実写版『美少女戦士セーラームーン』ファンブログ


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【第174回】DVD第2巻:Act.5の巻(その1)


突然ですが、当名古屋支部には実写版台本の保管庫がある。M14さんがオークションで台本を落札され、ブログで検討を終えると、「どうぞ」と現物をこちらに送ってくるのである。先日も新たにAct.8とAct.23の2冊が送られてきた。どうもありがとうございます。こっちよ!さんも以前、Act.12の台本を全頁スキャンして、PDFファイルで送ってくださった。ありがとうございます。こうして現在こちらでは、Act.8、Act.12、Act.16、Act.23、Act.34〜Act.36、Act.40〜Act.46の、計14話ぶんの台本が閲覧できる。
新しく届いたAct.23を今パラパラ見ているのだが、『M14の追憶』に書いてあったとおり、すごいね。セーラームーンとヴィーナスが妖魔のスライムに身動きを封じられる場面。

妖魔が破裂するように消滅する。
が、同時に白い粘液質の体液が飛び散り、二人を絡め取る。

ホントだ。本当に「白い粘液質の体液」ってモロに書いてあるよ。と思ったらラストもすごいぞ。戦いに敗れて洞窟に戻ったネフライトは、ダークマーキュリーに「みじめね」と嘲笑されてかっとなる。完成した作品では回転ノコギリみたいな武器をふりあげる場面だ。

屈辱に顔を歪ませたネフライトが武器を取り出す。
長く伸びる武器。
立ち上がり、ダークマーキュリーの後ろへ迫る。
気づかないダークマーキュリーの後ろで、ネフライトが武器を振り上げ――
(つづく)

「長く伸びる武器」(笑)。よい子のみなさん、Act.23というのは、セーラームーンとヴィーナスの身体に「白い粘液質の体液」が飛び散ったり、ネフライトがバックから「長く伸びる武器」を振り上げて亜美に迫るという話なんだよ。

