実写版『美少女戦士セーラームーン』ファンブログ


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【第179回】DVD第2巻:Act.5の巻(その6)

1. また長すぎるマクラ話



うさぎちゃんの同級生、木村桃子こと清浦夏実がこの夏に出した「僕らの合言葉」(2008年7月23日発売)。これはアニメ『ケロロ軍曹』のエンディングテーマだ。『ケロロ軍曹』のテーマ曲と言えば、かつてのオープニング曲「君にジュースを買ってあげる♥ 」のグループ魂は2005年の紅白歌合戦に出場した。モモコも紅白めざして頑張れよ。と思ったら、もう今年の出演歌手は発表になっていたんですね。
リストを見て、個人的にいちばん意外だったのは「藤岡藤巻と大橋のぞみ」の出場だ。♪ポ〜ニョポニョポニョ♪だ。これはたぶん、ありえないだろうと私は思っていたのである。
もちろん、アニメソングだから無理だろうとか、そういうことではない。紅白歌合戦は、アニメ主題歌にそれほど冷たくはない。初めての起用は1980年の布施明「愛よその日まで」(『ヤマトよ永遠に』主題歌)だそうで、それから1983年の杏里「CAT'S EYE」、1990年のB.B.クイーンズ「おどるポンポコリン」なんかが続き、1990年代以降は、ほぼ毎年のようにアニメソングがエントリーされるようになった。ついでに紅白初の特撮ドラマの主題歌は何かというと、2005年の布施明「少年よ」(『仮面ライダー響鬼』エンディング)なんだって。つまり布施明は、アニメソング部門でも特撮ソング部門でも、紅白のパイオニアなのだ。やはりオリビア・ハッセーを嫁にするほどの人はただ者ではない。
いやオリビア・ハッセーはともかく、つまり紅白はアニメソング全般に対して、決して偏見をもっていないはずだ。なのになぜかジブリアニメとは、これまで妙に縁がなかった。米良美一の「もののけ姫」(1997年)なんて、どうして選ばれなかったのか不思議なくらいだ。木村弓の「いつも何度でも」(『千と千尋の神隠し』主題歌)もそう。私なんか、2001年で最も耳にした歌と言えば、間違いなくこれだったのに。ただこの歌は、正式なエントリー曲ではなく、歌の合間のアトラクションの、アニメソングメドレーコーナーのなかでちょっとだけ歌われたらしい。変な扱いですね。
加えてもうひとつ、今年のポニョを歌っているのは9歳の女の子だという。これもかなり強力な否定的要素だ。たとえば、私と同世代の皆川おさむは、6歳だった1969年に「黒ネコのタンゴ」をリリースして200万枚以上を売ったが、年齢の関係で紅白には出なかった。あるいは、「個人授業」(1973年)から「恋のアメリカン・フットボール」(1974年)あたりまで人気のピークにあったフィンガー5も、紅白にはまったく出場していない。私と同世代の末娘のタエコが、当時小学4年生〜5年生だったからである。ちなみにアキラはそのひとつ上だ。みんなとうに芸能界を離れ、今はどこでどうしていらっしゃるか知らないが、こんな御時世、それなりに苦労もあるだろう。お互い頑張りましょうやご同輩。(補注:と思って調べてみたらここのプロフィール欄にあるように、アキラはいまもバリバリの現役ボーカリストであった。事実誤認、すみませんでした)
いやそれはともかく、世間は忘れても、私はこういうことをしつこく記憶している。だからジブリアニメで幼女の歌うポニョは、たぶん大方の予想を裏切って「事情により出場無し」であろうと踏んでいたのだ。が、世間だけじゃなくてNHKも自らの過去を忘れていたようで、結果は大方の予想通りすんなり出場が決まったよ。ガシュン!!
イントロのヨタ話が長すぎた。いいかげん本題に入りましょうね。と思ったが、ついでに書いておく。セーラームーンのヲタクなら、森口博子と西田ひかると坂本冬美がセーラー戦士のコスプレをしてアニメ版の主題歌「ムーンライト伝説」を歌った1993年、第44回紅白歌合戦のことをご存じであろう。たぶん今でも探せばどっかに画像がアップされているんじゃないだろうか。で、これについて、ネット上にはときどき「坂本冬美はマーキュリーに扮していた」と書かれているが、確か坂本冬美がセーラープルート(もどき)である。西田ひかるがセーラーマーズ(もどき)。森口博子にいたっては、セーラームーンもどきというよりは、髪も衣裳もおかしくて、なんだかよく分からないセーラー戦士のパチモンにしか見えなかった。だから正しくはパチモンとマーズとプルート似の怪しいトリオだ。間違えないように気をつけてね(何を?)。

