1. 夫婦で共演
野田秀樹作・演出、NODA MAP第5回公演「ローリング・ストーン」は、1998年春に東京のシアター・コクーンと大阪の近鉄劇場で上演された。私は残念ながら観ていませんが、キャスト全員を公募制オーディションで決めるというので、ちょっと話題になった芝居で、羽野晶紀とか八嶋智人とか阿部サダヲとかが出演した。
それから宮下今日子も、このオーディションで抜擢されて、実質的な女優デビューを飾った。「誰?」と思われる方もいらっしゃるだろうが、実写版セーラームーンのAct.8で、火野レイを無理やりパパのもとへ連れて行く秘書の「倉田さん」を演じた人だ。
というわけで今回は珍しく、道草をくわずストレートに本題に入ります。Act.8のBパートでしたね。
高層ビル。その下をレイを載せた黒塗りの車が横切って、地下駐車場に滑り込む。このビルは練馬区にある J.CITY TOWERS。このあたりは、Act.3の結婚式場のシーンで「うさぎと亜美の目の前で、レイが妖魔に捕まり、亜空間に拉致される」という場面のロケ地にも利用されている。でも今回はホテルという設定らしい。客室でお嬢様ふうのドレスに着替えて、レストランでパパと食事をする、というダンドリなのです。
地下駐車場に到着する車。
車中には唇をかみしめるレイ。
倉 田「さ、降りて」
影になって分かりにくいですが、この方が「倉田さん」こと宮下今日子さんです。
さっきも書いたように、宮下今日子は1998年の野田秀樹の舞台「ローリング・ストーン」でデビューを果たしているが、この時、八嶋智人と共演している。そして4年後の2002年には、八嶋智人と結婚しているのである。ということは、この「ローリング・ストーン」が縁結びとなった、ということかな。もちろん宮下今日子さんが、それ以前から八嶋智人のファンで、劇団カムカムミニキーナの公演に毎回通っていたとか、そういう可能性もなくはないが。
八嶋智人さんといえば、ご存じのとおり2008年のドラマ『太陽と海の教室』で北川さんの先輩教師をやっていた。いやすみません、要するに、八嶋智人と宮下今日子のお二人が、夫婦揃って北川景子さんと共演経験がある、というトリビアの泉(10へぇ)でございます。
実写版Act.8がオンエアされたのは2003年の秋だから、この時点では、まだ八嶋智人と新婚ホヤホヤのはずだが、そんなそぶりも見せず(あたりまえだよ)クールな「倉田さん」。かなり有能そうだが、でも火川神社からこのホテルまで、ずっと車を尾行してきた人影があったとは、さすがに気づいていない。レイが誘拐されたのではないかと心配して後を追った木野まことである。すでにぴたりと倉田さんに張り付いている。
まあしかし、倉田さんが尾行を巻けなかったのは仕方がない。女子中学生の尾行なんて想定外の事態である。
周囲を見回しながら来るまこと。
と、一室に入っていく倉田が見える。
まことのM「!」
結局、まことがどうやって火川神社からこの建物までたどり着いたかは、直接ドラマ内には描かれていない。でも何かしら、戦士の力を利用したのだろう。常人離れしたスピードでダッシュしたとか、側転で、ひと廻りごとに「はっ、はっ」とかけ声をかけながら追跡してきたとか、Act.14のマーキュリーのように、ビルの谷間をひとっ飛びしたとか。
それにしても、木野まことが絡むエピソードでは、なぜか戦士の能力の無駄な使い方が多いように思うね。妖魔と関係ないストリートバスケ3人組を倒したり(Act.6)、せっかくの新兵器、セーラースタータンバリンでタクシーを止めたり(Act.26)、元基とのデートのために変身携帯テレティアSでファッションショーをしてみたり(Act.31)。
2. 併走する物語
一方、こちらは所沢の市民文化センターの「ナコナコなりきりコンテスト」会場。