1. プチ特別企画:沢井美優さんの誕生日を寿ぐ


もうとっくにあちこちでお祝いコメントが出ているが、沢井美優さんが2008年10月23日をもって21歳の誕生日を迎えられた。おめでとうございます。
そこで今回は記念企画として、沢井さんが晴れてレギュラーになった『Café吉祥寺で』の今後のストーリーを予想します。いじわるなお友だちと縁を切り、ミーナ(中山エミリ)のもとでバイトをすることになった由紀(沢井美優)は、たちまちお店の看板娘に。彼女めあてのおじさんたちが、首都圏はおろか東海や近畿地方からも押し寄せる。とうとう写真集とDVD販売が決まり、握手会の日がやってきた……。
と思っていたら、沢井さんはレギュラー入りせず、第16話と第17話でエピソードは完結してして、新しいバイトは山咲トオルになってしまった。あれえ。おっかしいなあ。
まあその後、第20話でもお店に姿を現して、セリフもけっこうあったから、今後も「店の常連さん」としての出演はあると思う。が、セーラームーン以来の、実写ドラマレギュラーをゲットする好機をものに出来なかったのは、やはり残念だ。いやせっかくのバースデー(もう過ぎちゃったが)にこんなこと書いてはいけないね。あらためまして沢井美優さん、おめでとうございます。
ということで本題に、あ、でも、ご覧になれない方もいるようなので、サックリあらすじだけお話ししておきますね。今回の沢井さんの役名は西村由紀。お嬢さん学校として知られる白薔薇女子大の学生で、友だちと一緒に、中山エミリさんの経営するカフェ吉祥寺に食事にやって来る。この友だちが、大財閥の一人娘とか、ファミレスチェーン会長の孫娘とか、超セレブな方々。沢井さんも、玩具輸入会社の社長の娘なので、いちおう仲間に入れてもらえたのだけれど、基本的にワンランク下の扱いで、ほかの人たちのパシリというか、召使いのような立場である。身につけているものもいちばん質素だ。しかもですね、最近お父さんの会社が倒産してしまったらしく、お付き合いのお金を捻出するにも一苦労している。
ご令嬢たちは、そんな彼女の貧乏くささが嫌で、もうグループから追い出しちゃおうと嫌がらせを考える。で、カフェ吉祥寺で一緒にご飯を食べようと誘い、フォアグラや高級ワインを特別注文して、ぎりぎりコース料理の代金しか持っていない沢井さんを困らせるのである。万丈さんはこのへんで、見るに見かねて視聴をいったん中断したらしい。
事情を知ったカフェ吉祥寺のスタッフは、最後に運んだデザートに「あたりくじ」を仕込んでおいて、沢井さんだけ食事代を無料にして助けようとする。さらに、グループのリーダーが「値段なんかいいから、いちばん高級なワインを持ってきて」なんて高飛車にオーダーしたのをいいことに、とんでもなく高価なロマネ・コンティを出して、お会計でイジワルお嬢様たちを狼狽させる。しかしこれはちょっとやりすぎであった。店の魂胆に気づいた心根の優しい沢井さんは、店を出た後ひとりで戻り、こんなのかえってありがた迷惑だ、とオーナーのエミリさんを非難してしまう。そういう話でした。
テレ東が予算も省みず「金持ち」や「お嬢様」の描写にチャレンジした意欲作だが、それだけにおかしな点が多々ある。だいたい、スーパーセレブなお嬢様たちがプチセレブにしか見えないので、いちおう社長令嬢であるはずの沢井さんに至っては、ただの庶民の娘にしか見えない。それにロマネ・コンティの料金を出すのにサイフからキャッシュをかき集めていたけど、お嬢様たち、カードはないのか?三井住友は、後からリボはどうしたエミリさん、という突っ込みはまあいいか。
沢井さんは後日、ひとりでまた店を訪ね、エミリさんにあやまって、自分の気持ちを打ち明ける。白薔薇女子大に入って、セレブなグループの仲間入りをしたいと思っていたのは私自身なんだし、嫌な目にもあったけど、それもこれも含めて友だちは友だちなんだ、というようなこと。このときの沢井さんは素敵でした。でも中盤の、友だちにいじめられる場面はかなり陰惨な表情で、たしかに私も万丈さんと同様、ここで観るのをやめたくなったぐらいだ。長い前髪をおろしているのだが、それがなんか苦労やつれのようにも見えたし。
そうしたら久々に更新されたMY HEARTでは、かなりさっぱり髪を切られていて、そのイメージが払拭されていたのでなんだかホッとした。しかしこの時点で髪型を変えたということは、『Café吉祥寺で』終盤の出演はないという意味にも理解できて微妙である。う〜む。
あっ、すまない結局また話が長くなった。本題だ。今日こそAct.5レビューを始めなくちゃ。

2. ようやく本編、だが主題歌にすら至らない


まずはアバン・タイトル。これまでこのブログでは「アヴァン・タイトル」と書いていたように思うが、DVDのチャプターメニューには「アバン」とあるので、今後はこっちに統一したいと思います。自分の部屋で勉強机の方を向いていた亜美が、くるりとこちらを向いて、笑顔で語り出す。

亜美「仲間になることに抵抗感を持っていたレイちゃんだけど、月野さんのペースに巻き込まれて、協力して妖魔を倒すことができました。三人でいるのは何となく嬉しくて、私は、初めて友達って呼べる人たちと一緒にいるのかもしれません」

