オリンピック開会式。英国選手団が入場するときのBGMがデヴィッド・ボウイの「ヒーローズ」だった。北川景子さんも、ファンとしてさぞや喜んでいるだろう。いや新作の撮影中でそれどころではないかな。
それにしても暑いですね。こう暑いと、何だかもう、作品の考察とか分析とかめんどくさいや。本日は久しぶりに、頭を使わない資料のベタ打ち、台本の全文公開にしようっと。今回はAct.13、クンツァイト登場のエピソードです。まず、お話を忘れちゃったひとのためにザッとあらすじを紹介しようか。
前回Act.12のラストで、セーラーVがセーラーヴィーナスとしてプリンセスの名乗りを上げ、ビーム一閃でゾイサイトを倒す。コマを失ったベリルはしぶしぶ(本当は手なづけにくいので覚醒させたくなかったんだけど)四天王最後の男クンツァイトを召喚し、配下に加えることにする。
偶然にもそのころ、元基のペットの亀の失踪事件をきっかけに、衛とうさぎは覚醒前のクンツァイトと出会う。彼はシンと名乗る、おとなしそうな記憶喪失の青年であった。
うさぎは何とかシンの記憶を取り戻してやりたいと思い、そんなうさぎの善意に衛が付き合っているうち、二人の間には特別な感情が芽生える。前世のクンツァイトにとって許しがたい罪だったマスターと月のプリンセスの愛、皮肉なことにその仲立ちをシンがつとめる役回りとなってしまったのだ。そして彼がクンツァイトとして覚醒する時がやってきた。
以下、実物を読んでいただければわかることだが、今回は台本から削られたシーンがほとんど無い。アバン・タイトルの構成がちょっと違うこと、そして、亀吉の行方を教えてくれる酒屋が本編には出てこないこと、くらいではないだろうか。
だから本編と台本の印象は基本的に同じなのだが、でもあえて言えば、舞原監督の演出はやはり、うさぎと衛のラブストーリーの方に、より重きを置いている。台本を普通に読む限り、このエピソードの主人公はあくまでクンツァイトであり、主題は「エンディミオンと四天王の葛藤のドラマの幕開け」だ。彼らの悲劇を繰り返させる要因として「現世でまたしてもエンディミオンと月のプリンセスが惹かれあってしまう」というサブストーリーがくっついているのである。
それでも「バイク二人乗り」も「中華まん」も台本にあって、普通にラブストーリーとして読んでも切ない。まあゴタクはこんなところでいいや。みなさんそれぞれの関心に即してご利用ください。
あ、ちなみに名古屋支部がこれまで公表した実写版台本はAct.1、Act.8、Act.48、Final Actの4本。いずれも私が独自に入手したものではなくて、ひろみんみんむしさん、こっちよ!さん、そしてM14さんからコピー、PDFファイル、あるいは現物で戴いたものばかりです。まだ未紹介のものが何本も残っておりますので、少しずつこういうかたちで公開していきたいと思っております。ちなみにこのAct.13は、こっちよ!研究員からの頂戴物。感謝します。
毎回申し上げているとおり、これは実写版セーラームーンマニアのための研究資料として提供するものですので、扱いにはくれぐれもご注意ください。では
『美少女戦士セーラームーン』Act.13
原作:武内直子/脚本:小林靖子
1. 前回より(一部、本編と異同あり)
明るい決意の表情で振り返る美奈子。
美奈子「敵はプリンセスをさがしてるんでしょ。行かなきゃ」
╳ ╳ ╳
ネフライト「言え! プリンセスはどこだ!」
セーラーVの声「ここにいるわ!」
セーラーVがセーラーヴィーナスへ。
ヴィーナスの放つ激しい光がゾイサイトを包む。
ゾイサイト「うあぁ!」
タキシード仮面「!」
消えかかるゾイサイト。
だがその手を懸命にタキシード仮面に伸ばす。
ゾイサイト「……マスター、エンディミオン……」
タキシード仮面「?!」
ゾイサイトが消滅
アルテミスと共に立つセーラーヴィーナス。
ル ナ「プリンセス……。やっと姿を見せてくれたのね……」
頷くヴィーナス。
セーラームーンたちが見詰めて――
2. クラウン・中
