実写版『美少女戦士セーラームーン』ファンブログ


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【第50回】主演はうさぎ、しかしなぜか美奈子の切なくはかなげな美しさが心に残るの巻(Act.32)

 一週間のご無沙汰でした。先週レビューしたAct.31の冒頭では、元基がカレーのスプーンをかざして「カレ〜!」と叫んでいた。言うのも野暮だがウルトラマン第34話「空の贈り物」のパロディだ。カレーを食べている時に怪獣出現の知らせを聞いたハヤタ隊員が外へ飛びだして、変身しようとベータカプセルをかざした、と思ったらスプーンだった、というギャグである。実相寺昭雄監督。そうしたらその実相寺監督がお亡くなりになってしまった。遺作は『シルバー假面』だそうで、これはまあ『シルバー仮面』のリメイクなのだろうけれど、舞台は大正時代で江戸川乱歩も登場するという。実相寺監督は乱歩も何本か映像化しているが、私は『D坂の殺人事件』が印象に残っている。三輪ひとみが詰め襟の学生服姿で小林少年を演ずるのである。とにかく変なことばかり考えてる人だったよなあ、なんて言葉で追悼しても、この監督ならいいかと思う。ご冥福をお祈りします。


 それから『バベル』の話だ。何のことか分からない人は、ひとまず『ぽんたのエスティマ日記』のここを読んでから戻ってきてくださいね。この『バベル』は、この春のカンヌ映画祭で上映終了後10分を越えるスタンディング・オベーションを受けたほど好評で、見事に監督賞を受賞した。それから全米公開されて、興行的には苦戦しているというが、特に日本のパートに出演している菊池凛子の演技が好評で、アカデミー助演女優賞ノミネートの声も高い、という話である。
 でもそれって本当か?と思って海外のサイトとかざっくり見てみると、これがけっこうマジで評価が高い。先日はIFP(Independent Film Project)のゴッサム賞(Gotham Awards)で新人俳優賞を獲った。まあこの賞は、インディーズ系の優れた映画を盛り上げるための賞であるから、たとえばゴールデングローブ賞のように、アカデミー賞の行方を占うアテにはならない。が、それでも昨年(2005年)の『ジューンバック』のエイミー・アダムス(助演女優)や『ハッピー・エンディング』のマギー・ギレンホール(同)を始め、だいたい受賞者はオスカーにもノミネートされている。ただ菊池凜子さんが今回受賞されたのはゴッサムの新人俳優部門。この部門では2002年の『マイ・ビッグ・ファット・ウェディング』のニア・ヴァルダロスがアカデミー助演賞にもノミネートされている程度である。微妙だ。
 何をごちゃごちゃ言っているかというと、もし菊池凛子さんが助演女優にノミネートされた場合ですね、アカデミー賞の授賞式って、まず、それぞれの候補者の紹介があって、その時に、映画の中でその俳優さんが出ているシーンの抜粋が、会場のでっかいパネルに数十秒間流れるわけですよ。ということはあれだ、そこに、菊池凛子さんがファンタのCMを見るというカットが含まれている可能性ってのも、我々は考えておかなくちゃならんというわけですね。並みいるハリウッドの俳優・監督たちの前で、いきなり小松彩夏がビキニで「だっちゅーの」、しかもそれが全世界に中継されるという可能性を。どうする?
 いやどうするってこともないが、ともかく現状から判断して、菊池凛子のノミネートというのは、あながちあり得ない話ではない。もちろん受賞はまず無理だが、ノミネートさえされれば、そういう可能性が生まれるということです。


 本題に移る前にもうひとつ、Act.29に追加情報です。雨のロンドンのシーンで、衛と一緒に歩く友人を演じたトレバー・ルートさん。第46回のコメント欄でたまらさん(酔うと「たまお」になる)が「付け鼻をつけたジェダイトの変装みたい」とトンでもないことを言っていた人物ですが、当時、上智大学で学びながらモデルなどをやっていた方のようで、プロフィルには「浜崎あゆみやTommy February等、数々のポップスターのプロモーション・ビデオ、また『さんまのからくりテレビ』、『Smap×Smap』等、日本のテレビ番組に出演。その他に様々なカタログや宣伝記事にも登場」ということだそうです。詳しいことをお知りになりたい方はこのページの下から3番目をご覧ください。まあみなさん、そんなにお知りになりたくもないですかね(笑)。ビクター・カサレ神父、山本ひこえもん君などについてはいまだに何も分かりません。情報募集中。
 いやマクラが長くなった。それでは本日のお題です。

