実写版『美少女戦士セーラームーン』ファンブログ


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【第409回】DVD第3巻:Act.10の巻(12)



小学生の息子が三上延『ビブリア古書堂の事件手帖』を読み耽っている。漫画以外の本に熱中したためしのない息子が、あっという間に最新刊の第4巻まで進んじゃったので、私も気になって第1巻から第3巻まで読ませてもらった。面白かったです。
古本屋の主人が探偵役となって、古本にまつわる事件の謎を解く連作短編推理、という趣向は、おそらく紀田順一郎の古書ミステリ物の影響下にある。殺人とかあまり大がかりな事件を扱わない、という意味では『空飛ぶ馬』の北村薫から小市民シリーズの米澤穂信にいたる「日常の謎」派(っていうのかね)の系譜に属している。要するに、かなり地味(笑)。こういう地味なミステリでも、シリーズ累計300万部を越えるベストセラーになるって、良いことですね。
ヒロインで探偵役を務める古本屋の店主は、人付き合いが下手で大人しい清楚な美女で、髪が長くて小柄で細身だけど胸が大きいとか、そこでバイトをするようになった、ワトソン役で物語の語り手の「俺」だけには、徐々に心を開くようになっていくとか、なんか作者の願望をそのまま投影したような甘ったるさが感じられる。普通なら私なんか「やっぱりライトノベルって人工甘味料入れすぎ」と、ちょっとヘキエキしてしまうところなのだが、この作品についてはそういう印象がなくて、後味もたいへん良い。
なぜかというと、作者が自作を客観的に見切れているからだと思う。第1巻の第2話で新潮文庫の絶版本、小山清の『落ち穂拾ひ・アンデルセン』が取り上げられて、登場人物のひとりが同作品についての感想を述べるのだが、これが実はそっくりそのまま『ビブリア古書堂の事件手帖』という作品に対する、作者の自己批評になっている。自作を的確に把握できているので、甘さがイヤミにならないのだろう。


「人付き合いが苦手で世渡り下手な貧乏人が、不満も持たねえで生きていく、なんてただの願望だわな。まして、そいつの前に純真無垢な若い娘が現われて優しくしてくれる、なんてあるわけねえじゃねえか」
 文句を言っているわりに、志田の口調は優しかった。まるで世話の焼ける兄弟の話をしているようだった。
「まあでも、そういうことが分かっていて作者もあの話を書いたんだろうぜ。それは読めば分かる……あれは甘ったるい話を書く奴に感情移入する話なんだ」
  (三上延『ビブリア古書堂の事件手帖 ―栞子さんと奇妙な客人たち』メディアワークス文庫)


なぜウチの息子がこの小説を読み始めたかというと、もちろんフジテレビの月9ドラマになったからである。実写版セーラームーン関係者が絡んでいないのでノーチェックだったけど、2月25日にオンエアされた第7話を観てみた。原作第2巻の最後に収められていた古書漫画(藤子不二雄の初期作品)がテーマの話で、『謎解きはディナーのあとで』とはだいぶ違って、原作に非常に忠実な作りだった。キャスティングもよくて、剛力彩芽はショートカットのまま、ルックスは原作とは違う感じなのに、芝居で原作のヒロインの雰囲気をちゃんと出していた。
剛力彩芽って、私(もちろんテレビでよく見かけるものの)女優としては『劇場版怪談レストラン』(2010)で大騒ぎしていた三枚目のお下げのメガネっ娘の印象しかなかったもんだから、ちょっと見違えてしまったよ。


『怪談レストラン』の剛力さん
『ビブリア古書堂』の剛力さん


このあと『ビブリア古書堂の事件手帖』と『謎解きはディナーのあとで』を比較して、北川景子の劇場版のストーリー予想へと話をつなげる予定だったけど、すでにあまり時間がないので本題へ。

1. ベリル退場


Act.6あたりまでは、だいたい妖魔を倒せばあとはエンディングへ、というパターンだったのだけれど、Act.7あたりからそれが崩れて、バトル後にも色々ドラマが入ってくるようになってきて、今回にいたっては、オンエア時の時間で言うと7時48分には妖魔が倒されてしまう。まだ余裕たっぷりである。そこへ満を持して登場したのがこの人。



