実写版『美少女戦士セーラームーン』ファンブログ


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【第489回】北川景子『みをつくし料理帖』リターンズ大完結編・人の巻


フジテレビ木曜午後10時、石原さとみ主演『ディア・シスター』第1話(2014年10月16日放送)の冒頭。婚姻届を出すというので舞い上がっちゃっている新婚バカップルのヨメのほうが沢井美優。ダンナ役が株元英彰。記念撮影までしちゃってもらって、なんだかなぁ。
それから『キスマイBUSAIKU』でお姫さま抱っこされる泉里香も間もなく登場。みんな見たいのか見たくないのか分からないが。








 さあ今回をもって『みをつくし料理帖』レビューも最終回。ええ終わらせますとも。よけいな話で道草食うのはやめて、さっそく本題だ。
 あわや男に刺されそうになったところを、あさひ太夫に助けてもらった遊女、菊乃。身体を張って守ってくれた太夫への恩義から、幼なじみの澪との再会をなんとか果たしてやりたいと「狐の行列」の一計を案じた。吉原西海岸の稲荷神社に詣でる女狐たち、という設定の行列のなかに澪を呼び込み、ほんとうにわずかなあいだだけではあるが、太夫と澪が二人きりで対面できる場を作り出したのだ。
 

1. 幻の女



 うちのテレビのチャンネル権は女房子供が握っているので、片山修のドラマをそんなにたくさん観ているわけではないが、観た作品はどれも好きだ。『バーテンダー』もそのひとつで、これは主人公が相葉雅紀で、うちの女房が嵐のファンなので、だいたい全話を視聴することができた。主人公の天才バーテンダーにひそかに想いを寄せている(んだけど本人に自覚があるんだかないんだか分からない)雑誌記者役をやったのが貫地谷しほりだった。嵐のメンバーなかでは、まあ庶民派というか、そういう相葉雅紀を上手に引き立てつつ、すごく清楚で可憐なヒロインを演じていた。



 それまで私は、貫地谷しほりというと『キミ犯人じゃないよね』『ブザー・ビート』くらいしか知らなくて、達者なコメディエンヌだと思っていたんだけど、この『バーテンダー』で、こりゃフトコロの深いひとだな、と舌を巻いた。正統派美少女の繊細な芝居も難なくこなしていたのだ。



 そういう意味では天才肌の女優さんだと思うが、ただ、『バーテンダー』と『みをつくし料理帖』を並べてみると、両者に共通する可憐さは、演出家の片山修が貫地谷しほりに抱いているイメージなのかな、とも思う。
 前作の制作発表の段階から、澪が北川景子であさひ太夫に貫地谷しほり、という配役について「違うだろう」「逆じゃないか」というような声が多かった。私はまあ、そもそも北川景子が主演だから『みをつくし料理帖』に関心をもった人間なので、そこまでは思わなかったけど、確かに原作を読んで、あさひ太夫の配役については「?」と思った。しかし、その存在そのものが謎といわれる「幻の花魁」の美しくはかないカゴの鳥のイメージは、片山修のなかでは、むしろ真っすぐ貫地谷しほりに結びついたようだ。キツネの行列に誘い込まれた澪が、ほんの一瞬だけ野江に再会する場面の、夢幻のような演出を観ていると、そうとしか思えない。 




「……澪ちゃん……」




「……野江ちゃん……」



「やっと、やっと会えた」



「澪ちゃん、ありがとう」



「え?」



「おいしかった。おいしくて涙が出た」



「野江ちゃん……」



「ありがとう」




「野江ちゃん!」








 トシのせいなんでしょうか、私ここ何度見ても貰い泣きしてしまいます。

2. 絶賛回し読み中


 ずっと願っていた再会は、狐にだまされて見た夢のように、ほんの一瞬の出来事だった。そして久しぶりに会った幼なじみは、あの頃と違って、とても淋しそうな目をしていた。それでも願いが果たされたことに違いはない。やはり「幻の花魁」は野江だったのだ。
 というあたりで、今回のお話はおしまい。あとはエピローグである。
 泄痢さわぎで客足がぱったり途絶えた「つる家」が、再び人気を取り戻すまでに、そう時間はかからなかった。吉原でのハモ料理対決の、いわば影の仕掛け人ともいえる戯作家の清右衛門が、これまでの澪をモデルにした読本『江戸女料理人美譚』を坂村堂より上梓、これが大ベストセラーとなったのである。




