実写版『美少女戦士セーラームーン』ファンブログ


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【第37回】どうすればいいのかの巻(Act.23)

 「地域限定の再放送を観ることができない方々のために、臨場感のおすそ分けを」という思いつきで始めたこの日記だが、回を追うごとにどんどん長くなっていった。CMとか番組周辺の話ばかりでもしょうがないので、少し内容のことも書いてみようと思い立ったのが原因である。
 私としては、いまもなお実写版セーラームーンを愛している方々に対する、遅ればせながらの挨拶のつもりであり、さっくりお読みいただき「ふうん、久しぶりにビデオ観ようか」などと思っていただけたなら、これに勝る喜びはないのだが 、現状ではとてもさっくり読めるようなシロモノではない。
 それでもアクセスカウンターがそれなりの数を刻むのは「こいつ今どき実写版のオンエア感想を書いてやがる」という物珍しさとノスタルジーによるところが大きいのだろう。しかしそういうご厚意にいつまでも甘えているわけにはいかない。もうちょっと工夫をして、コンパクトで読みやすいものにしなくては、とは思っているのだが、毎回いざ書き始めると夢中になってしまうのです。
 そこで目をつけたのが最近の『青いおもちゃ箱』だ。そうか箇条書きか。ごたごた書かずに鑑賞ポイントと手短な感想だけを並べる。それはいいかもな。胃もたれしないし(笑)。よし、ちょっと真似してみよう。というわけで今回は箇条書きレビューだ。

