実写版『美少女戦士セーラームーン』ファンブログ


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【第894回】黄昏の青南ローの巻(『女神の教室』)


 第3話、アバンが終わった後のカットは、なぜか青南ロースクールのキャンパスに集まるカラスたちの画像。このなかにフォボスとデイモスがいるのか? その後、黒い鶴の折紙。



 さて冒頭から(そしていつもの)グチで申しわけないが、最近は仕事が多すぎて、土曜日も日曜日ものんびりブログが書けない。そのうえ『女神の教室』は月9ドラマなので、週末には素材の鮮度がすっかり落ちている。そんなわけで今回は具体的な内容に踏み込む前に、まず、そもそも『女神の教室』というドラマ自体に感じる疑問を話しておきたい。これ、書こうか書くまいか、迷っていたんだけれども、3話まで観た時点でふんぎりがついた。ただ私は法曹関係には素人なので、以下の説明も間違いがあるかも知れない。「違うよ」という御指摘があれば、ただちに訂正します。



 「法科大学院」という専門職大学院が創設されたのは2004年4月。(1)「旧来の法学部が机上の学問に偏りすぎて実務科目が少ない(したがって司法試験に合格しても長い研修期間が必要)という事実を踏まえ、座学だけではなく実技科目もカリキュラムに採り入れる」(2)「法科大学院を出れば自動的に司法試験受験資格が与えられる(最終的には、2006年以降の新司法試験を受験するためには法科大学院を出なければならない形にすることが望ましい)」という趣旨であったと思う。



 とはいえ、経済的事情などで大学院に進学できない人もいるし、そういう人にも機会は与えなければならない。そこで補助として「司法試験予備試験」が設けられた。この予備試験をパスすれば、法科大学院修了と同等の学力があると見なされ、司法試験を受けられる。つまり代替手段のはずだったが、こっちの方が人気が出て、2021年には高校3年生の合格者まで現れた(この人は慶応の法学部に進学して、1年生のときに司法試験に合格した)。


「慶応塾生新聞」2021年11月13日


 まあそれは極端な例だが、現在では法科大学院の志願者より、予備試験の受験者のほうが多い。それに、当然の話だが、法科大学院を出て司法試験受験資格を得たからといって、肝心の司法試験そのものに合格できる可能性が高まるわけではない。法科大学院を出てきた人より、予備試験をパスした人のほうが遙かに高い格率で司法試験に合格する。2021年の例をみるとこんな感じだ。



 普通に学部を出て法科大学院に進んで修了して司法試験を受験して、35%弱が受かり、65%強が落ちる(35%っていっても、そのほとんどは東大、京大、私立だと慶応などなど、旧司法試験のころから実績のある名門に集中しているので、中堅以下のロースクールになるともっともっと合格率は低い)。法科大学院の修業年限は留年しなければ3年。卒業時は20代の後半だ。うち65%が不合格になり、20歳代後半で新しい進路を探さなければいけない。そういう人を法律事務などで採用するセーフティーネットがシステムとしてできあがっているような話も聞かない。



 そんな現実が見えてくれば、受験生が減るのは当然である。制度が始まった2004年(と翌2005年)に75校ほど開設された法科大学院だが、15年あまり経ち、すでに40校が店をたたんでいる。半数以上ですよ。



 『女神の教室』の舞台は「青南大学法科大学院」通称「青南ロー」で、この名称は「青山学院大学法科大学院」「西南学院大学法科大学院」を連想させるが、どちらももう受験できない。青学は平成2018年、西南は2019年で募集停止している。まだ留年生が残っていると思うが、その人たちが居なくなり次第、廃止される。



 「座学だけでなく、模擬裁判などの実技演習を学ぶことに意義がある」という考えはたぶん正しい。「そもそも司法試験に合格しなきゃ意味がない」という主張も、もちろん正しい。その両方を可能にするという謳い文句で始まった法科大学院ではあるが、制度自体が間違っている。政府は失敗だなんて言わないが、明らかに破綻している。だって70校以上もの大学が設立したのに、10年後にはその半数が廃止になっているんだよ。現場の個人の力でどうこうできる話ではない。柊木先生や藍井先生がどんなに優秀でも、たぶん「青南ロー」は潰れる。それをなぜ今、ドラマ化するかなあ、というのが率直な感想である。



