実写版『美少女戦士セーラームーン』ファンブログ


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【第482回】新・北川景子『みをつくし料理帖』リターンズの巻(中段)


 「急な話で済まないが、8月30日・31日と、もし空いていたら東京へ出張に行ってくれないだろうか」という控えめなメールがきたのは前日、29日の早朝。しまった!これなら出張の名目でセーラームーンミュージカルの東京千秋楽を観に行けるではないか。なのに別の仕事を入れてしまって断らざるを得ない状況。「ほぞを噬む」とはこういうことを言うのか(涙)。静かに本題に入りたいと思います。

1. 八朔ふたたび



 類似店が起した食中毒騒動の風評被害で、すっかり客足の遠のいた「つる家」。



 今日も客一人来なかったのであろう、澪は夜の厨房でがっくりうなだれている。と、そこへ勝手口の開く音が。又次(高橋一生)である。
 前の登場シーンのところで、ちゃんと説明していなかったかも知れないが、又次は吉原一と謳われる置屋「翁屋」の料理番で、「幻の花魁」あさひ太夫(貫地谷しほり)はこの「翁屋」にいる。又次はときおり、あさひ太夫に懐かしいふるさとの味を食べさせるために、夜遅く「つる家」を訪ね、澪に上方料理を特注して、テイクアウトしている。そんなことが何度か繰り返されるうちに、澪はあさひ太夫が、大阪から売られていった幼なじみの「野江ちゃん」であることに気づいたんですね。




 澪 「又次さん!」



 澪 「野江ちゃんに何か?」
又 次「いやそうじゃねえ……」



 澪 「どうしたんですか、その手」
又 次「触った事のない魚に指を噛まれちまった」



 澪 「これは……」
又 次「鱧の仕業だ」


 澪 「鱧は気ぃが荒うて、噛みついたら相手を食いちぎるまで離れないと言いますから……けど鱧は上方の魚だす。なんで鱧を?」
又 次「実はその事で、あんたに頼みがあるんだ」


 ハモにやられた又次の指に包帯を巻く澪。うらやましいですね、北川さんに手当てしてもらえるなんて。



 しかし高橋一生も、いい感じの大人の役者になったなぁ。まだ三十代前半にしてはちょっとシブ過ぎるかもしれないが。
 そういえば私、原作を読んでいて、最初のうちは又次と澪も、ちょっと怪しい気がしたんだよね。もちろん又次はあさひ太夫一筋なんですけど、私が誤解してしまうくらい、又次は澪の料理人としての腕を高く買い、その人間性を心から信頼している。だから、ちょっと普通なら思いつかない、とんでもない提案をする。なんと女である澪に、吉原まで来てハモを料理しろというのだ。



又 次「あさって、翁屋で鱧料理を作り、上客をもてなしたいんだが、鱧を調理できる料理人がいない」


 澪 「けど、女のうちが吉原に……」



又 次「あさっては八朔だ。女も特別に遊郭に出入りできる。鱧を持ち込んだのはあさひ太夫の客なんだ」



 澪 「あさひ太夫の……」


 八朔(はっさく)というのは八月一日「田の実の節句」だ。八月一日といっても旧暦だから、現在の暦で言うと八月末、ちょうど今ごろの残暑の厳しいおりである。百姓たちはこの日、豊作を祈願し、実り始めた早稲の穂を恩義ある人に送っていたという。それが公家や武家の社会、さらには花街にまで浸透して、お世話になった方に感謝の贈り物をする習慣として定着したものらしい。京都・祗園では今でも八月一日に、舞妓さんや芸妓さんが黒い紋付きを来て、お茶屋や芸事のお師匠さんに挨拶回りをする光景がニュースなどで話題になる。



 江戸では武士たちが白かたびらを身につけ、江戸城に登って将軍にお目見えし、吉原では、遊女が白無垢姿で客を迎えた。この日、吉原は特別に女性たちも入れるので、売店みたいなものも立って、縁日みたいな賑わいだったという。前作で澪が種市たちに連れられて吉原見物に行き、狐面のあさひ太夫と、それと気づかず一瞬の邂逅をはたしたのが、ちょうどこの日のことだった。







