実写版『美少女戦士セーラームーン』ファンブログ


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【第268回】小松彩夏生誕24周年記念「彩夏祭」特別付録『子ほめ』の巻

 

『夏の恋は虹色に輝く』第2話より、小林星蘭さん。この人は月曜日のドラマでは竹内結子の娘役で、彼女の通う学校には小松彩夏先生がいる。そして土曜日になると『ズームイン・サタデー』のズムサタ行列特捜隊隊長をつとめるが、隊員には安座間美優がいる。つまり小松彩夏の教え子であり安座間美優の上司。とんでもない5歳児である。

1. 奇跡の三日間


いやぁなんだか慌ただしい3日間だったね。しかし充実していたなあ。こんな奇跡、今後も起こるだろうか。起こって欲しいです。実写版セーラームーンの主要キャストが、3日続けてゴールデン、午後9時台のテレビドラマの画面で活躍されたのだ。
まず2010年7月26日(月)新しいフジの月9ドラマ『夏の恋は虹色に輝く』の第2話がオンエア。この第2話から、ヒロインの竹内結子(シングルマザー)の娘が通う学校の先生役で、小松彩夏さんがレギュラー陣に入った。パチパチパチパチ。

まるでぽんたさんと姉妹のようなボブ(推定)の小松彩夏。
ということはともかく、まあ沢村一樹さんとのツーショットは、今後も少なくないことと思う。だから、沢村さんには悪いが、姫のさしあたっての目標は、主役のマツジュンとか竹内結子さんにどこまで接近し、絡んだ芝居ができるか、というポイントにある。

とりあえず末尾近くでワンフレームのなかでの共演を果たすには果たしたが、この距離感ではほとんど他人同士である。『バンビ〜ノ!』いや『僕は妹に恋をする』の時のようにマツジュンに肉薄してはくれないものか。

と言って、これだとちょっと肉薄しすぎか。
で、その翌日、2010年7月27日(火)には、やはりフジテレビ火曜9時のドラマ、堺雅人主演の『ジョーカー 許されざる捜査官』第3話が放送されて、メインゲストとして黄川田将也が登場。どうやら事件の真犯人役のようだが、前半は被害者の婚約者として悲痛な表情で登場。

相変わらず誠実そうだし、とてもタチの悪い犯人には見えない。演技なら立派なものだが、私はそもそも、根っから爽やかで善人っぽすぎるこの人に悪人芝居ができるかどうか、はなはだ懐疑的であった。しかし結論から言えば、後半に本性を現してから、悪びれたり、ふてくされたり、おびえたりしてみせる彼は、なかなかよかったよ。

黄川田君、仮面ライダー1号の仮面の下はけっこう憎々しい悪役ヅラをしているのかも知れません。芸風を広げたな。(と思っていたら、コメント欄でご指摘がありましたのでお詫びと訂正いたします。黄川田さんは『ギラギラ』『怨み屋本舗』『猿ロック』など、悪役ゲストのキャリアも、すでにけっこう豊富でした。ひろみんみんむしさん、毎度の情報提供ありがとうございます。)


そして3日目、2010年7月28日(水)午後9時は、テレビ朝日系で『新・警視庁捜査一課9係season2』の第5話「殺人DJ」がオンエア。裏では小池里奈がレギュラーを務める『ザ・ベストハウス123』をやっていたが、なんたってこっちは我らがプリンセスである。前日の黄川田君は犯人役だったが、沢井さんは被害者の北原明日香役で登場だ。前日の黄川田君は青酸カリを使って邪魔な女を毒殺したが、沢井さんは青酸カリで毒殺された。どういうキャラクターかというと、「ラビット」というペンネームでリクエスト葉書をラジオに投稿している美術学校だかデザイン学校だかの専門学校生である。