2. 本当の友達になるためのレッスン


長々とすまない。話は下駄箱の前からでしたね。もっとも、前回のコメント欄によれば、「下駄箱」という呼称は必ずしも全国共通ではないらしいが、ともかく、慌てて上履きを履くうさぎの背後から、思い切って「う、うさぎ」と声をかける亜美。カバンはいつもの「肘さげ」(©カシオペアさん)ではなく、うさぎたちと同じように肩からかけている。

うさぎ「えっ?」
亜 美「うさぎ、おはよう!」
うさぎ「お、おはよう……うそ、亜美ちゃん、名前で呼んでくれたんだ」
亜 美「うん。やっぱり友達なんだし、もっとうち解けた方がいいと思って」
うさぎ「えーっ、どうしちゃったの?でもなんか嬉し〜い!」

再放送レビューの時にも書いたとおり、この時の亜美のまん丸の目と、テンションの高い声は大阪なるを思わせる。物語内の設定としては「そうか、亜美ちゃんはきっと前の晩に、大阪さんをお手本に、うさぎに親しく声をかける練習をしていたのだろうな」ということになるし、セーラームーンミュージカル5代目マーキュリー河辺千恵子の記憶がまだ鮮明な視聴者にとっては、実写版の亜美がミュージカル亜美の真似をしている、という楽屋落ち的な愉しさがある。それでいて指先は緊張のあまり反り返っていて、ここはAct.2のバトルシーンで見せた「ペンギン走り」の発展型で、実写版のペンギン亜美だ。
喜びのあまり亜美に抱きつき、その手を引いてかけ出すうさぎ。一方、教室ではみんなが、仲良しグループに分かれて雑談している。うさぎが「おはよう」と飛び込んでくると、みんなは「おはよう」と返す。続いて、今度は亜美が「おはよう!」とやって来て、クラスメートはまた反射的に挨拶を返した後、一瞬の間を置いて「えっ?」と言う、楽しいシーンですね。
しかし楽しいんだけど、この下駄箱と教室の二つの場面のつながり具合は、ちょっと妙である。が、その話をする前に、そもそもJ.D.トンプソン著・山田さなえ訳のベストセラー『本当の友達になるために』ってどういう本だったかを、改めて確認しておきたい。
前に見たように、亜美は書店で、この本の第一章「あなたは、友達とけんかしても仲直りする自信がありますか?」の冒頭をちらっと見て購入を決意した。「ケンカするほど仲が良い」と言えるくらいの友達が本当の友達だ、とか、そんなことが書いてあったページだ。そして夜、家に帰って続きを読みふける。

あなたは友達とけんかしても仲直りする自信はありますか?
食事やパーティーの席などで、ひとりポツンとしていませんか?
これでは、本当の友達にはなれません。
みんな、いつか離れていってしまうでしょう。

