実写版『美少女戦士セーラームーン』ファンブログ


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【第583回】北川景子in『家売るオンナ』慰労会の巻



いま、日テレの見逃し配信をやっているHuluのトップ画面へ行くとこんな感じ。もうほとんど詐欺(笑)。
 というわけで『家売るオンナ』であるが、もう皆さんご存じですよね。視聴率は、オリンピックの女子卓球決勝戦(だったっけ)の裏番組になった時にはさすがに9.5%、それ以外の週は常にフタ桁をキープし、最終回に至っては最高視聴率13%という好成績。



最終回ゲストの凰稀かなめ/脚本の大石静/主演の北川景子


 このサイトじゃ、放送開始時には『ダンダリン』の成績(初回11.3%、平均7.5%)を参考に、平均8%も取れりゃ万々歳だとか言っていたが(ここ)、それどころじゃない大成功である。初回に好成績を記録し、ライバルと目された『仰げば尊し』は、まずキャストに名を連ねていた千葉真一の息子が隠し子騒動で話題になり、高畑淳子の息子が逮捕され(最終的には不起訴となったが)、村上淳の息子も現場で女優にセクハラっぽい行為を行ったとか週刊誌に書かれて、とにかく二世俳優が足を引っ張ってくれたせいもあって低迷。



 でもそんな外的要因より、ここでは『家売るオンナ』というドラマそのものの良かった点を総括しておきたい。で、いろいろ考えれば出てくるんだけど、時間の都合で、けっこう大ざっぱなまとめになります。すみません。

1. ハマリ役


 これも放送開始時に書いたことだが、ほかの女優ならいざ知らず、北川景子にとって三軒屋万智というキャラクターはかなり演じやすいものだったはずである。自分の仕事に没入する完璧主義、といって天才肌ではなく努力家タイプ。よく言えばブレがなく、悪く言えば回りが見えない。集中すると動作が変なテンションになる。天性のアニキ気質。媚びない。仕事が終われば大衆的な店で餃子にビール。だいたい我々が長年見てきた北川景子に当てはまる。



 第1話で、お客さんの息子のためにビワの木の枝を一本切ろうとする場面がある。木に登っては落っこちて、失敗しても表情を変えずに挑戦し続ける。当然、着ているものも汚れるんだけど「転びました」で済ませる。私はここであれを想い出したね、実写版セーラームーンのAct.4のアクションシーンで北川さんが肩を脱臼したんだけど、撮影が中断しては悪いと自分で嵌めたっていう話。



 「GO!」っていうセリフは、まあ台本にはあったんだろうけど扇風機使ってあんな演出をやるのは北川さんだからこそだろう。あの風に対抗してあの表情をやれる美人女優はそんなにいないぞ。結果として『モップガール』の「もげっ」以来の決めゼリフとなった。


万 智「GO!」


桃 子「もげっ」


万 智「GO!」


桃 子「もげっ」


万 智「GO!」


桃 子「もげっ」


 すみません。話がずれちゃったけど、北川さんがわりと自然にキャラクターに入って行けたという意味で、長谷川桃子と三軒屋万智は近いなあってことです。



 あと全然関係ないけど、最終話で屋代課長がビルのテナント探しをしていて、はやりのメイド喫茶に入る場面がある。ああいうのを見ていると、北川景子にもいろいろコスプレさせたかったよなぁ、と思う。



 第3話で、万智がカード占い師に扮して、決心が固まらない顧客の背中を後押しする場面があって、私は「おっ、これから何回か北川さんが、家を売るためにコスプレするところが観られるかも」とちょっとときめいてしまった。結局、そういうことはなくて、そのぶん、毎回趣向を凝らしたコスプレが観られた『モップガール』の楽しみがなかったのはちょっと残念だが、まあ無い物ねだりだ。でも30歳の北川景子のメイドコスプレも見たかった。