一瞬、亜美ちゃんかと思ったよ。でもラビットですよ。このニックネームもウソじゃありません。偶然でもありません。スタッフを見ればすぐに分かる。『新・警視庁捜査一課9係』には東映の丸山真哉プロデューサーが参加しているのだ。
丸山真哉といえば、白倉伸一郎プロデューサーとならぶ実写版セーラームーンの立役者である。この人の実写版セーラームーンに寄せる想いのほどは、メモリアルCDボックス『MOONLIGHT REAL GIRL』(2004年9月22日発売)の分厚いライナーノーツに収録された大量のインタビュー発言から熱く伝わってくる。私なんか、年に2、3度、元気がなくなったときは、このライナーの丸山インタビューを読んで、明日を生きる気力を取り戻すほどである。読まれたことのない方々のためにその一端を紹介しておこう。

「10月からのスタートが正式に決まるタイミングで、『新しい枠を担当してくれ』と上司に言われたんです。何かと思ったら『セーラームーン』だった、という。先輩である白倉が企画の立ち上げからやっていましたので、初期のプロット作りについては、ほとんど白倉が担当していたんですが、その後はずっと一緒にやっています。それ以外は、基本的に別々に動いていますね。スタッフ編成やキャスティングについては、どちらからともなく相談しながら決めていますけど、特に明確な仕事の分担はしていないんですよ。何となく、白倉の方がCGとか、妖魔の造形物とかのチェックをやって、僕が役者さん関連の仕事や音楽面などを担当するような感じに、自然になっていったんです」
「『美少女戦士セーラームーン』という作品は、結果として、すごく贅沢な作品になりましたね。それは、数字(視聴率)的には合格点までいかなかった部分はありますが、主役の5人がいて、彼女たちが必死で演じているこの世界というのを、周りのスタッフが、大島(ミチル)さんとか、CGを担当されている方々のような、現場にいない人たちも含めて、応援していこう、っていう流れができたと思うんです。ふつうならここまでしかやらない、という仕事でも、彼女たちのためなら、みたいな感じで、少しずつ仕事という範囲を超えて、スタッフそれぞれが力を注いでいる。それは例えば白倉プロデューサーや田崎監督が頼んだりすることで瞬間、瞬間はみんな動くかもしれないですけど、1年間という長いスパンでスタッフをそうさせているのは、彼女たちが魅力的で輝いているからだと思いますね。そのことがスタッフを動かして、そしてさらにそのスタッフのがんばりに彼女たちが応えて、という。こういうことは、そんなにあることじゃないんですよ。よく、『スタッフ・キャストが一丸となって』という言葉が使われますけど、文字通り一丸となっている。この作品に携わった人たちが、口をそろえて『タイヘンだったけど、やれてよかった』って言ってくれるパワーみたいなものの源は、沢井美優をはじめとするセーラー戦士たちの魅力なんですよ。番組を作っている側としては、本当に理想的な形だったと思います」(丸山真哉インタビュー:『MOONLIGHT REAL GIRL』ライナーノーツより)



丸山プロデューサーはそもそも義理人情の人で(推定)かつて関わりをもった俳優を自分の作品に呼ぶことが多い。たとえば実写版セーラームーンのAct.7で、カメ仲間の高井君役に『燃えろ!ロボコン』の三嶋啓介を起用したのも、丸山プロデューサーと考えて間違いないと思う。
だから刑事ドラマなどを手がけるときにも、戦隊やライダーなどで一緒に仕事をした経験のある俳優を頻繁にゲストに招いている。そんな彼が、とくに愛着の深いセーラームーンの役者たちを呼ばないわけがない。
この警視庁捜査一課9係シリーズで、いまのところ気がついた限りを列挙すると、第1シーズン(2006年)にネフ吉こと松本博之(第7話)、第2シーズン(2007年)に亜美ママの筒井真理子(第3話)、第3シーズン(2008年)に小池里奈(第1話)とゾイサイトの遠藤嘉人(第6話)、第4シーズン(2009年)に黄川田将也(第5話)、そして今年6月から放送中の第5シーズンには美奈子の事務所社長の池田成志(第2話)と、そして今回のプリンセス沢井美優(第5話)と、これで7人である。毎シーズンごとに、実写版出演経験を持つ役者が、必ず一人か二人はゲストとして呼ばれているのである。(なおクンツァイト窪寺昭も第1シーズン第6話に出演との情報を、下のコメント欄でいただきました。ひろみんみんむしさん、またまたありがとうございます。)今後も、渋江譲二とか小松彩夏の出演が期待されます。
丸山プロデューサーは以前『女刑事みずき〜京都洛西署物語〜』 (2005年、テレビ朝日)を手がけたときにも、第1話で沢井美優を出演させている。それ以来の起用である。もうホントに偉大なプロデューサーだと思う。

