原作第4巻が発売されていた。さっそく電子版をiBooksで買って読み始めているのだが、冒頭に「本書は四部作の最終章です」とある。といってもこれで完結ではなくて、巻末には「『探偵の探偵』新章をお楽しみに」ともあった。第一部完結ということらしい。なるほど、ここまでがドラマの原作か。
この原作者のシリーズ物は刊行ペースが尋常ではないが(下手すりゃ隔月刊)楽しく読むコツも「速度」にある。わんこそばの要領で次から次へスルスルっといっちゃうことが望ましくて、あまりじっくり味わってはいけない。ドラマ化も同様だと思う。ワンクール10話で原作4冊を一気に消化するくらいのバランスはベストだと思う。
1. 数字を見るな!画面を見ろ!(ネタバレ注意)
さて第1巻に戻る。キーワードは「確証バイアス」。
で、以下はネタバレになるんだが、でも、もう次回でこのへんまで話が進むんじゃないかな、とも思うので、書いてしまう。先を知りたくない方はちょっと飛ばし読みしてください。
原作第1巻のクライマックスで、ヒロインの怒りが爆発するんだが、相手は阿比留(ユースケ・サンタマリア)ではなく、その隣にいた女だった。
ふいに玲奈が怒鳴り声を回廊に響かせた。「妹と琴葉が世話になったな!」
風を切る轟音とともに、鉄パイプが水平に振られた。洋子の側頭部が殴打された。身体は血しぶきとともに宙に舞った。
どよめきが沸き起こる。あまりの事態に、捜査陣すら動き出すのが一瞬遅れた。阿比留も、時間が静止したように感じていた。
洋子はクルマに轢かれたかのごとく、床に激しく転がった。腕と脚が不自然に曲がっている。玲奈は鉄パイプを振りかざすと、洋子の身体めがけ垂直方向に打ち下ろした。鉄パイプは肋骨に命中し、硬い物の砕ける音が響いた。洋子はのけぞった。おぞましいほどに目を剥き、動物に似た絶叫を発した。
捜査陣がいっせいに飛びかかった。だが玲奈は鉄パイプを放りだすと、身をひるがえし建物の奥へと逃走していった。(松岡圭祐『探偵の探偵』)
北川景子が怒りにまかせて鉄パイプで(!)ボコボコにする相手は誰か。条件としては、北川さんよりはキャリアも演技力も、少なくとも二回りは上で、そして知的で美人で、個人的にはセクシーでなくてはいけない。実写版ファンとしては、ここは杉本彩を、と思っていたが、今回第2話の最後の方でキャストが明らかになった。………そうか、この人が北川景子に鉄パイプで頭を殴られ、肋骨をへし折られ、血まみれで絶叫するんだな。
相変わらず川口春奈さんのことをあれこれ言う方々が後を断たない。「川口春奈が足手まとい」とか言っている人々に断っておくが、当分は足手まといだから。川口春奈は原作第3巻の最後のへんで初めて、探偵になる、という強い意志を示す。それまでは、北川景子の足を引っ張るただのOLみたいな状態のままだ。まあそんなに川口春奈が嫌いなら、次回でボコボコにされるので、せいぜい楽しんで見てください。
原作の琴葉は、まだ読んでないけど第4巻ではもっとアクティブになっているはずである。それにドラマには、原作にない「川口春奈は北川景子の妹と同級生だったらしい」という設定も加わっているので、そのあたりと絡んで、後半にはもっと活躍してくれるんじゃないでしょうか。みんなが期待していなくても、名古屋支部は待っています。
というわけで本日の『探偵の探偵』はここまで。みなさまご案内の通り、視聴率的にはなかなか苦戦しているらしい。だが名古屋支部ではある程度の状況を見込んで、これまで『探偵の探偵』目標平均視聴率を7%としてきた。つまり平均視聴率が10%を越えれば「優」、7%を越えれば「良」、5%だったら「可」という評価だからね。「可」でも不合格ではないが、なんとか「良」をとれるよう頑張ってください。
当ブログはこれからもドラマ『探偵の探偵』を応援し続けます。
じゃ『ネオン蝶 第三幕』だ。
2. 宣戦布告
ここまでのおさらい。
母親を失い、小さい頃からあこがれだった叔母の佳代を頼りに上京した桜子。そんな桜子を文句ひとつ言わず引き取ってくれた「叔母さん」のために、彼女は自分の処女を借金の肩代わりに売られてもじっと耐えた。
ところが彼女は実の母親だった。しかもしばらく姿を消した後、どんな金づるを掴んだのか、銀座の一等地にクラブ『トレゾール』を開店、高額のギャラで他店の人気ホステスを引き抜きにかかっている。
『手毬』のナンバーワンである桜子にも、客のふりをした引き抜きの手が忍び寄った。彼の名は高杉。『トレゾール』のオーナーで、しかも佳代の昔の男だ。つまり桜子の実の父親だというんだからなかなかどうして。