1. 長〜いアヴァン(その1)「地場衛」


 2006年11月29日(水)深夜2時25分、Act.32再放送。なんと来週は3時15分なんだって。それでもCBC公式トップは「毎週水曜日、深夜2:15〜再放送!」である。まあ、いいや。
 冒頭アヴァン・タイトルでジュピター覚醒シーンを再び観て、また引き込まれてしまった。森の中、木洩れ日を逆光に浴びる安座間さんはとてもきれいだ。改めてセリフを聞いてみると、実はまだまだハードボイルドなのだが、もうそんなこと、どうでもよくなってしまうよ。頬のあたりがわずかに泥で汚れているのが、スイカに振った塩というか、また美しさを際だたせています。
 そこへ「ついに、まこちゃんの戦士の力がめざめました」とうさぎの語りが入る。 第43回で述べたように、後半でアヴァンの番組ナビをやるのはほとんどがルナで、今回のようにうさぎが担当するのは、実は珍しい。だからこれには何か意味があるのかな、と思っていつもより注意して観ていたら、ちゃんと意味があった。これには驚いた。
 覚醒したジュピターの「私、分かったよ。私たちのいまは、前世に理由がある」というセリフを受けて、うさぎが「私、そんなむずかしいこと考えたことなかったけど、みんな、前世となにか関係があるのかな。私と、地場衛のことも…」と言う。ここで案内役としてのうさぎは退場して、相変わらずロンドンっぽく見えないロンドンの地場衛に場面が移る。
 この「私と、地場衛のことも…」とつぶやくように結ばれる、最後の部分がポイントだ。うさぎはずっと衛の呼び方を「地場衛」あるいは「むかつくヤツ」あたりで済ませていた。しかしAct.25の最後で、思わず「まもる!」と叫んでプリンセスの姿になった。でその次の回に衛はロンドンへ行ってしまって、いよいよ今回、再会をはたして相思相愛(って死語か?)になるわけだ。そしてこの後、うさぎのことを、もう以前から「おまえ」「うさぎ」(Act.15から)と呼んでいる衛に対して「うさぎは衛をどう呼ぶのか?」というテーマが出てくるのはご存知の通り。そう考えると、まずこのようにアヴァン・タイトルの語りで、ためらいがちに、よそよそしく「地場衛」と言わせておいたのは、ラストで、とつぜん帰ってきた衛に「あなたは?」とも「衛は?」とも聞けず、おずおずと衛を指さして「その……は?」と尋ね返す、というシーンへの布石だ。
 その証拠に、場面はこの後、ロンドンで「エンディミオン、地場衛」と思い悩み、心のなかで「うさぎ、お前なら、前世を受け入れるのか?」と問いかける衛から、すぐにうさぎの部屋に切り替わる。もう衣替えの季節なのでタンスの整理をしているうさぎ、すると引き出しから、紙袋に入ったままの、衛に渡し損ねた手編みのマフラーが出てくる、という展開だ。えーとここまでのアヴァン・タイトルの流れを整理してみます。

(1)「私たちのいまは、前世に理由がある」というジュピターの言葉に、思い悩むヴィーナス
(2)うさぎの語り。「私と、地場衛のことも…」と「地場衛」の名を呼ぶとき、ためらううさぎ。
(3)ロンドン、地場衛。「うさぎ、お前なら、前世を受け入れるのか?」
(4)うさぎ、自分の部屋。季節も変わったので衣替え。マフラー。