語りと演出のかもしだす雰囲気でそれっぽく聞こえるが、文章に起こしてみると、やっぱりこれ相当に変な本である。「友達とけんかしても仲直りする自信」と「食事やパーティーの席などで、ひとりポツンとしている」ことの間の因果関係がさっぱり分からない。逆じゃないのか?私だったら「あなたは、食事やパーティーの席などで孤立することを怖れて、うわべだけの友達をたくさん作っていませんか?でもそんなふうに作った友達とは、本当の友達にはなれません。いつか、ささいなけんかがきっかけで仲直りもできず、別れてしまうことでしょう」と書くぞ。
ドラマ的には、今回の亜美は「いくらハウツー本を読んでも、それだけじゃ本当の友達は作れない」という真実を学ぶわけだから、トンプソン先生の本がアホな内容でも一向にかまわないのだが、しかし小林先生、かなりテキトーである。ひょっとすると「ベストセラー本なんて、だいたいこんな程度の内容でしょ。ゴールデンの高視聴率番組と一緒よね」なんて思っていらっしゃるのかも知れない。いやただの想像です。
頭脳明晰な少女には似つかわしくないおバカ本ではあるのだが、しかし亜美は「食事の席で孤立している」と図星を指された動揺で、むしろのめりこむように続きを読みふける。「大丈夫です。本当の友達になるために……」その続きは、翌日の亜美の一日に合わせて朗読される。

大丈夫です。本当の友達になるために
何も難しいことも、無理することもありません。
ただ、友達と笑い合い、語り合い
そして助け合う。それだけでいいのです。

ほとんど誰にでも言えるような、実にテキトーな指南であるが、以上が、次のような各シーンと連動して朗読される。

  1. まず、桜田先生の抜き打ち小テストにわき起こるブーイング。おずおず加わる亜美、というシーンのバックが「何も難しいことも、無理することもありません」。
  2. 次に、「お邪魔しまーす」と、うさぎのグループのお弁当に参加するシーンが「ただ、友達と笑い合い、語り合い」。
  3. そして、抜き打ちテストでわざと赤点をとって、居残り掃除のメンバーに加わったところで「そして助け合う。それだけでいいのです」。
  4. 最後に、塾をさぼってパジャマパーティーに参加することを決意して、冒頭の「難しいことも、無理することもありません」というフレーズが繰り返される。

どの場面をとっても、トンプソン先生は実用的で役に立つ提案を何ひとつしていない。要するに亜美は、ほとんど無内容なベストセラー本を一所懸命に深読みして、それをもとに徹夜で必死で考えて、月野さんやクラスのみんなと仲良しになるための具体的なレッスンのプランを自分で考えたのである。それだけの頭脳があるのに、トンプソン先生を頼って、うさぎの家にパジャマパーティーに行くにもカバンに本を忍ばせてしまう自信のなさ。亜美ちゃんってそういう子なのだ。

3. 「おはよう!」


そんな亜美の「本当の友達になるためのレッスン」の「その1」が下駄箱で「おはよう!」のシーンであり、次に教室でクラスメート全員に「おはよう!」というのは「その2」ということになろうが、さっきも書いたように、これら二つの場面のつながり具合は、ちょっと妙であるように、私は思う。

(1)ひとつはシチュエーションの違いだ。うさぎが必死で校門を駆け抜ける場面でも、下駄箱の場面でも、あたりはがらんとしていて、登校している同級生の姿はない。そして上履きを履くときの、うさぎのせっぱ詰まった表情。これらは明らかに「また遅刻だぁ」というあせりを物語っている。この顔を見ていると、もう教室には桜田先生が来ていて、朝のホームルームが始まっていて、うさぎはまたAct.1の時みたいに、ほっぺをグニグニされるんじゃないだろうか、という気がしてくる。そう思いませんか。

