実写版『美少女戦士セーラームーン』ファンブログ


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【第10回】ハードボイルドジュピターの巻(Act.6)


 ふあ〜い。眠い。今朝は深夜にAct.6の再放送を観てちょっと寝て、それからいつもより早起きして娘の弁当を作っていたのである。小学校の遠足だ。
 思いおこせば、もうだいぶ前の話だが、妻がウインナはウインナのまま、リンゴはリンゴのまま弁当箱に詰めているのを見て「幼稚園児なんだからもうちょっと可愛くしてやったらどうか」みたいなことを言ったのが間違いの始まりだった。結局私がやることになって、ウインナはタコに、リンゴはうさぎに切り、海苔はハローキティの形に切り抜いてあるやつを、なんてことをしているうちに、ついでに朝食も作るようになって、さらに夕食の仕込みまでしてから出かけるようになって、気がついたらクッキングパパ状態である。凝り性というのも善し悪しだ。それにしても小学校というのは、ふだんは給食があるからありがたいですね。



 というわけで今回は弁当の話から始める。転校してきたばかりの木野まことは、男勝りのイメージとは裏腹にプリティな手作り弁当を持参している。原作漫画でもアニメでも、それを見つけるのはうさぎだ。そして「みんなは、前の学校でケンカして転校して来た、とか勝手なウワサしているけれども、ほんとはとっても女の子してるんだ」と気づくのである。


 しかし実写版Act.6では、その役が亜美に振られている。これはあえて設定を変えたというより、自然の流れでそうなったように思える。実写版では、うさぎはなるたちと一緒に教室でお弁当を食べるのが恒例になっているので、この回だけまことのお弁当を覗きに行くのは不自然だ。そこで、いつものように亜美が一人で昼食(今回はおにぎりです)を食べている屋上に、まことが現れる、という話にしたのだろう。別にとりたててどうこう言うような変更ではない。のだけれども、その結果、戦士たちの人間関係にもうひとつ重層性が加わることになったところが面白い。これが実写版ならではの醍醐味です。

 アニメでは、亜美もレイもまことも、基本的にはうさぎとの関係を通して戦士として結束している。劇場版『セーラームーンR』のクライマックスでは、天才少女、霊感少女、怪力少女として周囲から敬遠され気味だった彼女たちを、何の屈託もなく受け入れてくれたうさぎへの思いが、戦士のパワーをひとつに結びつける。だからうさぎを中心に、みんながその周りに輪を描くような形で関係がつくられている。
 もちろん実写版も、みんながうさぎを愛することによって結ばれている、という基本は踏まえている。しかし前回のAct.5で亜美の気持ちをいちはやく理解したのはレイだったし、そのレイの口から父との確執のことを最初に聞いて、彼女を元気づけるのはAct.8のまことだ。そしてまことのお弁当を見て、その男っぽい振る舞いの影に隠れた女の子らしさに最初に気づくのはこのAct.6の亜美である。こういう錯綜する人間関係が、ごく自然に織りなされていくのが実写版の良さだと思う。それぞれのキャラクターを、初登場時からしっかり掘り下げておいた効果がどんどん出てきている。

 とは言いましたが、このAct.6はまことが主役の回なだけに、私にとっては鬼門である。これまで、ひとつひとつのセリフの背後には戦士たちのどんな感情が流れているか、そのへんに注目しながらやたらと長いブログを続けてきたわけだが、安座間美優にはそういう方法論が通用しない。セリフを聞いていてもさっぱり感情が読みとれないのだ。そのことをどう表現すべきか、いま私はもの凄く悩んでいる。
 えーとですね、つまりハードボイルドである。そうだそうだ。感情表現を排し、徹底して抑揚を欠いたしゃべりで、いったいこの人は何を考えているのだろうと視聴者の興味を引っ張る。それが彼女の基本的な演技プランだ。なんか汗が出てきた。お願いですからそういうことにしておいてください。とにかく以降、名古屋支部ではジュピターのハードボイルド演技ということで肯定的に押し通すことにします。ひとつよろしく。


