実写版『美少女戦士セーラームーン』ファンブログ


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【第171回】くの一アクション、テレビ東京、変な話でごめんなさいの巻


10月になりましたね。『仮面ライダー電王』中盤からリタイアされていた白鳥百合子さんがローカル番組で活動を再開され、黒木ミオこと有紗さんが「充電期間」に入られた。そしてそして、安座間美優さんが朝のお天気お姉さんになって、小松彩夏さんが『ガリレオ』スペシャルに出た。私は土曜日は朝早くから夜遅くまで色々あって、どれもぜんぜん観ていない。北川景子さんの特集本が付録についた『smart』さえまだ手に入れていない。何やってるんだ。

1. レオタードは視聴率の夢を見るか


さて今週は、仕事と私用で本当に色々と動き回っておりまして、予告していたAct.4のBGMについて、まとめる時間がなくなってしまった。仕方なく、久々に実写版ともセーラームーンともほとんど関係ない話題に終始してお茶を濁します。ごめんなさい。

前回の冒頭にもチラッと書いたように、先月、2時間スペシャルの『逃亡者(のがれもの)おりん』が「第一週 紅蓮の巻」(2008年9月19日)「第二週 烈火の巻」(9月26日)と2週連続でオンエアされた。テレビ東京は2年前の『逃亡者おりん』(2006年10月〜2007年3月)以来、金曜夜8時にずっと新作時代劇を放送し続けていたが、この10月からその枠が月曜の午後7時に移動する。節目を終えるにあたり、第1弾の『おりん』を復活したわけで、金曜時代劇は『おりん』に始まり『おりん』に終わった。
しかし2年前に偶然、第1話を見たときはびっくりしたね。闇の組織から逃亡した美貌の女暗殺者が、片肌脱いだレオタードの戦闘服姿で追っ手を殺しまくる、という話を、Vシネや深夜放送ではなく、地上波の新作として、金曜夜8時に堂々と放送したのだ。テレビ東京がゴールデンにドラマを放送するのは6年ぶり、時代劇は9年ぶりだったそうだが、それがこのレオタード時代劇というのだからすごい。さすがテレ東。
と思ったんだが、しかしテレビ東京にはテレビ東京の考えというものがある。同社のホームページには、社長が毎月行う定例記者会見の内容がアーカイブされているが(ここ)、その中から2006年10月の、菅谷定彦社長(現在は会長)の会見を読んでみよう。

連続時代劇ドラマ「逃亡者(のがれもの)おりん」を連続ドラマとしては、6年半ぶりに再開しました。初回の2時間スペシャルは良い出来で、視聴率10.3%でした。「主役が女性の時代劇」ということが成功の兆しの理由ではないでしょうか。主役の青山倫子さんはCM でも好感度が高い女性で老若男女に人気が出ると思います。番組を是非成功させ、今後も2ケタの視聴率を目指します。「おりん」は来春まで2クールですが、その後も連続ドラマは継続していきます。

あのレオタード時代劇を「主役が女性の時代劇」とざっくり受け止める社長の度量も素晴らしいが、何よりも視聴率10%という目標値が泣ける。これに先立つ2006年4月の定例記者会見でも、菅谷社長(現在は会長)は「2007年度までにゴールデン(夜7時〜午後10時)の平均視聴率10%、もしくはプライムタイム(夜7時〜午後11時)9%、そして全日(朝6時〜深夜0時のトータル平均)5%を実現する」という目標を掲げ、そのために「史上最高規模の制作費(前年比7.7%)」を投入する、と意気込んでいる。その一環が金曜時代劇であり、その第1弾が『おりん』だったのだ。
この「時代劇」という選択は、なかなか手堅いと思う。年配男性層を中心に一定の固定客があり、しかも大手他局は現在あまり手を出さない。こういうのをニッチな市場と言うのかな。しかし一方で、現在の固定ファンだけでは、10%越えがやや心もとないことも事実だ。たとえばテレビ朝日の火曜時代劇を見てみると、松平健『遠山の金さん』(2007年1月〜3月)は平均8.2%、北大路欣也の『八州廻り桑山十兵衛〜捕物控ぶらり旅』(2007年4月〜6月)は9.36%、そして沢井美優もゲスト出演した松方弘樹主演の『素浪人 月影兵庫』(2007年7月〜9月)は平均視聴率9.05%だった。これだけの大スターを並べても、この程度の数字しか取れないのが現在の時代劇である。だから確実に2ケタを狙うには、ただの時代劇ではなく、もうひとつ何かインパクトのある要素が欲しい。それも、本来の時代劇ファン層の外部までアピールするような。
それでいきなり「青山倫子のレオタード」というコンセプトが出ちゃうところがすごいんだが、ただ社長(現会長)は、これについてもけっこう寛容で「主役の青山倫子さんはCM でも好感度が高い女性で老若男女に人気が出ると思います」なんてコメントを残している。
まあデータ的にはそういうことになる。青山倫子(あおやまのりこ)は、『おりん』で主役の座を射止め、「りんこ」とも読める現在の芸名に改名する以前から、本名の井上訓子(いのうえ のりこ)で、わりと長いキャリアを積んでいる。すでに1992年、13歳のときに第6回全日本国民的美少女コンテストで本選まで勝ち残って、その後間もなくモデルとしてデビューをはたし、「モデル界のCMの女王」と異名をとるほど沢山のコマーシャルに出ている。2003年にフジ月9ドラマのオーディションで特別賞を受賞してからは、女優としてぽつぽつドラマにも出ていた。社長(現会長)としては「名前は知らないけど、CMとかでよく見るあの人」という既視感が、さらにプラスアルファの効果を生むと期待していたのだろう。

