実写版『美少女戦士セーラームーン』ファンブログ


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【第205回】DVD第2巻:Act. 6の巻(その2)



いきなりですまないが、今年の2月にリリースされた松平健のアルバム『Sing & Act 〜松平健 華麗なる11変化〜』である。このアルバムの9曲目「花の火」の歌詞を、実写版セーラームーンでうさぎのママを演じた森若香織が書いている。育子ママ&マツケンのコラボによる軽快なアップテンポのナンバーだ。
しかもこのアルバムには、全11曲、それぞれのシチュエーションに併せたミニドラマ(主演:松平健)も収録されている。まさに「華麗なる11変化」だ。音楽CDとドラマDVDの2枚組で3,500円。これは買いだよ。どうですか、お客さん。
松平健は、勝新太郎の付き人をしていた1974年に、フジテレビのドラマ『座頭市物語』の第23話「心中あいや節」で、実質的なデビューをはたしている。親の反対を押し切って、盲目の芸者、瞽女(ごぜ)の浅丘ルリ子と駆け落ちする庄屋の息子の役である。
このテレビ版『座頭市』第1シリーズは、1974年の10月から1975年の4月まで、半年間2クール全26話がオンエアされ、うち6本を勝新太郎自身が監督している。これがどれも傑作揃いなんだが「心中あいや節」も、そのカツシン監督作品のひとつで、いいですよ。
いやいや、唐突ですみませんでした、座頭市に瞽女ということで、以前、綾瀬はるかの『ICHI』の話題で記事を書いたとき、この話も書こうかと思ったけど、なんか書きそびれて、そのままだった。
そんなことをなんで今ごろ改めて書き始めたかというと……ってちょっと待てよ、そっちから話し出すと順序が逆になるな。すみません、仕切り直して本題に入ろう。

1. また沢井さんの話で暴走する


さてAct.6冒頭だ。なる、香奈美、桃子の三人はとにかくタケルに夢中。「どこがかっこいいのか、いまだに理解できません」なんて万丈さんのつぶやきなどかき消してしまうにぎやかさである。


な る「早く!」
うさぎ「どの人どの人?」
な る「あの帽子かぶっている人!ナイスシュー!カッコい〜」
うさぎ(でっかいカメラを持った香奈美に)「貸して貸して」
なる「タケルさんって言うんだよ、高2」
うさぎ(ファインダー越しにアップで見て)「なかなかいいかも」
な る「でしょ〜。最近いつもここでプレイしててさぁ、もうファンがすっごい増えてるんだから」
桃 子「もっと近く行こうよ〜」
な る「早く早く!」

と、まだカメラを覗いているうさぎを放ったらかしにして、タケルさんを追いかけていってしまう三人組。ふと気づけば取り残されているうさぎ。慌てて「ちょっと待って私も〜」と後を追って、角を曲がったところで、突然バスケットボールが飛んで来て、危うくぶつかりそうになる。

思わず悲鳴をあげるうさぎの前にあらわれたのが、跳ね返ってきたボールを弄びながらゆっくり迫ってくる、シュンとマサとクラの三人組だ。リーダー格のシュンを演じている、元ジャニーズの内澤祐豊こと上杉祐斗については、ちょっと前に書いたばかりだ【第199回】。後の2人は、左端のチェックのシャツにヘッドフォンがマサ(高山基彦)で、右の背の高い赤サングラスと黒ウェアがクラ(奥野木純)である。
クラ役の奥野木純(劇団東俳)については、この実写版Act6以外ほとんど情報がないが、マサの高山基彦は、ちょこちょこ幾つかの作品に顔を出していて、最近では松田翔太と新垣結衣の映画『ワルボロ』(2007年、隅田靖監督)にクレジットされている。この『ワルボロ』には今回タケル役の田代功児も出演してるぞ!……まあいいか、そんな情報は。

三人組の狙いは何か。「彼女ぉ〜、バスケやりたいなら教えてあげるよ」と迫ってくるところを見ると、ナンパかなあ、とも思う。でもうさぎが「いいです!(怒)」と無視して立ち去ろうとすると、ちょっとマジに敵意をむき出しにしたようなボールを放って来るから、エッチな下心はないのかなぁ、という気もする。ただ、タケルばかりがもてているのが気に入らなくて、タケルに群がる女の子たちの中でトロそうなうさぎを、腹いせにいじめてやれ、くらいの心づもりであろうか。