 と、このように見てみると、すべてがラストシーンで対応している。(1)前世の悲劇に思いをはせて悩む美奈子が見守る中、(2)うさぎは、衛を「まもる」とは呼べないまま、(3)「信じるか?おれは信じない」という彼の力強いことばに励まされ、一緒に生きていこうと決意する。そして(4)「いつかのマフラー、まだあるなら、もらっていいか?」と優しく尋ねられ、「そんなの、ダメだよ。もうすぐ、夏だし」と泣いちゃうのである。ほらね。そのためのうさぎの語りだったのだと思う。Act.36で「まもる!」と叫ぶまでの少々のブランクの前に、最後にもう一回だけ「地場衛」と言わせたのだ。なんか非常に感心しますよ。すごいぞ脚本。

2. 長〜いアヴァン(その2)ジェダイトの思春期


 さてしかし、アヴァン・タイトルはまだ終わらない。ていうか長いね。とにかく今回のアヴァンは非常に長い。ビデオで確認したら主題歌が始まるのが7時35分だ。で、この後どうなっているかというと、前回から続く四天王の物語である。前世を思い出せずにいるネフライトのために、ゾイサイトはロンドンから衛を召喚する。するとクンツァイトが「これは何の集会だ」と姿を現し、その背後にはおずおずとジェダイトもいる。こうして四天王とマスターが初めて一堂に会する、というところまでが前回であった。
 ネフライトは、自分だけが前世を知らないという疎外感にあせっている。本当はネフライトばかりでなく、ジェダイトも前世を思い出せていないのだが、ジェダイトにとってはそんなことはどうでもいい。この人は思春期なので、今はベリルさまの菱形で頭がいっぱいなのだ。だからネフライトが一人でコンプレックスを背負う。この設定は、やがてそのネフライトだけが絶望のうちに人間界に転生し、亜美という心の支えを得て、前向きに生きていこうと決意する、という後の展開を思えば非常に興味深いが、どういう意味かと問われればよく分からなかったりする。もう少し話が進んだ段階で考察したいと思う。
 というわけで、「何も想い出せないぞ。おれの前世はどうした?」と苛立つネフライト、「前世と同じ悲劇を繰り返さないために、我らはマスターと共にあるべきだ」と主張するゾイサイト、「前世ある限りすべては繰り返す。その前に私が終わらせる」という復讐者クンツァイト、「前世?前世とは何だ?」とつぶやく問題外のジェダイト、という三者三様四者四様の立場がはっきりとしてくる。とりわけゾイサイトとクンツァイトは鋭く対立する。怒号が行き交う。それは遠い遠い過去、この星に滅亡の危機が訪れたとき、事態の打開策を巡って四天王たちが激論を交わしあったときの様子とそっくりだった。王子エンディミオンの前で進言するクンツァイト、それにくってかかるネフライトと、静かだが頑として自分の反対意見を譲らないゾイサイト、三人の論争を心配げに見守るジェダイト。あまりによく似ているので、潜在意識に眠る前世の記憶を刺激された衛は、思わず叫ぶ「やめろ!クンツァイト、ゾイサイト、ネフライト、ジェダイト」
 その命令の声には、かつての王子としての威厳が甦っている。渋江君もなかなかいいぞ。あと増尾君も。前世の記憶は戻っていないし、いまはベリルさま命なのに、こんな風にいきなりかつてのマスターからびしっと名を呼ばれると、つい「ははっ」という感じで威儀を正し、一歩前に進み出てしまうジェダイト。そのヘタレぶりがとても可愛い。
 「前世などと、どうしてそんなものにとらわれる。どうしてそこから出ない!」その瞬間、かつての地球の王子エンディミオンの姿が一瞬よみがえる。どうして衛は「前世などにとらわれるな」ということを強く叫んだ瞬間、エンディミオンの姿を取り戻したのか?これもよく分からない。とにかく実写版は、前世が絡むと話が分かりにくくなる。また考えてみます。
 が、そんなかつての主人に「マスター、今まで通り、どこか片隅に引きこもっていてもらおうか。そうすれば破滅の日まで静かに暮らせる。が、できないのであれば……」と迫るクンツァイト。しかし衛はここでは一歩も引かず、クンツァイトに対峙する「ゾイサイト、お前が言ったな。おれはおれだと。そうかも知れない」。ならば、と衛の喉元に剣を突きつけるクンツァイト。衛の危機!
 ここで場面はクラウンに移る。カウンターで元基が国際電話をかけているが相手に通じない「いや、だから、ジャパニーズ……日本語しゃべれる人いないんですか?そっちに下宿してた地場衛」でも結局、切られてしまう。
 そこへ入って来る私服のうさぎと亜美とレイ。まことはいない。先週のこともあるし、ちょっと元基君には顔を合わせづらいかな?まあ後半には出てきますけど。
 「元基君、なに、どうかしたの?」と尋ねるうさぎに、元基は答える「大変なんだよ。さっき連絡があって、衛がロンドンで行方不明になってるって!」驚く顔のうさぎのアップ。で、主題歌。ここまでがアヴァン・タイトルだ。