 さてこのAct.6、前回のあらすじ紹介もなく、アヴァン・タイトルからまことの物語として始まる。ストリートバスケ(とでも言うのかね)で女の子に人気の高校生タケル。なるちゃんたちクラスメートもみんなぞっこんで彼の追っかけをしている。それにつき合っていたうさぎは、チンピラ風のバスケ三人組にからまれる。そこへ颯爽と登場するのがまこと。あっという間に三人をやっつけ、名前も告げず一陣の風と共に去って行く。

 今回はまことのイメージショットとして、風にざわめく樹木や梢の映像が繰り返し映される。そしてまこと自身、屋外シーンではいつも風に吹かれて髪をなびかせている。風のように現れ、風のように去るさすらいの少女だ。十番中学に転校しては来たけれども、きっとここに留まるのもそう長いことではないだろうと本人は思っている。だから無理して友達を作ろうともしない。そんな彼女が第四の戦士として覚醒し、自分がさすらってきた意味を知り、仲間と居場所を見つける、というのが今回のお話である。
 非常に興味深いのは、今回のプロットが、原作だけではなくアニメ版の要素も取り入れて出来ている点だ。たとえばうさぎとまことのファースト・コンタクト。原作漫画第5話では、タキシード仮面のことを想ってぼーっとしているうさぎが自動車にひかれそうになり、それをまことが助けて「気をつけなよ」と去って行く、というのが最初の出会いだ(これを衛がうさぎを助けるという設定に変えて、ぜんぜん違うエピソードで応用するのがまた実写版のうまいところである)。アニメ無印第25話「恋する怪力少女、ジュピターちゃん」では、いつものように学校に遅刻しそうなうさぎが前方不注意で三人組のチンピラにぶつかってしまい、因縁つけられたところをまことが助ける。実写版は明らかにアニメをベースにしていますね。


 
 


 漫画では、今回ダーク・キングダムは商店街のブライダル・ショップを活動拠点としている(すごい設定だね)。もうすぐ結婚するイトコについていったなるちゃんは、そこで自分がウェディングドレスの貸衣装を着たりしちゃって、撮った写真を学校に持ってきている。「いいなー結婚したい」とため息をつくクラスメートたち。
 
ちなみにこの回は『なかよし』1992年6月号掲載。6月号、つまりジューン・ブライド。そんなイメージにあこがれる女の子たちがついふらふらこのブライダル・ショップを覗くと、幽霊花嫁の姿をした妖魔にエナジーを吸い取られてしまうわけである。それを知ったまことは、自分もけっこう花嫁願望があるロマンチストなだけに「乙女の純情を食い物にするような奴は許せない」と怒り心頭で潜在パワーが爆発、気がついたらセーラージュピターに変身、という運びとなる。
 アニメの方はどうかというと、クラウン(原作やアニメを知らない人のために書いておくと、クラウンはカラオケではなくゲームセンターですからね)では有名な「クレーンのジョー」という美少年がいる。クレーンゲーム、つまりUFOキャッチャーとかの達人で、みんなの憧れの的である(この設定もすごい)。まことはこのクレーンのジョーを見るなり「前の学校にいたセンパイにそっくり」と一目惚れしてしまう。

 うさぎが気を利かせたおかげで、まことはクレーンのジョーと喫茶店で二人きりになれる。ところが、いろいろ事情があって、その場にゾイサイトが姿を現す。思わず逃げ出すクレーンのジョーの前に、店の外から様子をうかがっていたうさぎが立ちはだかり「女の子を見捨てて逃げるなんて、それでもアンタ男?」でもジョーは「知るか。だいたいあんなバカでかい女の子は、おれのタイプじゃないんだ!」まことガーン。センパイと同じこと、また言われちゃった。
 というように、学校でなるたちが写真をみて「はぁーっ」と憧れる対象が、実は妖魔の罠であるというあたりは原作から取ってくる。まことがほのかに想いを寄せる男の子が登場し、でも彼は敵が襲ってきたらあっさりまことを見捨てて逃げて行ってしまう、というあたりはアニメから取ってくる、というように、いろいろとパッチワークした脚本であることが分かります。しかしバスケットボールという要素はどちらにもぜんぜん出てこない。これはどこから来たか。