うさぎ達四人とルナが集まっている。
うさぎ「セーラーヴィーナスかぁ。ホントにプリンセスって感じだったよね」
まこと「私も会いたかったなぁ。でも、もういつでも会えるか」
レ イ「それがそうでもないのよ」
まこと「え?」
ル ナ「プリンセスに、これからは私達が守るって言ったんだけど――」
╳ ╳ ╳
イメージ。
アルテミス「それはダメだ」
ル ナ「どうして……?」
ヴィーナス「私にはプリンセスとしてどうしてもやらなきゃいけない事があるの。私は大丈夫だから、みんなは敵から地球を守って。いいわね」
╳ ╳ ╳
亜 美「プリンセスとしてやる事って何だろ……」
ル ナ「わからないけど……、プリンセスの指示なんだから、その通りにするしかないわ。私達は私達で敵から地球を守りましょう」
一同が頷く。
4. 同・中
ゾイサイトの宝石を手にしているベリル。
ベリル「ゾイサイトが倒れるとは、さすがプリンセスと言うべきか……」
前に控えているネフライト。
ネフライト「ベリル様、ゾイサイトが間際に妙な事を」
ベリル「妙な事?」
ネフライト「エンディミオン、と」
ベリル「!」
動揺している様子のベリル。
ネフライト「あのタキシード仮面とか名乗る男に何か――」
ベリルがサッとネフライトに指を突きつける。
ベリル「忘れよ! 二度とその名を口にしてはならん」
一瞬、うつろな表情を浮かべるネフライト。
ネフライト「は……」
ベリル「ネフライト、幻の銀水晶がプリンセスの元にあるとわかったのだ、お前は今まで通り、銀水晶を追え」
ネフライト「はい」
ネフライトが下がる。
ベリル「……エンディミオン……。まさか……」
思いを振り払うように顔を上げるベリル。
ベリル「だとしても、全ては大いなる悪を目覚めさせてからの事だ……」
空中で握った手に、白い花の蕾が現れる。
ベリル「四天王最後の一人……。気が進まぬが、使うほかあるまい……」
ベリルが蕾に息を吹きかけると、蕾に一瞬黒い筋が現れて消える。
ベリル「……」
6. 衛のマンション・中
ソファにいる衛。
╳ ╳ ╳
前回より。
タキシード仮面に手を伸ばすゾイサイト。
ゾイサイト「マスター……エンディミオン……」
男と女性のイメージ
╳ ╳ ╳
衛のM「プリンセスとエンディミオン……。何かがありそうなのに、思い出せない……。あの記憶は一体何なんだ!」
そこへ鳴る衛の携帯。
画面には『古幡元基』
衛 「もしもし」
古幡の声「衛……。俺、もうどうしたらいいのか……」
衛 「元基? おい、どうした。元基!」
7 クラウン・受付(一部、本編と異同あり)
うさぎが来る。
入り口付近に古幡と衛がしゃがみ込んでいる。
うさぎ「あ……」
衛 「……」
うさぎ「何かあったの…?」
古 幡「うさぎちゃん、大変なんだよ。亀吉がいなくなった!」
うさぎ「うそ!どうして!?」
古 幡「水槽の大掃除してやろうと思って、亀吉バケツに入れといたんだけどさ、戻ってきたらひっくり返ってて……」
うさぎ「えぇっ」
うさぎが咄嗟にあちこちを覗き込む。
古 幡「もう中も全部探したんだけど、いないんだ……」
ガックリきている古幡。
古 幡「亀吉〜……」
そこへ来ていた配達の酒屋が声をかけてくる。
酒 屋「あのー、亀ならさっき外で」
うさぎ「えぇ! どこですか!」
9. 同・前庭
うさぎ、衛、元基が門から様子を窺うように入ってくる。
チラリと建物を見て、
うさぎ「何か、空き家ってヤな感じ……」
古 幡「だね。おーい、亀吉〜」
雰囲気を紛らわすように声を出して亀を探す。
うさぎ「亀吉くーん!」
その時、後ろで窓がコツンと鳴る。
ビクッとなるうさぎと古幡。
うさぎ「……亀吉?……」
再び鳴る音に、うさぎ達が恐る恐る振り返る。
と、窓の中に人影が見えて――
悲鳴を上げて逃げ出そうとするうさぎと古幡だが、衛が止める。
衛 「よく見ろ」
衛がうさぎ達に後ろを向かせる。
窓が開けられ、中から、亀を持った青年、シンが顔を覗かせる。
シ ン「探してるのって、これ?」
うさぎ「あ……」
古 幡「亀吉!」
10. 同・部屋の中