2. 長〜いアヴァン(その3)カツカレー疑惑


 ところで、ここで元基は大盛りのカレーをカウンターに置いて、スプーンを持っている。高丸監督のアイデアであろうが、疑問が残る。そもそもこんなところでカレーを食べようとしているってことは、まこちゃんが来店してそれを目撃する可能性を想定しているはずだが、いったい元基はこの行為で、まことに何を伝えようとしているのだろうか。元基の性格を考えると「もう立ち直って、もらったカレーは振られちゃったこととは別に美味しくいただいているから、気にしないでね」という感じかなあ。もし未練たらしく「まだあきらめてない」ということをアピールするつもりなら、マフラーだってまだしているはずだからね。でもここではマフラーはしていない。前回、まことに振られた帰り道で、外しているのだ。今回マフラーのテーマはうさぎと衛に移る。
 もうひとつの可能性としては、これはまことが前回タッパーに入れて持ってきたカレー(どうでもいいけどそんなことするとタッパーに匂いが残るぞ)ではなくて、普通に店で出しているものだ、とも考えられる。私はカラオケとかあまり行ったことがないので知らないんですが、カレーライスなんてメニューは、あるんじゃないでしょうか。もしないとしたら、近所で出前を取ったんだ。
 前回まことが作っていたカレーは、けっこう本格的なインドカレーらしかった。キッチンでの調理のシーンでは色々なスパイスを調合していたし、「苦手なものを克服」ということで、ちょうど日本の洋食カレーに入っているような「もさもさした」ジャガイモを苦しそうに食べる次のシーンとの対比からして、ジャガイモも入っていないはずだ。しかし今回の元基のカレーはすごく日本の洋食カレーっぽい。第一これカツカレーではないのか。ヒマな方はビデオでご確認下さい。最初に国際電話をしているカットでは、下から仰ぐアングルなので、カレーの上にトッピングがあるかないかは確認できないが、次は写る。ただカメラの手前に亀吉の水槽があって、見えるようで見えないようで、微妙だ。でもこれカツカレーじゃないのかなあ。
 だとするとここでの元基のメッセージは「まこちゃんもう僕は、腕はまだ包帯で釣っていて自炊はできないけど、こうやって市販のカレーを食べてるから、もう気をつかわないでね。また優しく差し入れなんかされたら、勘違いしてしまうよ」というような意味になる。
 いやこういうことまで考えているから日記が長くなり、先へ進まないのだ。もういいや。でも皆さんはこのカレーをどのように考えますか?って、考えている人はそんなにいないか。

4. これでいいのか脚本(理想編)