 これについては『M14の追憶』にも書かれていたことの繰り返しになるけど、当時の日本の庶民階級の識字率の高さというのは、これは世界に誇れる文化だと思うので、やはり強調しておきたい。
 もちろん、坂村堂の店先で新刊本が飛ぶように売れるという表現は、どうやらフィクションのようである。いや私も詳しくは知らないが「Informe」というDTP出版の会社のサイトに「江戸の印刷文化史」という面白いコラムがあって、これが分かりやすかった。ちょっと引用させてもらおう(オリジナルは


 そういう意味で、リアリズム重視の演出家なら、もう沢山のひとの手を経て、表紙がすり切れてクタクタになった『江戸女料理人美譚』を長屋の人たちが読んでいる、みたいなシーンを入れて、その評判ぶりを表現したんだろうね。でも、さっきの澪と野江の再会シーンでもおわかりのように、片山修の演出は、わりと綺麗なビジュアルを重視するので、ここではおりょう(室井滋)も、ふきちゃん(石井萌々果)もご寮さん(原田美枝子)も、パリパリの新刊書を胸に抱えて笑っている。このドラマはこれで良いわけです。とにかく江戸時代は、そのくらいみんな本を読んでいたということが伝われば良いのである。
 たぶん日本の文化は、こういう一般層、庶民階級の教養の高さによって底から支えられるかたちで成り立っていて、そのてっぺんの方には、ノーベル賞を獲ってしまうような選ばれた才能がいるのだと思う。だから、底辺の部分が地盤沈下を起せば、頂点の水位も相対的に下がる。ちょっと乱暴な見立てだけど、そうなんじゃないか。
 でも現在の政府、というか下村文部科学大臣なんかの考え方は、ノーベル賞とかを獲れそうな頂点の才能にお金をつぎ込み、重点的に育てて、逆に底辺の方は切り捨てていく、というものである。ちょっと乱暴な図式化ではあるけど、たとえばSTAP細胞みたいな先端研究をやっているところに多額の予算を組む一方、Fラン大学なんかは助成金を打ち切って、まあ潰れてもしょうがないや、みたいな。これも一理はあると思うが、ボトムの部分で日本の教養を下支えしている底辺の力持ちを全面的に枯渇させて、それでいいのかニッポン、なんて、すみません何でこんな話になったかな。まあともかく、庶民の教養は文化の宝庫です、という話でした。『みをつくし料理帖』に戻るね。

3. 女でも買えます



 長屋の人々も争って読みふけるほど『江戸女料理人美譚』が大ヒットして、作者の清右衛門先生(片岡鶴太郎)もさぞやご満悦だろう、と思いきや、自作の評判のせいで「つる家」は連日の満員。混んでいるし、なかなか料理は出てこないしで、それもこれも、自分があんな本を書いてしまったからだと、苦虫を噛みつぶしたような表情で「さっさと飯を食わせんか」と澪に苦情をこぼしている。
 「すみませんただいま」と店先に出た澪の顔が、ちょうど入ってきた客を見てぱっと輝く。小松原だ。





 澪 「いらっしゃいませ!」


というわけで、小松原様は食事を終えると、澪をちょっと連れ出す。つる家の人々には、小松原様と澪の仲は、いわば「公認の秘密」みたいな感じなのだろう。実際の撮影ロケーションは羽束師堤。京都の、伏見区だったかな。



