実写版『美少女戦士セーラームーン』ファンブログ


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【第245回】帰ってきた筆談ホステス本論の巻

 

大家さんのご紹介で、ガロの4コマみたいな微妙なもの(失礼)を発見しました(これ)。何か後味を引くテイスト。
   
   
   
   
面白いね。私としては、2コマ目のマントの下で何が行われているかが、実は一番気になる。

 

ところで、実写版『あしたのジョー』の話。先々週こんなレイアウトを作った私が言うのもなんだが、「ジョーが山Pなら葉子は北川景子」というのは発想がベタすぎるよ。

それに較べて『M14の追憶』のこの日の記事のコメント欄をご覧ください。「どうせ北川景子を出すなら力石徹役で」だって。さすがですね。
いやマジメな話、実写版『宇宙戦艦ヤマト』の黒木メイサなんて、役名が「森雪」のままなのに、所属はレーダー係&看護班ではなくて、戦闘班ブラックタイガー隊長である。このインパクトに対抗するには、北川さんを起用して「力石葉子:少年院で出会うジョー最大のライバル」ぐらいの設定にしておかないと。まあ、ヤマトに対抗すべきかどうか、という疑問はあるが。
そうすると前半は、孤高のスケバン力石葉子(北川景子)が少年院にぶち込まれるまでの話だ。夜の盛り場での大乱闘に始まり、人権無視の収監生活あり、看守のいやらしくしつこい身体検査あり、先輩達から受けるリンチあり、女の友情あり、つまり梶芽衣子の『女囚さそり』だ。おい、だんだん観たくなってきたじゃないか。
出所して、女子プロボクサーとなった力石(北川)は連勝ロードを驀進するが、少年院時代からの因縁の相手、矢吹丈(山下)と決着を付けるべく、特別マッチを組む。苛烈きわまる試合の果てに辛勝を収めた葉子だが、女の身体を無視した過度のトレーニングと、途中のラウンドでゴング間際に矢吹から受けたテンプルの一打が原因で、全身不随となる。
矢吹丈は罪悪感からボクシング界を引退し、病床の白木葉子に付き添う。つまり後半はクリント・イーストウッドの『ミリオンダラー・ベイビー』だ。北川景子にとっては『Dear Friends』のラストで本仮屋ユイカが演じていた役どころに、今度は自分がチャレンジすることになる。これは本人もやりがいがあるだろう。なんだかすごく観たくなってきたぞ。
…そろそろ本題に戻ります。

1. 前回までのあらすじプラスワン


高校中退後、地元青森のクラブ「ダイアナ」に勤めるようになった里恵(北川景子)は、耳が聞こえないハンディキャップを逆手に「筆談ホステス」として人気者になる。しかしある晩、酔って帰宅したおり、娘の水商売を快く思わない母(田中好子)と激しい言い争いになり、とうとう家出してしまう。
転がり込んだ「ダイアナ」のママ、杏子(手塚理美)のフラットで、里恵は銀座ホステス時代のママの写真を見つける。

杏子「ここはね、銀座。昔、働いていた場所。可愛かったでしょ」
里恵(ニッコリ微笑み、メモ帳に筆談で)<いまも>
杏子「ありがとう。今でもね、ときどき銀座のこと思い出すわ」

杏子ママは里恵のメモ帳に書きながら、昔を懐かしむかのようにつぶやく「銀座はホステスにとって夢の舞台。日本一の場所」。
そこで里恵は思う。私、いつか銀座に出よう。銀座に出て日本一を目指そう。でもそのきっかけは意外と早く訪れた。ある晩、兄の悟志(福士誠治)が里恵の前に姿を現す。家に帰るよう説得するためだ。
ひとまず居候中の杏子の家まで行くが、里恵はダンマリを決め込む。そんな妹の態度に、悟志は無理矢理でも里恵を連れ戻そうとする。


 杏子ママのフラット。キッチンから心配そうに見守るママ
悟志「いいかげん帰って来い。少しは母さんの気持ち考えろ。さあ行くぞ」
里恵(兄の言葉を無視し、頑としてその場を動こうとしない)
悟志「里恵……里恵、いいかげんにしろ!ここにずっと居座ること自体ご迷惑だろう。そんなことも分からないのか!」
 悟志、杏子ママに「失礼します」と一礼し、里恵の腕を取って力まかせに引っ張る。
 断固として拒否する里恵。
悟志「ずっとホステス続けるつもりか!」

 里恵、ペンをとって猛然と抗議の言葉を書き連ねる。
里恵<お兄ちゃんも お母さんと 一緒!> 
里恵<ホステスなんてみっともない ホステスなんてはずかしい…>
悟志「当たり前だろ。妹が男に酒作って愛想笑いしているのを喜ぶ奴がどこにいる」
里恵<お兄ちゃんも お母さんも 何もわかっていない>
里恵<この仕事が初めて、私を認めてくれた>
里恵(チラシの裏に大きく)<私 ホステスを する>
 兄をにらみつける里恵

