実写版『美少女戦士セーラームーン』ファンブログ


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【第440回】ついに描かれた悲劇(ミュージカル2013)の巻


武内直子の原作コミック『美少女戦士セーラームーン』の20周年記念「完全版」がいよいよリリースされる。2003年、実写版の放送にあわせて刊行された新装版も、なかよしKCコミックス版にだいぶデジタル修正が入っていたが、今回はさらに全面デジタルリマスター(笑)しかも『なかよし』連載時のカラーページ復活の豪華バージョンである。このたび、武内先生が描き下ろした第1巻と第2巻の表紙イラストが公開された。デジタルペイントのようだが、懐かしくも流麗なタッチ。この表紙だけで買っちゃいそう。



完全版はちょっと大型A5判の全12巻で、この秋から(何月から?)毎月発売されていく予定だという。20周年記念の書き下ろしも用意されているとかで、楽しみですね。


さて、原作原理主義をうたった実写版よりもさらにもう一歩、原作原理主義を推し進めた感じのセラミュ2013『ラ・レコンキスタ』。私はもう、これ一本で今年いっぱいは生きていけそうなのだが、みなさんのなかには、もうそろそろ「いい加減にしろ」と思い始めていらっしゃる方もいることだろう。そろそろケリをつけねば、と思いつつ、いましばらくご辛抱ください。

1. ベリルとは何者か


前回、第一幕の最後で、前世の悲劇がかなり詳しく語られていることを述べたが、第二幕の冒頭では、その月の王国のビジュアルが具体的に再現されている。セーラームーンのお話としては、ここは非常に面白い場面なので、すこし丁寧に見てみましょう。
超古代、月と地球が友好条約を結んで一周年。シルバー・ミレニアムでは記念の祝宴が用意され、招待を受けた地球の王子エンディミオンは、家来の四天王を率いて月へと赴く。宴の仕度が整うまでの余興に、エンディミオン王子と四天王は、プリンセスと、今日は特別におめかししたセーラー戦士たちと踊り始める。



エンディミオン「何を考えている?」
プリンセス「温かい手だなって。……エンディミオン様といると力が湧いてくる、なぜかなって。このままずっとこうしていたい」



エンディミオン「ずっとそばにいる。安心しろ」
プリンセス「行きましょ」
エンディミオン「ああ」


準備が整い、エンディミオンと四天王は、月の美少女たちをエスコートして宴席へと向かう。ところがゾイサイトだけは、なにか緊迫した表情でマーキュリーを連れ出す。



ゾイサイト「マーキュリー、ちょっと話が……」
マーキュリー「何?」
ゾイサイト「こっちへ」
マーキュリー「どうしたの?」



ゾイサイト「最近地球の様子がおかしいんだ。クイン・ベリルという王族の女が地球の危険分子を扇動して、この国に攻め込もうとしている」
マーキュリー「どうして?」
ゾイサイト「君たち月の住人たちが、美しい声や姿で僕たちを誘惑して、地球を征服しようとしているとのデマが流れたんだ」
マーキュリー「そんな!」
ゾイサイト「そして、たぶんクンツァイトたちもクイン・ベリルに寝返っている」
マーキュリー「お仲間も?エンディミオン様はそれをご存知なの?」



ゾイサイト「いや、まだ気づいてはいないと思う。地球に戻ったら僕が彼らを説得するから、しばらく地球に来ないで欲しいんだ。プリンセスにそう伝えてくれ」
マーキュリー「はい」



立ち去るマーキュリー。こういうの見ているとアレだね。マーキュリー役がハマる人のポイントって腕の細さにあるのではないか。
なんてことはともかく、今回のミュージカル版では、ベリルはもともと地球の王族の女で、エンディミオンの許嫁だったことになっている。これはたぶん新解釈だ。原作でどうだったか憶えていなくて、さっきパラパラ見たんだけど、なんかこう、占星術か天文学かそっち関係の人っぽく描かれていた。太陽黒点や流星群の動きからメタリアの接近をいち早く察知し、その知識を利用して、月の人々が地球を滅ぼそうとしているとか、デマを流して扇動する。暴徒と化した地球の群衆が月に攻め入るときは、勇ましく戦闘の場に立っていた。



ご存知のとおり実写版では、前世のベリルは(何者であったかハッキリ語られていないが)なんか貧しい娘っぽい感じだった。ともかく本物の王族貴族の血を引いているわけではないことは確かで、「たかが小娘」のプリンセスに対する嫉妬と憎しみの原動力もそこにある。



