実写版『美少女戦士セーラームーン』ファンブログ


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【第5回】問題はパパなのだの巻(Act.3)



テレビをつけたらいきなり「♪ぶっかけ・ぶっかけ・ぶっかけー♪」というコーラス。す、すごいな深夜はそんなとんでもないAVのCMまでやるのか。と思ったら金ちゃんラーメンの「夏の定番 金ちゃんぶっかけうどん」でした。つまらぬ連想をした品性下劣な私が悪かった。お詫びのしるしに告知しておくが、ただいま金ちゃんラーメンのシールを5枚集めて送ると抽選で500名様に現金1万円が当たるそうです。
 そして不動産屋のCMなどが続いた後、軍服でヒゲ姿の松平健。『バルトの楽園』という映画で軍人役をやるのだが、その付けヒゲがアートネイチャー製ということらしい。つまりアートネイチャーのCMである。と思ったら次が変身したセーラーマーキュリーのアップで「前回のあらすじ」。松平健からダイレクトに浜千咲である。
 そういえば先週テレビをつけたときも、振り付け師の真島という人がピシッとポーズを決めて、キンキラキンの松平健がワンカット映っていた。「CRマツケンサンバII 踊るパティンコ」だそうである。その後何本かCMを挟んでAct.2が始まったのだったが、今週は本編開始の直前のCMが松平健だ。ひたひたと忍び寄るマツケンの影。お前は妖魔(金)か。
 まあそんなことはいい。阪神×中日戦は11回延長だったようだがテレビ中継は延長なし。時間どおりAct.3だ。触手に巻きつかれ、両手両足の自由を奪われ宙づりにされるセーラームーン。何とか脱出するが、再び足首に触手が巻きついて悲鳴をあげながら引きずられるセーラームーン。深夜3時ですよ。お喜びの方もおられたでしょうなあ。次回Act.4も触手はあります。でもその辺の問題については 「妖魔はなぜ触手を伸ばすのか?」という簡潔にして要を得た考察があるのでここでは触れない。興味のある向きはお読みください。ただしその手の妄想話を期待してもだめですからね。

 

 さて覚悟して欲しいが今回は長いぞ。何しろ再放送を視聴後すぐに寝て、起きてからなかよしコミックスと実写版DVDをカバンに入れて仕事に出て、昼休みも返上で漫画とDVDのセリフをチェックしてはノートパソコンにメモしていたら、なんと午後に予定されていた会議がキャンセルになって時間ができてしまった。それでずーっと日記を書いていた。ここまでして書く私も馬鹿だが、読んでしまうあなたも相当な重症だ。次回からはもう少しコンパクトにまとめますのでお許し下さい。適当に流し読みモードでどうぞ。

1. 亜美の気持ち


 予告編ふうに言えば、今回の話は「神社の周辺で起こる謎の少女連続失踪事件。事件を追ううさぎと亜美の前に現れた謎の霊感少女レイ。はたして彼女は少女たちを誘拐しエナジーを奪う妖魔なのか、それとも?」という展開。そこに前回から続く亜美の物語が割り込んできて、この回あたりから、大河ドラマとしての実写版の特徴が少しづつ顕著になってゆく。

 冒頭にコメディタッチのうさぎと亜美の早押しクイズがあって、彼女たちの目下の使命が、妖魔との闘いだけではなく、プリンセス(と幻の銀水晶)の発見であることが示される。こうやってストーリーのポイントを整理してみせるのは、小さいお友達への配慮である。では誰がプリンセスか。やはりセーラーVが怪しい。というわけでルナはその正体を確かめようと、夜な夜な「Vちゃん走り」で疾走するセーラーVを追いかけ回している。小松さん今回もセリフは一行もなし。一方うさぎと亜美は、学校で少女行方不明事件の話を聞き、妖魔の仕業ではないかと調査を開始する。
 実はこの段階(1クール目)での美奈子の行動やその理由について、私にはまだよく分からない部分が多い。しかしまあ、そのへんは再放送の進行とともにじっくり見極めるとして、いまは問わない。なぜなら今回の登場は、「セーラーVを追跡中」という理由でルナを不在しておくことで、ルナがいるクラウンを拠点として物語を進行させず、うさぎと亜美が日常生活のなかで事件を知り、捜査に乗り出す、という状況をつくるための手段だからである。それによってより細やかな亜美の心理描写が可能となり、それが前後のエピソードとの流れをつくる。
 たとえば、行方不明事件の噂話でもちきりになる教室の昼休み。うさぎは亜美に「一緒にお弁当食べよ」と誘う。でも亜美はなるちゃんたちの視線に遠慮して「予習があるから」と屋上に行ってしまう。この時の亜美の気持ちは、本当はみんなと楽しくお弁当を食べたい、というのとはちょっと違う。Act.5で明らかなように、みんなでわいわいにぎやかにするというのは、亜美にとって「勉強より疲れる」ことだ。彼女は、もし一緒にお弁当を食べるなら月野さんと二人きりがいい、と思っている。Act.2で亜美が買ってきたプリンは二個、なるちゃんたちの分はない。