  • Act.23、9月27日深夜2時40分再放送。
  • 今夜のメインスポンサーはコーワ。バンテリンとかコルゲンとか合わせて5回くらい。
  • あとはCBCの自社番宣を中心に、氷川きよしが赤い服で手を広げて赤十字のマークになるCMとか。
  • 新キッズ・ウォー2のDVDボックスが出るらしいが、別に沢井美優は出ていない(当たり前だ)。
  • そんなことより本編だ。佐藤健光監督、早くも二巡目の登板である。
  • やっぱりこの監督は、距離感や目線を利用した演出がうまい。たとえばダークキングダムのシーン。
  • 距離感でいえば、ベリルに向かって並ぶ三人のアップ。手前がジェダイト、真ん中ネフライト、一番向こうにクンツァイト。これがベリルと三人の心理的な距離である。
  • 目線の演出でいえば、失敗続きのネフライトがジェダイトとクンツァイトに挟まれ、両側から冷たい視線を浴びる構図になって、これでネフライトの焦りと孤立がますますきわだつ。
  • 一方クラウンでは、戦士の力をもっとパワーアップして、亜美を取り戻そうと話し合うルナと三人。
  • 三人とも制服姿なのが新鮮である。ここのところ私服が多かった。
  • 私服が多かったのは、最近みんなが勝手に行動していたことの象徴。逆に制服姿は、亜美ちゃんから得た教訓で、みんな学校帰りに定期集合するようになったことを示している。
  • うさぎの表情はやや大人びて、前回のラストで戦士として成長したことを表現している。
  • レイの「私たちもうさぎみたいに、自分たちの力に目ざめないといけないわけね」というセリフと共に、まずうさぎのアップ、次がレイ、というカメラワークで、今回はうさぎとレイが主役であることを暗示する。
  • なのでまことは今回、出番はここだけ。わずか2カットである。少な過ぎないか?
  • 火川神社に帰ってきたレイは、病気が治って退院のお礼参りに来たナナちゃん母娘と会う。「よかったね〜」という北川景子が珍しく関西なまりなのと、その背景を横切る猫の謎は有名だが、私はこの猫は偶然、画面に入ってしまったという意見に一票。
  • ナナちゃんとの会話で、美奈子が南十番総合病院によく来ているらしいことを知ったレイは、不審に思って美奈子に会いに行く。入院中の子どもたちのために歌っていた美奈子は、見守るレイの視線に気づき、彼女を事務所の新人タレント「マーズれい子」に仕立て、ミニライブをさせるイタズラを思いつく。
  • 自分がアイドルの卵と紹介されたことを知って驚き、美奈子を問いつめるレイ。この対話シーンは、Act.11と同様に佐藤監督の演出が冴える。レイ「どういうこと?私がタレントだなんて」美奈子「私のことは追わない約束でしょ」レイ「あなたが毎月ここへ来てるって聞いたから、何かあるのかと思って…」美奈子「健康診断のついでに、入院している子どもたちをはげましてるの」ここまでは至近距離で向き合う二人。
  • それを聞いてレイは「毎月?」と疑惑のまなざし。毎月?なんで毎月、病院に通わなきゃいけないの?美奈子は「体調管理のためよ」とさりげなく逃げるが、カンの鋭いレイに病気のことを気づかれそうだ、と少々あせる。だから視線をレイから外して、背後に回り込みながら、話題を変えて挑発する「それより、セーラームーンが最初にめざめるなんて、意外だったわね。あなたが先だと思っていたのに」。そして斜め後ろから、レイがどんな反応を示すか、様子を伺うのである。
  • 案の定、痛いところをつかれたレイは、美奈子の視線をまともに受け止められないまま「リーダーになるはずなのに、情けないって言いたいんでしょ」と自虐的に答える。そしてすかさず美奈子に「そうね」と突っ込まれてさらにヘコむ。いつも反抗的なレイを、やり込めることができて、美奈子はしてやったりだ。内心(とったど〜!)と思いながら、いつものように睨み返してさえこないレイを余裕をもって見やり、さらに追い打ちをかける。「力がめざめるには、心の問題も大きいけど。リーダーとして何か欠けてるんじゃないの?」気の強い美少女同士の意地の張り合い、ここは文句なしに美奈子の勝ちだ。
  • このシークエンスには佐藤監督の長所も短所も出ているように感じる。先に短所から言うと、佐藤監督は、セリフやリアクションの演出・指導が、実はかなり甘い。レイの関西弁の「よかったね〜」をNGにしなかったのはそのいい例だし、ここで「毎月?」と尋ねるレイのセリフは、本当はもう少し「美奈子は何かを隠している」という疑惑をにじませたものでなくてはならない。それにそう問われた美奈子も内心ではレイのカンの鋭さに動揺していることが、視聴者に伝わらなければならない。なにしろこの会話は、Act.36で美奈子がレイだけに病気を告白するための伏線となるのだ。
  • そういうふうに見ていくと、この二人の演技はまだけっこう危なっかしいし、それを補うべくセリフや表情のきめ細かい演技指導がなされているかといえば、残念ながらそうとも言えない。にもかかわらず、全体を通してそれらの欠点がさほど気にならないのは、美奈子の立ち位置の変化や、動きと連動する二人の視線の交差やすれ違いが的確に演出されているからだ。感情の動きや表情の作り方を通してではなく、動きを与えることで、北川景子と小松彩夏が芝居をしやすいようにサポートしているのである。やはりこの監督の持ち味は、目線と位置関係の作劇術にある。
  • で、そんなレイに看護婦が声をかける。入院中の子どもたちも一緒だ。「あのー、美奈子さんから聞いたんですけれども。午後からマーズれい子さんがミニライブをしてくださるって。子どもたち大喜びです」びっくり仰天のレイは、大あわてで美奈子を物陰に連れ去ると「ちょっと、どういうことよ」と詰め寄る。しかし、その勢いに多少おされながらも「だから罰よ」とやり返す美奈子。罰とは何か。「私のことは追わず、自分の力で思い出せ」と忠告したのに、その命令にしたがわず、私を頼ってここへ来たことへの罰、なんだろうな。しかしコワイぞ。Act.12の冒頭もそうだったが、さっきから美奈子、あんたはレイを叱るときにはどうしてそういうコワイ目をするんだ。そして「じゃ私は検診があるから。がんばってね、マーズれい子さん」と去っていく。わざわざ「検診があるから」なんて言って、もうレイにはその言葉の意味を考える心のゆとりもないことを見越しての、美奈子の余裕のセリフである。しかしそこまで嘲弄されるとレイも意地だ。だから「やるわよ、何よ、ライブぐらい」と、即座にクラウンに行く。