 話をドラマそのものに戻そう。第2話のラストで雫(北川景子)は風見刑事(尾上松也)に「このあと、少しお時間いただけないでしょうか?」と呼び止められる。そして第3話(2023年1月23日、フジテレビ、脚本:大北はるか/照明:藤本潤一/撮影:長谷川諭/監督:澤田鎌作/プロデューサー:野田悠介)。



風 見「すみません。お忙しいところ」
 雫 「いえいえ……あのう、お話って」



風 見「この裁判について御存知ですか?」



 雫 「はい。多少は」



風 見「私が担当した事件なんですよ」



風 見「被告人は否認。物的証拠はなく、被害者の女子高生の証言は信憑性がないものと判断され、無罪の判決が出ました」



風 見「でも私には、あの子が嘘をついているようには見えなかった」



風 見「実は守宮学院長にもこの件についてお尋ねしたんです」



 雫 「だからあの日、青南に?」
風 見「はい。この判決で間違いはないだろうとおっしゃっていました。それが真実かどうかは別として」



風 見「裁判官でもある柊木先生にもお伺いしたいんです。この判決について」



 雫 「私は、実際の裁判は見聞きしていないので、なんとも……」



風 見「そうですか」



 雫 「すみません」


 で「犯罪者の黙秘権」の正当性をめぐるディスカッションのドラマがあって、ひととおり今回のエピソードが終わったところで、雫は風見刑事に電話をかける。どうやら事件に何かしら関心をいだいたらしい。



風 見「はい。風見です。どうされました」



 雫 「この間の公判についてですが、私なりに一度、考えてみようと思います」



風 見「本当ですか? ありがとうございます!」



 雫 「いえ、また御連絡します」



風 見「はい」




 ここで問題となっている事件の概要を述べた新聞記事は、前回のブログで詳しく紹介した。塾の人気講師が、女子高生(中村守里)をカッターナイフで脅し、塾の個室教室で乱暴したという事件だ。記事をきちんと読まれた方はお気づきだろうが、最も怪しいのが清掃員の証言である。



松下被告は、一貫して容疑を否認、塾側も松下被告の不当逮捕と訴えていた。松下被告は、塾校内では人気の講師であり、被害者である白石杏奈さんも当時は被告人に対して好意をもっていたとされている。このことから弁護側は、お互いの同意上での行為であったと主張、また、塾の常駐する清掃員の証言によると「事件当日に叫び声などの助けを求める声は一切聞こえなかった」と答えている。


 この部分だけピックアップして読むと、人気講師の犯罪で経営が傾くことを恐れた塾側が組織ぐるみで隠ぺいを画策、雇いの清掃員に「事件当日に叫び声などの助けを求める声は一切聞こえなかった」と偽証させた、というあたりが真相ではないかと思う。柊木先生も、おそらくそのへんに不審を感じて、もういちど調べてみようと思ったのだろう。



 となると、話の流れとしては、風見刑事は清掃員の証言の矛盾を突くとかして裁判を再審理に持ち込むことに成功、塾講師は一転有罪、その協力者が柊木先生であったことが明かされ、最終回、柊木雫は裁判官として法廷に呼び戻されることになり、青南ローの講師を去る、という感じだろうか。こうして裁判官の柊木雫は「法曹界のゆとり教育」と揶揄された法科大学院が生み出したレアケースとして注目を浴びる。だけど学生たちの未来はどうなるか分からない。やっぱり司法試験に合格することが大事で、そうなると藍井先生(山田裕貴)こそ、頼みの綱である。出来の悪い子をそんなにあっさり切り捨てず、できるだけ多くの学生を合格させてやってほしい。



 今回はやや短いけどこのくらいで。こんなこと書くと、『女神の教室』を盛り上げたいのに水を差すことになるかも、とちょっと躊躇したけれども、まあいいやね。M14師匠もいちおう視聴を続けてくださるみたいだし、北川党のNakoさんはもちろん、いつもコメントくださるみなさん、当ブログを読んでくださっているみなさんも、ちゃんと『女神の教室』を観てくれるよね。もちろん私も観ます。基本的人権とか、わりとそういうベーシックな話題で、テーマ自体、面白いですし、北川さんの演技は良い(ここは繰りかえし強調しておきたい)。ではまた次回。