それにしても今回のラビットは眼鏡が亜美ちゃんみたいだ。

2.「子ほめ」の謎



さて本日の内容は、小松彩夏生誕24周年企画「彩夏祭」(埼玉県朝霞市のみなさんに自信をもっていただくと同時に小松彩夏を応援してもらいたくて、こういう名前が唐突についた)のオマケ企画である。前回もほんの少し紹介したように、桂ざこば還暦記念のテレビドラマ『子ほめ』のDVDを注文していたんだけど、ちょうど届いたんでその話題です。
まずざっとアウトラインを述べておくと、これは3年ほど前の年末(2007年12月08日)二代目桂ざこば師匠の芸歴45周年と還暦を祝って制作され、関西テレビでオンエアしたドラマ『子ほめ』全編と、桂ざこばが大阪市北区にある天満天神繁昌亭で口演した落語『子ほめ』(2008年7月10日収録、20分ほど)をカップリング収録したDVDビデオで、同じタイトルのドラマと落語がいっぺんに楽しめちゃうという、ざこばマニア(いるのか?)にはたまらないアイテムです。
このドラマの方に小松彩夏さんが出演していらっしゃって、妊婦役なのですがそれはそれは大変にお美しい。お美しいので、その画像と共にドラマ篇をご紹介しようという、そういう趣旨です。

……のはずだったのですが、コメント欄でやりとりしているうちに、いくつか疑問が生じたのである。このDVDには確かに、テレビドラマ「子ほめ」と古典落語「子ほめ」のふたつが収録されているのだが、このドラマの「子ほめ」は、実はタイトルに反して、落語の「子ほめ」をそのままドラマ化したものではない。
『子ほめ』は、人におべんちゃらを使ってタダ酒にありつく方法をご隠居から教わったアホな男(東京版では八五郎)が、それを実践しようとするが、お世辞のつもりで相手の気を悪くするようなことばかりいって失敗する、という単純明快な内容で、笑いも多いので、今日では前座によって口演される機会が多い。これを90分ドラマに仕立てるのはちょっと難しい。
私は以前このドラマを観ているのだけれど、その時は、呑んだくれの主人公(ざこば)に愛想をつかした妻(かとうかずこ)が一人息子を連れて出て行く、というくだりや、その数年後、真面目になったざこばが息子とばったり再会したときのやり取りの様子が、『子別れ』という(『子ほめ』とはまったく別の)古典落語にそっくりなのをよく憶えていて、なんとなく『子別れ』を原作にしたドラマ、というように記憶していた。

実際、Wikipediaにも「子ほめ (テレビドラマ)」という項目があって「古典落語『子は鎹』の忠実なドラマ化」と解説されている。『子は鎹(かすがい)』というのは『子別れ』の別名で、関西ではそっちの題名で呼ばれることの方が多いようだ。
しかし、DVDを観おわった結論から言うと、これも正しくない。確かに『子は鎹』(『子別れ』)の設定を一部流用してはいるが、とても「忠実なドラマ化」なんてもんじゃないわけです。
というわけで、(1)「じゃあこのドラマは結局、何なのか?」(2)「なぜタイトルが『子ほめ』なのか?」(3)「このDVDに収録されている落語の口演は、本当に古典の『子ほめ』なのか?」という、おおむね三つの疑問が生じるわけですね。ごくごく一部の方が、「どうせここまで議論したなら、DVDの現物を確認してすっきりして欲しい」と思っているこれらの問題を、ようがす、それなら私が身銭を切ってスッキリ解決させやしょう、というのが今回の記事の狙いでもあります(小松彩夏の誕生日はどこへ行ったんだか)。
じゃ本題だ。……ってここまでがマクラだったのかよ。ガシュン!!(でもマクラがねちねちと長くて、本編はサクッと終わる噺のパターンてのも、あるよね。)