 だっだめだ。いつの間にか箇条書きではなくなっている。やはり人には向き不向きというものがある。仕方ない。後半は、各戦士ごとに今回のエピソードにおける動向をまとめてみよう。まずはうさぎから。

1. うさぎ


 今回のうさぎは、最初のクラウンのシーンから何かぼんやりした表情で、いつになく大人しく、控え目なたたずまいである。いつものうさぎを満月の輝きにたとえるなら、今回はおぼろ月夜。まあ衛との恋愛問題やダークマーキュリーのことなど悩みごとが多いし、それに戦士の力にめざめてレイからも一目置かれている立場なのだから、いつもの脳天気路線をおさえるのは間違っていないと思う。ただそれが「うさぎもようやく戦士らしく落ち着いてきたなあ」とか「大人らしい魅力が身についてきたな」という印象で一貫していればいいのだが、ところどころ単に「なんか今日は地味だな」「つまんなそうな顔しているな」と思えてしまうのは、ちょっと残念だ。これは演出の問題である。
 とはいえ、美奈子を見返すために「マーズれい子」として歌う決意をしたレイが、結局カラオケの装置もまともに扱えず、うさぎに助けを求めるあたりからは、周囲の人間にポジティブなパワーを与えるうさぎの魅力が笑顔と共に輝きだす。注目すべきは、今回のエピソードで初めて、うさぎが仲間の戦士のために「役立つ」というところにある。ある意味で今回の最大の事件はこれなのだ。
 いままでうさぎは仲間の戦士、とくにまこととレイには世話になりっぱなしだった。レイは同学年なんだけどうさぎの「お姉さん」で、亜美とうさぎの心理的トラブルなんか、この姉さんがいなかったらどうなっていたか分からない。でも、逆にうさぎが彼女たちに何か「お返し」をしたこと、仲間の役に立ったことって一度もなかった。それが初めて、ずっとお世話になっていたレイちゃんへの、ささやかな恩返しをするのである。
 そして、そういうことが出来るようになったのは、やはり前回のラストで、ほんの少し銀水晶の力を発揮して、戦士の力にめざめたことと関係があるのだろう。前回うさぎは、亜美の気持ちを顧みずにいた自分への反省を通して、いまいちばん大事なことは、戦いの使命とかそういうことよりも、一緒にいる仲間との信頼関係であることを学んだ。だから前回、そして今回のラストで、うさぎは「プリンセス」セーラーヴィーナスのことを、あまり気にしていない。
 妖魔との戦いの後、去っていくヴィーナス。その後ろ姿を「プリンセス」とつぶやきながら見送るマーズ。でもセーラームーンの視線は基本的にマーズの方を向いたままだ。「レイちゃん、やったね」。戦いは終わったし、三人の気持ちは和やかに通じ合っているのだから、いまならヴィーナスを引き留めて「どうして一緒に戦わないの?」とか「どうしてタキシード仮面に近づいてはいけないの?」とか、そんな疑問を少しは問いかけることもできそうな雰囲気なのだ。でもセーラームーンは、ここではそれはさほど重要ではないと思っている。「プリンセス」は彼女なりの事情があって単独行動をしているのだろう。それよりも、いま私がしなければいけないのは、身近にいる仲間の戦士を大切にすることなんだ。亜美ちゃんがそう教えてくれた。プリンセスのことよりも、レイちゃん、まこちゃんと気持ちをひとつにして、亜美ちゃんを取り戻さなくちゃいけない。それが大事。
 まあそういうことで、まだまだ謎だらけのヴィーナスを放っておいて「レイちゃん」に歩み寄るセーラームーンが私は大好きで、これが彼女の今回一番の見せ場、それでこそうさぎだと思う。