そして「Final Act」でダークキングダムが崩壊するとき、ジェダイトに「もうよい……女王様遊びは終わりだ」とつぶやき、にせものの女王に過ぎないおのが身を自嘲する。
ついでにアニメ版も見ておくと、エンディミオンによると、ベリルは地球の魔導士だそうである。これはやはり占星術とかそのたぐいを操る者という意味で考えていいのかな。



エンディミオン「プリンセス、お相手を」
プリンセス「エンディミオン様……」
エンディミオン「私たち地球人とあなたたちの間に、これから熾烈な戦争が繰り広げられるに違いありません。敵となる私の正体がいま分かるのはまずい。このままでお許しください」



プリンセス「あなたが敵に!?」
エンディミオン「メタリアは人間ではない。悪意のエナジーの塊です。ベリルは魔導士だ。メタリアのパワーを利用して月と地球を征服しようと考えている」




エンディミオン「このままでは月は滅ぼされる。一刻も早く膨大な悪のエナジーを秘めたメタリアを消滅させ、ベリルの野望を砕かなければならない。協力して欲しいんです、セレニティ。私の話を信じてくれますか?」
プリンセス「はい」
エンディミオン「セレニティ」
プリンセス「エンディミオン様」



しかしこの時、メタリアのパワーに呑み込まれ暗黒面に入った地球の人々は、武器を手に地球に押し寄せて来たのだった。そしてそれを扇動するベリルと四天王は、これは昔も今も変わらない格好ですね。シルバー・ミレニアムを破壊しながら堂々とダーク・キングダム建国宣言をする。ミュージカル版ではドレスアップして祝宴に参加していたセーラー戦士たちも、アニメ版ではいつもの戦闘服姿でベリル軍団を迎え撃っている。



というように、ルックスはそれほど変わらないけど、肩書きが大いに変化するクイン・ベリル。ここまでごちゃごちゃ言及したからには、セラミュの先代ベリル様もご紹介しなきゃ失礼ですよね。1993年『美少女戦士セーラームーン外伝 ダーク・キングダム復活編』より仁科有理さん。



これ、なかなか艶やかで良いですよね。大山アンザさんたち一期生のラスト・ステージとなった『永遠伝説』でも、復活したクイン・ベリルを演じていた。この人のキャリアの中では、宝塚時代の『ベルサイユばら』のマリー・アントワネットと対をなす役じゃないか、なんて言うと宝塚のファンの人に怒られちゃうかな。


2. 悲劇の始まり


話を2013年度版セラミュ『ラ・レコンキスタ』に戻します。どこまでいったっけ。
月と地球が友好条約を結んでまだ一周年を経たばかり。だが、こういう近くて遠い関係ってなかなか上手くいかないね。私たち列島の国民とお隣の半島の方々みたいなものである。
ベリルのたくらみで、地球ではひそかに月への攻撃計画が進んでいるが、アニメ版とは異なりミュージカルでは、エンディミオンはまだ事態を把握していない。四天王のなかで唯一、両国の友好関係を望むゾイサイトは、秘かに心寄せるマーキュリーに「僕が説得するから、しばらく地球に来ないで欲しい」というプリンセスへのメッセージを託す。伝言する。いそいで立ち去るマーキュリー。



が、すでにゾイサイトの行動は他の四天王たちに見張られていた。入れ替わるようにクンツァイトとゾイサイトが登場。



クンツァイト「裏切り者め」



ゾイサイト「クンツァイト!」
クンツァイト「月の女にたぶらかされ、腰砕けになったか」
ゾイサイト「月の住人たちが何をした」
クンツァイト「もう遅い。反乱軍はそこまで来ている」
ゾイサイト「え?」
クンツァイト「決行は今だ!」
ゾイサイト「何てことを」



クンツァイト「邪魔をするな」


今回のミュージカルでは、クンツァイトのリーダーとしての立場がいちばんはっきりしていて、クンツァイトの指図でジェダイトとネフライトが動くようになっている。



本来クンツァイトを演じる予定だった小松美咲さんは、制作発表イベントにクンツァイトのコスチュームを着て登場、パンフレットにも大きく写真が出ているのだが、残念ながら直前になって体調不良のために降板。残念だったことと思う。代役として、声優としてもご活躍の伊石真由さんがクンツァイトを熱演しておられた。
ということはともかく、クンツァイトが「邪魔をするな」と言えば、ジェダイトが剣を抜き、ゾイサイトに襲いかかる。ひとしきりチャンバラがあって、ゾイサイトの腕の方が一枚上手か、と思いきや、背後からネフライトが不意打ちをかけてゾイサイトをひと突きに葬る。これはちょっと意外な展開であった。


