実写版『美少女戦士セーラームーン』ファンブログ


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【第660回】再起動『帰ってきた家売るオンナ』の巻



 こっちから見て画面の左端にサンチー不動産の「社訓」が貼ってある。ドラマの中では全文は見えないが、公式サイトによれば、こんな内容なんだって。


 一、私は不動産屋です
 一、私の仕事は家を売ることです
 一、私に売れない家はありません
 一、不動産屋は地図を見ない
 一、お客様に好き嫌いはない
 一、一つ屋根の下で一緒に年を重ねていくなら、それは家族です
 一、自分を解き放て
 一、大切なのはお客様の人生です
 一、家を売るためです
 一、GO


 というわけで、しばらく『海月姫』にかまけてしまったけれども『帰ってきた家売るオンナ』に戻ろう。
 そういえば『西郷どん』は、うちではまったくレビューしないうちに篤姫(於一)が嫁に行ってしまったらしい。最初から「第一部のヒロイン」みたいな紹介のされ方だったし、このへんで出番も終わりか。そもそも私、ちゃんと視聴できていない。一週間無料の見逃し配信とかで後追いできるとよかったんだけど、NHKは受信料をしっかり取るわりにそういうサービス精神が希薄で、有料オンデマンドも単品購入がなくって月額セットメニューしかないって、どういうテレビ局だよ。



 でも、まあ第1話の平均視聴率が15.4%と、NHK大河ドラマにしては少々物足りない数字でスタートして、その後の下落がなく、ずっと14%台をキープしていた。北川景子さんが一助となっているのであればとても嬉しい。
 さあ、それでは『帰ってきた家売るオンナ』だ。長々とひっぱってしまったけど、今回と次回くらいでまとめて、あとメイキングとかさらっと紹介できればと思う(「金曜ロードSHOW!特別企画7daysTVスペシャルドラマ 帰ってきた家売るオンナ」2017年5月26日、日本テレビ放送、脚本:大石静/撮影:二之宮行弘/照明:大内一斎/演出補:山田信義/監督:猪股隆一)。工藤阿須加くんは、鯉淵修ではなくて庭野に戻ったからね。みなさんも頭を切り換えて。



 どこまでレビューしたっけ。ドラマ前半では庭野(工藤阿須加)や八戸(鈴木裕樹)が成績をあげる後押しをしていた三軒屋万智(北川景子)だが、中盤からは不可解な行動が続く。一ノ瀬(笑福亭鶴瓶)が娘夫婦と住むためにメゾネットを購入しようとすればきっぱり断り、マンション購入に来た有名子役(五十嵐陽向)を父親(要潤)の見ている前で相撲で投げ飛ばし、貧しいシングルマザー(芦名星)のために足立(千葉雄大)がようやく見つけた格安物件を、お金持ちのお嬢様(古畑星夏)の「犬小屋」として横取りしたり。



 万智を信頼してはいるが、真意を測りかねた庭野(工藤阿須加)は、三浦半島のサンチー不動産で留守番している屋代(仲村トオル)のもとを訪問した。



庭 野「シングルマザーの家、横取りしたり、人気子役を投げ飛ばしたり、もう訳わかんなくて」



屋 代「はぁあ、三軒屋くんらしいなぁ」



庭 野「らしいって言えばらしいですけど……」



屋 代「でも三軒家くんが家を売った人たちは、みんな幸せになってる。これってしみじみすごいことだなあって感じるんだよこのごろ」
庭 野「確かに……」



屋 代「家を売るっていうのは、人生を売るってことだからな。だってお客様は人生をかけて家を買うんだから」



庭 野「人生を売る……さすが課長、良いこと言いますね」



屋 代「まあな」



(赤ちゃんの泣き声に、ミルクの準備を始める屋代)



庭 野「あ、でもそれと相撲とることとどういう関係があるんでしょうか」



屋 代「そこまでは分からんよ」



庭 野「やっぱり」


 庭野が感心した「家を売るっていうのは、人生を売るってことだからな」というセリフはもちろん三軒屋万智の受け売り。ていうか、最初に挙げた社訓「大切なのはお客様の人生です」にも通じるサンチー不動産のポリシーだ。
 赤ちゃんを演じているのは(演じているとは言わないのかな)佐藤恋和ちゃん。2016年生まれとのことで、撮影時点では0歳だったかもしれない。



 親の顔が見たいというか、すでにテレビドラマの出演歴がこの『帰ってきた家売るオンナ』(日テレ)に加え、NHKの『おんな城主 直虎』と『富士ファミリー2017』、さらにフジの『君にささげるエンブレム』と4本を数える。所属事務所は鈴木福くんや小林星蘭を擁するテアトルアカデミー。将来の名子役かもね。
 さて、庭野がわざわざ屋代を訪問した理由はもうひとつあった。この赤ちゃんは屋代と万智の子なのか、それとも何か事情があって預かっている子供なのか。それを確かめたかったのである。



