実写版『美少女戦士セーラームーン』ファンブログ


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【第434回】次週こそはAct.16台本だよの巻



誰に言いわけしているのか、自分でもよくわかんないんだけど、最近は諸般の事情で、予告したブログがぜんぜん書けなくて、言いわけばかりである。誰も聞きたくないだろうが、なんだか言いわけから書き始めないと調子がでないや。本日は、新幹線とローカル線と、併せて4時間半ほどかかる列車の旅で島根県まで出張中で、ホテルの一室でこれを書いています。
本当は出発前に、すでにAct.16の台本を半分くらい打ち込み終わっていて、あとはこの4時間半の列車の道中、がんばってMacBookAirのキーボードをぱたぱた叩いていれば、目的地に着くころにはテキスト本文は終了。あとは出張先の宿で画像をキャプチャして貼り付ければ完成だ。なんて考えていたのが甘かったね。
名古屋〜岡山間の新幹線までは快適だった。作業も進んだ。岡山かぁ。ぽんたさんの地元だよ。このまえ岡山に来たのは……もう4年も前。沢井美優に会いにきたんだよなぁ(詳しくはここ)なんて感慨に耽っている余裕すらあった。



しかしその先の、某伯備線の特急、これが揺れる揺れる。とてもノートパソコンを開いて何か作業をやるという状況ではない。あまりに揺れるので乗り物酔いしそうになって、角ハイボールで迎え酒をしてなんとかこらえた(何だそれは)。でも松江の駅を降りたところで同じ目的の知り合いと会って、レストラン街で晩ご飯を食べたときに呑んだ地酒がまた効いて、ホテルに着いたときもまだ足元が揺れている感じが残っていたくらい。ブログどころぢゃないよ、と、そのままベッドに潜り込んで寝てしまった。
というわけで、ただいま一仕事を終えて、ようやくホテルでぐったりとしているところです。今日の更新はなし。Act.16台本紹介は来週。以上!!


と言いつつ、例によってもう少し書く。
このAct.16、前回のAct.15に続いて鈴村展弘監督である。Act.15はわりと台本に忠実な画面作りに徹していたが、今回は細かいところをカットしていたり、あちこち台本に手をいれている印象が強い。自分なりのセーラームーンの演出の方法論が掴めてきたということであろうか。その最たる例が、台本には全く出てこないキャラクター「山本ひこえもん」の、唐突なまでの登場である。台本でいうシーン9。まずは出来上がった作品でどうなっているかごらんいただきましょう。


  桜田が英語の会話を板書している。



桜 田「はい、じゃあこの会話を、二人一組になってやってみて。席移動していいから、楽しく会話するように」



  ガタガタと生徒達が移動してペアになる。



  亜美がうさぎを振り返る。
  が、先に声を掛けていたなる。



な る「うさぎ、やろ」
うさぎ「うん」



亜 美「……」
  だが、うさぎがすぐに一人の亜美に気づいて、



うさぎ「あ、亜美ちゃん、一緒に三人でやろうよ」



亜 美「ううん、これ二人でやる会話だし。私、誰か余った人と組むから」



うさぎ「でもさ……」
な る「(かぶせて)正直に言えば?うさぎと組みたいって」
亜 美「でも、大阪さんが先だから――」
な る「そういう自分を犠牲にしたような言い方、ずるいと思うんだけど。こっちが悪いみたいじゃない」
亜 美「そんな……」



うさぎ「ちょっとなるちゃん、亜美ちゃんはそんなんじゃないって。ホントに優しすぎるんだよ、ね」


な る「何よ。うさぎもさ、最近亜美ちゃんばっかだよね」
うさぎ「いや、それは…―」
  いつの間にか後ろに立っている桜田。



桜 田「こーら、何やってんの。こんな事でもめないの。先生が相手を決めてあげます」


╳    ╳    ╳



桜 田「大阪さんと、阿部さん」
香奈美「よろしく」


╳    ╳    ╳




桜 田「水野さんと、木村さん」
桃 子「よろしく」



╳    ╳    ╳



桜 田「月野さんと、山本ひこえもん君!」
山 本「よろしく」
うさぎ「……よろしく……」



桜 田「はい、一言でも文句言ったら小テスト〜」
  ブーイングをしながらも会話の練習を始める生徒達。
  うさぎは亜美を気がかりそうに見る。
うさぎ「ヘロー」
山 本「ヘロー」(けっこう発音が良い)
うさぎ「ディス、イズ……ちょっとごめんね」
  亜美に駆け寄るうさぎ、それを見詰めるなる。


うさぎ「(小声で)「なるちゃん、悪気はないから」
  また小さな微笑の亜美。


以上のシーンの最後の部分が、オリジナル台本ではこういうふうになっている。


桜 田「こーら、何やってんの。こんな事でもめないの。先生が相手を決めてあげます」
  桜田が三人をバラバラに他の生徒と組ませる。
桜 田「はい、一言でも文句言ったら小テスト〜」
  渋々、他の生徒と始めるなる。
  うさぎは亜美を気がかりそうに見る。
うさぎ「(小声で)なるちゃん、悪気はないから」
  また小さな微笑の亜美。


