実写版『美少女戦士セーラームーン』ファンブログ


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【第410回】DVD第3巻:Act.10の巻(13)

今週末もあんまり時間がないなぁ。でも、そんなことを言っていたら四月、五月と、ますます忙しくなるので、さっさと行こう。脇道に逸れずに本題から入るぞ。


1. セレニティの不安

マーズが月を見上げるカットから、すぐに場面は火川神社の子ども会に移る。エリカちゃんが中心になって、紙芝居「かぐや姫」を上演中。見守るお母さんたちと、後ろに立つセーラー戦士たち。



エリカ「『私は月の都の人間です。次の満月の夜、私は月へ帰らなくてはなりません』かぐや姫を乗せた車は、静かに月に向かい、昇って行きます……」



まこと「月の王国か……夢みたいな話だな」
亜 美「……うん……」



レ イ「現実よ」



エリカ「……『おじいさん、おばあさん、さようなら』 かぐや姫の乗った車はどんどん月へと昇って行きました……そして、やがて、かぐや姫は、十五夜お月様の中に消えていってしまいました」



亜 美「うさぎちゃん!?」



うさぎ「何だか分かんないけど、急に、びっくりしすぎちゃったのかなぁ」



ル ナ「うさぎちゃん」
うさぎ「あのさあ、私たちもルナみたいに月から来たのかなぁ。私、ママの本当の子供じゃなかったりする?」



レ イ「うさぎ…」



ル ナ「大丈夫。混乱させちゃってごめんなさい。そんな急に話すつもりなかったの。安心して。うさぎちゃんはうさぎちゃん。ママの子供よ。さ、うちへ帰りましょ。ママが待ってるわ。ね」



実写版セーラームーンの特徴が「前世VS現世」という対立構図を描くところにあることは何度か取り上げてきた。そして小林靖子は、「前世」に対してしばしば冷淡なくらい距離を置いてきた。
そのことが最もロコツに出ていたのがAct.4だ。原作およびアニメ版で描かれていた「衛とうさぎが、お互いそれと気づかず仮面舞踏会で踊って、前世の記憶を刺激されてウットリする」という場面を、実写版Act.4は意地悪く「仮装パーティー会場で、クマの着ぐるみを着たうさぎがタキシード仮面とバッタリ出会う(そして抱きついて迷惑がられる)」という、ロマンスのかけらもない珍場面に仕立ててしまった。なぜか?実写版は、前世の呪縛を乗り越えて、今を生きようとする少女たちを描く物語だ。だから前世を、美しくロマンティックな憧憬の対象として描いてはならない。それが実写版のルールだ。



もちろん原作でもアニメ版でも、大切なのは今この時であり、前世にとらわれるべきではない、というメッセージは一貫している。原作で、セーラーパワーによって月に行った戦士たちは、超古代の王国シルバー・ミレニアムの廃墟でクイーン・セレニティ、つまり前世のセーラームーンの母親に出会う(厳密にはクイーン・セレニティの人格を完全に模したコンピュータ・プログラムと対話する)。クイーン・セレニティは戦士たちに、銀水晶の力でベリルの野望を未然に防いで欲しいと訴えながらも、他方で娘のセーラームーンに対しては、前世とかプリンセスとかの重荷のない世界で、ふつうの女の子として育って欲しい、「あなたが生まれかわったほんとうの意味もそこにあるのだから」という母親ならではの心情も吐露している。



