実写版『美少女戦士セーラームーン』ファンブログ


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【第674回】岬マリは何を賭けたか?<その2>(北川景子『探偵はBARにいる3』)



 ススキノ探偵「おれ」(大泉洋)のもとに相棒の高田(松田龍平)が連れてきたのは、見るからに実直そうな大学生の原田(前原滉)。同棲している恋人が四日もアパートに帰って来ていないので、探して欲しいという依頼だ。探偵と高田はひとまず。二人が同棲しているアパートに乗り込む。



 恋人の女子大生、麗子(前田敦子)は、いかにも男好きのする美人だ。彼女の部屋を調べてみると、クローゼットからはバレンシアガのワンピースとかシャネルのバッグとか、高級ブランド品が出るわ出るわ。タンスの奥には性病予防の薬が隠してあって、預金通帳には「ピュアハート」なるモデルクラブから、定期的に20万とか25万とかの振り込みがある。これはもう、カレシには内緒で儲かるバイトに精を出していたとしか思えない。



 登呂郡置戸町にある実家の電話番号を見つけて連絡してみたが、帰省してはいないし、母親は何も知らないようだった。てことは、バイト関係で金持ちのパトロンが出来て彼を捨てたか、あるいはやはりバイト関係で何かのアクシデントが起こり、しばらく姿をくらますことにしたか。



 どう考えても楽しい結末には至りそうもない案件だが、探偵は結局、調査依頼を引き受けてしまう。まずは麗子の「バイト先」だったらしいモデルクラブ「ピュアハートモデルエージェンシー」に潜入。



 このモデル事務所は、個人会員にもモデルを斡旋してくれる事務所である。写真を趣味にしている紳士たちが入会し、カタログからお気に入りの女の子を選び、モデル料を払って撮影する……というのが表向きのスタイルで、実際には着衣もコスプレも水着もあるいはヌードもSMも、モデルが同意してそれに見合った料金を払えばどんなプレイも可能という高級な売春斡旋システムである。



 「社会的地位のある名士」しか入会できないこの会員制モデルクラブに潜り込むために、探偵は知り合いのスケベ教頭先生の紹介を取り付ける。



 このスケベ教頭(正名僕蔵)というのは、原作では江別の中学校の教頭先生で、ススキノで場末のキャッチバーにつかまり、いい気になってホステスのおっぱいを2回も触ったあげくビール一本で何十万円という額を請求されて、土下座していたところを「おれ」が間に入って示談にしてあげたという貸しがある。でも実はもちろん、探偵の「おれ」とキャッチバーのマスターはグルなんだけど。



 そのへん映画版はアレンジしてあって、オープニングで大泉洋が「店がアクシデントで停電になったスキにホステスのオッパイを触った不届き者は誰か」を名推理で突き止める、という明るい演出になっている。



 ま、とにかく、呼び込み屋(マギー)に聞いた情報では、この教頭は「ススキノの風俗王」と言われるほどの人で、「ピュアハートモデルエージェンシー」のこともよく知っている、て言うか会員であるという。そこで「おれ」は教頭をやんわり脅し、「教頭の紹介を受けた同僚のスケベ教師」という設定でピュアハートに忍び込む。



探 偵「女子バドミントン部の顧問をやってまして」
マネージャー「それはお羨ましい」



探 偵「趣味のカメラで彼女たちの躍動する姿を撮るのが唯一の楽しみだったんですが、このご時世、妙な誤解をされかねないということで……そんなおり、うちの教頭からオタクのことを」