2. プロジェクトXテレビ東京編


では実際の結果はどうだったか。第1話と第2話、そして最終話は悲願の10%越えを果たしたものの、平均視聴率は8.3%(8.4%という記述もある)。「う〜ん残念。しかし手応えはあった」って感じか。そこでテレ東は、予定通り金曜夜8時に時代劇を放送し続ける。第2弾は『よろずや平四郎 活人剣』(2007年4月〜6月)。これについては産経新聞2007年6月29日の「テレ東時代劇 女忍者から青年剣士へ」という記事(記者:安藤明)をご覧いただきたい。

新人女優の青山倫子を主演に抜擢し、通常の連ドラの倍のツークール(6カ月)をかけて連ドラ枠復活をアピールした「おりん」は平均視聴率8.4%、最高10.3%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)と健闘。時代劇の主ターゲットである50〜70代男性から続編希望の声が多く寄せられた。
だが「20時台のドラマはやはり女性客を取り込まないと視聴率が上がらない」と佐々木彰・ドラマ室長。そこで山田洋次監督による映画三部作(『武士の一分』ほか)のヒットで女性の間でも注目されている藤沢作品のドラマ化権を、局として27年ぶりに獲得した。

青山倫子のレオタードは、松方弘樹や北大路欣也抜きでも「時代劇の主ターゲットである50〜70代男性」をつなぎ止める要因にはなりえた。だから火曜時代劇と比較しても遜色ない数字は取れた。しかし、プラスアルファまではとりこめず、結果として平均視聴率は2ケタに到らなかった、という分析である。まあそうだよね。彼女の色香は若者にはちょっと敷居が高い。40代男性あたりにはアピールしそうだが、この世代が金曜夜8時にテレビの前にいるかという問題がある。実は私だって、まだ帰宅していなくて観ない回の方が多かったくらいだ。
そこで佐々木ドラマ室長(当時/現在はドラマ制作室担当兼統括プロデューサー)は視点を変えて「やはり女性客を取り込まないと視聴率が上がらない」と考えた。これは素人でも分かる。現在、映画にせよドラマにせよ、ヒットさせたいと思ったら、とりあえず女性客を狙うのが最も堅実な方法だ。というわけで次の作品は、藤沢周平原作作品となった。そして結果は平均視聴率9.4%。まあこれも仕方がないと私は思う。同じ藤沢原作と言ったって『武士の一分』のように気軽にキムタクを主演に使える身分ではないのだから(主演は中村俊介)。
そして、続く第3弾『刺客請負人』(2007年7月〜9月)で、テレ東金曜時代劇はついに平均視聴率10.4%を達成する。これが、森村誠一原作のせいなのか、キャストに村上弘明、若村麻由美、西村和彦、監督に必殺シリーズのカメラマン石原興を起用というマイナーアップグレードのせいなのか、これまでのシリーズで蓄積したノウハウのせいなのか、あるいはかつてロングラン番組『大江戸捜査網』を製作していたころのカンをようやく取り戻したせいなのかは分からないが、ともかく地道な努力が実ったことには違いない。おめでとうテレ東。