この時、セーラームーンは「ということは、この人は前世で私のお母様だ」ということに気づいている。



これに相当するエピソードはアニメ版では無印第44話にあたるが、まあだいたい同様である。


セレニティ「遠い昔、遙かな過去からメッセージを送る、月の女神セレーナの化身、シルバー・ミレニアムの女王、クイーン・セレニティ、あなたの母……」


セーラームーン「えっ、あなたが私のママ!どういうことなの?」


しかしだからといって、原作やアニメ版のうさぎは、それ以上の疑問をいだかない。「じゃあ育子ママとクイーン・セレニティと、どちらが本当の私のママなのだろうか」という疑問に悩むのは、実写版のうさぎだけだ。実写版のうさぎにとって、それは自らのアイデンティティにかかわる問題である。
原作やアニメ版のうさぎのなかでは、前世で月のお姫様だった自分と、現在の自分との間に乖離はない。性格も一緒だし、戦士たちや衛との関係も、現世も前世も同じようなものなのだろう。だから「月の王国のプリンセスと泣き虫うさぎ、どっちが本当の私なの?」と真剣に悩むこともない。
ところが実写版の場合、ヴィーナスのセーラームーンに対する接し方や、Act.36で出現するプリンセス・ムーンの態度から察するに、前世のプリンセスは孤独で冷たい王女で、エンディミオンの他には心を開いて話せる相手が一人もいなかったように思える。現在のセーラームーン、誰とでも仲良くなれる明るいキャラで、護衛戦士たちとさえ友だちになってしまえる月野うさぎとは、もう全くの別人格である。だから無意識に封じ込められた前世の記憶が刺激を受けるにつれ、深刻な人格分裂の兆候が深まって、最終的にはプリンセス・ムーンの出現にいたる。
今回、Act.10の涙はその最初の兆候である。ここでは「私、ママの本当の子供じゃなかったりする?」という不安として表白されるが、その深層で彼女は、わずかに目覚めの兆候を示したプリンセス・ムーン、自分の中に潜むもう一人の自分の存在を無意識に察知して、アイデンティティ・クライシスの兆候に怯えているのだ。だからこそ、亜美もレイもまことも、泣きじゃくるうさぎをたしなめもせず、心配そうに見守っているのである。常識的に考えれば、みんな同じことを言われて同じ条件なのに、なんでお前だけメソメソ泣いているんだよ、っていうことになっちゃうんだが。そのへんが、この場面を難解にしている第一の理由だと思う。(ぜんぜん難解ではないって人もいるかも知れないが)。
もうひとつ、このシーンをややこしくしている要因は、言うまでもなくレイだ。レイっていうか北川景子。北川さんの感情移入による貰い泣き芝居は、レイがうさぎの不安や怯えを思いやり、共有していることの表現として間違っちゃいないのだが、まあ奇麗すぎた。鈴村監督もレイの美しい涙に気を取られた感じがあって、結局この場面のバランスを崩してしまった。本当はレイは一方で、幼い頃から「かぐや姫」に自分を重ねてき夢が叶ったことへの、密かな興奮も見せなくちゃいけないんだけどね。



それにしても「月にあるシルバー・ミレニアムの廃墟にコンピュータがあって、そこにクイーン・セレニティの人格情報が保存されている」という原作とアニメの設定は、実写版では最初から使わないつもりだったのか、それとも裏設定として考えられていたのか。「Special Act」に何の説明もなくクイーン・セレニティが出てくるだけに、気になるなぁ。



2. 【長〜いオマケ】殴り込め、里奈


さて今回の本編は、これで終わり(笑)。あとはオマケである。
先日の『M14の追憶』に、小池里奈が『極道の妻たち』最新作に出演というビッグニュースが伝えられて、私は胸躍っちゃっているのである。
『極道の妻たち』はみなさんご存じですよね。1986年に岩下志麻主演で第1作が公開され、好評につき、翌1987年に十朱幸代の主演で『極道の妻たちII』が、1989年に三田佳子主演で『極道の妻たち 三代目姐』が、そして1990年には、1作目の岩下志麻が再び主演に戻って『極道の妻たち 最後の戦い』が製作された。で、1991年の『新極道の妻たち』以降は、主演は岩下志麻に固定して「新極道の妻たち」をほぼ年一本のペースで公開、1995年以降は「新」が取れて、タイトルはただの「極道の妻たち」に戻った。
この岩下志麻主演のシリーズは1998年の『極道の妻たち 決着(けじめ)』で終了となり、翌年からは高島礼子主演・東映ビデオ制作のVシネとして、さらに続編が作られ続ける(いちおう劇場公開もするが、それはあくまで「劇場公開作品」というハク付けをするためだけの理由で、予算もスケジュールもかなり規模縮小したかたちでの制作)。
高島礼子のVシネシリーズの『極妻』は1999年から2005年前までの間に5本製作されているが、私がいちばん好きなのが最終作(したがって現時点では極妻の最新作)にあたる『極道の妻たち 情炎』(2005年)である。制作が黒澤満で脚本が高田宏治で撮影が仙元誠三と栢野直樹、そして監督が、最近では珍しくなった東映生え抜きの橋本一。この橋本一の東映テイスト満載の演出が実に良かったです。なので小池里奈の最新作に期待を込めつつ、この、現時点での最新作をダイジェストで紹介したい。



映画は、開巻いきなり高島礼子のダンナが刺されて絶命するところから始まる。高島礼子のダンナは若頭で、大親分から可愛がられていて、後継者と目されていた人だったわけで、どうもただの敵対勢力との出入りとかではなくて、裏がありそう。高島礼子は真相をハッキリさせるために、自分が姉御として組を継ぎ、もともとヤクザになるつもりはなかったダンナの弟(山田純大)を連れてきて組を切り盛りしている。



組の事務所には小頭の六平直政と組の事務員をやっているその嫁の深浦加奈子の夫婦がいる。新宿梁山泊と第三エロチカ。1980年代の小劇場演劇を観ていた人にはぐっとくる組み合わせですね。深浦加奈子も、亡くなってもう5年も経つんだなぁ。
この二人の養女が前田愛で、ヤクザもんばかりの『極道の妻たち』に咲く可憐な一輪の花。小池里奈のポジションはぜひこういうものであって欲しい



縁談話があって、六平直政と深浦加奈子は、ぜひ義娘にはカタギに嫁いで幸せになって欲しいと願っている。でも前田愛はここの組のアニキの山田純大が好き。だから殺伐とした組事務所に、手作り弁当なんて作っては、毎日のようにせっせとやって来てしまうのだ。繰り返すが小池里奈の役どころはこういう感じで。



