1. アイドル諸行無常
チームしゃちほこのピンク担当、安藤ゆずがグループからの卒業を発表した。目ヂカラの強さと言葉選びのセンスが印象に残る子だったけど、昨年(2015年)11月「良性発作性頭位めまい症」でライブ中に倒れるなどして活動休止。めまい症とは内耳にある三半規管の異常で、自分や周りのものがグルグル回るように感じてしまう病気らしい。乗り物酔いのような症状も伴うという。そして9月29日に久しぶりにブログを更新。
この一年、私自身も復帰を目標に自分なりに努力してまいりましたが
この先のことを考えると、やはり復帰は難しいと決断しました。
チームしゃちほこは、地元名古屋のメジャーなグループだし、レーベルがアンボルデだけあって、いかにもアイドルっぽい曲とほぼ交互に、SEAMO提供の名古屋原理主義ソング「首都移転計画」とか、アシッド系のパロディ「いいくらし」とか(これすごく良かった)有名なアニメタイトルのリメイク「天才バカボン」とか、フックのあるナンバーをリリースしてくるのが面白くて応援している。
2012年の初お目見え以来「人間50年、アイドル5年」「ROAD TO 笠寺」というコンセプトで、「デビュー5年で笠寺の日本ガイシホール(名古屋市総合体育館)でライブを実現」という目標を掲げてきた。そしてほとんどすべてが奇跡的に調子よく進んで、来年2017年春にガイシでのライブが決定した。そんななかでの唯一の躓きが、彼女のリタイアであった。本人はもちろん、残りのメンバー5人にも、すごく悔しい気持ちはあるだろう。
でも、実は「無期限休養」を発表した直後の今年の3月、諸般の事情で来賓の代理として出席した高校の卒業式で、私はこの子を目撃したんです。各クラスから代表が一人だけ壇上に上がり、卒業証書を受け取るなかに彼女はいなくて、その他大勢に埋もれていたけど、最後の卒業生退場のときに、あれっと気づき、もしかしてと観察し、そうだと確信した。あの目ヂカラとポジティブなオーラは見間違えようもなかった。まっすぐ前を向いていて、私はなんだかホッとして体育館の天井を仰いだ。こういう子なら、挫折感も悔しさも糧にして、きっと大きく成長できると思う。人生はまだまだこれからだ。がんばれ。
2. 法医学教室
三半規管って、人間が平衡感覚を保つうえで大切なんですね。
たとえば人が泳いでいる途中、何かの拍子でタイミング悪く鼻から水を勢いよく吸うと、内圧で中耳や内耳を囲む部分に出血を起こし、三半規管の機能が低下して突発的にめまいが起こる。そうすると泳ぎはおろか立つことさえできなくなって、水深が浅くても溺れ死んだりするそうだ。
でも普通に立てる浅いプールで大のオトナが溺死していれば、それは不審死である。推理小説だったら殺人だ。遺体を解剖して法医学的に死因を解明する監察医の出番は、こういうときにやって来る。
ベストセラー『死体は語る』(時事通信社、1989年、現在は文春文庫)に始まる法医学者、上野正彦の一連の著作には、短編推理小説のネタにもなりそうな、こういう実例がいろいろ出てきて興味深い。さすが30年にわたって東京都観察医務医院に監察医として勤務し、検死2万体以上、解剖5千体以上の実績をこなしただけのことはある。
ていうか、すでに10年以上前から、テレビ東京が、これを「原作」にした高島礼子主演の2時間ドラマシリーズ「監察医・篠宮葉月 死体は語る」を制作している。
中山七里の『ヒポクラテスの誓い』(祥伝社、2015年)は、おそらくこの上野正彦の著作あたりにおおきな影響を受けて書かれた短編連作形式の法医学ミステリだ。
登場人物は、同じ作者の社会派(かな)ミステリ『魔女は甦る』(幻冬舎、2011年)『連続殺人鬼 カエル男』(宝島社、2011年)『切り裂きジャックの告白』(角川書店、2013年)などで活躍してきたシリーズキャラクターたち。ただしこれまで捜査側の主役だった埼玉県警捜査一課の古手川刑事や上司の渡瀬警部はワキに廻り、逆に過去作品ではわずかに検死などの場面で登場するだけ(あるいは名前が出るだけ)だった浦和医大法医学教室の教授、光崎藤次郎がメインを張る。