以前も書いたが、原作原理主義を標榜する実写版のくせして、この、うさぎと木野まことのファースト・コンタクトの場面設定は、アニメ版に準拠している(偶然の一致かもしれないが)。
原作漫画第5話だと、うさぎはタキシード仮面のことばかり考えて、ボーッと道を歩いていて自動車に轢かれそうになる。そこにまことが風のように現れ、間一髪でうさぎを助け「気をつけなよ」と言って風のように去る。実写版で言うとAct.24みたいな感じね。衛と陽菜との三角関係で心ここにないうさぎが、赤信号無視で車に轢かれそうになって衛に救われ「馬鹿、赤だろ!」「馬鹿って何よ!」っていう、あれ。
一方、アニメ無印第25話「恋する怪力少女 ジュピターちゃん」では、遅刻しそうで必死に走って登校するうさぎが、前方不注意で三人組のチンピラにぶつかり「足の骨がおれたやんけー」「どないしてくれるんや」と因縁つけられるのだ。そこへまことが登場、チンピラどもを蹴散らすのである。シチュエーション的に実写版は、このアニメ版にはるかに近いように思う。
アニメ版のチンピラたちに、うさぎちゃんをナンパしようとかそういう下心がまったく感じられないところからすると、この実写版のバスケ少年たちも、エッチなことをするつもりはないのかも知れない。だとすると、ちょっと残念だ。イヤつまりですね(汗)、沢井美優のうさぎは、戦士の中で一番「うぶ」というか「おぼこ」というか、そういうイメージが強いからこそ、悪い男の毒牙にかかりそうなシチュエーションでは、他の誰よりも「この子大丈夫か、やられちゃわないか」というサスペンスを生む、ということだ。小松彩夏ではこうはいかない。

前回はコメント欄でホラー映画の話がやたらと出てきたので、私もつい『チェーン 連鎖呪殺』のDVDを観てしまったが、そのことをつくづく実感しましたよ。撮影が実写版セーラームーンのあと間もないこともあって、この映画の沢井美優は、うさぎちゃんの清純なイメージをそっくりそのまま引きずっている。でも演じている役柄は、あんがい遊んでいる今どきの女子高生で、そのアンバランスさの魅力が、この作品の唯一最大の魅力になっている。だからホラーやスプラッターのシーンよりも、ユースケ・サンタマリアのニセモノみたいな担任教師が、授業中に机の下の沢井さんのナマ足に見とれていて、それに気がついた沢井さんがスカートを引っ張りおろす、という場面の方が、遙かに手に汗握るというか、ドキドキするんですね。

しかもこの教師ってば、沢井さんが、連続殺人の輪が自分に近づいてきておびえ始めると、その弱味につけこんで「やらせてくれたら助けてやる」と言い寄り、やりたい一心で沢井さんにつきまとう、とんでもないユースケなのである(演じているのは最近やたらと映画に出演している山本浩司だが)。それで、沢井さんの携帯を自分のノートPCに接続しただけで、携帯に保存してあった脅迫メール(チェーンメール)の送り主の住所が突き止められるというのだから、すごい能力だ。やはり沢井さんが「やらせてくれる」となると、男はこれくらいの底力を出す。小松さんだとこうはいかない。小松さんは500円も出せばやらせてくれるから(映画『恋文日和』参照)。
くだらない余談はいい加減にして、話を実写版Act.6に戻すと、そういう意味で「チンピラに絡まれるうさぎ」という図式そのものは、わりと私は好きだ。虚勢を張っていても中学生の少女らしいおびえを隠しきれない、そんな様子を沢井さんは上手に演じている、ただそのせいで、本人の強力な持ち味である運動神経の良さを殺して、ちょっとノロマな女の子に見せかけなきゃいけないのは、役柄とはいえ残念ですね。本来の沢井美優なら、安座間さんの出番を待つまでなく、こんなボール片手でバシッとつかんで(片手はカメラを持ったまま)投げ返し「んはははは、バスケ楽しいですよ〜。エミリさんもどうですか」とか言うはずなんだが。