小松原「鱧をさばきに吉原に入ったそうだな」
 澪 「はい。八朔の日、あの場所で幼なじみの野江ちゃんと会いました」



小松原「幼なじみ……」
 澪 「八つの年に生き別れた友だちです。いま思うと、あれは夢やったのではないかと思うほど、一瞬の出来事で……」



 澪 「でも、うちは会えたからというて、野江ちゃんをあの場所から救い出す事も出来ひん」


╳    ╳    ╳




╳    ╳    ╳


 澪 「近くにあるのに遠い場所です」



小松原「吉原では、金を積めば、女であっても遊女を身請け出来ると知っているか?」



 澪 「え?」



小松原「お前もいつかその料理の腕で金をため、身請けしたらどうだ?その幼なじみの遊女を」



 澪 「まさかうちにそんな事が……」
小松原「出来るかどうかは試してみるがいい。道はひとつきりだ」




 女でも金さえあれば、幼なじみの遊女を身請けして、自由にしてあげられる。たしかに理屈は通っているが、なかなか大胆な発想だ。
 第10巻をもって完結した高田郁の原作本が、短篇連作という形式なのに、一作ごとにちゃんと物語内の時間が少しずつ進んでいて、だから全体として、ゆったりと進む長編の趣きも持っている、という話はすでに書いた。その長編としての全編を通じてヒロインが抱いているテーマが「いつかあさひ太夫の身請けをする」なのです。これけっこう秀逸なアイデアだと思いませんか。私はまだ最終作を読んでいないのだが、当然この話がメインになっているはずである。
 で、原作では、その身請けのアイデアを澪に吹き込むのは戯作家の清右衛門ということになっていたと思う。確かに、こういう突拍子もない提案は、お武家様よりも戯作者から出てきた方が素直に納得できますよね。でも、このテレビ版はなんといっても「北川景子と松岡昌宏のドラマ」なのだ。というわけで当然、この大事なセリフの伝え手は松岡君になったわけです。
 ところでこのレビューを書き始めた時に、このドラマがビデオソフトにならないのは、松岡昌宏サイドからストップがかかったせいじゃないか、と書いたことがある。松岡君が、はるか後輩の北川さんの引き立て役をやるのがNGとか。ほかに理由が思いつかないので、苦し紛れに書いたんだけど、こういうシーンをみると、やっぱり違うよなと思う。小松原は澪のあこがれの人だし、いちばん大事なアドバイスをしてくれるし、別に何も問題はない。やっぱり「原作責任者」の方が問題かな?
 原作者の高田郁さんとは別に、「原作責任者」として鳥原龍平(角川春樹事務所)の名前がクレジットされているところから考えて、おそらくドラマ化にあたっての交渉窓口は、原作者ではなくて角川春樹事務所のこの人なのだろう。出版の時点でそういう契約になっていたのかも。そのあたりにビデオ化できない秘密がありそうな気がするが、じゃあ具体的にどういう事情か考えてもよく分からない。角川春樹が神のお告げで「ビデオ化するな」と言ったのかも知れない。

4. 大団円



 まあいいや。エピローグのエピローグ。いよいよエンディングだ。つる家のみんなでお月見、ロケ地はやはり京都は嵯峨野、大覚寺天神島だ。




松岡昌宏の活躍でわりを食っちゃって、前作よりさらに出番が少なくなった平岡祐太もちらっと姿を見せる。



 澪 「うちはいい気になっていたのかもしれません」
 芳 「え?」
 澪 「料理番付を取り、知らず知らずのうちに、つる家という店の看板を背負っているような気になり……」



 芳 「澪……」
 澪 「せやけど、それは違う。うちはみんなに支えられて、ようやく立っているようなもんなんです」



 澪 「ご寮さん。うちはこれまで以上に料理に励みます。このつる家を大きいして、一人前の料理人になることが、やがて天満一兆庵の再建につながる」



 澪 「そうしたら若旦那さんも、噂を聞き戻ってきてくれるかもしれません」



 澪 「いえ、きっと戻ってきてくれはります」






 澪のアップに「制作 TVasahi 東映」のクレジットが出て終了。ちょっと唐突な終わり方だ。だって最近のドラマって、ふつうエンディングでスタッフ・キャストのクレジットが、延々と画面下の方に出てくるよね。それがない。何にもないのが、ちょっと謎。いろいろと謎の多いドラマなんである。
 が、しかし、ブレのないキャスティングとビジュアル重視の端正な演出で、ドラマ自体は明快で、今回もウェルメイドな世界を堪能させていただきました。北川景子さんも肩ひじ張らずに良い仕事をした。
 以前に書いたことだが、森田芳光監督(2011年12月、61歳で歿)は、2007年に黒澤明の名作をリメイクした『椿三十郎』、2010年には『武士の家計簿』と、比較的晩年になって2本の時代劇を手がけている。これらは習作的な意味合いが強いと私は思う。つまり森田監督って、還暦を迎えたら現代劇より時代劇の方にシフトするつもりがあったのではないか。そのための準備運動として『椿三十郎』『武士の家計簿』を撮ったんじゃないか、というのが私の臆測だ。さらに続けさせていただければ、そのあり得たかも知れない森田時代劇のなかで、北川景子に用意されていたポジションは、ヒロインではなく、脇を固めるちゃきちゃきの町娘的な役回りだったと思うのだ。森田監督の急逝によって私の妄想は文字どおり妄想のままついえてしまってすごく悔しい。『の・ようなもの』の続編は、それなりに価値のある仕事だと思う。でも『間宮兄弟』もある意味『家族ゲーム』の続編みたいな映画だったから、このままでは森田映画の続編女優になってしまう。北川さんにはぜひ、時代劇をがんぱってほしいと思う。なんか私の言っていること、変かも知れない。
 ともかく、北川景子の時代劇は今のところ『花のあと』と、この『みをつくし料理帖』2作だけである。今後、もっと時代劇を撮れるようになるといいですね。勝手に予言するが、北川さんはあと3年くらいでNHKの大河ドラマのヒロインに抜擢されて、初めて一年通して時代劇を演じることになる。しかしこれはイマイチ視聴率がふるわない可能性が高い。だから我々は全力で支援する(そこまで予言するな)。北川景子の時代劇が花開くのはここからあとで、つまり30代の仕事ということだ。がんぱれ!



