた。そこまで見越して、玲奈を挑発しているのだ。これは死神からの挑戦状だ。
要するに、DV被害の女性たちの安全を守ろうとした故・窪塚刑事の努力は、ほとんど無に帰してしまったわけで、ものすごく後味の悪い展開である。
それはともかく、まずは市村凛をかくまわなければならない。玲奈はゴミ袋をあさっては中身を販売する闇業者から、知らない女の住民票と印鑑証明書、捺印済みの保健の契約書などを手に入れ、それを加工して、その女の名義で不動産屋から借家する。
この家にDV被害者の市村凛をかくまい、琴葉を付き添わせて、当座をしのぐことにする。今回もちょっとは原作を引用しようか。
凛が玲奈をまっすぐに見つめてきた。ありがとう。そうつぶやいてから、ふと思いついたように告げる。
「紗崎さん。あのときのおまわりさん、窪塚さんのこと」
不意の感傷に心が煙たくむせた。喉が詰まる思いとともに玲奈はきいた。「なんですか」
「わたし」凛の頬を大粒の涙がつたった。「あの人に助けられるような価値があったんでしょうか」
玲奈の胸の奥に、低潮のような悲哀が湧き起こった。
凛が痛ましく不憫でならない。なのに、あなたには価値がある、そんな気休めを口にできない。
価値があると信じたい。生命や人生に。なのにそれを否定する現実ばかりが横たわる。濃霧の森へ分けいるいっぽうで、いっこうに抜けだせない。退路はとっくに断たれている。(松岡圭祐『探偵の探偵 III』)
原作の感傷的な主人公のモノローグはまだまだ続くが、このくらいにしておく。
で、玲奈は玲奈で、わざと本名を使って、家出人とかが身を潜めそうな格安アパートを借りる。
これなら情報収集能力に長けた悪徳探偵はすぐに玲奈の所在をつかみ、探りに来るはずだ。そこを返り討ちにしようという算段である。
部屋に入った玲奈は、テレビのリモコンや懐中電灯をバラして手製のスタンガンを作る。
確か前回、琴葉は悪徳探偵を対治するのにスタンガンを使っていたよね。あれを借りればいいのに、とは思うが、きっと玲奈は工作好きなんだな。
一方、市村凛を保護中の琴葉のもとには、お姉ちゃんから不意のメールが届く。
琴葉へ
この間は突然ごめんなさい。
あれから哲哉とは別れました。
取り返しのつかないことをした自分が
全て悪いのは分かっています。
琴葉はいつか許してくれるかもしれないけど
私は自分が許せない。
琴葉、苦しめてごめんね。
もう決心しました。
今日、6時に駒場商店街の踏切から旅立つことにします。
家にあるコスメポーチ、琴葉にあげる。
お仕事がんばって。
さよなら。彩音
お姉ちゃんの様子が明らかに危ない。でも今は探偵として重要なミッションを進行中。市村凛から目を離してはいけないと、玲奈さんからも命じられている。でもお姉ちゃんが……。さあどうする琴葉?
というところで以下、次回。