天野浩成が雛形あきこと結婚して雛形姓を選んだときだったと思うけど、このブログに「歴代タキシード仮面はみんな草食系だから安心」と書いた。私はわりと本気でそう思っていたんで、だから城田優があれこれ話題になったときも、あまり気にしていなかった。それがまさか、こんなかたちで初代に裏切られるとは。若気の過ちかと思ったら、最近の話らしい。どうしようもない。
以前、富沢美智恵さんが結婚して、『サクラ大戦』の神崎すみれ役を降りたりして仕事をセーブしたとき、「富沢さん引退?」という噂になって、それをきちっと打ち消す声明を出したのが古谷徹だったかな。
気を取り直して再開です。『松本清張 眼の壁』第3話レビュー(2022年7月3日放送、原作:松本清張/脚本:深沢正樹/照明:宮脇正樹/撮影:金澤賢昌/監督:内片輝/チーフプロデューサー:青木泰憲・的場政行/制作:WOWOW・ファインエンターティメント)。なお、これからこのドラマをご覧になる予定の方は、そろそろ本格的ネタバレモードに入るので御注意ください。
手形詐欺で会社に多大な損失を出したウキシマ電業製作所の関野経理部長(甲本雅裕)は、責任を感じて犯人である「堀口」(薮宏太)の足取りを追ううちに失踪した。課長の萩崎(小泉孝太郎)は休暇をとって関野部長の捜索を始める。ところが、会社から調査依頼を受けて動き出した探偵の田丸(加藤雅也)がドヤ街で刺殺され、その場に居合わせた萩崎は犯人と間違われ、警察から追われる身となる。
そのうえ、関野部長の遺体が奥多摩で発見されてしまう。自分には何もできなかった。自分の知っている全てを話そうと、警察に出頭しようとした萩崎を、謎の女、絵津子(泉里香)が引き留める。
絵津子(泉里香)によれば、「堀口」ことクラブ『別世界』のマネージャー「田中」は、誰かに操られて動いているだけで、用済みになったら萩崎ともども消される可能性があるという。だから自分の身を守るために姿を消してしまったのか、いまは堀口も行方不明だそうである。
堀口は保守党の岩尾代議士(金田明夫)と何らかのつながりを持っている。おそらく、地元の長野で親族が経営している岩尾建設に匿われているのではないか。絵津子の言うことはいちいち根拠もないのに断言的で、怪しいことこのうえないが、ほかに手がかりもなく、かつ怪しげな絵津子の魅力に惹かれてしまっている萩崎は、その話に乗って、絵津子と二人で長野県に堀口を探しに行く。それにしても、堀口に対する絵津子のこだわりは普通じゃない。やっぱり恋人なんだろうか。
萩 崎「ひとつ聞きたいことがあるんだ。……君はどうして堀口が、田丸や関野部長を殺したとは思わないんだ」
絵津子「堀口……田中マネージャーは優しい方です。いつもみんなのことを気にかけてくれて。だから、そんなことするわけないって」
萩 崎「君は彼を信じている」絵津子「はい。信じています」
萩 崎「君、御両親は?」
絵津子「いますけど会っていません」
このレビューではスルーし続けてきたが、絵津子の過去を暗示するこの火事の映像は、実はドラマ第1話のアバン・タイトルから、何度か繰り返し再現されていた。
絵津子「おじさんが中にいるんです。助けてください!」
だからこれが絵津子なんだろうなぁ、と誰もが想像する。ちなみにここで泉里香の少女時代を演じているのはヒラタオフィスの安藤美優。『女神の教室』では風見刑事(尾上松也)の捜査に協力してオトリとなって塾講師(渡部秀)の悪事を暴こうとしたが、逆に音声レコーダーを隠し持っているのがバレて、裸の写真を撮られて脅されてしまった。ロースクールの照井さん(南沙良)の説得で、告発する勇気をもらった。
照 井「苦しい想いをしなくちゃいけないのは、あなたじゃない。加害者なの」
余談であった。ともかく、ここまでくれば、松本清張はじめこの手の推理ものになじみのある人には、だいたい見当がつくと思うので書いてしまうが、絵津子と「堀口」もしくは「田中」は、このとき焼けてしまった家の、生き残りの姉弟である。