お兄ちゃんなら分かってくれると思っていたのに、と失望する里恵と、妹の強い意志とプライドにたじろぐ兄。それに、杏子ママの居る前で、水商売を蔑む発言をしてしまったことへの後ろめたさもあるのだろう、悟志はいったん、説得をあきらめる。

兄が帰った後、優しく肩を抱き「いいの?」と問う杏子ママ。里恵はそれには答えず、ママの銀座時代のポートレイトをもう一度見やってから、筆談でママに答える。

「私、銀座に行きます。
日本一のホステスになります」

このドラマを見る限り、銀座というのは、地方のクラブのNo.1が集結する甲子園、あるいはメジャーリーグのような場所だ。銀座進出を宣言するからには、里恵はすでに「ダイアナ」で一番人気なのだろう。しかし、だったらママとしても、店の稼ぎ頭を簡単には手放したくはないだろうし、慰留とか引き止めとかもあったんじゃないか。実話のドラマ化、と聞くと、ついそんなふうに、ドラマの裏側の本当の事情を邪推してしまうね。ま、しかしともかく、このお話の中の杏子ママは、自分の若い頃と同じ夢を追っている里恵を、気持ちよく東京に送り出す。
出発の朝。家族は誰も見送りに来ない。来てくれたのは杏子ママだけだ。なんかさあ、殺風景な駅の二人、しかも一方は聴覚障害で喋れない、という場面設定は、どうしても侯孝賢監督の『非情城市』(1989年)を連想するよね(しないか)。ま、あれは電車に乗らないわけだが。名作だったなあ、って関係ないですね。

もうすぐ電車が来る。「行ってきます」という里恵にママが渡すのは、万年筆とメモ帳である。メモ帳のブランドは分からないが、万年筆はモンブランなので、だいたいそれに見合うくらいの品だ。銀座のホステスとなる以上、一流品を身につけていなくちゃいけませんよ、というママの花向けである。

里恵「行ってきます」
杏子「頑張ってね」
里恵「ママも」

なんか前回までのあらすじ紹介のつもりが、勝手にどんどんその先に進んじゃっているぞ。サクサク進むのはいいことだが、この辺でいったん仕切ろう。

2. 未知の世界


というわけで銀座篇なんだけど、実は銀座ではドラマらしいドラマはほとんど起こらない。それは青森のホステス時代の描写でも一緒だ。なぜかというと、実話が元になっているからなんだよね。

古くは『ぬかるみの女』から『黒革の手帖』『お水の花道』『女帝』『嬢王』などなど、ざっと頭に浮かぶタイトルを考えてみても、水商売の世界を舞台にしたドラマって、だいたいはタチの悪いライバルホステスがいて(『黒革の手帖』の場合は主人公がいちばんタチが悪いが)主人公はそういう悪意に満ちた敵たちと骨肉の争いを繰り広げながら、夜の世界でのし上がっていく、というパターンの話が多い。
ところがこの『筆談ホステス』の場合、現役ホステスが主人公の実話だから、この手のドラマを盛り上げるためには欠かせない「ヒロインを妬んでひきずり落とそうとするライバル」なんてものを出せない。出したらモデル問題が起こって名誉毀損で訴訟である。だからこのドラマでは、ホステス同士は和気あいあいとしていて、里恵は試練らしい試練も受けずに、すいすいNo.1の座をゲットして、みんなから嫉妬されることもなく祝福される。

お客に関してもそうで、当然、いろいろ口説かれたり、男と女のあれこれもあったろうが(現実の斉藤里恵さんなんか、ただいま妊娠中だというし)現役だけにそれも書けない。そんなわけで、この『筆談ホステス』って、ホステスのドラマなのに、夜の世界のドロドロした人間関係や確執が一切出てこない、妙に後口さわやかな物語になっちゃっているのだ。おかげで、銀座で里恵が働く店「Water Tower」の河原三春ママ(戸田菜穂)なんか、とても印象が薄い。
だから、里恵がなぜ、聴覚障害というハンデもあるのに銀座No.1ホステスになれたのか、という肝心な点が、私なんかにはイマイチ分からないのだ。
いや説明的な描写も、なくはない。まず初対面の客に水割りを作るシーン。三春ママから、建設会社社長の瀬川耕造(笹野高史)という馴染み客を紹介され、テーブルについた里恵は、半ば飲み干された瀬川のグラスに酒を足して水割りを作る。それを一口ふくんで、瀬川の動きが止まる。

瀬川「どうして、僕の好みの濃さが分かったの?」
里恵(メモ帳に)<さっき、飲んでいらっしゃったのを みてました>
瀬川「里恵ちゃん、ハナマル!」(メモに「同伴OK?」と書いて)同伴に、さそっちゃおうかな〜」
里恵<瀬川さんとなら 楽しい時間がすごせそう>
瀬川「よし、やったーっ!」