2. 美奈子


 で、その去っていく美奈子であるが、前々回のレビューで私は「ヴィーナスはやることなすことハズしまくりである」というようなことを書いた。セーラームーンとタキシード仮面を遠ざけようとしているのに二人はくっついちゃうし、自分がオトリになって妖魔からセーラームーンを守ろうと思っているのに、結局ほとんど毎回セーラームーンを巻き込んでしまうし。で前回は、個人的な感情は捨ててマーキュリーを倒せ、とゲキを飛ばしたのだが、むしろ「亜美ちゃんとは戦わない」と宣言したうさぎの態度の方が、結果的には賢明であることが、最後に明らかになってしまった。
 そう考えると、今回は、初めて美奈子の立てた計画がうまくいったケースであるようにも思える。マーズれい子として歌うハメになり、困ってしまったレイに、美奈子は「リーダーの力で、みんなに協力してもらえば?」と言う。そして最後にレイが、うさぎの協力でコンサートを成功させ、戦士としての力にもめざめると、ヴィーナスは「欠けていた何かが見つかったみたいね」と言う。だから、もともと美奈子は、マーズを戦士として目ざめさせるために「マーズれい子のコンサート」を企画したのだ、というように見えなくもない。
 う〜ん、でもそれはどうかなあ。だって「マーズれい子のミニライブ」という話に真剣にアセりまくっているレイを見る美奈子はほんとうに楽しそうだ。Act.18でレイに「あなたを守るのが使命だって聞いていたけど、お守りだっていうのは聞いてなかったし」とキツイことを言われて「本気でムカついた」美奈子の、単なる仕返しとしか思えないですよコレ。実際、そのあと検診を受けている合間に、美奈子は「ちょっと、いじめすぎたかな」とつぶやいて、アルテミスから「まったく、君は…」とあきれられているのである。このセリフを聞く限り、マーズれい子ライブは、レイを困らせようと思ってやったこと以外のなにものでもないように思えるのだ。
 だから、美奈子はもともと、本当にただの「罰」としてレイに歌わせることを思いついたに過ぎず、しかし結果的にはそれがきっかけでマーズが力にめざめたのを見て、ね、だから私はあんなことをあなたにやらせようとしたのよ、と、後からつじつま合わせというか、「すべてお見通しだった」フリをしただけなんじゃないかな、とも思えるのだ。
 まあ、百歩譲って、もしこれが美奈子の計画どおりだったとしても、やっぱりちょっとズサンな計画である。つまりですね、今回の美奈子の考えには、うさぎが計算に入っていない。
 レイがクラウンから電話(テレティア)でうさぎに助けを求めたとき、具体的にどういうふうに事情を説明したのかは、ドラマのなかでは語られていない。でもたぶん神社の子供会の子が入院していた関係で、病院で一曲歌うことになってしまったとか、そんなふうに話したのではないだろうか。少なくともこの件が美奈子がらみであることを言ってしまったら、うさぎの反応は「えーっレイちゃん美奈子と知り合いなの!なんでなんで?」という方向に行くに決まっているからね。そしてそういう展開になると、下手をすれば美奈子の正体がうさぎにばれる。
 それに、レイが歌うとなれば、その場にうさぎが立ち会う可能性は高い。実際うさぎはやって来たし、そのせいで、美奈子=プリンセスを襲うために病院に現れた妖魔と戦うことになって、セーラームーンはピンチに陥ってしまうのである。自分がプリンセスと名のることによって敵の注意を引きつけ、真のプリンセスから注意をそらす、という本来の使命と、これではやはり矛盾している。セーラームーンを巻き込みたくなかったら「リーダーの力で、みんなに協力してもらえば?」ではなく「リーダーなんだから、助けなんか借りずに、自分の力でやってごらんなさいよ」とレイに釘をさす必要があったのだ。
 というわけで、ちょっと美奈子に意地の悪い見方かも知れないが、今回もやっぱり美奈子はズレている、と思うのである。