3. ドラマのあらすじ

 



さてこのドラマ、どういうあらすじかというと、落ちぶれた落語家と、母親に捨てられた少女が、大阪から和歌山までヒッチハイクするというプチ・ロード・ムービーである。って、もうこの時点で、『子ほめ』とも『子は鎹』とも関係なくなっちゃうわけだが。
ざこば演じる桂家朝丸(「かつらや・あさまる」と読む。笑っちゃうけどドラマのなかの役名ですから)は、かつては師匠からも後継者と目をかけられていたほど実力のある落語家なんだけれど、酒→バクチ→サラ金→ヤクザの取り立て→師匠の通帳を持ち出す→破門という、絵に描いたような転落の人生をたどり、すっかり落ちぶれている。
いまでもたまに出演依頼を受けて、地方の落語会に出向くことはあるが、そんなときでさえ、自分の出番が終わると、一緒に出演した弟分のギャラまで騙し取って姿をくらます始末。ほかにも香典泥棒や、詐欺まがいのテキ屋商売の常習犯で、留置所にぶち込まれたことも一度や二度ではない。お話は、彼が何度目かの拘置生活から釈放されて、深夜の列車のなかで酔いつぶれ、爆睡しているところから始まる。

同じ車両で、同じようにぐっすり寝込んでいるのが、ヒロインの少女、藤本ナツ(樽本真生夏)である。ナツは母親に「一緒にお母ちゃんの故郷の、南紀勝浦港のライオン岩(というものが本当にあるらしい)を見に行こう」と言われて電車に乗ったんだけど、夜も遅いし寝てしまって、それを待っていた母親に置き去りにされてしまった。
詳しい事情は分からないが、この母親にはお金持ちの男と一緒になる話があって、そのためには連れ子のナツが邪魔らしい。ぐっすり眠ったナツのリュックに「この子をお願いします」という置き手紙を入れ、さんざん迷ったあげく、別れ際に愛娘の頭を撫ぜ、発車まぎわの電車を降りる。こうして深夜列車の車両には、酔いつぶれた落語家くずれと、疲れて寝入った無垢な少女の二人が取り残される。

でまあ、結局ざこば、ではなくて桂家朝丸がこの少女を引き取り、ご飯を食べさせてやって、和歌山まで連れて行ってやろうと申し出る。きっと「ライオン岩」でお母ちゃんは待ってるで、なんて善人になったみたいだけど、ほんとうは朝丸は、この子はきっと金持ちのお嬢さんだろうと踏んでいて、ここで身元を引き取ったのがもっけの幸いと、狂言誘拐の一幕を演じて、身代金をせしめようという魂胆なのである。
それでナツのリュックに入っていた携帯電話を使って母親に脅迫電話を掛けるんだけど、当然ながら母親は出ない。流れてくるのは留守を伝えるアナウンスばかり。
仕方なく、留守電メッセージに「娘を帰して欲しかったら300万円持ってライオン岩へ来い」と、せいぜい凄んで吹き込む。で、これで母親にメッセージは届いたはずだし、母親がこれを聞ければきっと「ライオン岩」まで会いに来てくれるだろう、ということで、そこに行けばお母ちゃんに会えると信じる無垢な少女と、身代金目当ての落語家の二人は和歌山を目指す。
めざすのだが、電車で行くほどの金がない。仕方がないのでヒッチハイクだ。しかしそう簡単に停まってくれる車はない。