高杉はどういうふうにしてか、香港の悪い組織とつながりをもって資金援助を受けることになったらしい。それで昔の女、佳代の夢を叶えてやる気になった。自分のために銀座ナンバーワンの座を捨てた女を、再び銀座の頂点に帰り咲かせてやりたい。それが『トレゾール』の野望だ。
一方、そんな親の身勝手に振り回されて生きてきた桜子は、事実を知って、かつては大好きな「叔母さん」だった人に「私、負けません。あなたたちには負けませんから」と対決宣言。
で、それでもやっぱり凹んで家路につく帰り道、いつものように平成ノブシコブシ吉村崇とばったり合って、いつものように吉村の会社の屋上で缶ビールを飲む(『ネオン蝶』四部作のどれにも一度はこの場面があって、吉村はいつもこの場面だけ出演して、一回目は自分が会社で失敗して桜子に慰められるが、以降はもっぱら、へこんでいる小松彩夏を激励する側にまわる)。
というわけで、ちょっと元気を取り戻した桜子、白の衣裳に身を包んでお店に登場。
桜子を気に入っているらしい自由党幹事長、川口(奥野匡)のテーブルに着く。
桜 子「お待たせしてすみません」川 口「なんだ、元気そうじゃないか」桜 子「なんですかそれ」
川 口「最近、桜子が元気がないっていうから、様子見に来たんだが、とんだ杞憂だったな」桜 子「そんな元気じゃダメみたいな言い方やめてください」
川口と一緒にいたのは野上社長。桜子にとっては初見の客で、銀座の靴磨きから初めて、一代でビルのオーナーにまで昇り詰めたという、いわば立志伝中の人物。演じているのは吉澤健。最近では北野武の『龍三と七人の子分たち』で、介護施設に入っている元ヤクザ「カミソリのタカ」を演じていた。
それからもう一人いる桜子の同僚ホステスの名前が、役名も女優さんの名前も分かんないや。しょうがない「同僚」にしておくか。
同 僚「こちら野上さん。「ドルフィン」ってクラブの経営者さんです」桜 子「初めまして桜子です」野 上「ああ、よろしく、あーあ」
桜 子「お疲れのようですね」野 上「ああ、そうか?ははは」川 口「今日は野上さんの激励会でね。野上さんがオーナーのビル、テナントがどんどん出てって、もう大変なことになっているんだよ」野 上「先生、先生、その話はよしましょう」
マ マ「トレゾールが入っているビルよ」桜 子「……そうなんですか……」野 上「この不況だろ。あの店に圧されてな、ばたばたと……」
他店のナンバーワンホステスを二倍三倍のギャラで引き抜き、店のサービス料金は他所より安いというのだから、流行らないわけがない。同じビル内に店を構えていた同業者たちは『トレゾール』に客を取られ、続々と撤退しているようだ。
しかし、そんなダンピングをしていたら『トレゾール』自身、いずれおのれの首を絞める結果になりはしないか。
川 口「確かに今のトレゾールの価格破壊は異常だ」野 上「あれだけのホステス揃えてあの価格ですからね。最初はどういうことかと思ったけど、だんだん分かってきましたよ、あいつらの狙いが」
マ マ「どういうことですか?」野 上「ああ、ビルを売らねえかって言って来やがった、トレゾールがさ」マ マ「え?」野 上「オーナーが店子にビル手放せって言われるとはな……屈辱だよ」マ マ「ビルを丸ごと手に入れて、勢力を拡大するつもりなのかしら……」
『トレゾール』は単なる足がかりで、はなから儲けるつもりはなかったらしい。採算を度外視した価格設定は、テナントを追い出してオーナーの野上を苦境に立たせ、ビルごと手に入れて銀座進出の拠点にしようという、香港マフィアの計略があったのだ。とはいえ、まだ川口も野上も、桜子も、バックに海外の資本があることまでは気づいていない。
マ マ「で、野上さんはどうなさったんですか?」野 上「そらもちろん断ったよ。苦しいけどね、あいつらと戦うだけの体力はまだ残ってますよ。この店はまだ大丈夫だな」
マ マ「ええおかげさまで。でもあっちこっちの銀座のクラブから悲鳴が上がっているのは聞いています」同 僚「ホステスの強引な引き抜きも相変わらずみたいです」野 上「そうか。それじゃあ銀座のネオンの灯を消さないためにも、おれがあのビルを手放すわけにはいかないな」
川 口「よし、野上さん、その意気だ!景気の悪い話は止めて、今日はおれのおごりだ。ママ、リシャール入れてくれ!」マ マ「ええっ、うわ、ありがとうございます。」
ヘネシー・リシャールってネット通販で買っても30万円くらいする。銀座の一流クラブでボトルを入れたら、まず100万円では収まらないよな。もちろん私は飲んだことがない。私はだいたいウイスキー党だからブランデーは要らないよ。負け惜しみに聞こえますか?