司会者「えー、二列になってお待ち下さ〜い。あっ、そこの君もうちょっと待ってて。まだまだたくさん来ますからね」
という司会の案内に従って並ぶ。司会者役は北村隆幸。昔は『仮面ライダーBLACK RX』で、高畑淳子さんと一緒に、敵の幹部役をやっていた人だ。ガテゾーン。
そういう過去を持つ司会の仕切りで、ナコナコ姿で並ぶうさぎ。なる、香奈美、桃子も一緒だ。
うさぎ「うわぁ、結構いるなー」
桃 子「美奈子、まだ来てないのかな」
それぞれの格好でコンテストに挑むわけだが、結局みんな、手が込んでいるのは首から上だけで、ボディはジャージとかパジャマとか、わりといい加減である。いちばん凝っているのは香奈美の頭部。カメラを持ち歩いたり、やはりこの人はちょっとマニアックだ。が、そのせいで、小林靖子の台本では香奈美に振られていた「美奈子、まだ来てないのかな」のセリフを言えなくなってしまい、完成作品では桃子のセリフになってしまっているのが笑える。
そうだ思い出した。桃子(清浦夏実)が、NHK教育テレビ(今は「Eテレ」と称しているが)で始まるアニメ『ファイ・ブレイン 神のパズル』(10月2日放送開始、毎週日曜、午後5時30分)のエンディングテーマ曲の担当に決定した。制作はサンライズで、監督は佐藤順一。CDシングルリリースの話はまだだが、いずれフライング・ドッグから出るでしょう。
清浦夏実 新曲『ホログラム』作詞:清浦夏実/作曲・編曲:曽我淳一NHKアニメ『ファイ・ブレイン 神のパズル』EDテーマ
一方、ダーク・キングダムでは、ジェダイトに「俺はセーラー戦士を倒したい」と頼まれたゾイサイトが、望み通り彼をセーラームーンのところに「飛ばす」ために、ショパンを弾き始める。
司会者「はい、受付が終わった人はこの列の後ろに並んで下さーい」
司会者の場内アナウンスを伝えるアンプのダイヤル周波数が勝手に動き出し、異世界から届いたピアノの旋律を拾う。
それは次第に、集まった人々の潜在意識に響いていく。
ひとり異変に気づくうさぎ。
うさぎ「何……? この音……」
ということで、先ほどの木野まことの追跡劇と並行して、いよいよ前回Act.7のラストに禍根を残したジェダイト対セーラムーン対決が始まるわけなんですけれども、観ているこっちの関心の度合いから言うと、本来ならメインストーリーであるべき戦士(しかも主役)と妖魔のバトルが、ほとんどオマケ扱いみたいなところが、面白いっていえば面白いです。だって実際ここまで来ると、こじれたレイとまことの関係がどんなふうに解けるのかっていうことの方が、ジェダイトのうさぎ襲撃より気になるよね。
こういう、一話のなかで複数の筋を並列的に進める話の組み立て方は、スーパー戦隊シリーズではあまりお目にかかれない。スーパー戦隊は、後半の戦闘シーンに関するお約束が多くて、たとえば「クライマックスのバトルは原則としてメンバー全員参加の総力戦」とか、「最後はお馴染みの極め技でフィニッシュ、その後は巨大ロボット戦」とか、そういうのを全部入れ込む時間を確保しようと思ったら、一つのエピソードをあまり複雑なプロットにはできない。
複数のお話を併走させる話の組み立て方は、むしろ平成仮面ライダーシリーズのものである。でも逆にライダーの場合は、いくら沢山のライダーを出して大河ドラマふうに展開しても、やはりタイトルロールの人が主役で、物語は自然と一本にまとまるようになっている。たとえば先週めでたく完結した小林靖子の『仮面ライダーオーズ』で言うと、二人の仮面ライダーバースをめぐるサブストーリーも魅力的だが、基本はあくまで、仮面ライダーオーズこと火野映司(とアンク)の物語であって、そのポイントは最初から最後までぶれない。その点ではセーラームーンは明らかな群像劇であって、むしろスーパー戦隊に近い。もっと言ってしまえば、これはセーラー戦士とエンディミオンと四天王とベリルのドラマである。