若い衆が前田愛の手料理の奪い合いをしたり、ひと騒動あって、ようやく落ち着いた頃合い。外に出ていた高島礼子アネゴも事務所に戻ったところへ、なぜか戦闘服のような精悍な衣装に身をつつんだ美女がひっそりと入ってくる。



英 玉「人を探してます。失礼ですが、こちらさんとはご同業のようで、お力を貸していただければと思いまして」



もう見るからにただものではない眼力の、凄い美女。まあクイン・ベリルだから仕方がない。招き入れてソファに座らせる高島礼子。


英 玉「私、白英玉といいます」
波美子「わてが、この一家を預かるもんやが、探しているのは?」



英 玉「私の夫です」



波美子「いつ頃の写真や」
英 玉「七年前、韓国の済州で撮ったものです。夫は日本に働きに出てから五年以上音信不通です。名前は白一兆、日本では河本と名乗っていました」



波美子「あんた、いままで何してたんや?」



英 玉「刑務所にいました。ちょうど五年の間、夫の身代わりに」
波美子「……悪いけど、他をあたってくれるか?」
英 玉「知ってるんですね?」



波美子「わてに言えるのは、このまま故郷に帰った方があんたのためということだけや」
英 玉「ご面倒をおかけしました」



波美子「……殺したらあかんで」


夫の一兆(保坂尚輝)は、ここ数年の間にぐいぐい伸してきて、死んでしまった高島礼子のダンナに代わって、大親分の跡目に推されている男だった。高島礼子は、この眼光に強い意志の宿った女に、彼の居場所を教えると、ただではすまない何かが起るだろうと思って、情報を与えず、帰国を勧めた。が、ベリル様はわりとあっさり、夫が日本で組長の娘と結婚し、子供もつくっていることをつきとめる。
岩下志麻の『極道の妻たち』では、常にかたせ梨乃が脇にいて、露出の少ない志麻姐に代わってお色気を補充していた。この作品ではベリル様がその担当である。で、ベリル様的には、ちょうど『花と蛇』と『花と蛇2』の間に撮られた作品なので、何を恥じらうこともない、もう胸もお尻も出し惜しみがないわけだが、鍛え上げられたボディには「お色気」とはちょっと違う迫力がありますね。



むしろ、後半ベリル様が夫・保坂尚輝の(日本の)妻が経営するクラブでホステス勤めを始める、その着衣の姿の方がよほど色っぽいよ。




まあ物語の細かい紹介はいいや。全体的に話の流れは強引なところもあって、正直言って脚本にはやや難点も見受けられる。でもそれを補うくらいシャープな演出に魅力がある。キャラクターのアクの強い描き分けにも、東映ならではの味わいがあって、実に良い。特に『孤独のグルメ』の松重豊がエグイ。そしてクライマックスに向かっていくエモーションの盛り上がり。最後にベリル様は高島礼子と組んで、女二人で殴り込みをかける。そこへ持って行く流れとして、ここも脚本的には少々無理があるんだけど、唯一の清純派キャラクターの前田愛を使うわけだね。
前に書いたように、前田愛は山田純大に想いを寄せているのだが、その山田純大は大親分から直々に後継者に抜擢され、保坂尚輝の勢力から命を狙われる。ヒットマンに襲われる山田純大。そして前田愛は、彼を守るために長ドス抜いて、セーラームーンAct.48の沢井美優みたいにヒットマンと刺し違えるのだ。



体当たりでヒットマンを串刺しにするが、密着状態で腹に拳銃弾をぶちこまれ、盛大な血しぶきと共に倒れる前田愛。何度でも書くが、新作では小池里奈をぜひこういう感じで、頼む。
でもベリル様は、同じようにヤクザ者を愛してしまった女として、この前田愛ちゃんと仲良くなって、ちょっと妹みたいに可愛がっちゃっていたのである。



だから前田愛が殺されたことで、ベリルも高島礼子の殴り込みに、勝手に助っ人する決意を固める。で、高島礼子が長ドスを振り回し、かたやベリル様は銃剣を使ったガンアクションなのだが、このガンアクションがいい。実写版セーラームーンでは衣裳の都合で身動きすらロクにとれなかったベリル様だが、アクション女優としても「見せ方」を心得ていることがよく分かります。



この『極道の妻たち 情炎』以来8年ぶりに復活する今回の極妻は『極道の妻たち』『新極道の妻たち』というタイトルがもう使用済みなので、『極道の妻たちNEO』というタイトルだそうだ。ヒロインは黒谷友香。監督はWOWOWのドラマでいい仕事をしている香月秀之。脚本が、なんとまさかの米村正二。公開は6月だそうです。
新たな極妻の黒谷友香は現在37歳。ということは、北川景子主演の極妻を劇場で観るためには、少なくともあと10年くらいは待たなきゃなんないわけだ。もちろんクラブのママ役(太ももに彫り物入り)で沢井美優も出演する。それまでシリーズを続けてもらわないと困るので、小池里奈には体当たりで頑張って欲しい。私も頑張って長生きしようっと。