それはともかく、敵の狙いはいよいよ明らかになってきた。
仕事明け、桜子は、かつて池袋時代に心寄せたことのあるバーテン、松島(平川博晶)のことを思う。松島もいまは『トレゾール』のバーテンである以上、敵だ。だからきちんと決別の言葉を言わなければ成らない。
桜 子「今晩は」松 島「こんな時間に今晩はもないだろう。店なんてとっくに終わりだ」
松 島「飲んでくか?新作カクテルあるぞ」桜 子「いえ、結構です」松 島「じゃあ何しに来た」桜 子「私あのお店のやり方が許せません」松 島「宣戦布告か」桜 子「はい」松 島「所詮は弱肉強食だよ。カッコつけてちゃ生きられない。そういう時代になっちまったんだよ。銀座が変わっていくのも仕方のないことだ。生まれた時代が悪かったな」桜 子「私はそう思いません」松 島「え?」
松 島「勝手にしろ。俺はこの流れに乗るぜ」
桜 子「はい。だから松島さんのお酒はもう飲みに来れません」松 島「それを言いに来たか」
桜 子「それを言いに来ました。失礼します」
松 島「……案外つええな、あいつ……」
ちょっと嬉しそうな松島。
セーラーヴィーナス以来、意外と少なかったキリッと強気の小松彩夏。このシーンけっこう好きです。
3. 仁義なき乗っ取り
一方『トレゾール』側、というかそのバックにいる香港の組織も、計画が思うほど順調に進まないので少々じれている。札束で頬を叩いて銀座を制圧しようと思っていたものの、古き良き銀座を守ろうという老舗の抵抗勢力は意外にしぶとい。
まずは『トレゾール』の入ったビルを手に入れなくてはいけない。高杉はなんとか流血沙汰を避けたいと、オーナー野上を必死で説得するが、もちろんそんな自分勝手な理屈が通用するわけがない。
高 杉「じゃあどうしてもこのビルを手放さないと……」野 上「何度言われても答えは同じだよ。たとえテナントが全部出ていったとしてもだ、このビルは手放さん」高 杉「でしたらこちらとしても、もう一度金額を見直します、それで……」
野 上「金の問題じゃないって何度言ったら分かるんだよ。あんたらのやり方はな、この銀座で靴磨きからのし上がったこの俺の矜恃が許さんのだ」高 杉「あなたの気持ちはよく分かります。しかし私が言いたいのは……」野 上「トレゾールさんには契約期間が切れたら出ていってもらいましょうか」高 杉「野上さん、言う通りにした方が、あなたのためなんです」野 上「何だそれは?脅しか」高 杉「いいえ違います、私はですね」
野 上「だからこんな水掛け論、いくらやっても時間の無駄だ。とにかくビルは手放さん。あなたとのおつき合いも契約期間までだ」高 杉「ちょっと待ってください、野上さん」
交渉は決裂。となると、あとは実力行使しかない。物陰からあらわれる香港マフィアの手先、チンピラの湯川(修士 ex 2丁拳銃)。
湯 川「時間切れだな」高 杉「湯川さん、もう少し時間を……」
湯 川「もういい。あとはこっちに任せろ」
高 杉「ちょっと待って、頼む、もう少しだけ」
湯 川「くどい」
湯 川「これ以上待たすと、あんたの命も危ないぞ。俺だって分かったもんじゃない」
というわけで、これまで惚れたはれたの人情噺(?)がメインで進んできて、大きな事件としてはモロボシ・ダンの腹上死くらいだった『ネオン蝶』だが、いよいよVシネらしい殺伐とした展開を見せてくる。
湯川の雇った差し金が迫っていることも知らず、ビルの共用トイレで用をたしながら、携帯で善後策を相談中の野上社長。
野 上「いやいや、グダグダ言っている場合じゃねえだろ。とにかくテナントをなんとか入れねえことにはよ、あいつらの思うツボだぞ……」
野 上「いや、すまんすまん、俺もな、明日銀行行ってみるからな。ああ、じゃ頼んだぞ……ふう」
そこへやって来たのがヒットマン菊地健一郎。
この人、実は佳代の池袋時代の男で、この『ネオン蝶』には第1作からずっと出演している。最初はクラブ『佳代』のバーテンで、桜子にもいろいろ水商売のイロハを教えていたのが、佳代と別れてからは転落の人生をたどり、とうとう人殺しに手を染めるまで至ったわけだが、このレビューではぜんぶ省略してしまった。すまん。