低音が心地よい(そして発音もなかなか悪くない)山本ひこえもん君を演じたのが誰なのか、実写版放送から10年を経た今でも分からない。このまま永遠の謎になってしまうのであろうか。
そのほか、小林靖子先生にも、なかなか面白いケアレスミスがある。シーン20。ちなみにこのエピソードの台本は、全体の3分の1くらいがこのシーン20で占められている。



ル ナ「みんなの力を合わせれば壁は破れるかも。やってみて」
うさぎ「わかった。ムーンプリズムパワー」
三 人「メイクアーップ!」



  三人が変身する。



レ イ「じゃあ、いくわよ。1、2、3!」
  三人が一斉にエネルギーを放つ。


変身後の台詞なのだから「じゃあ、いくわよ」と言うのは「マーズ」でなければならないのに、小林靖子はうっかり「レイ」と書いている。もうちょっと後にも同様のミス。



セーラームーン「亜美ちゃん、ちょっとストップ!」



マーズ「どうしたの、そんなむきになって」



マーキュリー「大阪さん、助けなきゃ……」



セーラームーン「亜美ちゃん……」
  打たれたように亜美を見るセーラームーン。


この最後のト書きは「打たれたように亜美を見る」ではなくて「打たれたようにマーキュリーを見るセーラームーン」が正解ですよね。
いうまでもなく実写版の戦士たちは、変身後も変身前の名前でお互いを呼び合う。これは小林靖子先生の方針ではないかと思うが、でも台本のセリフ指定やト書きは、変身したらちゃんとセーラー戦士の名前になっている。ところがここでは、脚本家本人が、キャラクターたちがお互いを本名で呼んでいるのにつられてしまっている感じ。書いている側が感情移入しているからこそのミスで微笑ましい。
戦士のアンサンブルも、このAct.16はすごくよく出来ている。実写版の場合、戦闘態勢の役割分担は以下のようになっている。


マーズ】参謀。霊感で敵の存在やトラップをいち早く察知して、どう対応すべきかすぐに指示を出す、セーラーチームの司令塔。
マーキュリー】普段はコンピューターなどを使って情報を収集し、分析・処理する能力を発揮しているが、戦闘シーンではその敏捷な動きで敵を制する。
ジュピター】パワーファイター。だな。


アニメ版と比較した場合、最も変わらないのがジュピターで、最も違うのがマーキュリーである。アニメ版のマーキュリーは、はっきり戦闘能力が低いということになっていて、だから実戦現場では、ポケコンとか使って敵の弱点を探す、頭脳担当として振る舞う。でも実写版の亜美は、そのすばやい動きで「こっちよ!」と敵を翻弄し、「逃げてもムダよ」と動きを封じる。アニメ版のファンが、実写版の亜美に違和感を感じて、なかなか受け入れてくれなかった理由は、髪型とかそういうこと以前に、この設定に対する無意識の抵抗があったのだと思う。でも原作者、武内直子先生の初期案では、亜美は「加速装置付きのサイボーグ」というモロに石森章太郎な設定だったので、これが正しい。
ともかく、Act.16は、こういった三人の戦士の戦闘能力の描き分けが、とてもうまくいったエピソードのひとつである。レイは持ち前の霊感で「結界よ!」とエナジーファームのバリヤを見抜き、そいつを破るために、力を合わせてエネルギーを放出するときも「じゃあ、いくわよ。1、2、3!」と指令を出す。でも破れない。なぜか。ジュピター不在のせいでパワー不足なのだ。
だからまことを呼んでくればいいのだが、普段だったら「まこちゃんに来てもらおう」とか言い出してもおかしくないマーキュリーが、なぜか「大阪さん、助けなきゃ……」とムキになってエネルギーを放ち続ける。
我々はここへきてようやく、まことが最初から風邪気味だったのは、この場面にジュピターがいないようにするための伏線だったのだ、と気づく。最初からここにいたら、バリヤが破れるはずだし、それではマーキュリーのひたむきさも、告白も、美脚マーズの説教もないことになってしまう。



そして最後の妖魔との戦いは、敏捷に宙を舞うマーキュリーの真骨頂である。セーラームーンもマーズもジュピターも、出会い頭に敵の攻撃を一発ずつまともに食らうのに、マーキュリーだけはくるりくるりときれいにかわして「こっちよ!」である。まあ実際の映像では、そのへんの表現が微妙なのだが、あまり書くと、その名も「こっちよ!」研究員が怒り出すかもしれないのでやめておく。それにしても「特急やくも」ってマジに揺れますね(何の話だよ)。



――というふうに、戦士がそれぞれ個別にもっている戦闘能力がドラマと戦闘シーンによく活かされています。
ほかにもいろいろあって、今回改めて、このAct.16は実写版セーラームーン屈指の名作だよなあって思ったんですが、例によって疲れが限界に達したのでこの辺で。
明日はまた揺れに揺れる特急やくも。生きて帰れるかな。じゃまた。
最後は元気になるおまじない。



「だから自分を嫌いにだけはなっちゃダメ。いいわね?」