ベリル「セーラー戦士ども、お前たちなど滅びた月の残映に過ぎん。プリンセスともども、おとなしく月で眠っておれば良いものを……」



ベリル「だがもう遅い。お前たちのプリンセスに、大いなる闇の祝福を与えよう……破滅だ!」



哄笑と共に消えてゆくベリル様。次にセーラー戦士たちと対峙するのはAct.36、半年以上先のことである。
しかしベリル様もアレだね、最近ではすっかりアネゴの風格である。職場でみかけた『ホットペッパー』に載っていた、何だかよくわけの分かんないランキングでも、「人生相談したい有名人」の女性部門で123票を集め、江角マキコ、天海祐希についで第3位という快挙。私は天海祐希に人生相談する人の気が知れない。




どんな方々がベリル様に一票を入れたかというと、こんな感じ。「お酒の席でしか出来ない相談とかもできそう」(32歳女性/長野県)、「男性問題を解決してくれそう」(22歳女性/埼玉県)、「叱っていただきたい」(39歳男性/静岡県)、「真面目そうなので話をしっかり聞いてくれそう」同性から圧倒的な支持である。唯一の男性の意見が「叱っていただきたい」という39歳なんだが、これはたぶん「人生相談」とは違う目的ではなかろうか。しかし改めてすごいですね杉本彩。学園祭の女王からエロ(エロスか)の伝道師を経て、いまやもう形容しがたいワン・アンド・オンリーのステイタスを確立してしまった。そして『ウルトラマンダイナ』や実写版セーラームーンへの出演歴についても、「自分でも、どちらかといえば非現実的な世界観の方が合うタイプだと思っている」とサラリと言ってのけるあたり、なかなか凡手の良くするところではない。ま、しかし杉本彩さまのすごさについては、ここであらためて強調するまでもなかったですね。

2. 月は無慈悲な夜の女王


ベリルの去りぎわの「お前たちなど滅びた月の残映に過ぎん」という謎の言葉がきっかけで、息を呑む戦士たち。一方ルナはすでに何か知っているようだ。
原作では、まことが登場した段階で、ルナはわりとあっさり、4人が月から転生したことを告げている(しかも、詳しいことについては「あなたたちが完全に覚醒すれば分かるコトだから」と、うさぎたちに丸投げにしてしまう)。確かに、使命優先で考えれば、早いうちにきちんと伝えた方がいい。



ところが実写版のルナはここで「うさぎちゃんたちには時機を見て話すつもりだった」とお茶を濁す。現世で家庭に恵まれて幸せに暮らしているうさぎを見て、躊躇してしまったのだ。非常に人間的な猫なわけだが、これはアルテミスも同じである。Act.40では、前世の使命のためにアイドル歌手を止めようとする美奈子に「セーラーヴィーナスじゃない、愛野美奈子としての時間は持ってほしいんだ」などと言い出す始末である。本来ならば戦士たちに速やかにミッションを遂行させるべき立場にある従者たちが、少女たちの現世での幸せを願う。ここらへんからこのAct.10は、原作とは異なる実写版の独自性を考える上で、きわめて重要なエピソードとなっていく。



ル ナ「クインベリル。あいつだったんだわ」



マーキュリー「ルナ、今の話」
セーラームーン「どういうこと?月の王国って何?空にあるあの月のこと?」
ル ナ「そうよ、うさぎちゃんたちには時機を見て話すつもりだったんだけど、私たちのプリンセスはね、月の王国のプリンセスなの」
セーラームーン「でも……だって月って」
ル ナ「本当よ、私も月から来たの。そしてあなたたちはプリンセスを守る月の四戦士」


セーラームーン「月の……王国……」



茫然として月を見上げる戦士たち。ただマーズは、自分を「かぐや姫」に重ねていた幼い頃からの願いが、思わぬかたちでリアルな話になってきたことで、ちょっと特別な胸騒ぎを禁じえない。やがて戦士のだれよりも、月の王国での前世を否定することになる彼女が、皮肉なことにいまは、多少の期待も混じった眼差しを空に向けている。

