実写版『美少女戦士セーラームーン』ファンブログ


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【第474回】北川景子『みをつくし料理帖』リターンズの巻(中編)



 周防正行監督『変態家族 兄貴の嫁さん』(1984、国映=新東宝)。ピンク映画による小津安二郎のパロディという変わり種。小津映画の原節子が嫁にいった先が変態家族だったという、それ以上でもそれ以下でもない作品なんだけど、あの周防監督のデビュー作であり、しかも公開当時あの蓮實重彦先生が絶賛したということから、今ではカルトムービー化している。見どころは、小津映画でお馴染み、笠智衆モドキを当てられた大杉漣の怪演。私は大杉漣という俳優を、たぶんこれで記憶に刻んだ。



1. 人大杉


 今シーズン(2014年4月〜6月期)のテレビドラマ視聴率競争は「原作・池井戸潤」の圧勝だった。日テレ『花咲舞が黙っていない』が関東の平均視聴率16%、そしてTBSの『ルーズヴェルト・ゲーム』が14%。けっこうな数字であるが、昨年の『半沢直樹』が最終回40%越えなんて記録を出したので、これでも「まずまず」としか言われないのはかわいそうである。
 私は『半沢直樹』はほとんど観なかった。日曜の午後9時台なんて、息子と風呂に入って出て、髪を乾かしてから学校の宿題(なぜそんな時間に?)を一緒にやっているうちに過ぎてしまう。
 それでも最終回は半分くらい観た。印象に残ったのは、悪役の香川照之が、いよいよ明日、主人公の堺雅人と決着をつけるという前夜、自宅でひとり小津安二郎の『東京物語』を観ていた場面だ。奥さんが顔を出して「また100万ほど用立ててもらえる?来週新作の買付でミラノなの」なんて軽く言ってのけて、香川照之は何とも言えない表情で、小津のホームドラマを観続ける。





 香川照之は家族愛に飢えている。本当は夫として妻から愛され「家庭」を築きたいのだ。だから妻の道楽みたいな事業のために、危ない橋を渡って資金繰りをして、そのために職場での地位すら危うくしている。なのに夫をATMとしか思っていない妻は、さらに100万円の金を、あっけらかんと要求する。私は出合い頭にこのシーンを観て香川照之に同情してしまった。だからクライマックスの土下座も「何もそこまでさせなくても」なんて思って、いまいち楽しめなかった。
 で、今シーズンは、妻が観ていた『花咲舞が黙っていない』(日本テレビ、水曜、午後10時)を何話か一緒に観た。まあ基本路線は『半沢直樹』と同じような話ではあったが、主人公が女の子(杏)、脚本も女性(松田裕子、江頭美智留、梅田みか)だけあって、わりとさっぱり風味というか、やれ倍返しだ土下座だといったネチネチしたところがなくて、私はこっちの方が楽しかったな。それに第4話には2013年ひと夏だけの水野亜美、松浦雅がゲスト出演していたし。




 杏と松浦雅といえば、世間一般ではNHK朝の連ドラ『ごちそうさん』の母娘コンビということになるだろうが、私は前にも書いた通り、杏にセーラープルートをやって欲しいと思っていたので、頭の中では珍しいマーキュリーとプルートのツーショットだった。杏とコンビを組んでいる上川隆也がタキシード仮面でもOKだな。





 そして最終回。これも『半沢直樹』の堺雅人と同様、最後に花咲舞(杏)がちょっとした演説をぶつわけだが、それに聞き入っている後ろのイケメン銀行員、アレッと思ってよく見ればクンツァイトじゃん。





  ベリル様は動物愛護活動のために法人を立ち上げるし、ダーク・キングダムもみんな更生したなぁ。増尾も仕事がんばれ。



 さて『花咲舞が黙っていない』で、ヒロイン舞のお父さんを演じていたのがこの人。



 居酒屋経営。料理の腕は確かで気立てはよい。そして同じシーズン内に放送された『みをつくし料理帖』でも、時代が江戸時代に移っただけで、だいたい同じような役をやっている。



 ちょっと眉毛を描き過ぎではないかとは思うが、ともかく大杉漣もあれから20年、今では重鎮ですね。
 というわけで、イントロに『変態家族 兄貴の嫁さん』を出したのは、たんに「小津経由大杉漣行き」って話がしたかっただけでした。すみません。いいかげん本題に入ります。