 さてこのアヴァン・タイトルの長さだが、これはプロットの構成上の問題と関連していると思う。
 今回のお話はシンプルだ。「衛が行方不明」という知らせを聞いたうさぎが、居ても立ってもいられず、なんとかロンドンへ行こうとする。黒木ミオが「友だちのアイドル、ユウトの付き人をすれば、ユウトのロンドン行きについていける」という話をもちかけ、うさぎは飛びつく。あとは、「ロンドン、ロンドン」とつぶやきながら、非常にヤな感じのスター、ユウトにいじめられても、付き人の仕事を頑張るうさぎちゃん、テレビ局のスタジオで美奈子から「すぐ帰った方が良いわ」と忠告されても、いくらファンでも、この件だけはごめん!とばかりに逃げだし、衛のために奮闘するうさぎちゃん、である。最後に、実はユウトには妖魔が取り憑いていたことが分かる。ロンドンへ行くと偽って、港にうさぎを連れ出し、襲いかかる妖魔。そこへエンディミオンが助けにやって来る。衛が帰って来た。無事だった。よかった!とまあ、だいたいそういう話だ。
 東映公式によると、今回の妖魔は「スター」ユウトにちなんで「星」をイメージしたものだそうだ。つまり「妖魔(星)」だが、出てきた実物を見ても、いったいどの辺が「星」のイメージなのか見当もつかない。そう考えると、ひょっとすると「妖魔(金)」も、あれはあれで金をイメージしてつくられた妖魔なのかも知れない、と思えてくる。
 それはいいとして、要するに今回のメインとなるストーリーは「衛が心配で、ロンドンへ行くために、意地悪スターのユウトにひどい仕打ちをされても、頑張るうさぎちゃん」である。そのひたむきな衛への想いが「男からむと厳しい」レイの心さえ動かし、「大事なプリンセスに何か起きないように」二人の恋を守ってあげようという気持ちにさせる。あるいは、一時はゾイサイトの提案に乗ってうさぎの記憶から衛を消そうとまでした美奈子が、最後に、うさぎの思いに賭けてみよう、と考えを改めたのも、この時の一生懸命な姿を見たことが影響しているかも知れない。そういう今後の展開のためにも、ここでうさぎのピュアで一途なハートを具体的に見せつける必要がある。そのために設定される試練としては「単身ロンドンへ行く」というくらいの、難易度の高いハードルは必要だろう。まあそれは分かる。
 ただし、いくら何でも「中学生が単身ロンドンへ行こうとする」という設定に、そもそも根本的な無理がある。だから突っ込もうと思えば、だいたいパスポートは取ったのか、とか、ユウトはマネージャーいないのか、とか、アラはかなり多い。
 おそらくそういう問題を乗り切るためであろう、脚本家は、まず冒頭で衛が失踪にいたるいきさつを一気に語ってしまう。そして衛がクンツァイトに剣を突きつけられるところまで見せて、後は伏せておく。「絶体絶命!さあマモル君の運命やいかに」というわけだ。で、ここからが本編。そうすると我々視聴者も「どうなったんだろう 。まさか死ぬなんてことはないだろうけど、いまどこにいるんだろう」と心配になる。だから主題歌が終わった直後、衛のことが心配で心配で取り乱しているうさぎにわりとすんなり感情移入できて、あとはもう「ロンドン、ロンドン」といううさぎちゃんの気持ちと同化して、「会いたい!」という感情のピークに向かって一気呵成に物語を駆け抜けて、最後に衛の無事を知って、幸せそうな笑顔でへなへなと座り込むセーラームーンと一緒に「よかったー」とホッとする。細かいアラ探しなんかしているヒマはない。
 と、脚本・演出の狙いではそういうことになると思う。ミステリものの映画なんかでは時々、主要登場人物の消息をある時点から不明にしておいて「あの人はどうなったのだろう」という興味で客の興味を最後まで引っ張る、というテクニックが用いられるけど、そのバリエーションである。だから最後に「クンツァイトに剣を突きつけられた後の衛はどうなったか」ということが回想シーンで語られる。これは視聴者に対する、アヴァン・タイトルのシーンの「謎解き」もしくは「解決編」である。

5. これでいいのか脚本(現実編)


