朝倉かすみの小説を初めて映像化した作品となる映画『平場の月』は2025年11月公開。プロデューサーはTBSの那須田淳と水木雄太、監督は土井裕泰、脚本は(最近は山下敦弘と組むばかりでもなくなった)向井康介、主演は堺雅人と井川遥、配給は東宝。
で、ヒロイン井川遥の中学生時代を一色香澄が演じるという。がんばれ美海。がんばれって、もう撮影は終わってるだろうけど。
映画は初出演のようだ。あと、堺雅人の同級生役でこの人も出てくるという。が、しかし残念ながら北川さんは出ません。
というわけでさっそく『あなたを奪ったその日から』の続きです。今回でようやく第5話のレビューが終了(2025年5月19日放送、脚本:池田奈津子/撮影:渡部薫梨/照明:磯辺大和/演出:本間利幸/企画:水野綾子/プロデュース:三方祐人/制作:カンテレ・共同テレビ)。
雪子先生(原日出子)からの電話で、ひさしぶりにはちどり保育園にやって来た紘海(北川景子)は、意外な事実を聞かされる。美海(一色香澄)がこの保育園まで、雪子先生を訪ねてきたというのである。
雪 子「美海ちゃん、中学一年生ですって?」
雪 子「私が知っている限りでは、13年前、あなたは妊娠していなかった」
雪 子「血は繋がっていないのね」紘 海(頷く)雪 子「そのこと美海ちゃんは知っているの?」紘 海(首を横に振る)
雪 子(溜息)
数日前、雪子先生は紘海に渡したいものがあったので(それとたぶん、急に退職した紘海のことがちょっと心配で)初めて自宅を訪問したのだが、そこでばったり美海に会ってしまったのだ。
美 海「うちにご用ですか?」
雪 子「え?」
雪 子「あ……あ、失礼しました。間違いました」美 海「あ、誰のところですか?」雪 子「中越さんのお宅に」美 海「うちですけど」
雪 子「え?」
美 海「中越、うちです」
雪 子「あ……あなたは、紘海先生の」
美 海「娘です」
賢くて勘の良い美海は、この人が雪子先生かな、と思う。保育園でお母さんが誰よりも信頼していた園長先生だったら、お母さんのこともよく知っているに違いない、そう思った美海は、学校帰りに思い切って「はちどり保育園」を訪ねてみる。
美 海「雪子先生」
雪 子「はい」
美 海「やった。正解。やっぱり、あの雪子先生」
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美 海「お母さんから雪子先生のことはよく聞いていたんです。だから会ってすぐ分かりました」雪 子「ええ? 聞いてたってどんな?」
美 海「雪子先生は、優しいようで恐いようで、優しい人って」
美 海「ほんと言うと、ずっとここにも来てみたかったんです。でもお母さん、なぜかいつも『駄目』って。なんでだろ」雪 子「あの、今日はどうしたの?」
美 海「そうでした。雪子先生に聞きたいことがあって」
雪 子「え?」
美 海「お母さんには聞けないことなんです」
╳ ╳ ╳
紘 海「あの……あの子に何か……」雪 子「何も言えるわけないでしょう。」
雪 子「前から少し気になっていたのよ『紘海先生、ひょっとして何か隠しているのかしら』って」
雪 子「どうして言ってくれなかったの?」
紘 海「ごめんなさい」
雪 子「違うの。責めてるんじゃなくて……」
紘 海「……ごめんなさい」
雪 子「実はね、これを渡したくて伺ったのよ」
雪 子「ふふ、ね」
雪 子「少なくとも、あなたは子どもを不幸にするような人じゃないってことは分かっている」
紘 海「雪子先生……」
雪 子「だから、いつか話せる日が来たら、話してくれる? あの子がどこから来たのか」紘 海「……はい」
雪 子「……はぁ、でも困ったわね……美海ちゃん『お父さんのことが知りたい』って」
紘 海「えっ?」
そのころ、美海は自宅で、初芽ちゃん(小川李奈)に得意のお好み焼きを作って貰って、一緒に晩ご飯をしているところであったが。
初 芽「お父さん?」
美 海「うん。初芽ちゃん何か知らないかな?」
初 芽「んん? 知らないなあ。私が引っ越してきたとき、紘海さん、もうすでにシングルマザーだったし」美 海「そっかぁ」
初 芽「お父さん、確か病気で亡くなったんだよね」美 海「うん。私が三歳のときに」初 芽「じゃあ何か憶えていないの?」
美 海(首を横に振る)
初 芽「写真とかは?」
美 海「お母さん見せてくれなくて。ないのかも」