このナレーションにかぶせて挿入されるのは、前回Act.4より、(1)仮装パーティーに潜入したクマうさぎとコスプレ亜美、そこに登場する赤影レイ、(2)仲間になることを拒絶するレイ、(3)美奈子の曲にあわせて同時攻撃、妖魔をやっつける、(4)仲良しになって帰り道の三人というシーン。
手もとにある十数冊の台本を見る限り、小林靖子はアバンの「前回のあらすじ」に、どのシーンのどのセリフを入れるか、けっこう細かく指定している。そして、そこにナレーションが入る場合には「うさぎのN(ナレーションの略)」や「ルナのN」と書いてある。おそらく当初、小林先生のイメージしていたアバンは、画面は前回のハイライトシーンで、そこにうさぎ(あるいは他の戦士)の声だけが流れる、というものだったのだろう。実際、田崎監督によるAct.2のオープニングはそのようになっている。
ところが、続くAct.3を担当した高丸監督は、新たな趣向を用意する。画面の片隅に、ウサギの型に小窓が開いて、そこからクラウンにいるうさぎちゃん本人が、視聴者に向けて冒頭のナレーションを語り始めるのである。Act.4も同様。以降の各エピソードで定着することになるこのパターンは、したがって高丸監督のアイデアなのだ。たぶん。
これ以降、第何話で誰がどんなかたちで冒頭のナレーションを担当しているかについては、すでに一覧表に整理しておいた(こちら)。高丸監督は、この後も「ナレーターは必ずクラウンで語る」という法則を作って、自分の回ではそれを守っている。Act.12なんか、珍しく美奈子のナレーションで始まる回だが、画面にナコナコのかたちのウインドウがくりぬかれると、そこにセーラー服の制服姿の美奈子が登場して、我々を驚かせる。場所は、わずかしか見えないのでよく分からないが、たぶんクラウンだ。美奈子はまだドラマのなかで制服姿を見せたこともなければ、クラウンに足を踏み込んだこともないのに、高丸ルールによって、そういう処置がとられたのである。
一方、他の監督たちは、わずかずつその法則を破っている。このAct.5の冒頭は代表的な例で、亜美は自分の部屋で語っている。田崎監督はAct.7で、シリーズでただ一度だけ、うさぎではなく変身後のセーラームーンにナレーターをさせている。Act.9とAct.10で初登場する鈴村監督は、おそらくAct.5の影響を受けて、うさぎとルナのナレーションを、月野家のうさぎの部屋でしゃべらせている。あとAct.42は、何でしょうねこれは。公園のようなところにいるルナが、シーソーみたいなものに乗っていて、ぐるぐる回りながら前説をするのだ。佐藤健光監督のやったことなので、あまり考えないでおく。
まあともかくそういうわけで、このAct.5は、アバンの語り手がクラウンにいない初めての回なのだが、同時に亜美、つまりうさぎ以外のメンバーが初めて語り手になった回でもあることは、言うまでもない。すでに一覧表にまとめたように、アバンの語り手は大抵うさぎかルナで、あとは亜美が2回(Act.5、Act.20)、まこと(Act.31)と美奈子(Act.12)が1回ずつ、レイに至っては一度もない。つまり(A)語り手がうさぎもしくはルナ以外、(B)語り手のいる場所がクラウンではない、というふたつの条件を満たしているのは、実写版全49話のなかでAct.5だけである。