 当時は沢井美優の特技なんて知らなかったから分からなかったけど、今なら説明するまでもありませんね。そう、たぶん今回は、漫画やアニメを参考にプロット出しをしている会議のなかで、「じゃあまことが“センパイに似てる”ってあこがれる相手はどんな人がいいかな」「そういえば沢井美優ちゃんはバスケが得意だって言ってたから、バスケが上手なモテモテ男ってことにしよう。そいつに妖魔が取り憑いていて、セーラームーンと妖魔のバスケットボールバトルなんてどうかな。『少林サッカー』みたいな感じで」というような発想が出てきて、それが二転三転して現在見るようなかたちに落ち着いたのではないかと思うのです。変身してのバスケットボールバトルなんて、そんなこと考えるか?と思われる向きもおありでしょうが、でも縄跳びバトルなんてのもありましたからね。
 ともかく、まず沢井美優のバスケありき、そこから今回の話が組み立てられたことは間違いないと思う。だからちょっと構成がいびつな気もする。冒頭でまことにやっつけられた三人組の卑劣な復讐は、結局、妖魔やダーク・キングダムとは接点をもたない。そのため、まことが本当に戦士であるかどうかを見きわめる目的で彼女をつけていたはずのルナは、乙女の純情をもてあそばれたまことの姿を見るに見かねて、本来の目的とは関係ないことでうさぎと亜美とレイを呼び出すはめになる。ここで「相手は妖魔じゃないけど……」とバスケになるわけだが、なんかちょっと無理やりな印象が残るのである。とくに今回なんか、ここでAパートが終わると、いきなりパチンコ屋のCMだったりして違和感を増幅するんですなこれが。

 原作に沿った流れで行くなら、この後タケル=妖魔に連れ出されたまことが、彼の目的を知り「騙してたんだ、この子たちみんな。……私はどうでもいい。でも、こんなにたくさんの子たちの気持ちを、もてあそんで良いわけない」という、ここのところでぴかーっと光が差して、まことに異変が起こる。そこへルナやうさぎたちが駆けつけ「まこちゃん、変身よ」という流れが正しいのだと思う。ところがこの時点でうさぎたちはまだバスケ中だ。
 そんなわけで、まことは変身するきっかけを失い、妖魔に襲われる。取り憑いていた妖魔が抜けて元に戻ったタケルは、まことが助けを求めているのに逃げていく「いつも、最後は一人だ」。ここへセーラームーンたちが駆けつける、というのは、まあ常道だ。ところがまことは、妖魔の触手に首を絞められ絶体絶命の状態なのだから、戦士たちとしては、力を合わせて一気に妖魔を倒し、まことを助けなければおかしい。しかしそうすると、まことがまた変身できなくなる。ジュピター誕生の回なのだから、どうしてもここで変身して、ジュピター自身が妖魔を倒さなければ収まりが悪い。というわけで結局、まことの初変身は、夢なんだか現実なんだかよく分からないところへセーラームーンが現れる、という、シリーズ中最も変則的なパターンをとることになってしまった。



 この変身シーン、変わっていて良いじゃない、と思われる方もいるのだろうけれど、どうもなあ。これでは、ジュピター初変身の手助けをしてあげたセーラームーンはともかく、ぜんぜん闘わなかったマーズとマーキュリーは、なんのために変身して姿を現したのかわからない。ただのコスプレだ。
 それでちょっと私としては、今回が初めての試みだが、アニメ版に近い路線で、次のような代案シナリオを考えてみた。ヒマな方はお読み下さい。