 あれからちょうど一年経って、また八朔の日が巡ってきた、という設定ですね。無邪気に吉原見物をしていた澪も、経験を重ねてだいぶ大人になった。又次の話は続く。



又 次「あれから太夫は、ものもほとんど食べず、生きる気力すら無くしちまってる。見かねた上客が、好物の鱧を食べさせようと、生け捕りにした鱧を、上方から船で江戸まで、太夫に食べさせるためだけに運んだんだ」



 澪 「太夫のために生きた鱧を上方から……」



又 次「あんたがさばいた鱧を太夫に食べさせてやっちゃくれまいか。太夫もあんたの料理ならきっと……」



  とは言っても、八朔の日とはいえ、女料理人が吉原に乗り込んで料理を作るなど、前代未聞の事態である。心底あさひ太夫のためを思い、また澪を信頼してこその又次の大決断だ。その心意気に応え、澪も腹をくくって依頼を受ける決意をかためる。




 朝まだき「化け物稲荷」にお参りをして、いざ吉原へ向かう澪。このあたりの呼吸は、「昭和残侠伝」シリーズというか、「必殺仕事人」シリーズというか、「大江戸捜査網」というか、古き良き日本映画やドラマでお馴染み、「巨悪への殴り込み」のクライマックスそのままで、わくわくします。いや、北川景子がハモをさばく出刃包丁を懐に呑んで、きりりと決意の表情で独り大門の前に立つその姿は、むしろ藤純子や梶芽衣子になぞらえたい、と言ったら、ちょっと誉め過ぎかな。








 泣く子も黙る北川景子様のお越しに、吉原の大門も思わず自動ドアみたいに開いて迎え入れる。
 他方、吉原では、すでにこの話をどこで聞きつけたのか、地獄耳の戯作家、清右衛門(片岡鶴太郎)が、すでに翁屋で遊女を戯れながら、澪が来るのを待ちかまえていた。



坂村堂「先生。澪さんが着いたようです」



清右衛門「さあ、面白い事が始まるぞ」


 この清右衛門が立ち会うことで、クライマックスの料理対決がさらに盛り上がってくる。さあいよいよ最終決戦だ。お楽しみはここからですよ。


2. パパ登場


 土間で主が来るのを待っている澪と又次。



 そこへ翁屋の主、伝右衛門がやってきて、二人は頭を下げる。





 一方、二階には清右衛門が腰ぎんちゃくの版元、坂村堂(田口浩正)と遊女たちを引き連れて姿を現し、高見の見物と腰を下ろす。





この観客席のような二階からの視線が、対決ムードを煽るのに一役買っていて、なかなか秀逸な舞台設定だったと思う。



 翁屋の主、伝右衛門を演じているのは本田博太郎。パパである。この『みをつくし料理帖』と並ぶ、北川景子のテレビドラマの代表作『モップガール』(2007年)で、ヒロイン長谷川桃子(北川景子)の父親、長谷川隆冶を演じたのが本田博太郎だ。『モップガール』と『みをつくし料理帖』は、どちらも同じテレビ朝日制作で、どちらも同じ片山修監督参加作品で、どちらもDVDなどソフト化されていない、というように共通点が多い。
 その片山監督の『モップガール』第2話で、桃子のパパ長谷川隆治(本田博太郎)と、桃子の兄、長谷川圭吾(林泰文)が初めて登場する。父は長谷川ウィリアムズ記念総合病院院長で、桃子を早いとこ嫁に片づけたいと思って、見合いとかいろいろさせようとしている。お兄ちゃんもパパの病院の医師で、妹の桃子とはけっこう仲良しだが、いちおうパパの意向にそって動いている。







 桃子は桃子で、パパの言うなりに見合いや結婚する意志など、ハナからない。それに現在の仕事のことも告げていない。なにしろ病院の院長の娘が葬儀会社勤務だなんて知られたら、絶対やめろと言われるだろうからだ。だから職場の仲間と夜に飲みに出たところ、パパとばったり出くわしたりした日には、ともかく一目散に逃げるしかない。同じく片山修監督の『モップガール』第5話より。