 ところが実際に観ている感じでは、どうもそれが上手く機能していない。そこが今回の問題点だと思う。「衛に何があったんだろう」という心配を共有できないので、その後のうさぎの行動にもストレートに感情移入できないのだ。
 脚本レベルでいうと、私には大きく二つの点で疑問があった。第一は、衛の失踪にうさぎが取り乱すというクラウンのシーンの直後、つまりダーク・キングダムでの、ベリル様のゾイサイトいぢめの場面だ。ジェダイトのチクリで、ベリルはゾイサイトが衛を呼び出したことを知る。ずーっと恋いこがれていた愛しのエンディミオンが、ついさっきまで、ほんのすぐ近くにいた。なのに合いそびれてしまった。「わらわを愚弄しおって」その口惜しさにベリルはゾイサイトを呼びつけ、執拗にいたぶりながら、エンディミオンをどうしたか聞き出そうとする。が、ゾイサイトは小馬鹿にするような薄笑いを浮かべたまま、どんなに痛めつけられても、決して衛の居所を口にしない
 このシーンのゾイサイトの態度によって、我々には、どこにいるかは分からないが、ともかく衛の身柄は無事であるようだと察しがついてしまう。なにしろマスターの忠実な僕であるゾイサイトが余裕で薄笑い浮かべているのだからね。そしてそのために、せっかくアヴァンで作られた「衛はどうなったのか」という謎が、充分にドラマを引っ張るサスペンスにならなくなってしまっている。小林さん、どうしてこのシーンを入れたのかなあ、と思うのです。
 第二は、ユウトに「生放送だから気をつけといてね」と愛犬を託されたうさぎが、スタジオで収録風景をぼーっと見とれている間に、犬に逃げられてしまって、番組をめちゃくちゃにしてしまうというくだりだ。ここは、相変わらずドジなうさぎの失敗、というコメディタッチになっているけど、本当はうさぎのドジっぷりを描くべき場面ではない。つまり、今回のエピソードであんまり「ドジでお馬鹿なうさぎちゃん」を強調すると、そもそも行き方も分からなければ、お金もパスポートもない(推定)というのに、ロンドンへ行こうとしていること自体が途方もなくバカじゃないか、ということになって、全体がお笑いになってしまう。そうではなくて、そのお馬鹿さを「うさぎちゃん、そこまで一心に衛君のことを想ってるんだ」といううさぎの純真さとして視聴者を納得させ、かつ同情させなくちゃ今回の話は成り立たないのだけれどな。
 アヴァン・タイトルが長かったせいで、ユウトがうさぎに与える試練というのは、(1)控え室で犬がしてしまったおしっこの後始末をさせる、(2)生放送中のスタジオでうさぎに犬の面倒を見させて、失敗させる、(3)銘柄指定の自然食のドッグフードを15分以内に走って買ってこさせる、の3つだけだ。これを、(1)よりも(2)、(2)よりも(3)というふうに、いじめがどんどんエスカレートする感じにして、見ている側が「うさぎちゃん、かわいそう」と同情せずにはいられない雰囲気をつくる、という展開が正解なんだと思う。で、それにしては2番目が弱い。そもそもユウトがイメージ的に仮面ライダーガイとかぶりすぎていて、生意気そうなヤツだけどいまいち憎みきれないという印象が強く、しかもここではプロデューサーに取りなして失敗したうさぎを救ってやってもいるので、もうひとつ陰湿さが足りないのだ。おそらく、脚本の意図としては、ユウトは、自分にしかなついていない愛犬が、おとなしくうさぎに抱かれているはずはない、と予想したうえで、あえて生放送のスタジオでうさぎに渡してトラブルが起こるようにしむけた、ということなのだろうけどね。
 まあ、ここでうさぎがモニタに映り込むことによって、それを見た美奈子がミオの計略に気づく、という次の展開へとつながる必然性はあるにはある。でも美奈子は同じテレビ局にいるのだから、廊下をぱたぱた走り回るうさぎを遠くに見かけてハッとするとか、きっかけはいくらでも作れると思う。だいたいそんなところで、今回は脚本に少々難あり、というのが名古屋支部の見解だ。
 加えて、高丸演出ということも、悪い方に作用している。いま述べたコメディ調だって高丸監督の特徴だし、あと「可愛くすればいいから」とメイクやスタイリストに注文をつけないのも高丸監督だ。そのせいで、最初のクラウンのシーン、ロンドンへ行くといううさぎを引き止める亜美とレイが、なんだかとてもプリティーな服を着ている。ピンクのカーディガンに白のブラウスの亜美も何だが、レイの、キャラ的にどうなのよと思うくらい清純派な白のカーディガンも、とにかく可愛い。油断するとドラマの流れがどっかへ行ってしまいそうな可愛さで、これは困る。で、それに較べるとうさぎは地味で、テレビ局に入ってからはテレティアで「付き人らしい格好」に変身するから、さらに地味である。もう少しこう、今回のヒロインを立てるということができないものだろうか。