ここで、たまたま車がパンクしてしまったために、二人の奇妙なヒッチハイカーを乗せる羽目になったのが、徹郎(森本亮治)と由美(小松彩夏)の「出来ちゃったカップル」である。徹郎は売れないミュージシャン、というか、いまはストリートライブが唯一の表現の場なので、厳密に言えばプロですらない。由美はそんな徹郎のファンだったんだけど、やがて同棲するようになり、そして徹郎の子供を妊娠する。定収入もないのに子持ちだなんて、もうちょっと計画性を持てよ、とも思うが、こんなに可愛い小松彩夏が相手では、あとさき考えず妊娠させちゃっても仕方ないか、とも思う。

ともかくそんなわけで、森本亮治と小松彩夏のカップルは、和歌山にある小松彩夏の実家へ行って、妊娠の報告と結婚の許可を得ようとしているのだ。その道中で、ヒッチハイカーの変なおっさんと少女を拾っちゃったわけだね。
話を聞けば、おっさんの方はいちおう落語家だという。少女の方はおっさんを信頼しきっていて、しかも実は、リュックに『寿限無』の絵本を入れているほどの落語好きだ。だからざこばのおっちゃんは道中、面白がって口立てで少女にネタを仕込む。すると意外と筋が良くて呑み込みが早い。
四人は和歌山に着いたが金もない。森本亮治は小松彩夏の両親の元に挨拶に行くが、小松彩夏を奪われて叩き出される。当然ですね。私だって、とつぜん帰省した娘のお腹が大きくてストリートミュージシャンの男を連れて来たら、とりあえず娘を奪い返し、男は叩き出すよなあ。手許に猟銃があれば撃っちゃうかも知れない。

とりあえず近くに宿をとったが金もない。どうしようと思案するざこばと森本亮治だったが、旅館の女将がそんな二人に相談をもちかける。地元の神社で開催される、奉納秋祭りの演芸大会に出るはずだった落語家が急病で欠員ができた。こんなおりに落語家のお客さんがうちに泊まってるのも何かの縁。ぜひピンチヒッターとして高座をつとめてくれ、つとめてくれれば、ここの宿賃と飲み食いはタダにするから、という、こちらとしてはまことにありがたいお話。
そこで朝丸は当日『子は鎹』を演じ、ついでに徹郎もギター弾き語りで歌を披露する。どちらもやんやの喝采。さらに朝丸は、試みに少女ナツも高座に上げて「寿限無」を演らせてみせる。するとこれが受けるのである。少女落語家の誕生だ。
そんなこんなで、次第に少女ナツへの情が移り、もう身代金をせしめようなどという気持ちもすっかり失せた朝丸だったが、すでに警察には幼女誘拐の容疑で彼の指名手配状が廻っていた。

4. なぜ『子ほめ』か



以上のように、ドラマ『子ほめ』は、なんか松竹的なテイストの人情喜劇で(そういえばざこばの師匠役に松竹新喜劇出身の重鎮、小島秀哉が配されていた)メイン・ストーリーは古典落語の『子ほめ』とも『子は鎹』とも直接関係しない。ただ、そこにいろいろな古典落語ネタを絡めてあって、その中にこの二作が含まれているのだ。
ざこばは冒頭の田辺寄席(大阪で行われている上方落語の地域寄席)と、後半の秋祭り演芸会のシーンで『子は鎹』を演じるが、中盤では、しゃべっている途中で絶句してしまう。噺の内容が、あまりにも自分自身と重なって、感きわまってしまうのである。
このドラマのなかの朝丸は、噺家としての腕は確かだが、酒癖がひどく悪くて、そのせいで妻の節子(かとうかずこ)と息子の寅之助(松田悠希)に逃げられた過去を持っている。しかし女房子供に逃げられてからは目を覚まし、心を入れ替えて仕事に精進するようになる。このあたりは、ほぼ『子は鎹』をそのままなぞっている。