 次のWOWOWドラマは解剖学教室の研修医の役。これまで病院とは何かと縁があったけど女医さんは初めてかな。

2. 光あるうち光のなかを歩め


 テレビも大型化・高精細画面化して、映画とテレビドラマの違いなんて、もう有るんだか無いんだか分かんないような時代になってきたけど、でも今でもやっぱり、映画館の暗闇に浮かぶ大スクリーンなら、画面が多少暗くても気にならず鑑賞できるけど、明るいリビングやダイニングでテレビドラマを観る時は、画面が明るくないと何が映っているのかよく分からない、という違いはあると思う。だからハードボイルドアクションなんかは映画館向けだ。探偵なんて暗闇でごそごそやるのが仕事みたいなもんだから、テレビには向かない職業だね。
 そういうわけで『探偵の探偵』も(原作よりは光のあたる場面を増やしていたけど)全体的に暗い画面だった。






 それに較べると今回は不動産屋である。皆さんだって、物件の下見に行って中がジメッと薄暗かったら、買おうとは思わないよね。だから毎回のクライマックス、お客が紹介された物件を気に入って買い上げる場面は、ぴかぴかに画面が明るい。お茶の間(なんて今どき存在するかどうかは知らないが)で人気を得るために、これはけっこう大事な要素だと思った。
 


 しかも、「不動産屋です」「落ちた」などの決めどころでは、必ずと言っていいほどレンズの反射光が映り込む。





 そもそも、第1話アバン・タイトルで三軒屋チーフがテイコー不動産新宿営業所に初お目見えする場面からしてすごかった。
 まず前フリとして退社の時間、庭野(工藤阿須加)と足立(千葉雄大)の二人が下に降りるエレベーターのなかで「明日異動で来るチーフってすごい美人らしい」とか嬉しそうに会話している。



 私は足立のキャラクターについては、もともとドライだったのが、途中でちょっと変わっちゃった、と勘違いしていた。だけど、こうやって観直すと、たとえば第8話で「朝の情報番組で人気のお天気お姉さん(篠田麻里子)が来店する」とはしゃぐ庭野と足立のミーハーな一面は、もう第1話のアバンでしっかり固めてあったのである。
 で、二人がエレベーターの箱の中でデレデレ退社している間に、三軒屋万智は物件の下見に行っている。



 狙撃ポイントをチェックするゴルゴ13のようだ。



 そして翌朝、テイコー不動産新宿営業所。



 出社した屋代課長は、窓からの朝陽を浴びてハレーションをおこしている美女と対面する。






 続いて飛び込んできた庭野。庭野が眩しいのは、太陽の光なのか、それとも万智の美しさなのか。




 後光が差しているというか、オーラを発している美しい万智に息を呑んでしまった瞬間から、庭野の「サンチーの犬」としての運命は決定したといってよい。




 という、全体的に光量の多さが目立つなか、ダークなキャラクターの万智を、毎回ハレーションやフレアやゴーストや光輪で包み、まるで天使のように描いてみせたことが、このドラマの楽しい点だし、また視聴率アップにもけっこう貢献したのではないかと思う。その「明るさ」への傾倒は、最終話でこんなふうにマックスになる。




こころ「屋代ちゃん助けて!」




こころ「あたしのお店が」



布 施「こころちゃん、昼間見るとすごい格好だね」



 レギュラーメンバー中、唯一「夜」を代表していたスナック「ちちんぷいぷい」のママ、こころ(臼田あさ美)まで、とうとう白昼の光の中に引っ張り出してしまったのでした。



 そしてラスト。三軒屋と屋代は、太陽の光が降り注ぐ三浦半島で新たに不動産業を始める。



 「ちちんぷいぷい」は、上の階に新しくできたバレエ教室の少女たち相手に昼間の営業も始める。




 庭野も陽光を浴びてほほえんでいる。




 ラストカットは三浦半島の抜けるような青空。



 というドラマであった。
 三軒屋万智は自らが光り輝き、愛する人々を片っ端から太陽の降り注ぐ明るい場所に連れて行く天使だったのです。


3. 脚本


 ドラマの生命はやはり脚本だが、これまで見てきたように『家売るオンナ』は脚本が非常によくて、これが何と言っても成功の最大のポイントであった。
 実は毎回のメインのプロットというかアイデアそれ自体は、けっこう強引だ。「汚部屋女子とミニマリスト男を三階建て物件に住ませる」とか、「バブルがはじけて1億円台までに落ちた高級住宅を、飯を炊くカマドがあるという一点のみのセールスポイントで、大手電機会社の会長に3億円で売りつける」とか、ドラマをドラマっぽく成り立たせるには必要な荒業だけど、まあ現実にはあり得ない。