3. 亜美


 次は亜美だ。といっても多くは語れない。今回から始まる、亜美のネフライトに対する態度は、私にとってはいまだに謎で、これから再放送を見続けていく上で考えなくてはならない課題のひとつなのである。
 幻の銀水晶を手に入れるための作戦にことごとく失敗し、ベリルの信頼を失って憔悴しきったネフライト。今回ダークマーキュリーは、そんなネフライトを思い切り愚弄する。それがどのくらいネフライトのプライドを傷つけたかといえば、屈辱のあまり、ラストに回転ノコギリみたいな武器を持ちだしてダーキュリーに襲いかかるほどである。でも次回のエピソードでは、ネフライトにちょっと憐憫の情をかけるようにマントを投げかける。そして元の亜美に戻ったときには、人間のネフ吉君の不器用さにプッと吹き出し、とってもまずい手作りクッキーを食べさせる。こういう亜美の一連の態度が、私の中ではつながらないのだ。浜千咲がとても魅力的なのでつながっている気がするのだが、よく考えるとなんだか分からない。バカにするにせよ同情するにせよ、なぜ亜美はネフライトをこれほど気にかけるのか?
 四天王のなかで浮いてしまっている彼に、ダーク化する前の自分自身と共通する面影を見てしまって、気にせずにはいられない、というのなら話は分かりやすい。しかしやたらプライドが高くて、協調性がなくて、失敗ばかりしていていきりたっているネフライトのキャラクターに、亜美と通じ合う面はこれっぽっちもないし、ネガとポジの関係でもない。
 ネフライトに対する亜美の気持ちが分からないので、ネフライトの感情の変化、特に人間ネフ吉になってからの心理的な流れもまたよく分からない。亜美に何か恋愛感情的なものを感じて、でも恋愛なんてしたことないからそれを持て余している、というくらいまでは理解できるのだが、まずいクッキーをばりばり食うのは、これは何だ?好きな女のものならまずくても食えるという態度ではない。
 というわけで、色々と分からないのだ。ただ、亜美もネフライトも演技過剰になりすぎたのかな、ということはちょっと考えている。つまり、本来もっとクールな悪役だったダーキュリーを千咲さんがいかにも楽しげに演じてしまい、もともと少し陰にこもった性格だったネフライトを松本君(愛知県出身)がぎりぎり歯ぎしりの音がきこえるぐらいのハイテンションで演じてしまったために、二人の感情の流れが、台本とはだいぶ様子の違ったことになってしまったのかも知れない。まあともかく、そのへんのところにもう少し注目しながら、亜美についてはこれから見続けていきたいと思う。