古幡がバスケットに亀を入れる。
笑顔で見ている身と、うさぎ、衛。
古 幡「良かったなぁ、亀吉。いい人に見つけられて。ホンットにありがとう」
シ ン「飼い主が見つかってよかった。早くエサあげた方がいいよ」
古 幡「ああ、それじゃ。衛、うさぎちゃん、お先に」
出ていく古幡。
うさぎ「あ、私達もすぐ――」
シ ン「あ、ちょっと待って。名前聞いてもいいかな。何か会った事ある気がして……」
「?」と見る衛とうさぎ。
╳ ╳ ╳
テーブルについているうさぎ、衛。
うさぎ「私は月野うさぎ」
戸棚をあちこち探しているシン。
シ ン「うさぎちゃんか」
衛は訝しく部屋の様子を見ている。
全く生活感のない様子の室内。
衛のM「変だな、住んでいる様子がない……」
シ ン「君は?」
衛 「……地場衛」
シ ン「そっか」
シンがバラバラのカップを出して茶を淹れる。
シ ン「何か、どこに何があるのかわかんなくて」
うさぎ「(考え)会った事あるかなぁ。えっと、名前は?」
シ ン「一応、シンって事にしてるんだけど……」
うさぎ「一応って……」
シ ン「いや、実は覚えてないんだ」
深刻そうでもなく、困ったような微笑のシン。
うさぎ「え?」
シ ン「記憶がなくなってるっていうか」
衛 「……!」
シ ン「自分が何者なのかもわからないんだ」
うさぎ「……!」
╳ ╳ ╳
回想(第9話)
タキシード仮面「俺が、何者であるか知るために」
╳ ╳ ╳
うさぎのM「そっか……。タキシード仮面と同じ……」
うさぎが進み出る。
うさぎ「ねえ、ちょっとでも覚えていることとかない? 場所とか、そうだなー、何か好きなものとか」
シ ン「好きなもの……」
シンが窓外を見詰める。
シ ン「花……白い花とか、緑、それに海とか……」
うさぎ「自然が好きなんだ。それ、手がかりにして――」
突然首を振って窓から視線をそらすシン。
シ ン「いや、いいんだ。俺はこのままで」
うさぎ「え……」
衛 「……」
シ ン「引き留めてごめんね」
うさぎ「そんな……、諦めちゃダメだって。私、協力するよ。相談出来る人知ってるから、そこ行こ」
シ ン「(首振って)俺は、ここから出ちゃいけない気がする」
うさぎ「え……?」
衛 「……?」
うさぎ「そっか。じゃ、ちょっと待って」
うさぎが携帯を出して電話をかける。
うさぎ「……あ、もしもし、レイちゃん?」
レイの声「うさぎ? あなたどこにいるの?」
うさぎ「え?」
11. 火川神社・中
携帯で話しているレイの周囲では、初詣用のおみくじ等の準備を手伝う亜美、まことがいて慌ただしい。
まこと「うさぎから?」
まことが携帯に向かって叫ぶ。
まこと「うさぎ! 今日は正月準備手伝うって話だったろ!」
と叫んだ拍子に注連縄をちぎる。
まこと「うあ?!」
ちぎれた注連縄に当たってひっくり返った亜美が、おみくじをバラまく。
亜 美「あー!」
うさぎの声「あの、ごめん、レイちゃん……」
レイ、頭を押さえ、
レ イ「いいわ、来なくて。もう十分」
と、電話を切る。
12. 洋館・中
気まずく携帯を畳むうさぎ。
うさぎ「えーっと、ちょっとこっちはダメだったけど……、大丈夫、私、何か考えるね?」
うさぎが部屋を出て行く。
衛 「おい――」
衛も立ち上がりかける。
シ ン「ホントに、いいんだけどな……思い出さなくても」
うつむくシンを見る衛。
衛のM「こいつも……俺と同じ……」
13. 同・外
足早に出て来るうさぎ。
それを追って来た衛が呼び止める。
衛 「おい、待てよ」
うさぎ「何よ」
衛 「お前、ホントにあのシンってヤツに何か思い出させるつもりか?」
うさぎ「そうだよ。悪い?」
再び歩き出すうさぎを、衛が追う。
衛 「本人がいいって言ってるんだぞ。ほっといてやれ」
うさぎが振り返る。
うさぎ「何それ。何にも覚えてないんだよ? そんなの……」
╳ ╳ ╳
フラッシュ。
タキシード仮面の顔。
╳ ╳ ╳
うさぎ「何とかしてあげたい。ほっとけないよ!」
うさぎが憤然と歩き出す。
見つめた衛が後を追う。
14. 商店街