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紘 海「じゃあ美海は父親のことを聞くために、雪子先生の所へ?」雪 子「うん」
紘 海「何だか信じられません。私に黙って、あの子がそんな……」
雪 子「美海ちゃん、お母さんには聞けないって」
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初 芽「どうして聞けないのよ」美 海「お母さん、なんかお父さんの話すると、すっごい困った顔するんだよね」
美 海「なんとなく、聞いちゃいけないことなんだろうなぁって」
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雪 子「だから、お母さんの前では、お父さんのことは興味ないふりをしているんだって」
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紘 海(……人の心は万華鏡……)
紘 海(どんな人でも、見る角度を変えると、がらりと違う顔が見えてくるという)
紘 海(だけど、娘だけは例外だと思っていた)
紘 海「ただいま」
美 海「お帰り。お好み焼き、冷蔵庫に入っているよ」
紘 海「……美海……」
美 海「ん?」
紘 海(ぎゅっと美海を抱きしめる)
美 海「ちょっと何? ねえ暑苦しいってば」
美 海「ねえ、ちょっとやめてよ。どうしたの」
美 海「ねえ、もうっ、放してって言ってるじゃん(笑)」
お父さんは、結城萌子が中越美海になったその年に病死したことになっているようだ。でもだとしたら、写真はおろか、どんな人だったかさえ話してくれない、というのは確かに不自然だよね。ひょっとして紘海は、美海がもう少し成長したら、実はお父さんはとんでもないDV夫で、そこから逃げ出してきたんだけど、本当のことを言って美海を傷つけたくなかった、とか、そういうストーリーを話す予定だったのかも知れない。しかし子どもは親が考える以上に成長する。
中学一年生。私の娘はどうだったっけ。まあまあお父さんにべったりだった小学校低学年の時代から、イケメンアイドルとかそういう外部の異性へと関心がシフトした時期だったように思う。おそらく美海は無意識のうちに、「お父さん」のイメージと向き合い、超えてゆくという思春期の通過儀礼を欲していたのであろう。でもまだその願いは満たされない。次の第6話で、美海は妻子あるイケメンの鉄道職員に心寄せる。恋愛感情のようで、本人にもよく分かっていないのだが、父親と会えない代わりに、誰か大人の異性と向き合うことを心が求めていたのだ。でもお母さんが激怒したりして、結局うまくいかなかった。とにかくこのドラマは、お父さんと出会えないために、少女の季節をなかなか卒業できない美海の物語でもあるのだ。最終回、お父さんの家に引き取られた美海が初潮を迎える場面は象徴的である。
話を第5話に戻しまして、翌日、三浦室長(大浦龍宇一)がお咎めなしになって、スイッチバックお客さま相談室は通常営業。かと思ったら、ビデオファイルで怪しげな告発メッセージが届いていた。気づいた鳥谷(内藤秀一郎)が慌てて村杉さん(田山由起)に報告する。
紘 海「はい、御意見ありがとうございました。失礼いたします」
鳥 谷「あれっ、何これ」
鳥 谷「村杉さん」村 杉「ん?」鳥 谷「ちょっと」
村 杉(鳥谷のモニタを覗き)「室長」三 浦「うん?」
村 杉「お客さま相談室の受信トレイ見て下さい」三 浦「え?」
村 杉「とにかく見て下さい。変な動画が」
鷲 尾「私は元YUKIデリの調理責任者でした」
鷲 尾「結城旭さん、なぜ真実を隠すんですか?」
鷲 尾「本当のことを話してください」
鷲 尾「子どもの生命が失われているんですよ」
鷲 尾「あなたには真実を明らかにする責任があるはずだ」
そう告発する鷲尾(水澤紳吾)は、11年前に紘海があの忌まわしい「コーンたっぷりミックスピザ」を買ったとき、店頭に立っていた。このドラマの登場人物はみんな異様なほどの記憶力があるので、紘海も一目見て、これが確かにYUKIデリの調理責任者であったことを確認したに違いない。一方、結城旭(大森南朋)のアドレスにも、この告発動画は直接送り付けられてきたのであった。
やはりピザ事件の裏には、何か隠された真実がある。それは一体……というところで、第5話は終了。次回へ続く。ということで、全話レビューに今年いっぱいかかってしまうかも知れませんが、見捨てないで下さい。また次回。