2. まことはすっごく強い。強くなくてはいけないはずなのだが


だから演出スタッフが、この冒頭シークエンスでいちばん気をつけたのは「安座間美優が沢井美優のピンチを助ける不自然さ」をどう消すか、という点だったのではないか。天性の女優でありスポーツ少女である沢井美優と、もともとモデル志向の安座間美優とは、演技においてもアクションにおいてもスタートラインが違うから、この時点では芝居のレベルが天と地ほどに違う。
もちろん安座間美優だって運動神経が悪いわけじゃない。小学生からアクターズに通い、B.B.WAVES出身なんだから、『キラリ☆スーパーライブ』で見せたダンスの才能は、この時点からすでに健在だったろう。そしてダンス能力とアクションのセンスは隣り合わだ。勝新太郎とかブルース・リーとか、目にもとまらぬスピーディーな活劇を披露するアクション・スターたちの身振りは、いつだって舞踊家の華麗さを兼ね備えている。だからダンスの得意な安座間美優にアクションが無理なわけはないし、実際、実写版が後半第4クールに入ったあたりからのセーラージュピターの戦いぶりは、パワーファイターらしいスピードとスケールをそなえていて、初期とは見違えるばかりだ。
がしかし、Act.6ではまだそこまでいっていない。それでも、バスケットボールをぶつけられそうになって脅えるうさぎを颯爽と守って、少年たちをぶっとばす新キャラクター木野まことを、ここで鮮やかに印象づけなければ、アバン・タイトルにならないし。さあ、どうする。ということで、ここはあれこれ技巧を駆使するしかない。
このシーン、具体的には(1)シュンが、うさぎにぶつかるようにボールを投げつける。(2)突然現れたまことが、それをキャッチして投げ返す。(2)まことのボールに吹っ飛ばされたシュンは逆上し「てめえ、ああ、怪我してぇのかよ」と近寄る。(3)シュンが不用意にまことの右肩に左手をかけると、まことはそれを左手で払う。(4)まことはそのまま左手をすべらせ、グーではなくて手を開いた打撃でシュンを倒す。と、だいたいそういう手順だ。これ自体、ひとつひとつのカットの所要時間が短いわけだが、その(2)(3)を経て(4)に入るあたりまでの、まことの打撃攻撃の一部始終が、分割画面で示される。

これ、張り手というのか掌底というのか掌打というのか知らないが、とにかく妙に格闘技っぽいリアルさがある。そういう、ボクシングのパンチでも空手チョップでもない打撃技を決めに使い、しかも「かわして撃つ」という二手だけで表現したところがミソである。
さらに、シュンがぶっ飛ばされたので「いい加減にしろお前」と言いながら、マサとクラが反撃に出てくるが、この二人もあっさり片付けるところは(1)二人をきっと睨みつけるまことのズーム、(2)ひゅぅぅうう……と風に吹かれる梢のアップ、(3)ぶっ倒されてひっくり返る野郎ども、という3カットで表現される。具体的な格闘シーンは画面に映されない。

アニメ版もここのところは大いに動きを省略して、「止め絵」と「引き」だけで表現しているが、これはまあ、当時の東映動画が経費節約のために「3000枚縛り」と呼ばれる動画の枚数制限をしていたせいだ。それに、アニメ版セーラームーンの時代には「美少女ヒーローのバトル」をどう表現するかという方向性も、まだきっちり定まってはいなかったと思う。プリキュアなんか見ていると、昔日の感に堪えない。
ともかく、安座間美優の場合には、こういうふうに、編集とか省略とかを効果的に使って、木野まことをすごく強そうに見せたわけだが、もし沢井美優がまこと役だったら、たぶんこの時点でも、そんな配慮をする必要はまったくなかった。「アクション女優」としての身体能力の高さにおいて、沢井美優は群を抜いているのだ。

3. このシーンがもしうさぎだったら、どういう画面になるか



たとえば『チェーン 連鎖呪殺』(またかよ)は、全編にわたって「爽快」とか「痛快」なんて言葉とはおよそ縁のない作品だが、そんな映画にも、冒頭まもなく、スカッと爽やか(になりそう)な一瞬がおとずれる。ヒロインのサキ(沢井美優)が、休み時間の屋上で、クラスメイトの女の子に鮮やかなボディブローをキメる場面だ。
いやこのシーンだって、授業中に携帯ばかりイジっていることをクラスメートから注意された沢井さんが、逆切れしていきなりその子の腹を殴りつけるわけだから、本来すがすがしくもなんともないはずだ。だが天性のスポーツ少女、沢井美優のキレのいい動きが、ここだけを、前後の物語の流れから独立した、アクションそのものの痛快さを楽しめる場面として成り立たせてしまう。そしてポイントはスカートだ。なぜかというと、直前にさっき紹介した、授業のシーンがあるわけです。つまり担任の教師に、こっそりナマ足を盗み見られていたのだ。この屋上のシーンの魅力は、そういう、まとわりつくイヤラしい視線を振り払うかのようにスカートがふわあっと広がり、同時に、怒りがシャープなストレートとなって炸裂する、というコントラストにある。まあ、パンチを食らうのは何の罪もない別人のクラスメートなんだけどさ(笑)。
【補記】正確には、この子が沢井さんの持っている携帯を叩き落として壊してしまったので、それで沢井さんがキレて殴った、という展開です。コメント欄でStreamKatoさん万丈さんからご指摘いただいたので補足します。)