菊地健一郎といえば、私なんかにとっては、『僕らの七日間戦争』(1988年、角川映画、脚本・監督:菅原浩志)で、まだ幼さの残る宮沢りえとの爽やかなカップル姿がお似合いだったあの子である。
その後日テレの『代紋 TAKE2』なんかで、的場浩司の調子のいい舎弟なんかを演じていたのを見て、ヤクザ稼業に染まったかと思ったら、『ネオン蝶』では、ヒモにまで身を落として、ついにはわずかな金のために何のうらみもない人を刺すところまで落ちぶれた。
『手毬』でも酒が入ると、孫の自慢話ばかりしていた野上社長。最後にその最愛の孫の写真に手を伸ばしつつ、トイレの床で果てるのでありました。
4. 決意
野上社長の葬儀の帰り道。節子ママと桜子と川口先生がそぞろ歩き……保守党の幹事長なのにけっこう気さくだな川口先生は。SPみたいなのも二人しかいないし。
あとは一気にラストシーンまでご覧いただこう。
桜 子「あの子 “じいじ、じいじ”って」マ マ「あんな小さな子供でもぜんぶ分かっているのよ」川 口「可哀想で見ていられなかったよ」
マ マ「先生、野上さんの奥さまと話していらっしゃいましたよね」川 口「うん……やっぱり、ビルを手放すことに決めたそうだ」マ マ「やはりトレゾールが」川 口「ああ、そう言っていた。相場の倍近くの金額だったそうだよ」マ マ「本当にそんなお金、どこから……」
桜 子「あの……野上さんを殺したのって……もしかして」川 口「滅多なこと言うもんじゃないよ。見たろう、佳代たちの顔。いくらなんでもあの二人にそんなことできるとは思えないよ」マ マ「そうね。でも結果としてトレゾールが銀座制圧の足がかりをつかんだ」川 口「何か大きな力が動いているようだな」マ マ「桜子どうする?今日はお店、休んでもいいわよ」
桜 子「いえ行きます。私、負けません。あの人には負けたくない」
マ マ「……わかったよ。じゃあお客さんの前でぜったいにそんな顔、見せたらダメだよ」
桜 子「はい!」
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高 杉「少し飲めよ」佳 代「いい」
高 杉「大丈夫だよ。お前のことは俺がぜったい守るから」
高 杉「佳代、何してんだ」
佳 代「女の子たちに電話して。お店、開けるわ」
佳 代「あの子には負けられない。銀座一のネオン蝶は私よ」
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以上『ネオン蝶 第三幕』でした。
がしかし、事態はすでに「女の戦争」とか「母子の確執」という段階を越えてしまっていた。なにしろ、引き抜きになびかず、いやがらせにも抵抗するクラブの人気ホステスたちが夜道で襲われ、ひどい傷を負うという事件が続発している。そして最も狙われているのは、いまや古き良き銀座を守る象徴とも言えるクラブ『手毬』であり、その若きナンバーワン桜子なのだ。
果たして桜子の運命は?
次作、完結編『ネオン蝶 第四幕』をお待ちください。
【作品データ】『ネオン蝶 第三幕』2013年10月4日リリース/製作:シネマパラダイス、テンダープロ/77分/ビスタ<スタッフ>制作:夏山佳久(シネマパラダイス)/営業統括:木山雅仁(オールインエンタティインメント)/エグゼクティブプロデューサー:井内徳次/プロデューサー:小林良二/キャスティングプロデューサー:夏山牧子/キャスティング協力:矢野彰/原作:『ネオン蝶』(芳文社刊、作:倉科遼・作画:東克己)/制作担当:小泉剛/助監督:伊藤一平/脚本・監督:城定秀夫/撮影・照明:田宮健彦/録音:小林徹哉/音楽:林魏堂/編集:金子尚樹/衣裳:石月奈々子/あいはら友子担当メイク:白土和恵/フルート演奏:Shizuka<キャスト>小松彩夏/あいはら友子/小沢和義/奥野匡/吉澤健/大口兼悟/今井メロ/粟島瑞丸/手塚麻結/高山サラサ/半仁田みゆき/川村明香/石原理恵/高杉心悟/太田雄路/三谷ありさ/伊谷亜子/水川真理/崎本実弥/平川博晶/吉村崇(平成ノブシコブシ)/修士(2丁拳銃)/大島葉子