2. 俎橋から ほろにが蕗ご飯


『花のあと』より、これが最初で最後の恋


 前回の最後で、なぜ北川さんは時代劇でも髪の色を普段のままにしておくんだろう、とつぶやいたところ、コメント欄でNakoさんからご報告をいただいた。ご本人がフェイスブックで、今は時代劇でも不自然な黒髪にせず、かつらだって顔色等に合わせて作る、などと書かれているそうだ。「不自然な黒髪にせず」っていうフレーズがなるほどという感じだ。「時代劇なのに黒髪じゃないのは不自然」というオジサンの考えはもう古いのである。
 こういうドラマ制作の傾向は、髪の色のような外形的な面だけではなく、行動様式など全般に広くあてはまるのではないか。時代劇にせよ、大正や昭和初期を舞台にしたドラマにせよ、近年は「この時代の人はそんなこと思いつきもしないだろ!」と突っ込みたくなるくらい、主人公のキャラクターが現代的である場合が多い。おそらく、当時の常識やモラルどおりに動く人物は「不自然」になるから、視聴者にダイレクトに共感してもらえる、現代的なセンスの人物を出した方がいい、という考えなのだろう。



 そういう意味では、この『みをつくし料理帖』の澪だって相当なものである。女ながらに料理人としての腕を磨き、やがては上方の名店「天満一兆庵」の再興を目指している。ライバルの老舗料理店のアコギなやり方には物おじせず殴り込み、眉間にしわを寄せて激しく抗議する。遊廓でまぼろしの花魁といわれる幼なじみに会いたいと熱望し、はては自分が金を貯めて身請けしようなどという大それた野望を抱く。当時としては突拍子もない夢と野望だらけで、こんなヒロインを中心に置くなら、周りの小市民たちはもっと彼女に驚き飽きれ忠告しなければいけない。でも大杉漣も原田美枝子も室井滋も、とにかく澪のやることには無条件に賛成である(原田美枝子のごりょうさんだけは、さすがにしばしば古い価値観に基づいて澪をたしなめるが)。男社会の中で不当な扱いに苦しむヒロインの姿は描かれるが、それは現代の働く女性に共感できる程度のところまでに抑えられている。
 それともうひとつ、コメント欄のNakoさんの書き込みによると、澪のメイクが「パート1の素顔よりも小奇麗になっているのも、澪が年頃になって身なりを気にしているふうを表現してる」ということだ。




 こういう変化はキャラクター設定にも反映されていて、たとえば今回、澪は小松原(松岡昌宏)を男としてかなり意識するようになってきている。だから前作で小松原に振られていた、澪の料理に手厳しいことを言いながらひそかに見守る役目は、新たに登場した戯作者、清右衛門(片岡鶴太郎)にゆずられた。前回はここまで書きました。
 もうひとりの新キャラは、つる家で働くことになった少女ふき(石井萌々花)で、前作では「ご寮さん」ことお芳(原田美枝子)や、つる家のあるじ種市(大杉漣)にその成長を見守られるだけだった澪が、ふきの登場で「姐さん」になった。


ふ き「ふきといいます。どうかよろしくお願いします」


おりょう「へえ〜ふきちゃんっていうのかい。わぁ、なんだかおいしそうな名前だね。あたしゃね、蕗飯が大好きなんだよ。ははははぁ」



種 市「ふきちゃん。このおばさんに取って食われねえように気をつけねえとな」
ふ き「何言ってんだよ!おかしな事言う男だよここのご主人は」


種 市「本当に食う事があるからな」
ふ き「何言ってんだ。自分が蕗みたいじゃないか」


╳    ╳    ╳

ふ き「ありがとうございました」
 客 「ごめんよ」(入ってくる)
ふ き「いらっしゃいませ」



種 市「ふき坊、なにをしてるんだい?」


ふ き「前の奉公先で教わったんです。こうしておくと間違えないですから」


╳    ╳    ╳


おりょう「旦那さんが、なじみの口入れ屋に押しつけられたらしいけど、なかなか良い子じゃないか」
 澪 「はい」
おりょう「なんでも両親を早くに亡くして奉公先でいじめられてたらしいよ」


お 芳「まだ子供やのにあんな節くれ立った手ぇして……えらい苦労してきたんやろなぁ」


 自分も淀川の大水で両親を早くに亡くし、ご寮さんに拾われ、天満一兆庵の奉公人となって育った澪としては、他人とは思えない話である。こうして澪は、ふきに対して特別な思いを抱くのだが、実はふきは、ある秘密をもってここに奉公したのであった。ってもったいぶるほどの話じゃないけど。