 放課後、橋のところでなると別れたうさぎと落ち合う亜美。「亜美ちゃん、何で一緒にお弁当食べないの、せっかく仲間になったのに」「うん、でも、私たちが戦士ってことは内緒だし、それにほら、急に仲良くなったら、やっぱり変だよ」「そうかなあ」「そんなことより、行方不明事件のことなんだけど、あれ、もしかして妖魔かも」亜美にとっては、学校での「そんなこと」なんかより、たとえば妖魔のことを話す方が楽しい。戦士としての使命はうさぎと二人だけの秘密であり、それについて調べたり、相談したり、行動したりする時は、こうやって他の子たちの目を盗んで、月野さんを独り占めできるのだから。
 それに、日常生活でも屈託なく輝いてみんなを惹きつけるうさぎは、いまの亜美には眩しすぎる。夜、うさぎの部屋で相談する時も、いつもの習慣でお行儀よくしてしまう亜美を見て、うさぎは面白がる。そこへ母親がお茶を運んできて、ベッドで訳の分からない母子のバトルが始まる。「ほら、亜美ちゃんも」と参加するよう育子ママに言われて、当惑した表情の亜美。ふだんの月野さんのノリには、ちょっとまだついて行けない。

 でも使命のこととなったら、私がブレーンとなって、月野さんをひっぱって行ける。そんなふうに役立つことが今の亜美の最大の喜びだ。亜美は、行方不明になった女の子たちが皆、毎年神社で行われる祭りで、巫女に選ばれた子であることを突き止める。たぶん特殊なエナジーをもっているので、狙われるのだろう。次は今年の祭りで巫女になった子が危ない。その推理をうさぎに話して「そうか、さっすが亜美ちゃん」と誉められたときの亜美はとても嬉しそうだ。そして二人は、狙われている子を守ろうと、彼女が巫女の仕事をしている結婚式場に忍び込む。テレティアSで巫女さんにチェーンジ。変身した瞬間の、いつもと違う自分になれた、という感じの亜美の笑顔もまた印象的ですね。
もっとも、この結婚式場への潜入にはたいした必然性がない。二人に巫女のコスプレをさせるために半ば強引に作った設定のようにも思える。次回Act. 4ではコスプレ度がさらにエスカレートして、亜美にいたってはメガネっ子+猫耳+メイド服という、いわゆる「萌え系」フル装備である。来週深夜、予備知識なく初めて見て悶絶する人が出るかなあ。てゆうか高丸監督、好きなのか?まあ変身シーンを多く入れて、テレティアSの販売促進に貢献して欲しいというスポンサーの要望もあったのだろうと、ここは好意的に解釈しておく。

2. 仮面の裏側


 ついでに言っておくとタキシード仮面の出方もちょっと問題だな。先ほど、この段階でのセーラーVの行動原理が分からないと書いたが、Act.1冒頭の衝撃的なパン……いや違った、えーと、ともかくあのアヴァン・タイトルからして、美奈子がこの時点で、とりあえずタキシード仮面=エンディミオンを牽制して、かつての悲劇の再来を引き延ばそうとしていることは間違いないように思える。にもかかわらず、うさぎと衛は、すでに現世で宿命的に再会してしまっている。この宿命的という部分は、Act.1でもAct.2でも、まず二人が現世の地場衛と月野うさぎとして、妖魔の事件が起こる現場付近でばったりと出会い、お決まりのケンカをしてから、最後にタキシード仮面がセーラームーンを助ける、あるいは見守るというパターンで表現されている。衛はうさぎとぶつかるたびに「またお前か」とか言いながら、たぶんわずかに何かを感じている。そして必ずその後にセーラームーンの姿を見て、ことの成り行きを見守り、セーラームーンがピンチになれば思わず助けに入るのだ。だが今回は、タキシード仮面は最後の最後に、なんだか唐突にあらわれてセーラームーンを救い、そのことが照れくさいのか一言もセリフを言わずに去ってゆく。