 でもその一方で、メインの話題の周囲にちりばめられた「可愛がっているカメのために陽当たりの良い高額物件をためらいなく購入する客」とか、「事故物件は病院や葬儀屋に宣伝をかけると買手がつく」といったネタは、ひょっとすると「不動産業界あるある」かも知れない、なんて妙なリアリティもあって、そのへん、ケレン味とリアリズムのバランスが良い感じだった。



 そしてなによりも、キャラクターの設計や伏線の張り方、たたみ方がきちんとしているところが気持ちいい。たとえば第1話で、白州美加(イモトアヤコ)が、万智からパワハラまがいのサンドイッチマンを命じられたり、いろいろ努力した果てに、最後に一件、内見のアポを取り付ける。



 
 でも結局すっぽかされて、ショックのあまり屋代課長に「明日は休みます」と告げて一方的に電話を切ってしまう。溜息をつく屋代。



屋 代「三軒屋くん、一杯呑みに行こうか」



万 智「課長は最低です」


 実は最初に第1話を観たとき、万智がいきなり「課長は最低です」と怒り出す意味がもうひとつ分からなかった。でも最終話まで観て分かった。管理職の管理職たるゆえんは人材の管理である。だから屋代は、本来ならまったく仕事のできない部下の白州美加をなんとかしなければいけない。なのに白州を教育しようともせず、退職を勧めもしない。つまり自分の仕事をしていない。だから最低だと言ったのである。



 他方、チーフに就任した万智は、何かにつけて白州美加にハッパをかける。



 そして同時に、微妙に宅間(本多力)と白州美加がコンビを組んで仕事をする方向に仕向けたりもしているように思う。



 万智は基本、一般の顧客に対しては「思い出」を大事にして住宅選びをする。第1話では、前の家からビワの枝を鉢植えにしてもってこさせるし、第3話でははいだしょうこの汚部屋の中身をそっくりそのまま新居に移してみせる。最終話では、こころの思い出のいっぱいつまった「ちちんぷいぷい」を立ち退きしなくても良いように奔走する。でも白州美加に対してだけは真逆。第7話では、思い出だらけの実家を取り壊して、過去のしがらみから「解放されろ」という。何かと逃げ場を探しがちな彼女にとって、実家はいわば人生の究極の退路だが、それを断って前へ進めと背中を押す。
 そして最終話。契約直前で顧客にふられるという、第1話をスケールアップしたような失敗を犯した白州に、万智はとうとう辞職を勧告する。



万 智「白州美加、あなたは会社を辞めなさい」



万 智「今まで何人もの新人に出会いました。しかし白州美加ほど学習能力のない人間はいませんでした」



万 智「あなたは仕事に向かない。自分の足で立つことは不可能です。守ってくれる人を見つけなさい。それが白洲美加の生きる道です」


 この場面だけ取るとなかなかに残酷だが、第1話からずっと観ていると、白州の身の振り方について、万智がいろいろ考えていたことが分かる。どうしても駄目な社員に戦力外通告をすると同時に、その後の身の振りも考えてあげること、これはまさしく管理職の仕事である。しかしその難しい仕事に手をつけようとしなかったから、第1話で「課長は最低です」と言ったんだ。
 だから管理職としては全然だめという判断を下しつつ、営業マンとしての屋代の成績には、実は万智も一目置いていたりする。そういう関係性は理屈でまとめられるものでもないので、エピソードごとのゆるやかな台詞の積み重ねで構成されているのだけれども、そのへんも良かったなぁ。