3. 語れ!セーラームーン


さてここからがAct.10最大の見所というか、ある意味で難所にさしかかるわけで、今回のレビューはそこまで話を進めるつもりだったが、タイムリミットだ。最後に、前回のコメント欄でスイクンさんにご教示頂いた資料を紹介して終わりにしたい。
ベストセラーズ(!)という出版社から出ている『語れ!タツノコ』というムックである。タイトルどおり、タツノコアニメの名作の数々を考察したり分析したりした文章と、関係者たちへのインタビューを二本柱にした研究本なんだけど(詳しい内容は前回コメント欄をご覧ください)、ファン代表として小松彩夏が登場する。なぜ小松彩夏なのかはイマイチ分からないが、読んでみると、子供の頃から『みなしごハッチ』の大ファンだ、というのはガチだ(私は知らなかったけど有名だったのかなぁ)。
察するに、むかし小松彩夏に取材した記者が、「可愛かったなぁ、もう一回こまっちゃんに会いたいなぁ」と日頃から思っていたところ、タツノコアニメの研究本づくりに関わることになったんだと思う(推定)。で「それならグラビアアイドルの小松彩夏が、以前取材したときハッチの大ファンだって言ってましたから、彼女の話を取ってきます」と進言して、まんまと願望をかなえて再会ちゃったのだ(繰り返すが推定)。それでセーラームーンの話題でも盛り上がったので、もったいないから記事にしちゃったという感じ。いや推定というか妄想だが、読んでいるとホントにそんな感じがするんだって。けっこう長くて読み応えがあるんだが、セーラームーンに触れているところだけちょっと紹介してみたい。



 私の世代はみんなアニメの『セーラームーン』を観てたんですけど、あんなに大ブームだったのに私にはチャンネル権がなかったので、まったく観せてもらえなくて。今考えるとすごく悲しい(笑)。 友だちと変身ごっことかもしてましたけど、私は手探りで周りに併せてやってましたし。「お姉ちゃんがいればいいのに」って、いつも思ってましたね。
 だから『セーラームーン』は、実写版のオーディションを受けることになってから慌てて観ました。周囲の子たちはみんな「やっぱり当時好きだった役をやりたい」つて言ってたんですけど、私は「誰でもいいからやりたい!」という気持ちで挑んで……結果的には、それが前向きな姿勢として評価されたのかも(笑)。
 ただ、撮影は本当にハードでしたね。衣装が薄いから冬の撮影は地獄でしたし、変身後も基本的には私たちが演じていたので、アクションや爆発シーンも吹き替えなし。当時は岩手の高校に通っていたので、撮影の度に新幹線で往復7時間かけて通っていましたから、睡眠時間も取れない状態で……。でも『セーラームーン』があったから、セーラーヴィーナスを演じることができたからこそ、今があるんだなって思います。あの一年間が本当に過酷だったから、今はどんな過酷な撮影でも乗り越えられる気がするんです。こういうと、何かハッチみたいですけど(笑)。
 それにセーラー戦士を演じたみんなとは、本当に家族のような仲間になれましたね。当時は毎日の撮影が過酷過ぎたから、みんな自分のことで精一杯でまったく余裕がなくて、「一緒に仲良く頑張ろう」みたいな感覚もなかったんです。だから当時よりも、終わってからのほうが仲良くなれた。みんなで一緒に苦労を乗り越えたから、絆が深まったんだと思いますね。
 今でこそ笑い話ですけど当時は本当に辛くて、何回現場で泣かされたか(笑)。最初はカメラマンさんもすごく怖くて……厳しい方なんですけど、後々すごく優しい面を見せてくれたりして……カマキチおじさんみたいですね(笑)。
 でも未だに「『セーラームーン』観てました」って言われますし、やっぱり子供の頃に観ていたアニメや特撮ってすごく大きな影響を与えるものなんだなって、改めて思いますね。私にとって『ハッチ』が特別な作品なのと、同じなんですよね。


なんか最後に無理やり話を『ハッチ』と関連づけてツジツマを合わせようとしているのが笑えるが、セーラー戦士から直接、当時の思い出話をこんなに詳しく聞ける機会ってそうはない。それに肌の露出の少ない小松彩夏の写真も可愛い。新刊本の営業妨害にならないよう、テカリの入ったピンぼけ写真でご紹介するが、こんな感じ。



というわけで、タツノコファンの人はもちろん、小松彩夏マニアもみんな買おう。ありがとうインタビューの中の人。スイクンさん情報ご提供ありがとうございました。


んじゃま、本当は今回のブログは、ここで実写版ガッチャマンの話になって、剛力彩芽が出て来て冒頭とつながる、というふうに伏線がたたまれるはずだったんだが、本当に日曜の深夜までかかってしまったので、こんなところで。



  

語れ!タツノコ (ベストムックシリーズ・84)

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