  





 これ以降、本田博太郎と北川景子の共演はなかったと思う。7年ぶり。ちなみに2012年の年末にNHK総合「よる☆ドラ」枠で放送された連続ドラマ『恋するハエ女』では、実写版セーラームーンで火野レイのパパを演じた升毅と、『モップガール』の桃子のパパ本田博太郎が、内閣情報室のスタッフとして共演していた。このドラマには泉里香も出演していたのだが、出番が少なすぎて、とても升毅や本田博太郎と共演したとは言えないよなぁ。



 すみません話を戻します。
 しかし本田博太郎は娘との7年ぶりの再会を喜ぶ様子をみじんも見せない(当たり前だ)。それどころか、又次の連れてきた料理人が女だと知った伝右衛門は、みるみる不機嫌になる。



伝右衛門「女か……」



伝右衛門「又次、おまえは上方の料理人を連れてくると言った。だが女とは聞いていない」
又 次「女ではありますが、この澪さんは上方で修業を積んだ料理人です。鱧についても……」



伝右衛門「女が作る料理など、この翁屋で出せる道理がない。引き取ってもらえ」



 澪 「お待ちください!なぜ女の作る料理はいけないのでしょう?」
伝右衛門「女には月の障りがある。そんな手で作られたものなど、銭を払ってまで食いたいとは思えない」
 澪 「料理の味わい、それを口にした時の気持ち。それは料理人が女と知れただけで、消えてしまうものでしょうか?」



伝右衛門「消えてしまうでしょうな」



又 次「この人を帰しちまったら、宴に出す料理はできませんぜ」



伝右衛門「この役立たずが!お前が不甲斐ないばかりにこの騒動だ。今すぐに腕の立つ料理人を探してこい」



 まあ頑固なところは桃子のパパと一緒だね。
 と、その時、聞き覚えのある、あの不遜な声が!


釆 女「それには及びません」



伝右衛門「ああ、これは采女様」


 宿敵、登龍楼の主、釆女宗馬(宅間孝行)が再び登場だ。
 ……というところで本編ではCMが入るわけだが、もうちょっとだけ先へ進んでおこう。



釆 女「この者から鱧料理の事を聞き、うちの板長を連れて参りました。よろしければ調理させますが」
伝右衛門「そういう事だ。あんたには引き取ってもらおう」


 「おい」という伝衛門のかけ声で「翁屋」の若い衆が集まり、「立て」と澪に迫る。
 ふきのスパイ疑惑の件で「登龍楼」に乗り込んだ時もそうだったが、今回も無理矢理つまみ出されそうになる澪。ここにも、抵抗する北川さんを触り放題というおいしい役があったか。



 しかし澪としては、黙って引き下がるわけにはいかない。悔しさもあるけど、ハモの怖さも知っているので、扱う料理人が心配でもある。



 澪 「ですが鱧には扱いに危険が伴うのです。もしその方が、初めて鱧に触るのであれば……」
釆 女「うちの料理人を素人扱いするとは恐れ入った」
 澪 「そうではありません。ただ……」


そのままお払い箱で、この場をつまみ出されそうになる澪。しかしその時、これまで二階席で物見遊山を決め込んでいた戯作者の清右衛門が動き出した。


清右衛門「強情な女だ」






清右衛門「どうだ?その強情な女に、登龍楼板長の腕を見せつけてやっては」



清右衛門「うん?」



 役者はそろった。清右衛門の一声で、澪はその場を追い出されることなく、登龍楼の板前がハモをさばく腕前を見学できることになったのである。だがこの板長が、ハモを見るのは初めてのくせに、一目見るなりウナギやアナゴと同じ、と高をくくってしまったがために、登龍楼はひどい醜態をさらすことになる。
 ……というあたりで字数もだいぶ費やした。今回はこれまで。次回いよいよ最終決戦の決着です。