3. サミーシアターの謎


しかしこれで大団円ではないのだ。実は私の話はここからである。
第3弾『刺客請負人』でついに平均10%をクリアしたテレ東は、次回作として『お江戸吉原事件帖』(2007年10月〜12月)を制作する。吉原でも評判の遊女たち、しかしその裏の顔は、女を虐げる悪党どもを月に代わってお仕置きする闇の戦士たちという、つまり女性版「必殺」シリーズだ。
『おりん』1作でヒロイン時代劇の限界を見極めたはずのスタッフが、なぜ同じような女刺客ものに再挑戦しようとしたのか、それは分からない。ともかく、今度は新人ではなく、仕置き人の元締めに萬田久子、リーダー格に東ちづる、それに横山めぐみと小林恵美という(テレビ東京的には)かなり豪華なレギュラー陣で取り組んだ。にもかかわらず、これがふるわず、『おりん』以来の平均視聴率8.4%を記録してしまう。
そこで続く『幻十郎必殺剣』(2008年1月〜3月)ではついに北大路欣也を導入。平均視聴率10.9%と持ち直す。以降は『密命 寒月霞斬り』(2008年4月〜6月)で9.4%、そして『刺客請負人』の第2シリーズ(2008年7月〜9月)では、ほとんど2ケタと言って良い9.9%。いずれもどっこいどっこいだが、強いて言えば『密命 寒月霞斬り』の数字はちょっと低い。主演は『おりん』で敵役を演じた榎木孝明。
つまり、女ヒロインとか、おりんのメインキャストの再登場とか、おりん的な要素が絡むと、どうしても、苦労して積み上げた数字がまた下がってしまう、という傾向が認められるのだ。数字に敏感な現場スタッフが、このジンクスに無自覚ではあったとは思えない。
にもかかわらず、本編放送終了後1年以上も過ぎた先月『逃亡者おりんスペシャル』は唐突にオンエアされた。そして「第一週 紅蓮の巻」(2008年9月19日)が7.1%、「第二週 烈火の巻」(2008年9月26日)が6.2%と、案の定というか、言わんこっちゃないというか、とても2ケタどころではない結果となった。でもそんなの、視聴者にも分かりきっていたのだ。
なのに、なぜ今さら『おりん』の続編だったのか。その理由は、番組をご覧になった方はご存じだろう。パチンコ会社大手のサミーが、近く「ぱちんこ 逃亡者おりん」という新機種を出す。今回の特番は、ドラマの間中、この「ぱちんこ 逃亡者おりん」と、それから同じサミーのヒット商品「CR北斗の拳」の新作のCMばかりが流れていた。サミーの一社提供番組だったのだ。

そもそもこの金曜夜8時の時代劇シリーズは、第1弾『おりん』の時には「セガサミーシアター」と銘打たれていた。サミーとゲームのセガを統合する親会社として設立されたセガサミーホールディングスの独占提供だったのだ。ところが2作目の『よろずや平四郎活人剣』で、藤沢周平原作というブランドにもかかわらず、セガサミーはあっさりスポンサーから撤退してしまう。だから、メインスポンサー不在の『よろずや平四郎』のCMは、ソニー損保やジャパネットたかたや永谷園など、ほとんど深夜番組みたいなラインナップになっていた。そしてその後、シリーズが視聴率を徐々に上げても、セガサミーが提供に戻ってくることはなかった。だから私は「きっとセガサミーは、この時代劇枠の視聴率がせいぜい10%と判断した時点で、割が合わないと見切りをつけたのだな」と思っていた。
ところが先月の『おりんスペシャル』では、再び頭に「サミーシアター」の冠が載せられ、今度はセガサミーではなく、系列会社サミーの独占提供で放送された。そして本編の合間には「ぱちんこ 逃亡者おりん」のCMが繰り返し流れた。要するにこの新機種のプロモーション映像が今回のスペシャルドラマなのだ。
すごく不思議だ。自分たちが撤退した後もじわじわ視聴率を上げていった番組枠に再度出資し、自社から関連商品を売り出すにあたって、スポンサーは、視聴率的には歴代最も低い第1回作品『逃亡者おりん』を選んだのである。
そしてご覧になった方はお分かりだと思うが、どうもサミーは『おりん』に対して異様な情熱を注いでいるのである。そもそも1年前に終わった、それもとても大ヒットとは言えないドラマを今さらのように商品化すること自体がおかしいし、また今回いやというほど流れた3種類のCMの内容も、おりんが新必殺技のために修行中という設定で、腕立て伏せという名目でレオタードの胸元を覗かせたり、空中に投げたリンゴを切って、汁をぴゅっと顔面に浴びたり、それでこちらを見つめて「私と、逃れてください」と言ったり、なんかもう、大変なことになっている。
サミーは、視聴率と関係なく、ハナから『おりん』にしか関心がなかったのだ。ていうか、おそらくサミーの社内に、おりんのフリークがいる。絶対そうだと思う。だって、パチンコやパチスロのことはよく知らないが、おりんってそれほどメジャーなキャラクターじゃないだろう。しかもその人は、放送が終わったらあっさりスポンサーから降りて、さらにはその後、一年かけて懸命に画策して、とうとうおりんを復活させたのだ。こういうことができるのは、やはりある程度、組織のなかで相応の地位にいる人なんだろうと、私は妄想するのである。