6. 美奈子の祈り


 そして美奈子。実は今回のエピソードはうさぎが主役だと思っていたのだけれど、そして実際そうなのだけれど、ドラマ的には、これまで細かく書いてきたような理由で、私はうさぎちゃんにどうも今ひとつのめり込めなかった。もちろん感動的なラストシーンは別だが。そしてその代わりに美奈子ばかりが目についた。最近の小松さんのグラビアが念頭にあると別にどうということもないが、実写版の中では、今回の美奈子はこれまででいちばんセクシーで、初回放送のときもなんかドキドキした覚えがある。そして再放送で改めて見てみると、つまりこれは愛野美奈子というより小松彩夏のビジュアルを楽しむ回なのだ。ぜんぜん変身しないしね(というか今回はうさぎしか変身しない。あと衛か)。やはり高丸監督、美少女揃いの中でも、正統派というかストレートな意味ではいちばんの美少女を、そのままストレートにいちばんの美少女に見せるという芸のない、もとい、ナチュラルな演出である。いいじゃないかこれで。
 戦士たちも色々あって、物語を見続けていた我々さえ、そもそも美奈子がセーラーVとしてうさぎの前に現れた理由はなんだったか、ということを下手をすれば忘れてしまいそうになっている。そんなところへ、今回の脚本はもう一度、Act.7の記憶を我々に呼び戻そうとする。
 Act.1から登場していたセーラーVだが、初セリフはAct.7、タキシード仮面の後を追おうとするセーラームーンに向かって言った「追ってはなめ。彼に近づいてはなめ。彼は敵だと思いなさい」だった。そして今回、ユウトの番組収録が終わって、いよいよロンドンへ行こうと(実は行かない)、地下の駐車場でユウトの車に乗ろうとするうさぎのもとへ、美奈子が駆けつける「待って、行ってはなめ。うさぎ、なめ!」。
 これがAct.7の繰り返しになっていることは言うまでもないが、「うさぎ」と呼び捨てにしているところが萌えますね。前世ではあっちがプリンセスでこっちは家来、現世では、こっちが憧れのアイドル「愛野美奈子」で、あっちはファンの「うさぎちゃん」、でもその「うさぎちゃん」の影武者でもある。そういう、つねにある種の緊張感をたもっていた二人の関係が、ここではまた別な緊張感をはらみつつ、しかし「うさぎ!」という一言でぐっと距離が縮まった気がします。
 そして松下萌子(いきなり何だ?)。すでに自分の出番は終わっていて、土曜の朝に実写版の成り行きを楽しんでいた陽菜役の松下萌子は、この美奈子の「うさぎ!」を聞いて「そうかぁ、ファンを呼び捨てにするのが、親近感を増すってことにもなるのよね」という真理に開眼する。その発見は、後に自分のブログ「moeco page」を開設してから、ファンの書き込みに「万丈」とか呼び捨てでレスをつけるという方法論に結実してゆくのであった(この段落はフィクションであり、実在するいかなる国民的美少女とも関係がありません)。
 まあそれはともかく、話をもう一度Act.7に戻すと、遊園地でタキシード仮面に危機を助けられ、ますます心惹かれていくセーラームーンの前に、再びセーラーVが姿を現す。「セーラームーン、忠告を忘れたの?」セーラームーンは答える「タキシード仮面に近づかないなんて、無理だよ。どうしてか分からないけど…私…たぶん…」それを聞いたセーラーVは、視線をそらしながらつぶやく「運命は、変えられないのね」。
 そして今回、Act.32。ロンドンから帰ってきた衛がうさぎを抱きしめる。その様子を物陰から見守る美奈子は「運命は、変えられないの?」とつぶやく。セーラーVが目をそらしたようには、美奈子は目をそらさない。愁いを含んだ眼差しをしっかり二人に向けながら「運命は、変えられないの?」である。「変えられないのね」と「変えられないの?」、語尾の「ね」があるかないかの違いに過ぎない。でもその、ほんのささやかな違いが、美奈子=ヴィーナスの微妙な心の揺れ動きを示している。
 Act.7のころは、前世からの記憶に忠実に「プリンセスとエンディミオンを再会させてはならない」と思っていて、それでもエンディミオンに惹かれ始めているプリンセスを目の当たりにして、絶望的な気分だった。そしてやはり二人は今、自分の目の前で再会して、絆を誓っている。そのことがかつてどんな悲劇をもたらしたかを、当人たちですら十分には分かってはいない。私だけが知っている。でもうさぎの一途な想い、観覧車で見た笑顔は、何か不思議な力で私の心を動かす。あるいは……という希望がわずかに浮かんでくる。その一点に賭けてみるべき、とも思う。それでも、前世からの運命は、そんな私のささやかな希望など、あっさり打ち砕く強大な力をもって、もうそこまで迫っている。どうすればいいのだろう。
 とにかくAct.7の「運命は、変えられないのね」という、あきらめの色を帯びた断言が、今回Act.32で「変えられないの?」という、何か祈るような疑問文に置き換えられたことは、記憶しておきたい。そこには、たったひとり前世に目ざめている戦士の、孤独、絶望、祈り、そういった諸々の感情がにじみ出ている。まあ何にせよ、このセリフを言う小松彩夏はすばらしい。美しいし。彼女に演技力がないと言った人は、後で職員室まで来るように。