 実はこれにも理由が考えられないわけではない。原作漫画第3話、およびアニメ無印第10話『呪われたバス!炎の戦士マーズ登場』では、このエピソードは、通学バスに乗った生徒たちがバスごと異次元空間に吸い込まれて行方不明になるという事件が起こり、うさぎ・亜美・ルナのセーラーチームと霊感少女レイがそれぞれのやり方でその謎を追っている、という設定になっている。そして、漫画版の地場衛は、そのバスを利用して通学している高校生なのである。だからこの事件に絡んでくる必然性がある。
 ところが実写版は、たぶんバスがまるごと異次元空間に吸い込まれる、という特撮をやる余裕がなかったのでしょうね、ご存知のように、時空に穴が空き、プロペラ妖魔のジャバラみたいな腕がそこから伸びてきて少女たちを一本釣りする、という地味な誘拐方法に変えられてしまっている。それ以外の展開はだいたい同じ。そのためタキシード仮面は、地場衛として事件にかかわるきっかけがなくなってしまったのです。まあそういう事情があるからこれも許す。Act.3には他にもちょっと問題な点がなくはないが、しょうがない、ぜんぶ許しちゃう。

3. 不吉な力


 特撮の余裕がなかったのでは、という話が出たので、ついでにフォボスとデイモスにも触れておきたい。レイは火川神社にいる二羽のカラスを、火星の二つの衛星を意味するその名で呼んで可愛がっている。原作ではこの二羽がレイ専属の家来で、セーラーマーズに変身後も「フォボス!デイモス!」のかけ声で妖魔に襲いかかる。バビル二世の三つのしもべみたいなもんです(古いねどうも)。アニメでも最初の回には登場して、間違ってうさぎを襲ったりしていたが、結局そんなに活躍しなかった。実写版には名前すら出てこない。だけどこのAct.3に出てきてうさぎを脅す二羽のカラス、あれは間違いなくフォボスとデイモスだ。


 

 ただの想像だが、本当は実写版のスタッフは、アニメが活用しなかったこの原作キャラクターをもっと出したかったんじゃないかなあ。しかし現実問題としてはルナだけで手一杯だ。とてもそんなところまで手が回らないよ、カラスじゃぬいぐるみにもできないし。しょうがない、マーズ初登場の回だけは出そう。そんなところなのではないかと、私は勝手に思っている。
 ともかくそんな、カラスを愛でる少女ということもあって、原作漫画のレイは、近所のおばさんたちから薄気味悪がられている。実写版のレイは、子ども会なんかもやって、そんなにご近所づきあいが悪くなさそうなのに、漫画ではこんな感じ。「火野さんとこのレイちゃんは変わり者なのよ。変な祈祷はするわ、カラスは飼うわで、霊感もあるらしいしさ」そのため、少女たちの行方不明事件が続くと、おばさんたちにあらぬ嫌疑をかけられ窮地に立たされる。
「だからね、うちのムスメたちがどこにいるか、レイちゃんおとくいの霊感で占ってほしいだけなのよ」「霊感だなんて……場所を特定できるような特別なモノでは……それよりケイサツにまかせたほうが……」「こんなときぐらいあいそよくできないの?せっかくこの神社にきてやってんのに。意外とあんたがヘンな祈祷やって、うちのムスメを神かくしにあわせたんじゃないの?」「……か、帰ってよっ!」

 言うまでもなく、この場面は実写版においても、レイと、彼女のクラスメートか上級生であろう少女たちとの会話として再現されている。この人たち、竹刀を持っている子もいて、体育会系のいじめのノリなんですね。集団で火川神社にやって来てレイを取り囲み、レイにとっては大事な、神事に使う道具(三宝の上に、お祓いに使う木の枝を乗せたもの、だと思う)を取り上げちゃっているのである。

  
レ イ「返して!」
少女A「あんたが変な術つかうの止めるって、約束すればね」
レ イ(ぐっとこらえて)「あれは術なんかじゃない」
  
少女B「じゃあ何よ」(レイに詰め寄る同級生たち)
レ イ(後ずさりしながら)「関係ないでしょ」
少女B「やっぱり怪しい。あんたの霊感は不吉だって前から言われてたもんね」
  
   (一瞬、唇を噛みしめたレイ、奪われたものを取り返そうと反撃に転じる)
レ イ「いいから返して!」(いじめっ子たちと揉み合い)
少女B「もう止めるって約束しなさいよ。あんたのせいで、みんな行方不明になったんだから!」
  