4. 風の又一朗



そんなことを考えたのは、映画『あずみ』(2003年)を連想したからだ。人気漫画の実写版、というより、上戸彩のハイソックスふともも時代劇。制作費は5億円超で、興行収入は8億数千万とか言われている。かなり大々的に公開され、宣伝費もかかっていそうだから、たぶん興行のみの収支は赤字ではないか。少なくとも、すんなり続編が作られるほどのヒットではなかったと思う。なのに『あずみ2 Death or love』(2005年)が公開された。
プロデューサーの山本又一朗は、続編制作発表の記者会見で「非常に成績も良かったこともありますが、上戸さんの演技も良かったこともあり、今まで私が手掛けて来た作品の中でも1番大きな反響がありました」と、一見とても威勢のいいことを言っている。が、よく読むと、「大ヒットしたので」とすっぱり言い切らず、演技が良かったとか、反響があったとか、ごちゃごちゃ言い訳を付け加えるところが、いかにも怪しい。また、アメリカのサンダース映画祭に出品したら「全世界から来ていたバイヤーが『あずみ』を買ってくれました。ということで、『あずみ』はアメリカを含む全世界で公開されることになりました」とも言っているが、全米で小規模公開されたのは『あずみ2』公開後の2006年だったし、その『あずみ2』に至っては、ドイツの映画祭に出品されたくらいで、欧米にはほとんど出ていない。
まあ原作は大ヒット作だし、主演も上戸彩だから、ビデオやテレビ放映の収益まで含めれば、最終的に帳尻は合うのだろうとは思う。しかし、私はここに、採算や数字を度外視したプロデューサーの妄執を感じるのだ。ちょうど、視聴率を度外視してテレ東に『おりんスペシャル』を作らせたスポンサーと同じような。
『あずみ』の興行的敗因のひとつは、2時間20分というやたらと長い上映時間にある。一日の上映回数は減ったろうし、北村龍平の演出は、この長丁場を十分に持ちこたえ切れず、ところどころダレている。ではどうしてこんなに長くなったかというと、脚本家の台本に満足しなかった山本プロデューサーが、自らの手で書き足し、全面的に改稿したからである(水島力也名義)。誰よりもプロデューサーがこの作品に入れ込んでいたわけだ。だからこの場合も、続編の制作は、会社側の要請ではなく、採算を(ある程度)度外視したスタッフ、というかプロデューサーの熱意によるところが大きいと推察されるのだ。

ご存じのように山本又一朗は、1979年に『ベルサイユのばら』で、いきなり我々の前に姿を現した。あのベルばらを、ジャック・ドゥミ監督、ミシェル・ルグラン音楽、フランス政府全面協力(本物のベルサイユ宮殿でロケが行われた)という破格なスケールで実写化したわけだが、ご覧になった方はご存じのように、もう実にいかがわしい作品だった。革命の危機をよそに昼間から不倫の情事におぼれるアントワネットの頽廃、男として育てられた金髪美女オスカルの肉体を、自分の性技で女としてめざめさせる、という目的に執念を燃やすジュローデル大佐の倒錯、印象的なのはそんなシーンばかりだ(それは私の人格のせいか)。オスカル役にカトリオーナ・マッコール。実質デビューのこれ一作でいきなり頂点をきわめ、翌年には日本の雑誌でヌードを披露。後は『地獄の門』などルチオ・フルチ監督のゾンビ映画のヒロイン女優としてキャリアを積み、さらにはフランス映画『アマゾニアン/柔肌に秘めた魔境伝説』(1988年)で人食い種族の女ボス役で大成した。人生色々だ。
そういう映画のプロデューサーが手がけた『あずみ』もまた、話題の大作を装ってはいるものの、その本質は「ふともも時代劇」である。そしてパチンコのサミーは『あずみ2』が公開された2005年に「CRあずみ」という機種を出しているな。やはりサミーにはこういうのが大好きな人がいるんだよ、きっと。それで実写版『あずみ』の影響を受けて、翌年「レオタード時代劇」の『逃亡者おりん』を実現するのだ。