朝丸はそれから数年後、ひとまわり大きくなった息子とばったり出会う。で、通天閣の見える喫茶店に息子を連れて行き、パフェなんぞを食べさせて、別れた女房の消息を聞き出したりする。で、かとうかずこがまだ再婚していないことを知ってほっとするのである。このへんの会話も、まんま『子は鎹』から採られている。
ただ落語の方では、この息子との再会がきっかけで、夫婦はよりを戻し、元の鞘に収まることになるのだが、ドラマでは、直後に妻と息子は信号無視のトラックにはねられて死んでしまう。それで朝丸は再び酒に溺れ、かつて以上に荒んだ生活のなかで、バクチと借金に沈んでいくのである。
一方、ドラマのタイトルにもなった演目『子ほめ』の方は、私の気づいた限りでは、2回ほど出てきた。1回目は、朝丸がナツの持っている携帯電話を使って、誘拐犯を装って脅迫電話をかける場面。留守番電話なのだが、朝丸はこんなふうに切り出す「あ、もしもし、ええ娘はん持ってはりまんな。しっかりしたはりまんがな。どうみても十二、三に見えます」これは『子ほめ』に出てくるセリフそのまんまの引用である。

もう1回はラストシーン、10年後のナツが高座にかけるネタとして登場する。ナツは和歌山の秋祭りで、朝丸に教わった『寿限無』を演じて喝采を浴びたことがきっかけとなり、やがて落語家への道を歩みだす。そして女落語家「桂家朝実」(赤松悠実)として芸術劇場新人奨励賞を受賞するまでに成長する。ドラマのラストは、その記念の高座でナツが『子ほめ』を演じ、ざこばや森本亮治や小松彩夏が客席でそれを温かく見守る、という場面で終わる。
というふうに、基本となるお話はオリジナルなのだが、そこに『子は鎹』『子ほめ』『寿限無』などなどから、落語ファンなら「あ、これはアレが元ネタだな」と分かるように、エピソードやセリフを引用したり埋め込んだりしているのが、この『子ほめ』というドラマである。
なかでも『子は鎹』からの引用が目立ったのは、これが実際のざこばの十八番として定評のあるネタだからだろう。主人公のキャラクター設定も、この『子は鎹』を下敷きにしていて、うまくドラマと融合している。しかし『子ほめ』の方の引用は何だか唐突である。もともと『子ほめ』というタイトルが先に決まっていたので、あとから無理して原典のセリフをはめ込んだり、高座にかける場面を書き足したような印象が強い。
ではそこまでしてなぜ、このドラマを『子ほめ』というタイトルにしたのか。
これはドラマを見ていただけでは分からない。私も、何故だろうなあ、と首をかしげていたのだが、特典映像として収められた3分ほどの桂ざこばインタビューを見て、ようやく合点がいった。これは、このDVDに収録されているもうひとつのコンテンツ、天満天神繁昌亭で口演された落語の『子ほめ』に対する、演者自身による解説、みたいなものとして収録されたものだが、ざこば師匠はこんな風に語っていらっしゃいます。

 『子ほめ』ちうのはね、今から45年前、桂米朝に一番最初に(稽古を)つけていただいたネタなんですわ。
 だいたいうちの一門は、米朝からはこの『子ほめ』を一番最初に習うんです。で、僕も、うちに来たお弟子さんには『子ほめ』を教えるんです。
 うちの師匠に最初に教わったのは、長いバージョン、言うたらおかしいけど、まるまるびちっと習うたんです。せやけど(弟子に教える時は)前座が20何分も出来ないんで、すぐ出来るようにカットして、15分くらいのもんを教えるんです。で「これ抜いたら10分になるで」というのを教えて……。20何分のもんを教えんのは時間もかかるし、すぐ舞台では出来ないんで、もう短いバージョンで最初から教えるんです。
 今回はまあ長いバージョン言うのもおかしいけど、そっくり、これがうちの師匠から習うた『子ほめ』や、ちうのをね、出来がどうのこうのやなく、これだけの長さ、こんなもんが入っているという……人がせんような、珍しい部分が案外入ってます、うちの『子ほめ』は。
 45年ほど前に習うて、それから長いことやってないんです。お弟子さんに教えると、お弟子さんが『子ほめ』するさかい、僕はもうぜんぜんしないんです。長いことしてない思いますわ。これ、何10年ぶりぐらいにやったんちゃうかな。