そして次のカット。カメラは殴られてうずくまる女の子の背後に据えられ、俯瞰気味に「終わった……何もかも」と相手を見おろす沢井さんの表情をとらえる。ピシッと決まっていますよね。さっきの安座間さんの、最初にシュンをふっとばしたときの、左手の掌底を尽きだした構えも、それなりにカッコよく決まっているのではあるが、やはりあれは見せポーズである。演出は、あのポーズに「強そう」という説得力を持たせるために、そこまでのカットを組み立てている。
一方この沢井美優は、特別におおげさに振りかぶるわけでも、振り抜いた拳を前に突き出しているわけでもない。特に「見せる」ための動作は一切していないんだけど、足の開き方、腰の入り方、身体の振り、といった構えと動きのデッサンが、ひとつひとつしっかりしている。それで、観ているこっちがお腹を押さえたくなるくらい、アクションに説得力が生まれるのである。
まあ、『チェーン』がアクション映画ではなくてホラー映画だってところに(根本的な)問題はあるが、しかしこれだったら、途中でカットを割らず、沢井美優が相手のお腹にパンチを叩きこんで、相手がズルズルと崩れるまでを(念のためもう一度書くが、この人は何も悪くない)、最初の引き気味のアングルからのワンシーンワンカットで撮ってほしかったな。
本格的なアクション俳優だったら、カットを割らなくても十分に見応えのある動きができる。それが無理だったから、Act.6アバンの格闘シーンでは、安座間美優自身をあまり動かさず、細かいカット割りや分割画面、それに実際の打撃シーンの省略など、カメラワークと編集を様々に工夫して、まことを強そうに見せかけたのである。

いや実を申しますと、うちのケーブルテレビ、4月から時代劇専門チャンネルも映るようになりまして、ここは今、ウィークデイに毎晩、深夜12時から『座頭市物語』を放送中なんですよ。私はそれを日々欠かさず観ているんです。座頭市を観るのは久しぶりなんですが、まあとにかく抜群に面白くて、けっこう良いと思っていた最近の時代劇、北野武の『座頭市』や北村龍平の『あずみ』のイメージが、頭の中でみるみる色あせてしまいました。綾瀬さんの『ICHI』は、まだ観ていませんが。
で、どこが最も違うかと言われると、当然アクション場面でのカット数なんですよね。勝新太郎は、前後左右から襲いかかってくる敵を、かわしては斬り、斬って払い、払って突いて、バタバタなぎ倒していくシーンを、ごく短いワンカットで踊るようにやってしまう。もう惚れ惚れするぐらい。それが最近の時代劇になると、どうしてもそういう風に呼吸が続かないから、斬って捨ててワンカット、カメラ切り替わって次の敵が襲いかかる、みたいに、断片的になっている。しかも最近の若い監督って、そういう、編集でつないでチャンバラを見せることを、カッコいいと勘違いしてるように思える節もあります。
で今回は、スタッフのテクニックで見せたAct.6冒頭のアクションと、沢井美優の運動神経で見せた『チェーン』冒頭のアクションを、座頭市の話なんかも出しながら比較しよう、と思って、伏線として冒頭にマツケンのCDジャケットを出したんですが、もう時間がなくなってしまいました。やっぱり伏線を回収するのって大変ですね。それをきちんとやる脚本家って偉いや、と改めて感心しました。
というわけで本日はこの辺で。



おまけ。『チェーン 連鎖呪殺』のもうひとつの見どころ。友達の身を案じて深夜の町を疾走する沢井美優。こういうシーンも観たかったんだ。でも沢井さんの身体能力の高さにママチャリがついていけなくて、思うようにスピードは出ないわ、ふらつくわ、なぜロードバイクとかMTBを用意しなかったのか、と思う。
なんだか今日はAct.6のレビューを書いたんだか『チェーン』のレビューを書いたんだか、自分でもよく分からないよ。



万丈さんに失礼したので(コメント欄とか参照)おわびに、もひとつおまけ。
わりと最近のパンチと自転車。
パンチは早すぎて、殴っている瞬間の画像はぶれて使いものにならない。