5. 綾瀬はるかの魔性



そして今月、またしても同様ないかがわしさを感じさせる作品が、間もなくロードショー公開される。曽利文彦監督の『ICHI』だ。わりとまともな時代劇っぽい体裁を保っているが、まず「女版の座頭市」というコンセプトがすでにして怪しい。そして主演が綾瀬はるかという点で決定的である。
綾瀬はるかの前作は、今年の6月に公開された『僕の彼女はサイボーグ』(2008年)である。プロデューサーは『あずみ』の山本又一朗(笑)。だから私は、まだ観てもいないのに断言するが『僕の彼女はサイボーグ』の本質は「アイドルふともも時代劇」(あずみ)と対をなす「アイドルおっぱい近未来劇」というところにあって、それ以外にはない。そして綾瀬はるかの次回主演作は、来年2009年夏に公開予定の『おっぱいバレー』である。やる気のない男子バレー部の中学生たちが、新しく顧問になった先生の「大会で勝ったら私のおっぱいを見せてあげる」という一言で一気に熱く燃え上がる、というスポコン青春ムービーである。ていうか、タイトルの段階で、まともな映画であることをきっぱり止めている。たぶん綾瀬はるかを前にすると、昭和のおじさんたちはみんなおかしな妄想に走る。彼女はきっと、そういう魔性を秘めた素材なのだろう。だからこの2作品の間にはさまれた『ICHI』も、普通の映画であるわけがない、と思うのだ。
きっと、胸元を強調した衣装で出てきて、ふだんは、目が見えないのをいいことに、周りの男達からべたべたとセクハラまがいのことをされて「いや〜ん」とか言って、それがいざとなると滅法強くて男をバッタバッタ切り棄てるとか、本家座頭市が樋口可南子と露天風呂で演じたようなシーンがあったりとか、そんなバカな予想を立てていたのだが、予告編を見るとさすがにそんなことはないようだ(当たり前だ)。

予告編を見る限り、『ICHI』は『座頭市』の女性版というより、『めくらのお市』のリメイクなんだと思う。『めくらのお市』シリーズは、女版の座頭市として1969年から1970年までに4本が制作され、1971年には日本テレビでドラマ化され、1973年には大阪中座で舞台化された。主演は松山容子。名前にピンと来なくても、先代ボンカレーのパッケージで顔を知る人は多いはずだ。大きな瞳が印象的な方なので、お市は座頭市のように白目にならない。ヒロインだから当然か。で、瞳を開いたまま(時代劇なのにマスカラがすごいんだ)視線はいつも宙を漂っている。そしてドラマの内容は、ぜんぜん憶えていないが、座頭市よりお涙頂戴的な要素が強かったと思う。こういったニュアンスが『ICHI』の予告編とよく似ているのだ。しかも公式ページの設定によると、ヒロインの市の「表の顔」は、座頭(整体師、あんま)ではなくて三味線を背負った盲目の芸者「離れ瞽女(ごぜ)」だっていう。これもそのまんま『めくらのお市』だ。だったらはっきりそう言えばいいのに。タイトルが問題か?『めくらのお市』は、『おっぱいバレー』より社会的に問題のある題名なのだろうか。
まあ、女版の座頭市を作ろう、というコンセプトが一緒なら、どのみち似たり寄ったりの設定になるんだろうけどね。ともかく、松山容子が、朱の着物に朱の仕込み杖で悪党を退治する殺陣のシーンは、裾も乱さないわりに不思議な色香があったように憶えている。予告編で見られる綾瀬はるかの衣装はゾロリとした旅装束だったが、ちゃんと粋な女芸者っぽいカットがあった。おそらく今回は、単純な肌の露出面積ではない部分で、なにかやってくれるのだろう。本人というよりスタッフに期待したい。