ゾイサイト「止めろジェダイト。考え直してくれ。僕たちは仲間だろ、僕たちは……」
ネフライト「やぁっ!」



ネフライト「悪く思わないでください。地球のためです」
ゾイサイト「マーキュリー!」


ゾイサイトがマーキュリーの名を呼びながら命尽きるのと入れ替わるように、群衆たちの叫び声が次第に大きくなり、クイーン・セレニティのもとに、不安にかられた月の王国の人々が集まってくる。ここで軍服姿のベリルを見ることができます。



クイーン「何ごとです?」
ジュピター「クイーンセレニティ、地球の人々が攻めて来ました!」
エンディミオン「何?何ということだ。誰だ指揮官は!出てこい」




エンディミオン「クインベリル」
ベリル「エンディミオン様」



エンディミオン「何のつもりだ?血迷ったか。誰の入れ知恵だ?」
ベリル「騙されてるのは貴方の方。目をお覚ましください」
エンディミオン「やめろ、無駄な争いを!」



ベリル「あぁ嘆かわしい。月の住人どもは我らの美しい星、地球を手に入れようとしてるのです」
エンディミオン「馬鹿な、月は地球を見守っている温かな星」
ベリル「いいえ、月は地球を監視している蒼ざめた星」



エンディミオン「剣を納めろ」
ベリル「この月のもつ銀水晶を手に入れ、滅ぼすのです」
エンディミオン「クインベリル」
ベリル「エンディミオン様、貴方は地球を裏切るのですか?」


群衆の声が次第に近づく「セレニティを殺せ!」「銀水晶を奪え!」「月を滅ぼそう!」そしてゾイサイトを葬り去ったクンツァイト、ネフライト、ジェダイトが登場する。



エンディミオン「お前たち!」
クンツァイト「エンディミオン様、月の住人たちの色仕掛けに騙されぬよう」
エンディミオン「お前たちこそ、この女に騙されているのが分からないのか」



ジェダイト「剣をお納めください」
ネフライト「敵はセレニティとプリンセスのみ」




エンディミオン「彼女たちには指一本触れさせない」
プリンセス「エンディミオン様」
エンディミオン「心配するな。命に替えてもお前を守る」
ベリル「よく聞け、忌まわしき月の住人ども。我々は異質なものを認めない。お前たちの血と交わることなど永遠にない!」
エンディミオン「クインベリル!」



ついにベリルと剣を交えるエンディミオン。だがマスターの剣は非情になりきれないからね。女でもあり、許嫁でもあるベリルにどうしても気後れしてしまってトドメがさせない。かえってベリルに利き腕を貫かれてしまう。



その様子を見てベリルの前に立ちふさがり、身をもってエンディミオンを守ろうとするプリンセス。当然、ベリルはプリンセスを亡き者にしようと剣を振りかぶるが、こんどはエンディミオンがプリンセスを突き飛ばして、おのが身にベリルの渾身の一撃を浴びる。
そして愛する人の死を目の当たりにしたプリンセスの絶望。



プリンセス「みんな止めて!」
エンディミオン「待て!」
プリンセス「エンディミオン様!お願い、争いは止めて」
ベリル「すべてはお前が原因。死ね!」



エンディミオン「プリンセス!」
プリンセス「いやぁっ!」



前世においてプリンセスが自刃にいたる経緯は、原作では繰り返し語られているが、あっちこっちに断片的に出てくるので、何がどうしてどうなったのか、ぼーっと読んでいただけではイマイチ分からない。組み合わせてみてようやく、だいたいのところが呑み込める。



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以上、原作コミックから引っ掻き集めたシーンを見れば「プリンセスを守ろうとしたエンディミオンがベリルに刺され、エンディミオンの死を見たプリンセスが絶望のあまり自刃する」というおおざっぱな流れは分からなくもない。でもショッキング過ぎるせいか、アニメ版ではここら辺の話は原作とはだいぶ違うものになっていたし、実写版でも、そして過去のミュージカルでも、この場面そのものを、順序を追って語り直してくれはしなかった。これこそが前世の悲劇の、最も悲劇的なポイントなのに。
そういう意味でも、今回のミュージカルは何というか「ついにやったな」という感じがする。



クイーン・セレニティ「悲しい恋に終わる予感がしたの……月と地球の、違う星同士の、結ばれるはずのない恋。封じ込めるわ、あの悪魔を。そしてこの月もすべて封印して、あなたたちに未来を託す。月の光の解放を。幻の銀水晶の解放を。聖なる光、邪悪なるものを封印せよ」


なかなか終んないけど、だいぶ字数を費やしたので今回はこのへんで。次回完結します。きっと。