4. まこと


 まことって言ったって、今回ぜんぜん出てきてないじゃん。何が書ける?それでも書くのである。安座間さんは最近なにかと盛り上がっている。なにしろ石肉さんによれば、先日発売された『フラッシュ・エキサイティング・スペシャル』の「第6回U-19アイドル限定300人完全人気ランキング大名鑑2006→2007」の122位である。立派な数字だ。クリスマスまではまだ19歳だ。
 今回のエピソードにおけるまことの不在について、私は初回放送当時、たいへんおおきな勘違いをしていた。最後の方、セーラーマーズが登場し、決めポーズで名のりをあげるシーンにかぶせて、パタパタパタとヘリコプターのローターのような変な音がする。初めて観たときには「なんだこりゃ」と思ったものだが、すぐに連想したのはそのちょっと前、もうすぐロンドン行きの地場衛が、ロンドンのガイドブックを買って部屋に帰ってくる場面だった。投げ出された衛のパスポートがアップで映る。するとそこにジェット機の爆音がかぶさるのである。で、ははぁこれはと、ピンと来たね。
 原作漫画をお読みになった方ならご存じの通り、まことは幼い頃、両親を飛行機事故でなくしている。そしてそのトラウマで、ジェット機の爆音とか、飛行機の音に対するものすごい恐怖心がある。普通の女の子が怖がるようなことも平気でやれるまことが、テレビで旅客機が離陸するシーンが流れただけで、きゃあ、と叫んで飛び出してしまうのだ。
 だから私はてっきり、今回のエピソードでジェット機の爆音やヘリのローター音が流れるのは、まことが今回欠席であることと関係がある、と思ったのだ。おそらく、衛のロンドン行きと絡んで、あと何回か後には成田で妖魔と戦うエピソードが出てくるだろう。そしてその時、セーラージュピターはジェット機の音が原因でパニックに陥って戦えない。それを克服したとき、ジュピターは戦士としての真の力に目ざめる。そのための伏線が今回だ。なんだか2年前はそういう勝手な予想ばかりしてはほとんど外れて勝手に悔しがっていた気がする。すっかり忘れていたのだが、こうやって再放送を見ているといろいろ想い出すのだ。結局みなさんご存じの通り、ヘリの音というのは佐藤健光監督の特殊な嗜好だったようである。しかしわけが分かりませんねこれは。
 まことについてはもうひとつ、こっちの話は勘違いではありません(と思う)。
 すでに書いたように今回まことの出番は、初めの方のクラウンのシーンでたった2度。しかし実は前回の予告編には、まことが「レイの歌、聞いてみたいけどね」と言う場面があった。制服姿で、座っている場所もこのクラウンのシーンと同じ位置のようだから、ここで用いられる予定で撮影され、結局カットされてしまったのである。
 ではこのクラウンのシーンで、まことが「レイの歌、聞いてみたいけどね」と言うには、どのようなシチュエーションが必要か。これはそんなにむずかしくない。まことはちょっとおずおずとした感じでこのセリフを言っているから、つまりレイがきっぱり「カラオケは嫌い」と言ったのを受けているのだろう。そうするとだいたい次のような状況が浮かぶ。
 ルナから、戦士の真の力を身につければ、きっと亜美ちゃんも取り戻せる、と言われて、がんばろう、と決意を新たにする三人。そこでうさぎが「じゃ亜美ちゃんが帰ってくるよう願って、カラオケで元気を出しますか」と提案する。でもレイは即座に「カラオケは嫌い」。口をとがらせて「え〜っ」と言ううさぎと、控え目ながら、試しに「私はレイの歌、聞いてみたいけどね」と言ってみるまこと。だけど「イヤよ」と絶対に歌おうとしないレイ。
 つまりどういうことか。おそらく今回のエピソードはもともと、レイの「カラオケは嫌い」というセリフに始まり、同じセリフに終わるという構成になっていたのだ。(1)「カラオケやろう」といううさぎと、「カラオケは嫌い」とそれを突っぱねるレイ。まことは「レイの歌、聞いてみたいけどね」。(2)そしたらまことが言ったことが現実になって、レイは人前でライブをやる成り行きになり、仕方なくうさぎに助けを求める。(3)うさぎの指導でコンサートは成功、レイは仲間を信頼することの大切さを学んで戦士の力に目ざめる。(4)妖魔をやっつけてラスト「レイちゃん、やったね。これでまこちゃんも揃えば、きっと亜美ちゃんも戻ってくるよ」「ええ」「じゃあそれを願ってカラオケやりますか」即座にレイは「カラオケは嫌い!」
 私はこのオリジナルプロット(推定)の方が、うさぎに感謝して目をうるませつつも、カラオケ嫌いは譲らないガンコなレイちゃんのキャラクターが最後にくっきりと際だって、いいんじゃないかな、と思いますね。ただし、この最初のシーンを残すためには別のシーンをカットしなければならないわけだが、それをどれにするか、という話になるとものすごく困る。だいたい今回のエピソードは、完成されたバージョンでさえ、レイの歌とかヴィーナスの変身バンクとか、切らずにもう少しじっくり見せて欲しかった場面があるぐらいなのだ。ダークキングダムも衛の出てくるシーンも、今後の展開を考えると落とすわけには行かない。そうすると結局、これは30分番組の台本にしてはあまりにも多くの手を盛り込みすぎた小林靖子の責任、ということになるのだろうか。
 まことの話をしているつもりがだんだんレイの話になってしまったので、そろそろ最後のレイだ。