6. そしてレギュラーへの道


なんだかもう、自分でも何が書きたいのか分からなくなってきて、夜も明けたのに、一向にまとまらない。すみません、そろそろ強引に締めくくります。
私が書こうと思っていたのはこういうことだ。沢井美優さんの『テレビでフランス語』が終わってしまった。でも語学番組は、あくまでひとつの足がかりであって、これを機に沢井さんにはNHK総合のドラマへの進出を果たして欲しいと願っていた。だからNHKドラマ8『キャットストリート』第3回「7年目の怒り」(2008年9月11日放送)出演と聞いたときは「いよいよ来たか」と色めき立った。けれども扱いは、ヒロインの友だちを陰湿にいじめる元同級生グループの一人。かろうじてセリフがあったからよかったものの、それ以外はほとんどエキストラである。
情勢を見ても、セラミュ出身の木村多江(アマゾントリオのフィッシュアイ)が現在土曜ドラマ『上海タイフーン』のヒロイン、同じく多部未華子(セーラースターヒーラー)が次期朝の連ドラ『つばさ』のヒロイン決定と、しばらくNHKのセーラームーン枠は飽和状態にある(そんなものがあるのか?)。どうも、沢井美優のNHK本格進出は、現時点では慎重になるべきであろうと私は思う。そうすると、次に沢井さんが出やすいフィールドはどこかと言えば、テレ東ではないかなあ、と思ったのだ。『レスキューフォース』で何かとご縁もあるし。そしてテレ東は現在、時代劇枠を持っていて、しばしばヒロイン時代劇に挑戦している。この辺はどうか?

ヒロイン時代劇は、そんなに大当たりしたという話を聞かないのに、最近では『芸者VS忍者』とか(この映画のことはStreamKatoさんに教えていただいた)Vシネ系ではコンスタントに制作されるし、『あずみ』『逃亡者おりん』『ICHI』、あるいは仲間由紀恵主演の『SHINOBI』(2005年)と、わりとメジャーなメディアにおいて、需要と供給の法則を無視して作られ続けている。それはどういうメカニズムに基づいているのか、その秘密を解明して、レオちら・アクション・太もも・お姫様役、すべてに渡ってトータルな実力があり、本人も「くのいち役なんかもやってみたい」とおっしゃっている沢井美優さんを、どのようにこのジャンルに参入させるべきか、しかも、綾瀬はるかのように、きわもの的なタイトルの作品に出演しながら、アイドルの座をキープするにはどうしたらいいのか、そういうあれこれを、今回は深く考察したかったのだ。
でも沢井の「さ」の字も出てこないまま話がズルズルと続き、たぶん辛抱強く読んでくださったみなさんにも、私が何を言いたいのか、よく伝わらなかったと思う。私やっぱりスランプかも知れない。ごめんなさい。
最後にもうひとつ。沢井さんのテレビ東京戦略としては、まずもって時代劇枠での出演を狙う。これはすでに述べた。でもその次は現代劇だ。というのも、昨年6月に島田現社長が就任してから、月例記者会見のニュアンスが少し変わってきたような印象があるのだ。『おりん』以来、時代劇の視聴率ポイントの推移に一喜一憂したいた菅谷社長ほど、いまの島田社長は、時代劇に対する執着がないような気がする。そして今年7月の定例記者会見で、すでに秋の番組改編に向けて次のような積極的発言をしているところも気になる。

10月改編について今申し上げられるのは一つだけなのですが、昼の連続ドラマ『café吉祥寺で』というドラマを9月29日からスタートさせます。(月〜金)11:50〜12:26で主演は中山エミリさん。「café吉祥寺」で巻き起こるハプニングをイケメンの5人の従業員たちと乗り越えていくというコメディドラマです。テレビ東京としては初めての昼の連続ドラマということで力を入れています。ぜひご期待ください。

そう、私の印象が確かなら、島田社長は時代劇よりも、この『café吉祥寺で』に力を入れていて、これをテレ東ドラマの新しい「顔」にしたいと願っているようなのだ。言い換えれば、中山エミリの双肩にはテレ東社長の期待がかかっているのである。これはある意味で、月9ドラマのヒロインよりもやっかいな十字架を背負わされたようなものだが、おそらく中山エミリさんはそんなプレッシャーは感じてはいないだろう。それでいい。自然体で頑張ってください。
この中山エミリ主演『café吉祥寺で』、そして高丸雅隆が監督で参加する深夜ドラマ『メン☆ドル 〜イケメンアイドル〜』と、いまテレビ東京では何かの磁場が生じていて、その磁場は沢井美優を呼び寄せているように思うのだ。私は固唾を呑んで見守っている。