こういうのは、知識としても経験としても、私の理解を越えた世界なので、見ているだけでも勉強になる。「同伴」なんてどういう意味だか、とにかくいやらしそうで、あらぬ妄想をしていたのだが、これは「客と同伴で出勤すること」なんだそうだ。客と寿司屋かなんかで食事をして、それから一緒に店に入る、というのが一般的パターンらしい。皆さん知っていました?あ、ご存知でしたか。
いや同伴の意味はこのさい関係ないんだ。もちろんここでドラマが言いたいのは、里恵は、グラスの酒の色を見ただけで客の好みの水割りの濃さが分かり、すぐにそれと同じものを作れる、ということだ。確かにそれって水商売向きの才能だけれど、でもこれ一本で銀座のNo.1ってほどの特別な能力かと言われると、ちょっとよく分からない。


もうひとつの武器は、言うまでもなく「筆談」である。これが何と言いますか、説教っぽいんだよね。

恋は下に心があるから下心。愛は真ん中に心があるから真心
隣に誰かがいるだけで、“憂い”は“優しさ”に変わります

しかしこういうのって、なんか学校の先生が言いそうなトンチのたぐいである。見えにくいでしょうが、画面の中の字幕は、本物の筆談ホステス、斉藤里恵さんの書いた字を使っているらしい。こういうのが、ほぼ毎回、ドラマがCMに入る前に、アイキャッチ代わりに出てくるのだ。

星という字は 日が生まれる と書きます。
辛いときは“星”を見てください。きっと明日が生まれます。
難題の無い人生は“無難”な人生
難題の有る人生は“有り難い”人生

こういう言葉の数々で、お客さんのハートをつかんでいった、ってことなんだろうけど、なんだかなあ。
まあ確かに「なるほど」と思いもするんだが、その一方で『笑点』の大喜利みたいだよな、とも思う。夜の街で遊ぶ紳士たちって、ホステスからこんな格言みたいなことを言われて喜ぶんだろうか。
でも、SMプレイで好んでMを演じて、女王様から命令されるのが好きな人って、社長とか会長とかの要職にある人が多い、という噂も聞く。ふだん会社で両肩に担っている、責任という重荷をおろして、徹底的に受け身になって「この豚野郎」とか言われたくなるそうなのだ。ふうん。そういう連想からすると、銀座で遊ぶ社長さんみたいな人ほど、娘ほどの年齢の女の子から、分かったような人生訓を垂れられて、「いいよぉ、里恵ちゃん」とか喜ぶんだろうか。ていうか、そういうふうに考えないと『筆談ホステス』の人気の秘密はよく分からないですね。
まあともかく、ちょっと私なんぞの理解を越えた世界が銀座にあることは確からしい。

3. いいかげんまとめに入ろうよ(お前がな)

 

そんなこんなで、ドラマ的にはさほどの困難もなく、里恵はトップへの道を驀進していく。
なぜ彼女が銀座のNo.1にこだわるかというと、銀座が「ホステスにとって夢の舞台」「日本一の場所」であり、そこで頂点をきわめるということは、すなわち文句なしの一番になるということだからだ。青森で杏子ママから銀座の話を聞いたとき、里恵は子どものころの記憶を呼び覚まされながら、そう考えたのだろう。

母「何でもいいから、一番になりなさい。一番になれば、耳が聞こえなくても、みんなが認めてくれる」

何でも自分の価値観を押しつける母親への反撥もあって、母親のいやがる水商売の世界に入っていった里恵。でもその心の底では、母親に認められたいという気持ちはずっと続いていた。ホステスという仕事なら「一番」になれるかもしれない、銀座へ出て、それを証明したい。実はこういう動機があったわけです。
となるとですね、これは火野レイの心理とほとんど変わらないことになる。レイは、神社に自分を預けた父のことを「パパはね、私の持っている力が嫌いなの。だから神社に預けたのよ」(Act.8)と思っている。そういう父親への反抗心から、巫女となり、父のいやがる霊感にますます磨きをかけていたレイだけど、それが戦士として必要な能力であったことを知った時には、「不吉な力なんかじゃなかった」(Act.3)と涙ぐむ。結局レイも、自分の存在意義を父親に証明したかっただけなのである。

幼少時に親との健全な関係を築けず、コンプレックスをかかえて育った少女が、それを「聴覚障害」とか「霊感」といったハンディキャップのせいにする。でもそれが無意識の言い訳に過ぎなかったことに気づく時、彼女は初めて、自分が、表向きの態度とは裏腹に、心の底でどれほど肉親の愛情を求めていたかを知る。そして親の側も、愛情を押し殺し、厳しい態度で接したことで、幼い娘の心にどれだけの抑圧を与えていたかを知る。両者の気づきが同調して、和解がやってくる。
ということで、一気にラストに行きたいんだが、今日もそろそろ限界です。今日は前回の最後に書いたように、清浦さんも名古屋に来るので、このへんで。