マネージャー「教頭先生には大変お世話になっております。ほかならぬ教頭先生のご紹介ですからね。素晴らしい子をぜひとも紹介させていただきたいと思います」


 差し出されたアルバムというか女の子のカタログは、どれも奇麗な子ばっかりだったけど、探している諏訪麗子の写真は最後まで出てこなかった。



 探偵は慇懃なマネージャー(野間口徹)に一歩踏み込んで問いかける。



探 偵「こういう子いません?」



マネージャー「あいにく、こちらにはそのような子は……」



探 偵「諏訪麗子って言うんですが」
マネージャー「申し訳ございませんが、こちらのカタログからお選びいただきます」



探 偵「この子は……」
マネージャー「カタログからお願いします」



探 偵「……ここにはいないわけね。分かりました。じっくり選んで良いですか」



マネージャー「ごゆっくり」



 マネージャーが席を立ったので、探偵は誰にともなく「トイレお借りしますね〜」と良いながら、事務所内を奥の方へ忍び込んでいく。




 壁に「北城」(きたしろ)という大きなロゴマークがあり、その先に進むと「STAFF ONLY」とパーテーションで区切られたエリアが。




 その時、背後から「どちらへ?」と女性の声が。
 この『探偵はBARにいる3』については、原作シリーズの版元、早川書房からノベライズ版が出ている。古沢良太の脚本を、第1回アガサ・クリスティ賞(早川書房主宰)受賞作家の森晶麿が忠実に小説化している。参考までにこの小説版から引用してみますね。



「どちらへ?」
背後から声をかけられた。美しい声だ。凜とした意志を感じる。振り向いて、その声の主を確かめた。声の印象にたがわぬ、気品と艶の共存した美女が俺を見ていた。



華奢な体型なのに、身につけた黄金色のコートにも負けない絢爛たる気風が漂っている。ウェーブのかかった長いダークブラウンの髪、小顔のなかで深海に眠る黒真珠のごとき存在感を放つ瞳、くっきりした鼻筋、それ自身が高級デザートではないかと疑いたくなるふっくらとした唇……。



そのすべてが、俺を誘っているようだった。危険な女だ、とすぐに感じた。魔性の魅惑のなかにほんのわずかな純情が見え隠れする。単なる小悪魔よりよほどタチが悪い。
「ええと、美人を探して……たら君がいた」
女はその言葉に微笑を浮かべた。なぜだろう、その笑顔を見たとき、彼女が俺に対して初対面の相手とは思えないくらいの親しみを抱いているように感じられた。それにしてもあまりにすっと懐に飛び込んでくる柔らかな笑顔だった。



「そちらはオフィスだけですよ」と彼女は言った。



「……あ……極度の方向音痴なもので」



反対側からマネージャーが俺を追ってやってきた。不審に思われたか。まあ思われるわな。そこは想定内だ。
「モデルはお決まりですか?」
心なしか、マネージョーの口調がさっきより高圧的に感じる。今日のところはここらが潮時だろう。



「また今度にします。みんなかわいいから迷っちゃって」



俺は、女の横を通り過ぎた。甘いなかにも爽やかさの漂う香水の香りは、この女の魅力をよく理解し、高めていた。



「お似合いですね。ネクタイ」



「どうも」



 小説のセリフはたぶん撮影台本どおりに書いてあるので、変更されたり削られたりしたセリフも分かる。面白いのが、去りぎわの探偵のセリフ「また今度にします。みんなかわいいから迷っちゃって」が、映画版では軽くお腹を押さえて「またにします。何か、お腹こわしちゃって」に代わっているんだけど、その理由だ。



 どうしてか。完成作品では使われていないが、限定版DVDの特典メイキング映像で、この後のマリ(北川さん)の芝居を見ることができる。探偵の後ろ姿を鋭い視線で見送り、出ていくのを見届けてから、自分もドアから去って行く。




 でもそのリハーサルで、北川さんは思わず「トイレから出てきて、トイレに戻るの?」と指摘する。



 どこでロケしたのかは知らないけど、このドアにはもともと「REST ROOM」って大きく書いてあるわけね。スタッフがうっかりそこを見落としていた。監督も思わず「これ違いますね(笑)」





 それで大泉洋が「すごく格好良く出てきたけど、お腹痛いの? みたいな」と北川さんをからかっている。



 で、それを大泉さん自身の去りぎわのセリフとして採り入れて、アドリブで「何か、お腹こわしちゃって」になったんです。面白いですね。




 なかなか進まなくてすまない。今回はこれまで。