3. 舞原賢三Sound & Vision


Act.3およびAct.4冒頭のうさぎは、最初から画面の片隅に開いた小さな窓のなかで「前回のあらすじ」を語っていた。しかしAct.5は、まず画面いっぱいに亜美が映る。ナレーションが始まってから、片隅の水星の惑星記号のかたちをした窓に吸い込まれる、という、これも新しい趣向だ。小林靖子が、亜美のナレーションから始まる特別な台本を書けば、演出もそれに応えて、新しい仕様のオープニングを考案したわけで、とにかくこのAct.5は、冒頭から脚本と演出の、息のあったコラボレーションが見事である。『仮面ライダー電王』でも痛感したが、小林靖子の脚本を手がける時の舞原賢三は、なんだか神憑りのように思えることすらある。それ以外の舞原賢三はどうなのかというと、どうなんでしょう。私の率直な意見を言えば、クレジットを見て「あ、舞原監督だ」と気づかない限り、気づかない。先日『仮面ライダーキバ』を見ていたら、アバンで妙に小池里奈を印象的に撮っている回があって、続く主題歌で気をつけて確認したら監督は舞原賢三だった、ということがあったけど。
ともかくこのAct.5、のっけから監督の気合いの入り方が違う。まるで第1話のような熱心さだ。たとえば、パイロット版のAct.1とAct.2を担当した田崎監督が、うさぎの部屋やクラウンの内装に、ほかのシーン以上に注意を払うのは分かる。これからずっと舞台になる場所を、きちっと設定しておくのがパイロット監督の使命だ。
でも舞原監督は、たぶんそのくらい熱心に、冒頭の亜美の部屋に気をつかっている。朝のベッドで亜美がめざめると、ベッドや、ベッドサイドのテーブルなど、あたりの内装は、だいたい白一色である。いや実際にはカーテンも壁も純白ではなくて、掛け布団にもうっすら花柄模様が入っているのだが、窓から差し込む朝の陽光を浴びれば、すっかり白一色に飛んでしまうくらいの淡い色に押さえられている。
次にキッチンでの朝食のシーン。耐熱ガラスのティーポットに入っているのは、これはラベンダーティーでしょうか。キッチンの内装も白。油汚れはこれっぽっちもない。調味料入れのたぐいも白いし、亜美がはおっているカーディガンも白である。壁にはめ込まれたオーブンレンジのユニットは、さすがに木目調であるが、そこからトーストを取り出した亜美がダイニングの方に行って画面から姿を消すと、カメラはキッチンの奥にかけられたホワイトボードに寄っていく。そこににはママからのメッセージ。
ホワイトボードと言うくらいだからこれも白い。でも実際の画面を見ると、四隅でボードを壁に止めるクリップと、下のペン受けが淡いブルーになっている。つまり白いカーディガンに淡いブルーのパジャマ姿の亜美と、正確に対応している。
要するに、亜美のパジャマは戦士のカラーにしたいが、鮮やかなブルーにはしたくない。現在の亜美の性格を考えると、淡い水色のパジャマでなくちゃいかん。でもそれだと、背景の色に負けてしまう。負けてしまわないためには、周囲を極力、無色というか白にして、亜美のパジャマの淡い水色が浮き立つように工夫しなきゃいかん、ということなのだろう。
というわけで、多少のアクセントとして、ガラスのティーポットのなかのハーブティーとか、ダイニングで亜美が口に運ぶトーストのジャムとか、ラズベリーもしくはブルーベリー系統の色などがワンポイントで加えられる以外、寝室もキッチンもダイニングも、ここまでの画面はすべて白を基調とする淡色で抑えられている。そしてだからこそ鮮やかに目立ってくる小道具がふたつあって、ひとつは最初にめざめる場面の、ベッドサイドのテーブルに置かれた亜美・うさぎ・レイの写真。白い部屋の中でそこだけカラフルで、この写真に込められた亜美の想いが伝わってくる。もうひとつは、着替えをすませた亜美が鏡の前で開くメガネケース。そのくっきりと濃い青は、特別の意味をもって視聴者の目に飛び込んでくる。写真とメガネ、今回の主題となる小道具が、色彩の計算によって、鮮やかに示されるアバンタイトルである。
もうひとつ注意しておかなくちゃいけないのは、亜美の部屋にある水槽。ていうか、アクアリウム、なんてしゃれた言い方をした方がいいのかも知れない。これは音の問題だ。水槽の電気モーターで静かに水の流れる音は、最初の亜美がめざめるシーンから聞こえていて、これが今回Act.5全体の通底音となる。ちょうど次回Act.6で、木の枝をざわめかせる風の音が、常にまことと共にあるように、このエピソードでは、素顔の亜美のそばにいつでも水の音がある。あるいは、水の音に触れたとき、亜美は固く閉ざした自分の心を開いて、本来の自分自身に戻ることが出来る、と言っても良い。
朝めざめて、学校で見せる固い表情とは裏腹に、柔らかな笑顔を見せるとき、うさぎの友情を失う不安から、深夜「本当の友達になれる本」を読みふけるとき、亜美に寄り添っているのは水槽の静かな水の音だ。私が何度見ても感心してしまうのは、パジャマパーティーでどぎついメイクをした亜美が、うさぎの家の洗面所でその化粧を落とすシーンだ。このとき、洗面台の蛇口から水がじゃあじゃあ流れる音が大きめの音量で入り、亜美の緊張の糸は、その音をきっかけに途切れ「勉強より疲れる」とつぶやくなりバッタリ倒れてしまう。そして倒れた後も、蛇口からは水が流れ続ける。このように、このエピソードの亜美は常に流れる水の音に見守られていて、それは最後のセーラーマーキュリーVSポヨン妖魔の戦いに至るまで続く。


そろそろ時間なんで(何の?)今回はこのくらいにしておきますが、まだアバン・タイトルというか、始まって2分ぐらいのところまでしか行っていない。いきなり寄り道だらけの第1回であった。しかし、最近ひろみんみんむしさんの実写版レビューがスタートして、いろいろ書き込みがあるのを見るにつけ、実写版セーラームーンについてあれこれ語りたいファンの意欲は、いまでも衰えていないことを実感する。そういう方々に場所を提供したいという気持ちもありますので、むしろ積極的に道草を食いながら長々と進めていく所存です。