屋 代「でもこの子を抱っこしているときは、優しそうな可愛い顔したりもするんだけどなぁ」



庭 野「あの、赤ちゃん、どっちに似てますかね」



屋 代「どっちにも似てないよ」
庭 野「……そういう場合もあるんですよね。自分も父にも母にも似てませんから、あ、名前なんて言うんですか、このまえ聞きそびれちゃって」



屋 代「万智子。三軒屋万智の万智に子供の子で万智子。びっくりだろ」



庭 野「はい、びっくりです」
屋 代「門脇万智子ちゃんって言うんだよ」



庭 野「門脇?」



屋 代「そうだよ。預かってるんだよ。お客様の子供を」


 このあたりの土地を買い占めて老人ホームを建てようとしている社長がいる。そこの社長と40歳年下の奥さんとの間に出来た子供を、二人の旅行中引き取っているという話だ。事実が判明して、東京に戻る庭野の胸中は、ホッとすると同時に、何となく煮え切らない。



屋 代「でもこの子を預かって分かったこともあるんだよ。この子を見てるとさあ、この子が、三軒家くんと俺の子供だったら良いのになあって」


 庭野は三軒屋万智の美しさ、媚びを売らない筋の通った生き方、プロ根性にあこがれ、惹かれてもいる。でもとても自分にかなう相手ではないとも思っている。



 一方、テレビシリーズのなかで、屋代が思わず万智にキスしてしまった場面や、最終回で、二人でテーコー不動産を辞めて独立しよう、と約束を交わす場面を目撃していて、へらへらした屋代課長だけど尊敬する上司でもあり、この人と三軒屋チーフが結ばれるなら、自分はきっぱり諦めがつく、という思いもある。



庭 野「三軒家さんも同じ気持ちかもしれませんよ」



屋 代「そんなことないよ、家売れゴー、家売れゴーしか言わないもん」



庭 野「課長、課長は自分の気持ちを三軒屋さんに伝えたほうが良いと思います」



庭 野「自分のためにもそうしてください」



屋 代「お前のために?」



庭 野「はい。三軒屋さんを課長のものにしてください」



庭 野「自分、東京に帰って家を売ります!」
屋 代「そうか。がんばれよ」



庭 野「課長も」



屋 代「おう」


 このあと庭野は、万智が子役の葉山蓮君と相撲をとって投げ飛ばしたことの意味を考え「きっと蓮君が欲しいのは、家ではなくて、普通のお父さんなんじゃないかなあって思うんですよ。贅沢はできなくても、普通に働いて自分を食べさせてくれるお父さん。普通に叱ってくれるお父さんです」という結論に達し、「お父さんも蓮君と相撲をとりませんか」と提案する。そこの部分はすでに【第653回】で紹介してます(ここ





 そして足立(千葉雄大)も足立で、彼が淀川母子のために見つけた格安物件を万智が横取りしていったのには、それなりの意味があるんじゃないか、と考えるようになっていた。早朝から出社して物件探しに勤しむ足立に布施さん(梶原善)が声をかける。



布 施「ん? 足立にしてはずいぶんチマチマした物件だね。らしくないね」



足 立「三軒屋さんに物件を奪われて気づきました」



足 立「あのマンションは金額的に、淀川様には少々無理があったのではないかと」



足 立「僕は、お客様の人生を投げ出しません」



布 施「あれ、足立もついに、家を売るということの意味が分かってきたようだなぁ」



足 立「はい」



布 施「たっぷり時間かけていいんで、やってみてください」


  二人の会話を聞いていると、布施課長が万智を助っ人に呼んだのは、もちろん短期的に売上を伸ばすためであったが、有望株の足立と庭野に、原点に戻って「家を売る」ことの意味を考えさせる教育的効果を狙ってのことであった、ような気もしてくる。ワンシーンで「実は分かってる上司」ふうになってしまう梶原善であった。
 というわけで、ここから終盤、ようやく主役の北川景子がメインに戻って、一気呵成にフィニッシュまで持っていく。



三軒屋万智は白洲美加(イモトアヤコ)に命じて、一ノ瀬(笑福亭鶴瓶)宅を訪問させる。でも一ノ瀬は、娘に絶縁宣言され、メゾネットで娘夫婦と老後を過ごす夢が潰えて自暴自棄になり、自宅にこもって酒浸りの日々であった。