5. レイ


 言うまでもなく、レイは今回の実質上の主役である。「桜・吹雪」を熱唱するシーンは、北川景子という人の不思議な魅力にあふれている。だってクラウンで練習したとき「レイちゃん、顔、こわいよ」と指摘された点はぜんぜん改善されていないし、衣装も、この曲にこの帽子で良いのかどうかさっぱり分からないし、スタンスも、歌に力がこもるに連れて、どんどん脚が開いていっているような気がするし、全体的に「大きいお友達ならともかく、子ども向けのコンサートで、これでいいのか?」感がただよう。それなのにこの場面は何度見ても魅入ってしまう。あ、それは私が大きいお友達だからか。
 そしてセーラーマーズに変身した後に披露する新しい技の美しさ、妖魔を退治した後、セーラームーンとヴィーナスとの会話シーンで見せる潤んだ瞳、とにかく今回は話が進めば進むほど、北川景子の魅力が画面に炸裂する、なんてことは今さら書く必要もないか。
 前回の日記に書いたとおり、私は「レイがコンサートで歌う」というアイデアは、おそらくアニメ『セーラームーンR』のエピソードを意識してのものであろうと思っている。アニメのレイは文化祭のために何日も徹夜で作詞作曲をしている。だから私は「桜・吹雪」も実写版のレイが徹夜で書いた曲なんじゃないかなんてそのとき書いた。それはまあ冗談だけど、かなり大きな勘違いがあった。私は、レイが火川神社でナナちゃんに会ってから病院に駆けつけ、結局「マーズれい子」としてミニライブをやるはめになる、というところまでが一日のエピソードで、ミニライブは翌日の出来事だと思い込んでいた。だから、実はレイはその晩のうちに「桜・吹雪」の曲を作って、夜通し歌の練習をしていた、という空想をして楽しんでいたのだ。
 ところが再放送を観たら、ナナちゃんに会うまでのレイは制服で、病院に現れた時には私服だから、ここで一日過ぎていることになる。で、午前中に美奈子の病院ライブがあって、その場で、午後にはマーズれい子のライブが行われることが決まるのだ。考えられないような話ではあるが、しかしもしこれが「明日」という設定なら、あるいは負けず嫌いのレイならクラウンで徹夜して、自分の力でなんとかしたかも知れない。下手すりゃ本当に作詞作曲ぐらいしていたかもよ。そこを「今日の午後」というものすごく切迫した事態に追い込み、さしものレイもうさぎに救援を求める、という次の展開にリアリティをもたせたところに、脚本の工夫があったのだ。これを見逃していたのはちょっと反省である。
 もうひとつ、前回の日記にはうっかりがある。アニメのマーズは自分のコンサートをぶち壊しにされた怒りのあまり、持ち技の「ファイヤー・ソウル」をバージョンアップした「ファイヤー・ソウル・バード」を放って敵を倒す。その時アルテミスが「マーズが戦士としての真の力に目ざめた」と言う。一方、今回の実写版のマーズは、コンサートで歌い終わった後に戦いの場に駆けつけ、持ち技の「妖魔退散」をバージョンアップした、えーと何と呼ぶのか分からないが新しい技を放つ。その時ルナが「マーズ、戦士の力がめざめたのよ」と言う。このあたりも、アニメ版と実写版は非常によく対応しているのだが、それを指摘するのを忘れておりました。だからやっぱりこの実写版はアニメの『R』が発想の原点のひとつにはなっているのだろう。だれかが『R』のエピソードを思い出して、そのアイデアをもとに小林靖子が、自分の創り出した「カラオケ嫌いのレイちゃん」というキャラクターに合わせて脚本を書いた、ということではないかと思うのだ。相変わらず想像に過ぎないが。
 さてそこで名曲「桜・吹雪」が使われることになるわけだが、もともとこの曲は、ドラマ中で流れることを想定せずに制作されたようである。CDボックス『MOONLIGHT REAL GIRL』のライナーノーツでプロデューサーの丸山真哉氏は次のように語っている。

うさぎ、美奈子以外の、亜美・レイ・まことについては、劇中であまり歌わないという前提があったので、CD用に2曲作るというときに、キャラクター寄りの曲と本人寄りの曲、みたいなバランスにできれば、と思っていました。でも、その時点では「マーズれい子」なんて展開は想定していなかったんですけれど(笑)。佐藤健光監督から、「何か曲ない?」って言われて「ありますよ」と(笑)。

 東映公式を見ると、本編の撮影はだいたい放送日の1ヶ月前に行われている。このAct.23の放送日は2004年3月13日だから、撮影は2月初旬、ということは、内容が決まって、佐藤監督が「何か曲ない?」と音楽スタッフに言ったのはおそらく2004年1月のことだろう。一方、キャラクターシングルの企画が立ち上がり、北川景子が「桜・吹雪」を録音したのが2003年のクリスマス。そして12月29日には完パケ、つまり録音にかかわる全工程が終了している。そして年明けにはAct.23のプロットが決まり、マーズれい子がドラマ内で歌うことになって、年末にできたばかりの、ほやほやのホットスタッフ「桜・吹雪」が急遽、佐藤監督以下スタッフの手に渡るのである。絶妙なタイミングだ。
 そしてこういう経緯は、CDリリースにも影響を与えた。この時点までの、実写版セーラームーン楽曲音源のリリース順は次の通りだ。