何らかの理由で、この姉弟は山形社長に命じられるがままに、姉はホステス、弟はチーフマネージャーとしてクラブ『月世界』に潜入し、ミッション遂行中に、触れてはいけない何かに関わってしまった。その「何か」は大物代議士の岩尾とも深く絡んでいるらしい。田丸も関野もそこに首を突っ込んだから死んだ。そして萩崎も、それから「堀口」も、いまや「知りすぎてしまった男」という意味では同じだ。——という絵津子の胸中を、萩崎もぼんやりと感じてはいるが、肝心なところを隠した説明に無理がありすぎるので、漠然と信用できない。当たり前だ。
長野に入った萩崎と絵津子は「堀口」を探し出すため、岩尾建設の作業員が入っている現場を順番に訪ねてゆく。
絵津子「ここです。私が行きます。ここにいてください」
絵津子「逃がすような真似はしません」
監 督「何か御用ですか?」
絵津子「すみません。あの、こちらでこの男性が働いていると聞いたんですが、いかがですか?」
監 督「これ知っていますか?」
監 督「見たことありませんが、名前は?」絵津子「堀口……もしかしたら田中と名乗っているかもしれません」
監 督「臨時の作業員も沢山いますからね」
絵津子「そうですか。ありがとうございました」
萩 崎「どうだった?」
絵津子「……」
こんな調子ですべて回ろうと思ったら相当な労力だ。それでも絵津子はリストを虱潰しに訊ねるつもりだが、焦りの色は隠せない。
絵津子(溜め息)「岩尾建設の作業員のいる現場はいくつもある。ひとつひとつあたりましょう」
萩 崎「やみくもに探しても見つかるとは思えない。作業員として匿われているとは限らないし」
絵津子「じゃあどうすればいいの!」
萩 崎「冷静になれ。君の様子は明らかにおかしい」
萩 崎「あの男、堀口とはどういう関係なんだ」
絵津子「!」
萩 崎「まずい。Uターンできるか」
絵津子「いまUターンなんてしたら怪しまれるだけ」
(窓をコツコツ叩く音)
警 官「すみません」絵津子「はい」警 官「飲酒検問です」
警 官(くんくんと車内のにおいを確認して)「大丈夫ですね」
警 官「免許証、拝見してよろしいですか?」
警 官「ありがとうございました」
泉里香がドラマの中で免許を見せるのは、記憶に間違いなければSpecial Act以来ではないかと思う。実写版本編の物語が完結してから4年後。黒木ミオと四天王が謎の復活を遂げ、結婚間際のうさぎと衛を拉致する。ルナからの知らせを受けて集まる戦士。
高校を飛び級してアメリカの大学に留学、最先端医学を学んでいた亜美も、得意のペンギン走りで緊急帰国。ところが空港から走らせたタクシーの前に、黒木ミオのピエロ軍団が立ちふさがる。
ピエロ相手になぜかタクシーを乗り捨てる運転手。「ちょっとぉ」と声をかける亜美を無視して一目散。いいのか、車がどうなっても?
「どおしよう」と一瞬うろたえる亜美だが、すぐに自分が運転免許を取得していたことを思い出す。まじめな亜美なので、運転席に移動してから眼鏡をかけ(もう伊達メガネではなくなっている)、シートベルトをきちっと締め、免許証を取り出し、運転手の乗務員証のうえに重ねて明示してから、「どいて」とアクセルを踏み、ピエロを蹴散らして走り出す。
昔このシーンをレビューしたとき、研究資料として亜美の免許証を複製したことがある。私ってば、昔は暇だったんだなあ。今もか。
さすがに今は、ここで絵津子が警官に差し出した免許証を複製するほどの余裕はない。話を戻す。警察の検問はなんとかクリアしたが、萩崎がこっそり盗み見ると、免許に書かれた彼女の本名は、名乗っている「上崎絵津子」ではなく、「黒池絵津子」であった。
黒池絵津子。昭和35年(1960年)2月13日生まれ。このドラマの時制は1990年だから、ちょうど30歳だ。本籍地は東京都新宿区高稲田2丁目8番地4号、住所は東京都港区北赤川3丁目2番地10号レジデンス赤川503。ともかく、絵津子は偽名を使っている。何のために?
そして次に訪問した現場で、とうとう堀口が姿を現し、第3話が終了する。そこまで進めたかったが、そろそろ時間切れだ。本日はここまで。また来週。