なるほどね。

実際、近年のざこば師匠は、これまでのつきあいがあるレギュラー番組は相変わらず続けているようだが、それ以外はメディアへの露出を控え、本業の落語に専念する方向で仕事を整理しているようだ。その落語への情熱の本気ぶりは、昨年秋、私財を投じて、新世界に「動楽亭」という常打ちの寄席をオープンさせた事実からも知られる。
つまりざこばとしては、還暦を機に初心に戻って、一から落語家として出直す決意を新たにしたのだと思う。それで、かつて初めておぼえたネタ『子ほめ』を記念番組の表題に掲げ、自らの原点を再確認したのだろう。たぶんこのタイトルには、そういう意味がこめられている。
というわけで、落語の『子ほめ』の方は、変な言い方になるが、純正ピュアな米朝直伝の『子ほめ』である。実はざこば師匠の高座を拝見するのは久しぶりなのだが、20分ほどの噺の間、相変わらず何度も吃るし詰まるし言い間違えるので笑ってしまった。でもそんなハンデを越えてこちらをぐいぐいと噺の世界に引っ張り込むパワーは、還暦過ぎてもまだまだ健在、いやますます盛んである。
しかしアレだな、この人、米朝門下と言うが、あの洗練と流麗の極地みたいな米朝師匠が、こういう、自分とはまったく異なる資質の噺家をよくぞ上手に育て、その才能を開花させたものである。っていつのまにか米朝を誉めているが。
じゃ、今回はこんなところで。しつこいようだがこのドラマの小松彩夏はホントに綺麗だな。




子ほめ ドラマ×ラクゴ [DVD]

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作品データ】『桂ざこば 芸歴45周年&還暦記念 子ほめ』制作著作:KTV(関西テレビ)/制作協力:東通企画/制作:宮沢一道/2007年12月08日14:25〜15:55放送


スタッフ>チーフプロデューサー:谷口俊哉/プロデューサー:木村弥寿彦/AP:大城哲也/脚本:戸田学、木村弥寿彦/演出:木村弥寿彦/演出補:小河久史、萩原崇/記録:桝形知子/編成:金谷卓也/音楽:はじめにきよし/挿入歌:森本亮治「Love」「頑張れ」(作詞・作曲:森本亮治)/効果:萩隆之/撮影技術:横山和明、青木弘/VE:高橋辰夫/音声:宮島雅俊/照明:金子宗央/編集:矢島数馬/技術協力:ウエストワン、大阪共立、ロケット、一光、東通、関西ロケーションサービス/デザイン:嶋田良一/美術製作:岡崎忠司/装飾:田村正之、萬浪隆史/装身具:筒井由佳/衣裳:盛安とこ/メイク:野村雅美/タイトル:広田真吾/電飾・特殊効果:中井高浩/劇用車:ショーカープロ・オノ/宣伝:梅垣陽介


キャスト>桂家朝丸:桂ざこば/藤本ナツ:樽本真生夏/桂家朝実(10年後のナツ):赤松悠実/鈴木徹郎:森本亮治/由美:小松彩夏/節子(朝丸の妻):かとうかず子(友情出演)/大師匠:桂米朝/桂家麦朝:小島秀哉/金魚屋のおじさん:喜味こいし/桂家雁雀:ぼんちおさむ/警官:烏川耕一/寅之助(朝丸の息子):松田悠希/警官:桂都丸/森下じんせい/北見唯一/小笠原町子/林英世/藤吉美加/山崎千恵子/山本香織/茶谷良明/柳川昌和/西野 英秋/小松健悦/佐藤浩/キャストプラン、劇団東俳、N・A・C、大阪ダンス&アクターズ専門学校、クラブカンテーレの皆さん/協力:米朝事務所