ところが次に教室に場面が移ると、まだ先生が来る気配もなく、誰ひとり席に着こうとはしていない。入って来るうさぎの表情にも、さっきの焦った様子はぜんぜんなくて、いつもの朗らかな笑顔で、クラス全体に「おはよう!」と声をかけるのだ。
(2)もうひとつは、うさぎと亜美が間をおいて教室に入ってくることだ。下駄箱で「なんか嬉し〜い!」と亜美に抱きついたうさぎは、すぐに亜美の手を取って教室に急ぐ。この勢いからすれば、当然二人はそのまま連れだって教室に飛び込んで来そうなものだと思う。でも実際には、二人はバラバラに入ってくる。
要するに私は、下駄箱のシーンに続く、教室でのうさぎと亜美の時間差「おはよう」のシーンは、流れから言うとちょっと不自然で、だからこれ、もともとの台本に、舞原監督のアイデアがかなり加わっているんじゃないかな、と思うのだ。
つまりこういうことだ。朝、いつものように早く登校した亜美は、「本当の友達」になるためには、まずは朝の挨拶が大事だと思い、下駄箱のところで、ず〜っとうさぎを待ちながら、頭の中では「うさぎ、おはよう」のイメージトレーニングを幾度となく繰り返している。しかし待てど暮らせど相手は来なくて、始業のチャイムが鳴る時間は刻一刻と迫る。このままだと初めて始業時間に遅刻してしまうかも知れない。最初からテンパっているうえに、未知の緊張感が加わって、亜美の心臓は破裂寸前である。もうどうにかなりそうになったところへ、やっとうさぎが姿を見せる。それが超ハイテンションな「うさぎ、おはよう!」の背景事情だ。
一方うさぎは、ヤバイ、また桜田先生にほっぺをグニグニだ、と、真剣にスーパーダッシュで登校して、一刻もはやく教室にたどり着こうとしている。そこへ亜美の「うさぎ!」である。のんびりしている時間はないのだけれど、亜美が自分を名前で呼んでくれたこと、そして、遅刻しちゃうかも知れないのに、ずっと自分を待っていてくれたことに感動して、勢い余ってあまり亜美を抱きしめる。
亜美としても待った甲斐があったというものだ。Act.1で、雑巾を持参で居残り掃除につき合ったなるを、うさぎは抱きしめていて、なるは「もう、うさぎってばいつもこうなんだから」と言ってはいないが、そんな感じのくすぐったそうな表情だ。このように、何事にも大げさでストレートなうさぎの友情表現は、いつも相手へのハグで示される。でも亜美はまだそれをしてもらっていない。それが、ここで、初めて抱きしめてもらったのである。テンパっている上に幸福感で、亜美はほとんどハイだ。こうして二人は手を握って教室へ駆け出す。始業まで、一刻の猶予もない。そうするとやっぱり、二人は教室に入るまで、手に手を取っていなくちゃいけないんじゃないかな。
というふうに、私は下駄箱の場面の心理状態を理解したいんですよね。ところが次に、遅刻でも何でもなさそうな教室の雰囲気と、そこへバラバラに入ってくるうさぎと亜美、というシーンが入っちゃうと、いま書いたことが一切なりたたなくなってしまう。それでまあ、うさぎと亜美の時間差「おはよう」は、ない方がすっきりする、と勝手な都合で考えたわけです。
でもまあ、初手から緊張のあまり何が何だか分かんなくなっちゃった亜美が、教室に入るなりみんなに「おはよう!」と言ってしまう、という流れだったとしても、それはそれで納得はいく。すでに亜美の心理状態が普通ではないので、展開の不自然さもその反映と考えられなくもないのだ。だから演出が脚本の台詞まで変えてしまったわけではないだろう。ただこのあたり、脚本のニュアンスと演出との間にちょっと隙間があるかもしれない、とは思う。そう考えると、Act.5の台本が見てみたいよねぇ。
というわけで、今週はこのくらいで。また冒頭のヨタ話に時間を食いすぎてすまん。

4. 【おまけ】今回の山本ひこえもん


なんかAct.5はひこえもんがよく顔を見せるな。
(1)亜美が「おはよう」と入っていって、みんなが「え?」となる場面で、大阪なるの後ろから背後霊のように斜めに顔を出す。
(2)お弁当の時、モモコの後ろにいる。
(3)赤点の居残り掃除で、うさぎが亜美をパジャマパーティーに誘う後ろでモップがけ。
とりあえず今の時点で確認できたのはここまで。黒猫亭さんの『失はれた週末』の旧所在地には、この手の山本ひこえもんの全登場シーンを網羅したリストがあって重宝していたのだが、今はない。ダウンロードしておけばよかった。