3. 花散らしの雨 こぼれ梅


 その話に行く前に、クライマックスに向けての伏線(というほどでもないが)をひとつ、拾っておく。
 原作が短篇連作ということもあって、いろいろなエピソードが串ダンゴ状に連ねられて進んでいくこのドラマ、前回も今回も、全体を貫くメインのお話として、ヒロイン澪(北川景子)と幼なじみの野江(貫地谷しほり)の友情物語がある。野江はもと大阪の輸入雑貨店(唐・高麗もの問屋)の大店「淡路屋」の末娘、つまりいわゆる「こいさん」だった。でも淀川の水害で、澪が天涯孤独の身の上となったように、野江はその類いまれな美貌ゆえに江戸に売られ、いまでは吉原一とうたわれる遊女、あさひ太夫となっている。ほとんど表に姿を見せないので、「幻の花魁」と呼ばれ、その実在を疑う者さえ少なくない。
 ドラマ前作は、江戸では珍しかった澪の上方料理の評判を聞いたあさひ太夫が、懐かしい味を求めたことがきっかけで澪の存在を知り、澪もまた幻の花魁あさひ太夫が、幼なじみの野江でその人であることに気づいて、互いの無事に涙する、というところまでであった。なんか吉屋信子の小説みたいで感動した。


『ブザー・ビート』第1話より、莉子(北川景子)と麻衣(貫地谷しほり)



 もちろん「幻の花魁」と町の料理人では直接あいまみえることなどできない。二人の、いわば連絡係を務めるのが、あさひ太夫のいる「翁屋」で料理番をつとめる又次(高橋一生)である。寡黙でこわもて、しかしあさひ太夫のためなら何でもするというくらいぞっこん。澪に対しても一目おいている。



又 次「澪さんはいるかい?」
ふ き「あの…今日はもうおしまいなのですが」
又 次「俺は吉原翁屋の料理番、又次ってもんだ」


 澪 「これは…?」



又 次「これで太夫に蜜煮を作ってやっちゃくれまいか? 幼なじみのあんたの作った料理を食べさせてやりてえんだ」


 澪 「わかりました」



 久しぶりの幼なじみからの依頼なのに、澪の表情は硬い。原作ではここのところで回想シーンが入っていたと思う。実はあさひ太夫こと野江は、幼いころ具合が悪くなると、よくキンカンの蜜煮を口にしていたのである。澪には懐かしい想い出だった。だから、又次が持参したキンカンを見るなり、澪は(野江ちゃんに何かあったのかも……)と察したのである、そのへんの呼吸は、ちょっとテレビを観ていただけでは伝わらなかったと思う。


 澪 「又次さん…野江ちゃん…いえあさひ太夫に何かあったのですか?」


おそるおそる訊ねる澪だが、又次はすぐには答えない。でもドラマ版では、冒頭アバン・タイトルでそのいきさつが描かれているので視聴者は知っている。


遊女たち「きゃあああっつ」




 男 「菊乃ぉぉぉ!」



菊 乃「あさひ太夫!」






又 次「太夫!太夫!あさひ太夫!あさひ太夫!」


 料理ができて、出てゆく間ぎわになって、又次はようやく重い口を開く。



又 次「実は……刺されちまったんだ」
 澪 「え?」
又 次「なじみの客と刃傷沙汰になった菊乃って遊女をかばって、自分が」
 澪 「そんな……!」
又 次「俺が駆けつけた時には、部屋は血の海で」
 澪 「それで野江ちゃんは?」
又 次「今はまだ床に伏したままだ」


 澪 「又次さん、うちにその蜜煮を届けさせてください。一緒に連れてってもらえませんか? 野江ちゃんにひと目会って……いえ、うちが野江ちゃんの看病を……」



又 次「駄目だ!それが無理だって事ぐらいあんただってわかってるだろ」



 原作ではこのあと、澪は念願かなってあさひ太夫と邂逅することになる。でもそのシーンは、ドラマ版では前作のクライマックスで使用済みなので、前作を見逃して今回だけ観た原作ファンにはちょっと肩透かしだったのかも知れない。まあ原作の方では、ここで澪とあさひ太夫をつなぐ、もうひとつの大切な想い出の味として「こぼれ梅」というおやつが出てくる。みりんの酒粕なんだけど、そこに絡んで、白みりんの開発に情熱をそそぐ「相模屋二代目・堀切紋次郎」という実在の人物が登場してくる。相模屋すなわち現在のキッコーマンである。
 ひょっとすると、スポンサーとの絡みでキッコーマンがNGで、だから原作のこのエピソードをバラして、後半を一作目のラストに、前半を二作目の冒頭に使って、カナメといえる「こぼれ梅」の話は割愛しちゃったのかも知れない。泣かせる話だけにもったいないなと思う。流山市民は怒っているかもね。


相変わらず話が進まなくてすまないが今日もそろそろ限界なのでここまで。次は『みをつくし料理帖』後編なのだが、一向に終わる気配がない。