歩くうさぎの後ろを着いていく衛。
うさぎが振り返る。
うさぎ「ちょっと、何で付いてくるのよ。帰れば?」
衛 「心配なんだよ」
見つめられて、ちょっとドキッとするうさぎ。
うさぎ「え……」
衛 「お前がアイツを困らせるんじゃないかと思ってな」
うさぎ「(カッと)そんな事するわけないでしょ!」
衛 「じゃ何するつもりか言ってみろよ」
うさぎ「だから……」
周囲に目をやったうさぎは、花屋を見つける。
シンの声「花……白い花とか、緑、それに海とか……」
うさぎ、得意げに衛を見ると花屋へ入っていく。
╳ ╳ ╳
うさぎが、白い花を一輪持って出てくる。
うさぎ「シン君はね、花とか自然とかが好きなの」
衛 「……それ見せるだけか?」
うさぎ「他にも、森とか、海とか――」
衛 「あいつは外に出たがらない」
うさぎ、一瞬ひるむが、すぐ胸を張る。
うさぎ「わかってるもん。良い考えがあるの」
15. ギャラリー
大きな森林や海の写真が展示されている。
うさぎがチラッとゼロの並んだ値札を見て素通りしていく。
ついていく衛。
18. 道
手にした一輪の花と絵はがきを見るうさぎに、先ほどの勢いはない。
見ていた衛が一つ溜息をつくと、歩み寄って、花を手にする。
うさぎ「何よ……、これだって何かヒントに……」
衛 「確かに、花の匂いとか、感覚に訴えるのはいいかもな」
今度は衛が先頭に立って歩く。
19. 駐車場
バイクにまたがった衛が、うさぎにメットを渡す。
うさぎ「え……?」
衛 「海なんだろ、アイツが好きなの」
うさぎ「あ、うん」
衛 「早く乗れよ」
うさぎが、遠慮がちに乗って衛につかまるが、乱暴に発進するバイクに、思わずしがみつく。
21. 海岸
うさぎが空き瓶に砂や貝を入れる。
うさぎ「これで思い出してくれるといいな」
少し離れて見ている衛。
衛 「……過去を思い出すのは、簡単な問題じゃない。自分が何者か知るのは怖い部分もあるしな。お前が宿題忘れてるのとはワケが違うんだ」
うさぎ「何よ、それ――」
衛 「だから、ダメでもあんまりガッカリするなよ」
うさぎ「え……うん」
衛を窺うように見るうさぎ。
うさぎのM「私に気つかってくれてんの……?」
衛 「……」
22. 売店前(夕方)
止めたバイクに戻って来るうさぎと衛。
衛 「今から帰ったら遅くなるな。シンには明日渡せばいい」
うさぎ「うん」
売店に売っている中華まん
うさぎ「あ、あれも買っていこうかな」
衛 「あんなの海に関係ないだろ」
うさぎ「(構わず)すいません、これ一つ」
中華まんを受け取るうさぎは、半分にして衛に差し出す。
衛 「……」
うさぎ「ちょっとは、ありがとって言うか」
受け取る衛。
バイクを間に挟んで黙々と食べる二人――
23. 洋館・全景(夜)(本編には無し)
27. 街(夜)
歩いてくる女性。アユミ。
その前方に立つ男のシルエット。
そこから飛んだ数本の髪の毛がアユミの首に巻き付く。
アユミ「!」
髪の毛はすぐ首の中に埋まって消える。
同時にアユミの目が金色に光る。
28. 洋館・前(早朝)
朝霞の中、帰ってくるシン。
門の前で待っている衛。
シ ン「あ……。確か、衛……」
衛 「こんな早くからどこ行ってたんだ? 外に出ないんじゃなかったのか?」
シ ン「俺、気づいたら外に立ってて……」
衛 「?」
29. 同・中
衛が紙袋から花や瓶、絵はがきを取り出して置く。
「?」と見るシン。
衛 「昨日一緒にいた子が集めたんだ。お前が何か思い出すかもって」
シンが花を手に取る。
衛 「お前が自分を思い出すのは怖い気持ちはわかる。俺も最初はそうだった」
シ ン「君も……?」
衛 「けど、自分から逃げる事は出来ない。例え記憶がなくても……。だから俺は自分を追う事にしてる」
シ ン「そうだね……。でも俺が怖いのは、こういうものを好きな自分じゃなくなるような気がするからだよ」
衛 「?」
シ ン「俺、昨日夢で人を襲ってた……。夢じゃないかも」
衛 「?!」
シ ン「……俺が、人間じゃないって言ったら、信じる?」
シンを見つめる衛。
