実写版『美少女戦士セーラームーン』ファンブログ


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【第510回】DVD第3巻:Act.12の巻(18)

1. ジャズと芸者とハワイアン



 NHK開局90周年記念ドラマ『紅白が生まれた日』(脚本:尾崎将也、撮影:細野和彦、演出:堀切園健太郎、2015年3月21日放送)。録画したものの『M14の追憶』のレビューで泉里香の出番がほとんどないと知って放置していた。ようやく観たんだけど、けっこう面白かった。考えてみれば、NHKが手間ひまかけて「紅白歌合戦の誕生秘話」をドラマ化するというんだから、面白くならないわけがないか。演出の堀切園健太郎(『外事警察』『ロング・グッドバイ』)以下ドラマ制作スタッフのレベルは高いし、いわゆる「親方日の丸」の会社なので、良い役者をそろえるのに苦労はなさそうだし、資料は自分の勤め先に全部ある。いや資料はそんなになかったかもな。
 最初の紅白、つまり昭和20年(1945年)にラジオ放送された「紅白音楽試合」は、終戦直後の混乱期に放送されただけあって、音源はもちろん、台本も残らず、その内容については不明な点が多い。曲順もわからないし、高峰秀子みたいに、出たんだか出なかったんだか判然としない人もいる。審査員はいなくて、勝ち負けの判定もなかったようだ。
 ともかく、ドラマはこのへんの「史実はよく分からない」部分を、うまいことフィクションに膨らませていた。紅組司会の水の江瀧子さんが2009年、「古き花園」を歌った二葉あき子さんが2011年に亡くなられ、リアルタイムを知る関係者もほとんどいなくなってから感動的なドラマ化。なんか「死人に口無し」って感じもしなくはないけど。



 主人公は実在のNHKディレクター近藤積、ではなくて、近藤をモデルにした進藤達也(松山ケンイチ)。敗戦直後に新しい歌番組の発案を命じられ、「男女が対等に競い合う」という戦後民主主義なコンセプトの企画を立ち上げる。彼をアシストするヒロインが、元アナウンサーのNHK職員(本田翼)。こっちはおそらく架空の人物だろう。この二人が歌手のみなさんに出演交渉する場面で、泉里香を見ることができる。



 ディック・ミネさん。「ディック」というのは英語のスラングで男性のアレである。学生時代、彼の巨大な一物を見たアメリカ人教師の言葉がきっかけで、この芸名になったという。今で言うと「玉袋筋太郎」みたいな感じですかね。



 そしてこっちは日系二世のベティ・稲田さん。ドラマのなかではディック・ミネのバカな愛人っぽく描かれているけれど、むしろ当時は事実上の夫婦じゃなかったか?
 まあ私はこのあたりの歴史的なディティールに詳しくないので分からない。齋藤燐『昭和のバンスキングたち』(ミュージックマガジン社、1983年)、瀬川昌久『増補改訂版 ジャズで踊って=舶来音楽芸能史』(清流出版社、2005年)といった本にいろいろ書かれていて、すっごく面白かったと記憶しているので、ご存知ない方はぜひご一読を。



 ちなみにベティさんは、ジャズもさることながら、日本にハワイアンを定着させた功労者でもある。戦時中も憲兵たち相手に「フラダンスは敵国英米のダンスではなく、ハワイの伝統的な民族舞踏だから」と主張して踊り続けたというのだから凄い。



 このブログの目的は泉里香の出演シーンをチェックすることなので、ドラマへ行くね。ディレクターの進藤(松山ケンイチ)とアシスタントの光江(本田翼)は、ディック・ミネ(遠藤要)とベティ・稲田(泉里香)のもとへ赴き、「紅白音楽試合」のコンセプトを説明する。

 


ミ ネ「……男女対抗……」




ミ ネ「面白い!」




ミ ネ「コイツも出してよね」



進 藤「……あ……」
光 江「……もちろんです!」



ベティ「男女で分かれるなんてイヤよ」



ベティ「この人と同じ組がいいわ」



進 藤「いやいやいやいや…、そ、それはちょっと……」
光 江「なかなか」

続いてこの人も登場するので紹介しますね。「江戸小歌の市丸姐さん」こと市丸。近衛文麿の愛人だったことで有名な人だ。




芸者出身の歌手の代表者のひとりで「三味線ブギウギ」なんてヒット曲がある。この人をドラマで演じているのはセラミュ二代目セーラームーンの原史奈。



市 丸「戦争中は、“芸者あがりはフラチだ”って非国民よばわりされていたのに……時代も変わるものね」




市 丸「こんな日が来るなんて……」


  感激に泣き崩れる市丸。この似合っているんだかいないんだかイマイチ分からないけど、とりあえず綺麗だからいいや、という感じがセラミュの時のうさぎちゃんと一緒。でも基本的にNHKではリラックスして良い芝居してますよね、この人。
 余談だが、こういう「芸者出身の歌手」は、かつて日本歌謡界のトレンドのひとつだった。1952年(昭和27年)には、江利チエミの「テネシー・ワルツ」に対抗して、神楽坂はん子が「ゲイシャ・ワルツ」をヒットさせている。そして江利チエミも逆に「芸者上がり」みたいなコンセプトで曲を発表している。