  (地面に突き飛ばされたレイ、そのまま無言で相手をきっと睨みつける)
少女B「何よ……昨日だって、ここから死にそうになって逃げて行く女の子、見たんだからね」

 そこへ一部始終を見たうさぎが「それ、わたし」と仲裁に入るわけですが、レイを責める相手がおばさんたちから同じ学校の子たちに変更されただけで、シチュエーションと感情の流れは、一見するとほぼ同じであるように感じられる。
 しかし実写版のレイは、行方不明事件が自分の仕業だと疑われたから怒ったのではない。そのこと自体は、この人たちには分からない、疑われても仕方ないと半ばあきらめ、ぐっとこらえて気丈に受け答えしている。ところが「あんたの霊感は不吉だって前から言われてたもんね」というセリフが出た瞬間、思わずかっとなり、相手に食ってかかるのだ。そしてバックにはピアノのメロディが流れる。その悲しげな音色は、「あんたの霊感は不吉」という一言が、レイにとっては最も触れられたくない何かにかかわるキーワードであることを暗示している。それは何か。

4. 涙の理由


 以降のエピソードのなかで、この同じピアノのメロディ(『DJムーン1』トラック13「女の子は、時々淋しいの」)が流れる場面のレイを想い出してゆけば、それは簡単に分かる。Act.8、父親の秘書に連れ去られ、ホテルに軟禁状態のレイが、追ってきたまことに「パパはね、私の持っている力が嫌いなの。だから神社に預けたのよ」と呟く場面。Act.33、ついに登場した父(升毅)に向かって「今さら親子だなんて言わないで、私のことを神社に預けたのは、誰よ!」と感情を爆発させる場面。さらに同じくAct.33の回想シーン、病院で、母親を失ってひとりぼっちになった少女時代のレイ。どれもこの曲である。

 要するにパパなのである。霊感少女として周囲から奇異な目で見られ、いじめを受ける現在の孤独が問題なのではない。問題は遠い過去にある。本当はパパを深く愛していた。けれどもそのパパは、母が死んだとき、自分のもとにはやって来てくれず、そして自分を神社に預けた。誰よりも愛するパパに自分は嫌われている。なぜなら自分が「不吉な力」をもっているからだ。
 その苦しみが耐えがたかったから、彼女は自らの胸のうち深く、父の愛情への餓えを封印した「私は、パパなんかいなくたって一人でやっていける、強くなれたって、感謝してるぐらい」(Act.8)。それでも、「あんたの霊感は不吉だ」と言われれば、いつもの冷静さを忘れ、取り乱してしまう。傷は癒えたわけではないのだ。
 ラスト近く、変身した自分の姿に呆然としているレイに、ルナが声をかける。「セーラーマーズ、あなたが三人目の戦士」


セーラーマーズ「私が……
 やっと分かった、私に力があった理由。不吉な力なんかじゃなかった」

 そのときマーズの頬には一筋の涙が流れている。不吉な力なんかじゃなかった。戦士として、それをこれから証明できる。そうして自分はようやく、父親へのコンプレックスを克服できる。しかも心の深層では、実はそれは父に対する必死の求愛でもある。私の力は不吉ではないのだ、あの頃に戻ってもういちど愛してくれ、という。
 レイが予感しているこれからの闘いは、少女のころ負った心の傷を癒すための、自己回復の闘いだ。だから仲間なんか必要ない。セーラームーンが手を振って「レイちゃーん」と呼びかけても、彼女は背を向け、こっそり涙を拭い、ひとりで歩き出す。ほんのわずか微笑みながら。
 漫画のレイは、父親を含めすべてに対してもっと冷めている。プライドが高いから行方不明事件の犯人と疑われて憤慨するが、少なくとも実写版のようなトラウマやコンプレックスがあるようには描かれていない。また、自分がセーラー戦士であることを知っても、安易にうさぎや亜美と共に闘おうとしない点は同じなのだが、その態度はもっとあっけらかんとしている。だいたいこの人はミッション系の名門T.A.女学院のお嬢様なので、先にアニメでセーラームーンに接してから漫画を読んだ私などは、まずそのしゃべり方にびっくりしたね。「ったく、どうしてあたしが正義の戦士なんてっ。あたしは、いそがしいんですのよ。だいたいルナ!プリンセスをさがすって件ですケド、いったいドコの王国の?目印は?それに、まずルナがどこから来たのか……正体をはっきりさせていただかいないと、協力はできませんわね」




 アニメでは回を重ねるに連れて、うさぎとの低レベルなケンカが恒例となるお馬鹿キャラに変化していった火野レイ。それを原作寄りにリセットしたのが実写版。確かにそうではあるのだが、亜美の場合と同様、やはり実写版はここでもなかなか興味深いキャラクターの再構築を行っている、という一席でした。


(放送データ「Act.3」2003年10月18日初放送 脚本:小林靖子/監督:高丸雅隆/撮影:松村文雄)