【作品データ】『みをつくし料理帖』(サブタイトル)「260万部突破の時代小説ドラマ化!!食こそ命を繋ぐもの…江戸に現れた天才女料理人VS死の病!!吉原遊郭に潜入!!究極のハモ対決ベストセラー映像化」/2014年6月8日(土)21:00-23:10放送/製作著作:テレビ朝日、東映
<スタッフ>ゼネラルプロデューサー:黒田徹也(テレビ朝日)/プロデューサー:中川慎子(テレビ朝日)、 丸山真哉(東映)/原作:高田郁「みをつくし料理帖」『花散らしの雨』『想い雲』(ハルキ文庫)/原作責任者:鳥原龍平(角川春樹事務所)/脚本:吉田紀子/撮影:朝倉義人、今西貴充/監督:片山修/音楽:神坂享輔/【製作】プロデューサー補:古草昌実/制作主任:谷敷裕也/制作担当:芦田淳也/ 【演出】助監督:濱龍也/記録:井坂尚子/【音楽・音響】音楽プロデューサー:志田博英/整音:桜田佳美/音響効果:荒木祥貴/和楽:中本哲/【撮影技術】照明:東田勇児/録音:佐俣マイク/編集:藤田和延(J.S.E)/VE:木子尚久/VTR編集:奥村裕介/【美術】美術:倉田智子/装置:小高良太/背景・塗装:小林正敏/装飾:長谷川優市呂/建具:中島英來/持道具:井上充/小道具:高津商会/衣装:鈴木澄子/美粧:櫨川芳昭(東和美粧)/メイク:穐田ミカ(北川景子担当)、石田伸(原田美枝子)、堀ちほ(室井滋担当)/結髪:北川真樹子(東和美粧)/かつら:山崎かつら【そのほか】編成:尾木 晴佳(テレビ朝日))/宣伝:平野三和(テレビ朝日)/コンテンツビジネス:新井麻実(テレビ朝日)/スチール:日浦麻子/ホームページ:板橋由佳里/VFX:キルアフィルム、オムニバスジャパン/タイトルバック:山本貴歳(テレビ朝日)/フードコーディネーター:深沢えり子/方言指導:一木美貴子、あきやまりこ/舞踊振付:猿若加於理/所作指導:星野美恵子、木谷邦臣/殺陣:清家三彦(東映剣会)/演技事務:川口彩都美/料理協力:辻調理師専門学校/資料提供:徳川記念財団、『江戸の食と暮らし』洋泉社、味の素食の文化センター、エディキューブ/撮影協力:大覚寺、上賀茂神社、随心院、東映太秦映画村、東映俳優養成所
<キャスト>澪: 北川景子/少女時代の澪:小林星蘭/芳:原田美枝子/嘉兵衛:笹野高史(回想)/永田源斉:平岡祐太/小松原:松岡昌宏/あさひ太夫:貫地谷しほり/野江(少女時代のあさひ太夫):谷花音 /翁屋の又次:高橋一生/おりょう:室井滋/伊佐三(おりょうの亭主):浜田学/太一(おりょうの子・子役):五十嵐陽向/富三:光石研/坂村堂:田口浩正/菊乃(遊女) :黒川智花/男客:玉置孝匡/遊女:矢沢華奈子/ふき:石井萌々果/采女宗馬:宅間孝行/登龍楼板前 末松:大高洋夫/登龍楼板前長:日野陽仁/佐兵衛(天満一兆庵若旦那):佐藤峻/中道裕子、小泉敏生、床尾賢一、渋谷めぐみ、浅田祐二、加藤重樹 、井上久男、小林茉利江、村上進哉、高橋幸聖(子役)、高野由味子、櫻井忍 、川鶴晃裕、鎌森良平、三浦憲世 いわすとおる、内藤邦秋、山根誠示 /清右衛門:片岡鶴太郎/種市:大杉漣/翁屋伝右衛門:本田博太郎/ 語り:吹越満