シンの手から花が落ち、うめき声を上げるシン。
衛 「おい……」
衛が覗き込むと、シンの目の色が変わっている。
衛 「!」
シンの周囲に黒い花が吹き荒れ、衛が弾かれる。
シ ン「来るな! 俺に近づくな……!」
衛 「シン……!」
30. ビル・エントランスホール
悲鳴を上げて逃げる人々。
正面階段から降りてくるアユミ。
金色の目、伸びた爪で、周囲の女性に襲いかかって、エナジーを吸う。
ぐったりした女性に、さらに悲鳴の輪が広がる。
高い位置から見ているルナ。
ル ナ「大変だわ……」
32. 洋館・外
うさぎが入ってくる。
しかし、中から出てくる衛が、行方を遮るように立つ。
うさぎ「あ……遅れてごめん。シン君は……」
衛 「記憶が戻って出てった」
うさぎ「え、ホントに?!」
衛 「お前に感謝してた」
うさぎ「良かったぁ」
衛 「……」
そこへ鳴るうさぎの携帯。
うさぎ「もしもし?」
ルナの声「うさぎちゃん、大変よ、すぐ来て!」
うさぎ「え……。わかった、(衛に)じゃあ……私、急ぐから」
衛 「ああ」
ちょっと衛が気がかりになりつつも、走り去るうさぎ。
衛が我慢していた傷の痛みを押さえ、屋敷を見る。
34. 街
アユミも叫び声を上げている。
駆けつけてくるセーラームーン。
セーラームーン「! この人……」
アユミがセーラームーンを見る。
アユミ「助けて……」
次の瞬間、アユミの身体は完全に妖魔に変形。
セーラームーン「え……?!」
ル ナ「セーラームーン! 妖魔が乗り移ってるんじゃないわ、人間が妖魔に変わってしまったのよ!」
セーラームーン「人間が?じゃあ倒しちゃったら彼女も?」
ル ナ「あなたの力なら人間を傷つけずに、妖魔の力だけを封じられるはずよ!やってみて」
攻撃してくる妖魔を避けるセーラームーン。
38. 街
妖魔の攻撃を避けて身構えるセーラームーン。
セーラームーン「ルナ、ホントに、攻撃して大丈夫なの?」
ル ナ「セーラームーン、力を信じて! やるしかないのよ!」
セーラームーン「わかった……。ムーンヒーリングエスカレーション!」
光が妖魔を包む。
妖魔が女性の姿に戻り、気絶した女性が倒れる。
セーラームーン「!」
女性に駆け寄るセーラームーン。
セーラームーン「うん……。大丈夫みたい」
ル ナ「良かったわ……。でも一体どうやってこんなひどい事を……」
その時、女性の首からハラリと落ちる髪の毛。
セーラームーンが拾い上げる。
セーラームーン「何? 髪の毛?」
ル ナ「多分、これがこの人を妖魔に……」
分解して消える髪の毛。
見詰めたセーラームーンが顔を上げると――
その向こうに姿を見せるクンツァイト。
「!」と見る一同。
セーラームーンを見つめるクンツァイト。
クンツァイト「お前がセーラームーンか」
セーラームーン「……誰?」
クンツァイト「ダーク・キングダム四天王の一人、クンツァイト」
名乗ると同時に剣を抜く。
剣が風を起こし、セーラームーンが思わず膝をついて低い姿勢で構える。
クンツァイトが自分の髪の毛をスッと抜き取る。
それは女性の首に巻き付いていたのと同じ。
別方向から来たタキシード仮面が「!」と見る。
タキシード仮面「待て!」
走ろうとするが、それより早くクンツァイトは髪の毛を飛ばしている。
タキシード仮面「!」
素早くセーラームーンの首に巻き付く髪の毛。
セーラームーン「!?」
ル ナ「これは、さっきの……」
髪の毛が首に埋まるようにして消える。
セーラームーン「きゃぁ!」
蹲るセーラームーン。
タキシード仮面「セーラムーン!」
クンツァイト「私からの挨拶がわりだ」
クンツァイトがフッと笑って消える。
タキシード仮面「セーラームーン、しっかりしろ!」
タキシード仮面が抱えようとした時、セーラームーンがゆらっと立ち上がる。
開いた目は金色。
タキシード仮面「!? セーラームーン……」
ルナ「大変だわ……、セーラームーンが妖魔になってしまう……!」
タキシード仮面「!」
愕然と見るタキシード仮面。
セーラームーンは無表情に立ちつくして――