このAct.8では、うさぎはナコナココンテスト出場に夢中、ジェダイトはセーラー戦士に意趣晴らしをしたい、まことは誘拐されたレイを追跡と、これまでになく群像劇としての側面が強く出てくるようになって、スーパー戦隊でも仮面ライダーでもない実写版セーラームーンの、ちょっととらえどころのない魅力が、はじめてくっきりと明らかになったエピソードである、と言えるかも知れない。
というわけで、次はホテルのシーンだ。
3. あの娘はおせっかい
さあ、あとちょっとだけ流して今回は終わりにしよう。倉田さんの姿を見かけたまことは、彼女が入っていった部屋のドアに走り寄り、耳をあてて中の様子をうかがう。
倉田さんの宮下今日子も身長172cmだという話だし、この長身のクール・ビューティー二人の尾行劇は、ハタから見てかなり目立ったのではないだろうか。すぐさま黒服の男が二人(鈴木淳至・竹下浩史)、スッと近寄ってくる。
男 「何をしているんだ」
まこと「! はなせ!」
咄嗟に男二人を突き飛ばしているまこと。
男達が派手に倒れる。
格闘シーンというほどのものでもなくて、力まかせに突き飛ばしているだけなんだけど、脚が長くてポーズが決まっているので、それなりに決まっているように見える。得である。
それにしても、まことってつくづく世話焼きだ。Act.17では傷心のうさぎに付き添って毛糸を買いに行き、Act.20ではうさぎと衛のデートをこっそり尾行、Act.21ではダーク化進行中の亜美に振り回されて、遊園地を右往左往したあげく、倒れた亜美を介抱、Act.34では家出した亜美とレイのためにお弁当を用意している。逆にまことが他人の世話になったのは、Act.45のラストでM妖魔と自爆して、Act.46で美奈子の部屋のベッドで手当を受けたときだけだ。でも美奈子はこのとき、まことを介抱することで、逆にまことに癒されている。
それでも、一部のお節介な奴に特有の、イヤミのようなものがまったく感じられないのは、この人に本当に邪心がないからだろう。感謝されたいという功利的な気持ちも、相手の秘密を知りたいというような詮索の気持ちもまったくなくて、どれもただ、その時その時に相手を心配するあまりとってしまった行動である。だからうまくいっても失敗しても、我々の心に最後に残るのは「行くよー」「行けー」という清々しさだけだ。
そういう、セーラー戦士随一の世話焼き女の世話焼き第1号のエピソードがこれなんだ、と思うと、なんかちょっと浮き浮きするね。
といったあたりで終わりにしようかな、とも思ったが、倉田さんの話題で始まった今回のブログ、倉田さんで締めましょう。
ドアが開いて倉田が顔を覗かせる。
倉 田「どうしたの?」
倒れた男達とまことに驚く倉田。
倉 田「何なの、あなた!」
まこと「私は――」
倉 田「ちょっと、誰か――」
言いかけたその時、部屋の中から声。
レイの声「倉田さん、いいの!」
まこと「!」
レイの声「私の友達だから」
倉 田「え?」
まことと倉田さんが押し問答していると、部屋の中からレイの声が……。聞こえてくる声は確かにレイだが、ドアの隙間から垣間見える、ドレスアップした少女の姿はとてもそう見えない……と思ったけど、まさかひょっとして!?
なーんてね。では続きはまた次回。
そうだ、最後に疑問をひとつ。Act.33とAct.34で出てくる火野隆司の秘書、西崎(菊池均也)は、ここにはどうして出てこないのだろうか。そして逆にAct.33とAct.34にはどうして倉田さんが出てこないのだろう。このAct.8からAct.33までの半年の間に、秘書の倉田さんが、火野代議士の汚職疑惑の泥をかぶって辞職したとか、そういう話でなければいいのだが。
【よく分からないオマケ】