 
そういう流れがあったことを踏まえないと、たとえば昭和30年代に、芸者出身でもなんでもない五月みどりがなぜ芸者っぽいイメージで「おひまなら来てね」を歌ったり、和田弘とマヒナスターズが「お座敷小唄」を歌ったりしたのかが分からなくなる。別に分からなくても困らないかも知れないが。
 というわけで、あと泉里香の出番はないみたいなので、1945年(昭和20年)12月31日、紅白音楽試合放送当日のところまで話を進める。本番当日、ラジオ生放送も佳境に入ったところで、なんとトリの二人がスタジオに間に合いそうもないことが発覚する。慌てて進藤のもとに知らせに行く後輩の山川(菊田大輔)。



山 川「進藤さん大変です。ディック・ミネさんとベティ稲田さんが来てません」



進 藤「え?」


 出場予定だったディック・ミネとベティ稲田の二人が、横須賀で進駐軍の兵士たちを相手にライブをやっていて、アンコールを繰り返されて紅白の収録スタジオに来られなくなってしまった、というのは事実だそうである。その穴埋めで、司会の水の江瀧子と古川ロッパが急遽トリを歌うことになったそうで、ロッパの日記によれば、かなりグダグダの展開だったらしい。
 今回のドラマ版はそのあたり、ディック・ミネの性格的な問題も大きかったような描き方をしている。



ミ ネ「そうなんだよ……」



ミ ネ「ウェイト、ウェイト」



進 藤「ディックさん? もしもし、もしもし?」



ミ ネ「もう、この後も次の仕事がある、って言っているのに、放してくれなくてさ」



進 藤「え……ちょっと……ディックさん?」



ミ ネ「そういうことだから」




 という感じで、わりとディック・ミネが気まぐれですっぽかしたようなニュアンスになっている。あるいはディック・ミネ自身がそういうふうに、自分の武勇伝っぽく語っているのかも知れない。たぶんそうだろう。
 しかし普通に考えて、敗戦したまさにその年である。たとえNHKの仕事が待っていたとしても、進駐軍の米兵さんたちのアンコールを断ることなど、ディック・ミネだろうが誰だろうが、できなかったろうなとは思います。
 まあ、泉里香の出番は以上なのでレビューもこれで終わるが、だいたいどんな内容かお分かりいただけたかな。朝のテレビ小説と同様、時代考証を細かく言い出したらいろいろ「?」な点もあるけど、ジャズ、童謡、宝塚、お座敷芸者歌手、さまざまなジャンルのるつぼである日本の歌謡曲を振り返る上で参考になる、楽しいドラマでした。主演は、形の上では松山ケンイチ、そして本田翼なんだろうけど、事実上、並木路子を演じたmiwaがヒロインだったと思う。



 ひょっとしてNHKは次の朝ドラでmiwaを主題歌に起用し、さらに出演もさせるつもりではないか。

2. サックリ終了したかったんだが


 んで悪いけど、 用事もありますので、あとはAct.12の取りこぼしをさっとまとめて終わりとしたい。
 ついに登場したプリンセス(ということになっている)セーラーヴィーナス。吼えるネフライト。登場する白猫。



ネフライト「ようやく現れたな。それが幻の銀水晶か!」



アルテミス「近寄るな! 月の王国シルバーミレニアムのプリンセスにして、幻の銀水晶の後継者、セーラーヴィーナス様だぞ!」





セーラームーン「プリンセス……セーラーヴィーナス」



ネフライト「(妖魔に)行け! 幻の銀水晶を奪え!」





ル ナ「みんな、プリンセスを守って!」


 と、これに対する台本のト書きは「妖魔の前に回り込むマーキュリーとマーズ」というシンプルなものだが、完成作品ではこうなっている。






 さらに、台本ではここで「ムーンヒーリングエスカレーション」を発動することになっている。でもヒーリングは、人間に取り憑いた妖魔を追い出す効果のある技なので、これは台本のうっかりミスか。完成作品では「トワイライトフラッシュ」に変更されています。



セーラームーン「ムーントワイライトフラッシュ!」





ネフライト「くそ……!」

 
 だがその時、ヴィーナスを狙って闇から浮かび上がるおぼろげな姿が。



 ゾイサイトだ!
 というところで、ホントにあとちょっとでエンディングなんだけど、私これから出かけなきゃならない。あいかわらずブログ書く時間配分を間違えて、『紅白が生まれた日』に手間ひまかけ過ぎた。すみませんが以下次回。