【Act.6改訂版】まず妖魔だが、これはタケルではなく、冒頭でまことに倒された直後の三人組に取り憑く。彼らはタケルをエサにして、その追っかけのなるちゃんたちにタケルの名で手紙を出す。なるちゃんたちは手紙を手にした途端、魂を抜かれたようにふらふらと歩き出し、妖魔に捕まえられてしまう。
 一方まことは、タケルの周囲で女の子たちの失踪が起こるので、タケルの身辺が心配でつい後をつけ回す。夕暮れのバスケットコートで一人練習するタケルを遠巻きに見守るまこと。しかしその視線に気づいたタケルから「何でオレの後をつけ回すんだよ。おまえ自分のキャラ分かってんのかよ」と言われて落ち込み、とぼとぼと帰る。ところが家へ帰ったらタケルの手紙が来ている。それを手にして、何か異様な気配を察知するまこと。これはおかしい、やっぱりタケルさんの周りで何かが起こっている。彼の身が危ないかもしれない、と引き返して駆け出す。
 夜のバスケットコート。タケルの前に三人組が登場し「お前の女たちはすべて捕まえた。お前はもう用済みだ」と言って妖魔の姿を現し襲いかかる。そこへまことが助けに入り、妖魔に捕まる。まことを放って逃げ出そうとするヘタレのタケル。「女の子を見捨てて逃げるなんて、それでも男?」とうさぎ・レイ・亜美が登場。でもタケルは逃げてしまう。捕まえられたままのまことは、その後ろ姿を切なそうな視線で追う。
 うさぎたちは変身。驚いて見つめるまこと「何?」。戦士たちはまことを助けに入ろうとするが、三人の妖魔はそれぞれバスケットボール状の武器をぶつけて攻撃してくる。マーズとマーキュリーは火と水で迎え撃つ。セーラームーンはボールをキャッチして見事にダンクシュート。「うさぎ、何やってんの!」「あっ、そうか」しかしスルスルと触手が伸びてきて、三戦士もまた捕らえられる。絶体絶命のところへルナが駆けつけて「まこちゃん、変身よ!」ジュピター・パワー・メイク・アップ。シュープリーム・サンダー。ガラガラドン。【終わり】


 ちょっとレイの回に似た展開になってしまうが、こういうふうにすればマーズとマーキュリーもそれなりに活躍できると思うのだけど、どうかな。どうかなって、私は一体なにを夢中になって妄想しているのだろうか。
 ま、観る方は作る側の苦労も知らず、勝手なことを言っているわけだが、とにかく今回、そういう構成上の難もあって、まことは変身するまでの間に、三人組に騙され、憧れていたタケル(実は妖魔)が少女たちの乙女心をもてあそんでいたことを知ってショックを受け、あげくのはてに、人間に戻ったタケルに見捨てられる。三連発である。ちょっとやり過ぎではないか。
 にもかかわらず、まことがボロボロになってもう観ていられない、という感じにはならない。わりと淡々と進むのがけっこう救いでさえある。ということは、感情の起伏がいまいち読めない安座間美優のハードボイルド演技っていうのも、これはこれでありなのだろうか。ちょっと私、今回は全体的に弱気です。要するに安座間美優の評価について悩んでいるのである。こんなに悩むなんて、私もやっぱり本当は安座間美優が大好きなのだろうか。
 さて最後に気を取り直して(なんでだ?)原作漫画と実写版のシメのセリフを引用しておきたい。アニメの要素も取り入れつつも、実写版は最後には、ぴたりと原作と同じ地点に着地している。まず、なかよしコミックス1巻より。



 続いてご存知実写版。


  


セーラームーン「まこちゃん、私たち、仲間だったんだよ」


  


マーズ「最初に分からなかったのは、妖魔の術に半分かかっていたせいね。でも、もう男に惑わされるのも終わりよ」


  


マーキュリー「私たち、それぞれの力をもった戦士なのよ。あなたもその一人」



  


ジュピター「そうか……あたし、そうだったんだ……ずっと行かなきゃいけない気がしてた。その理由が分かったよ。失恋したせいじゃない。仲間に会うためだったんだ」


 ね。順番とか細かいところはもちろん違うけれど、だいたい同じでしょう。実はこれほど原作とぴったり合う場面というのは、珍しいくらいなのです。このように木野まこと=セーラージュピターの物語は、まずは戦士たちのなかでもいちばん原作に忠実なところから始まったのである。というわけで今回はこれまで。



(放送データ「Act.6」2003年11月8日初放送 脚本:小林靖子/監督:舞原賢三/撮影:松村文雄)