7. そして感動のラストシーン


 今日はもうこのへんで終わりにします。でも最後にラストシーンをきちんと引用しておきたい。

 衛 「お前は前世のことを、全部思いだしたのか?」
うさぎ「ぜんぜん。…その…(衛をどう呼んでいいか困って、指さす)…は?」
 衛 (ふっと笑って)「少し」
うさぎ「そっか」
 衛 「おれとお前の関係は、星を滅ぼす。前世を繰り返したくない者にとって、おれたちは不吉な存在だ。
うさぎ「うん」
 衛 「信じるか?」
うさがい「だって…」
 衛 「おれは信じない。そう決めた。だから帰ってきたんだ。お前と一緒に証明するために」
  (告白されていることに気づいてハッとするうさぎ)
 衛 (ちょっと照れて)「ああ、いつかのマフラー、まだあるなら、もらっていいか?」
うさぎ(うるうる)「…そんなの、ダメだよ。もうすぐ、夏だし」(泣いちゃう)
 衛 (笑って)「馬鹿、そういう問題じゃない」
うさぎ「馬鹿って何…(衛に抱きしめられる)」
 衛 「絶対、星なんか滅びない」
  (物陰から二人を見守る美奈子)
美奈子「運命は、変えられないの…」

 ああ色々なことが走馬燈のように思い出されてくるなあ。うさぎが最初に衛に「馬鹿」って言われたのはAct.4だ。もう半年以上も前のことだ。衛を初めて意識したのはAct.13だ。そして「送ってくよ。それ警察に届けるんだろ」と言われて「うん!」とバイクの後ろに乗ったうさぎが、衛の身体に回した腕にぎゅっと力を込めたのは、Act.15のラストであった。あれから約4ヶ月たって、ここでようやく衛がうさぎを抱きしめてやる番が回ってきた。
 うさぎの想いを知って、衛が「おれも…」と言いかけたのはタキシード仮面正体バレのAct.25冒頭であった。あのときは陽菜のことがあって伝えられなかった本当の気持ちが、2ヶ月近くたったいま、ようやくうさぎに届けられる「だから帰ってきたんだ。お前と一緒に証明するために」。
 二人にはこれから辛く厳しい試練が待っているのだけど、でもともかく今は、うさぎの一途な恋がようやくかなったのだ。よかった、よかったね、うさぎちゃん。もっともおじさん、現実の世界で、電車の中なんかで、大学生の男の子と制服姿の中学生の女の子のカップルがイチャついてるのなんか見かけようものなら「けしからん。ふしだらな」なんて『サザエさん』の波平みたいなこと考えてしまいますが。いやそれはどうでもいい。今回は脚本にケチをつけてはみたが、このラストシーンで帳消しだ。


【今週の猫CG】【今週の待ちなさい】相変わらずなし
【今週のロンドン】17回(うさぎ)


(放送データ「Act.32」2004年5月22日初放送 脚本:小林靖子/監督:高丸雅隆/撮影:川口滋久)