屋 代「君はすごいな。孤立することを恐れず、誰にも媚びず、堂々と存在している」



屋 代「僕はダメだ。人の顔を気にしている」



万 智「ダメではありません。七年前、テーコー不動産の屋代という人に負けました」



万 智「私が負けたのは課長ただ一人です」



第4話ではこのあと唐突なキスシーンがある。



 この、ドラマの早い回でのキスというのはフェイクである場合が多くて、たとえば『太陽と海の教室』では第2話のラストで山本裕典が唐突に北川景子とキスする(っぽい)描写があったけど(ロングショットなのでハッキリとは映らない)結局その話はそれ以上進まなかったし、この『家売るオンナ』が全体的に下敷きにしている『ハケンの品格』では、第3話のラストで大泉洋が唐突に篠原涼子にキスをするんだけど、これも別に二人の恋愛物語には発展しなかった。そういう意味では、視聴者に「えっ?」と思わせて、後半に興味を引っ張るテクニックみたいなもんだと思うけど、でも「引っかけ」として最後までずーっとうまく使っていたと思う。たとえば、この第4話で、万智が自分の結婚願望を明らかにする。



万 智「課長、私は何がだめなんでしょうか?」



屋 代「強いて言うなら、やや近寄りがたい感じがするかもしれない」



屋 代「もう少し人にやさしくしていみると良いかも」



万 智「やさしくとは?」



屋 代「……むずかしいね……」


けっこう雰囲気は悪くないと思いませんか。で、第8話。ここの台詞も私はかなり好き。



万 智「課長のことは好きです」





万 智「統率力がない。はっきりしない。強い者には弱い」



万 智「長いものには巻かれる。人に気を遣いすぎて何ごとも後手後手だ」



万 智「でも好きです」




万 智「庭野も好きです」




万 智「誠実と言えば聞こえはいいが、馬鹿正直で融通が利かない。一所懸命だが独自の戦略がない。でも好きです」




万 智「ただ課長と庭野が私のことを女として愛していないように、私も男として課長と庭野を見つめることはありません」



 「私も男として課長と庭野を見つめることはありません」と言ってはいるし、別に自分の気持ちに嘘ついているわけでもないんだろうが、こういうやりとりをゆる〜く重ねながら三ヶ月を経て最終回のセリフを聞くと、それなりに二人の間になんか通じるものはあるんだろうなあと思う。
 それにしても、第1話から続いてきた「私が売りました」という台詞が、最後にこういう場面でこういうふうに効いてくるとはね。「これは私の売上です」






万 智「課長、斉藤ビル、売れました」



屋 代「そうか」



屋 代「その契約は、僕の名前でやろう。僕が売ったことにして、僕が責任を取る」



万 智「これは私の売上です」



屋 代「君を辞めさせたくないから言っているんだよ」



万 智「それでも、私の売上です」



屋 代「そうか」



屋 代「君と出会えたおかげで、僕もどこでも働けるって、そう思えるようになった」



屋 代「仲良く二人で辞表を出そうか」



万 智「仲良くとは?」



屋 代「仲良くとは……」


 ま、ほかにも台本について書こうと思ったことは沢山ある。「大学病院」「『あれから○年後』というエンディング」「占い師」などなど、各エピソードにちりばめられた小道具が、最終話で次々に出てくるとか。でもこっちもだんだん力尽きてきたんで、このあたりで。
 あと当然、北川さんのコーディネートやバッグやアクセサリーのお洒落さというのも大きなポイントなのだろうが、すみません私そっちには疎いので、これくらいにさせていただきます。



 ところで次シーズン、このワクで始まるドラマは石原さとみ『地味にスゴイ! 校閲ガール』だそうである。「へーえ出版社の校閲部の話は、家売るオンナ第5話でも出てきたなぁ」と思っていたら、なんとスタッフに『家売るオンナ』から二期連続で小田玲奈プロデューサーの名前が入っている。なるほどなぁ。



 じゃ尻切れトンボですがこういうことで。それにしても楽しい三ヶ月だったね。