 白洲美加が玄関で何度声をかけても出て来ようとしない。でも万智が許してくれないので、白洲も帰ることができない。



白 洲「一ノ瀬さあん、私もだんだん疲れてきたんですけど、開けて頂けないでしょうか」



白 洲「子供も待ってるんですけどぉ」



一ノ瀬「じゃかぁしいわアホ!」




一ノ瀬「うわぁ、なんでアンタがおる」



万 智「お邪魔いたします」



一ノ瀬「おいおいおいおい」



白 洲「すいません私もムリヤリ言わされたんで」



一ノ瀬「おい!勝手に上がんな。わしの家じゃ」



一ノ瀬「おいお前、何しに来たんや」



万 智「物件をご紹介いたします」



一ノ瀬「お前わしに家売らん言うとったやないか」



万 智「あの物件はお売りしないと言ったのです」
一ノ瀬「訳の分からんこと言うな」
万 智「あなたにもっとふさわしい物件を紹介します」



一ノ瀬「家なんか要らんのや。わしは独りぼっちや。家なんか要らんやろ。わしは独りなんや!」
白 洲「一ノ瀬さあん」
一ノ瀬「やかましいボケ黙っとけ!」



一ノ瀬「一生懸命人生生きてきて、定年迎えて誰一人廻りにおらへん。友達もおらん。部下もわしを見向きもしよらへんのじゃ」



一ノ瀬「お中元もけえへん、お歳暮もけえへん、年賀状もけえへん。嫁も娘も苦労なしに育てたのに、嫁は先に逝ってしまうし、娘はわしを裏切って出て行ってしもたんや!」



万 智「で?」



一ノ瀬「で?……で……で……で、人生一生懸命生きたって何にも残らへんちゅうことを言うとんのや」



万 智「で?」



一ノ瀬「で……で……で、せやから、寝る前にいつも、朝起きたらあの世にいたいって思うとんのに、起きていつも嫁はんに言うねん、早いこと迎えに来てくれって。仏壇に、早いこと迎えに来てくれって言うのに来てくれん、死なれへんのやって言うとんのや」



万 智「で?」



一ノ瀬「でって……で……で、で、終わるに終わられへん言うとんのや。わしゃどないすればええって言うとんのや。これから何十年生きるかも分からへんのに、わしは一体どないしたらええのや」



万 智「で?」



一ノ瀬「で?……で……で……で、わしは死ぬ前に気ぃ狂うかも分かれへんのや。孤独にさいなまれて頭おかしなるかも分からんということや」



万 智「で?」



一ノ瀬「で……あんたら若い。わしら年老いた人間の虚しさなんか何にも分からへんのや。生きとることの残酷さなんか何にも分からへんやろ!」



万 智「で?」



一ノ瀬「でぇでぇ抜かすなアホンダラ!人をおちょくっとんのかボケ」



万 智「……おっしゃりたいことは以上でしょうか?」

 前にも書いたけど、笑福亭鶴瓶はいったんセリフを入れてから自分のことばで語り直している、という印象が強くて、言ってることは一緒でも、台本どおり一字一句違えずというセリフはほとんどないんじゃないかな。落語家が同じ噺を各々アレンジするようなものだけれど、これがこの人の変わらない演技スタイルなのか、それともケース・バイ・ケースなのかは分からない。
 ともかく、ここはそういう鶴瓶師匠のアドリブ語りを前提にした台本と演出なのかも知れない。言わせたいだけ言わせておいて、冷たく「で?」とぶった切るやりとりが、何と6回も繰り返される。




万 智「すべての人の人生は孤独で残酷です。あなたも、私も。白洲美加も孤独です」



白 洲「私は孤独じゃありません。ママもいるし子供もいるし夫もいるし」



万 智「それでも孤独です」



万 智「独りで生まれ、独りで死ぬ。孤独な存在なのです。でも、独りでも生きられないのも事実です」



一ノ瀬「そんなもん分かっとるわアホ」



万 智「一ノ瀬さん、あなたには人の行き交う交差点をご紹介します。その交差点に住むのです」



一ノ瀬「交差点なんかにどないして住むんやアホンダラ」


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万 智「あなたに最もふさわしい物件です」



白 洲「アパートじゃないですかこれ」



万 智「一ノ瀬様、このアパートを一棟お買い上げください」
一ノ瀬「はぁ?」



万 智「ご自宅の土地を売却し、退職金と貯金を併せれば、このアパートを一棟買うことができます」


一ノ瀬「わしに大家せいっちゅうんかい」



万 智「そうです。様々な人間がここに集います。一ノ瀬様は独りではありません」



一ノ瀬「そんなん入ったらまた出てしまうやないかい」



万 智「でもまた入ってきます」



一ノ瀬「また出て行くやないかい」



万 智「また入ってきます」



一ノ瀬「それでも出て行くやないかい!」



万 智「それでも入ってきます」



万 智「子供が親を通過して、いずれ去って行くように、みんなあなたを通過して去って行く。それでいいのです」



万 智「家賃を低く設定し、アパートを借りる人の感謝と敬愛を手に、次々と入っては出ていく人々との触れあいによって、あなたは孤独から解放されるのです」




万 智「一ノ瀬様、人の行き交う交差点、一億円でお買いあげいただけますか?」



一ノ瀬「人の行き交う交差点か」



万 智「はい」





一ノ瀬「買おう」



万 智(……落ちた……)


 ドラマだからね。アパートのオーナーになっても、入居者がしっかり確保できるかどうか、きちんと見極めないとなあ。でも三軒屋万智の勧める物件だから、一ノ瀬はその場で決断したわけだ。実際、庭野や足立のお客さんたちが、物件が見つかるまでの入居予定者として確保できているわけね。ということで、時間が来たので今回はこれまで。