2003年11月19日『キラリ☆セーラードリーム!』(マキシシングル)
(収録曲)「キラリ☆セーラードリーム!」「C'est la vie 私のなかの恋する部分」
2004年2月18日『DJ MOON 1』
(収録曲)「キラリ☆セーラードリーム!」「オーバーレインボー・ツアー」「肩越しに金星」「C'est la vie 私のなかの恋する部分」
2004年2月25日コロちゃんパック第1弾
(収録曲)「キラリ☆セーラードリーム!」「肩越しに金星」「 オーバーレインボー・ツアー」「 桜・吹雪」「C'est la vie 私のなかの恋する部分」

 「キラリ☆セーラードリーム!」「C'est la vie 私のなかの恋する部分」の2曲は、もちろん実写版放送開始時点ではできあがっている。一方、主役であるうさぎのイメージテーマ「オーバーレインボー・ツアー」と美奈子の「肩越しに金星」の2曲は、ほぼ同時進行で制作されたという。その時期だが、そもそも「肩越しに金星」は、Act.12(2003年12月20日放送)の台本に、美奈子が観覧車のゴンドラで新曲を口ずさむシーンが設定されているのを見て制作が始まったという話であるから、おそらく2003年11月の下旬までには、この2曲はレコーディングされている。いずれにせよ、12月段階で完成していた音源は「キラリ☆セーラードリーム!」「C'est la vie 私のなかの恋する部分」「オーバーレインボー・ツアー」「肩越しに金星」の4曲であり、これらは2004年2月18日に発売された『DJ MOON 1』で使用される。
 12月にはキャラクターシングルの制作が始まる。先のインタビュー発言から考えて、この段階ではまずうさぎと美奈子が第1弾で、残る亜美・レイ・まことが第2騨、というリリース順の予定だった。ところがここで突然「マーズれい子」のデビューが決まる。そのため『DJ MOON 1』のわずか1週間後に発表されたコロちゃんパック第1弾には、『DJ MOON 1』収録の4曲に「桜・吹雪」が加わった。そしてキャラクターシングルの方も、うさぎと美奈子に加えてレイも先行発売のラインナップに加わり(2004年3月31日発売)、亜美とまことは第2弾(4月21日発売)に回されるのである。
 私は何が言いたいのか。北川景子の強運である。キャラクターシングルの中でも、とりわけアイドル美奈子の曲に匹敵するインパクトをもつ名作「桜・吹雪」に出会えたこと、それをまだスタッフが聴きもしないうちに「マーズれい子」のデビューが決まったこと、そしてそのために、本来は第1弾「うさぎと美奈子の曲(劇中使用曲)」、第2弾「その他3人(イメージソング)」というはずだったCDのリリーススケジュールが変更され、レイのシングルが先行発売分にまわったこと。どの局面においても、幸運の女神は常に北川景子にほほえみかけている。
 もちろんそれはこの時点では、まだ実写版のキャストの中でいちばん恵まれている、という程度のものであり、そのレベルを越えて、たとえば「桜・吹雪」がオリコンのチャートを賑わす、という事態までには至らなかった。しかしここにはその後の、そして現在にいたる北川景子の、順風満帆と言っていい展開を予想させるだけのものがある。この人は、努力の人であると同時に強運の人でもあるのだ。その強運が新作『Dear Friends』出演を機に「凶運」に変わらないことをせつに願う(まだ言うか)。


 結局、またしてもこんなに長くなってしまいました。さくさく読みやすいブログへの道ははるか遠い。どうすればいいのかなあ。でもこれからも努力します。というわけでまた来週。


(放送データ「Act.23」2004年3月13日初放送 脚本:小林靖子/監督:佐藤健光/撮影:松村文雄)