この光崎という老教授は毒舌家で、彼をリスペクトする若手熱血刑事の古手川にも「お前のところはいつもろくなホトケを持って来ない」と容赦ない。その代わり法医学者としての能力は抜群で、他人の書いた検死報告を見ただけでその欠点と誤りを指摘し、正しい死因を推理してしまうほどである。
で、この変わり者教授の研究室に、新しいキャラクターとしてヒロインの研修医、栂野真琴が配属されるところから『ヒポクラテスの誓い』は始まる。原作とドラマ版とではキャラクター設定にだいぶ違いがあるんだけど、それは後回しにして、ともかくドラマの中身に入って行こう。
初めての法医学教室にやって来た真琴(北川景子)を出迎えたのは、おそろしく愛想のない光崎教授(柴田恭兵)と、多少はコミュニケーションできそうな准教授の樫山(濱田マリ)。
真 琴「失礼します」
真 琴「あの、研修医の栂野真琴です。今日からこちらでお世話になります」
樫 山「研修医……が何でウチに来んの?」真 琴「え?……あの、内科の津久場教授から、今日からこちらで研修をさせていただけると……」樫 山「ううん……聞いてないけど」
真 琴「え?」
樫 山「光崎教授、研修医の受け入れって聞いていますか?」光 崎「知らん」樫 山「また上の空で話を聞いていたんでしょう」
真 琴「短い期間ですがよろしくお願いします」
光 崎「検死における早期死体現象とは何か」
真 琴「……」光 崎「短い期間だと承知しながら、それでも研修したいというからにはそれなりに準備をしてきたんだろう」
内科医志望の真琴は、正直言って、死体の解剖なんかに興味は無い。恩師から見聞を広めるように行ってこいと言われてきただけのことで、何の予備知識もなくのこのこやってきたから、教授の質問にも何も答えられない。光崎教授は愛想を尽かして、准教授の樫山を連れて検死の仕事に出て行ってしまう。
このあたりで、このドラマは原作とは違うシリアスモードであることが分かってくる。ちなみに原作で、ここに続く場面の教授と准教授の会話は次のような感じで、クスッと笑えるようになっている。
「教授。即断即決は学者には相応しくありません。真琴を法医学教室に受け入れるかどうかは、まだ様子を見た方がいいのではないでしょうか」
「わしもいい加減、齢を食って残り時間が短いからな。即決でもせんと多くのことを決められん」
「真琴は見どころがあるように思えます」
「どこがだ」
「あまり繊細ではなさそうです」
いったい、それは誉め言葉なのだろうか。
「不平不満が出やすいのも向上心の表れです」
「ここに訪ねてくる理由が消極的過ぎる」
「最初から積極的過ぎると、最後には息切れします」
「ずいぶんとこいつの肩を持つんだな」
「教授が新人を突き放し過ぎるのです。いいですか、今、法医学教室は圧倒的に人手が足りないのですよ。それなのに警察からはひっきりなしに遺体解剖要請が入る。その度に我々は手を取られ、それ以外の仕事ができません」
「つまり、給料の安い雑用係が必要ということか」
「その通りです」
なにがその通りだ。(中山七里『ヒポクラテスの誓い』)
ちなみにこの原作で光崎教授の相手をしている准教授はキャシー・ペンドルトン。光崎を尊敬するあまり、日本語を勉強してはるばる留学してきたアメリカ人で、日本語はペラペラ、でもたまにおかしな格言を口走り、しかもネクロフィリア(屍体愛好家)を自称する変人。しかしドラマ版ではこれが、樫山輝(濱田マリ)という日本人に変更された。
もちろん濱田マリが悪いとは思わない。しかしこのキャシー・ペンドルトンは無愛想な光崎教授とヒロインをつなぐ橋渡し役で、ときおり日本語の言い回しを間違って読者を笑わせるコメディー・リリーフでもある。また、死体にメスを入れることを忌避する傾向の強い日本人のメンタリティを、遺体解剖にもさほど心理的抵抗を示さない欧米人的な視点から批評する、東西の文化差の解説者みたいな役割も振られていて、それが原作を面白いものにしている。シャーロット・ケイト・フォックスとか起用するわけには行かなかったものか。無理か。じゃベッキーはどうだ。
3. 事件
閑話休題。
第一印象は光崎教授のメガネにかなわず、真琴はあえなく撃沈。教授が樫山を連れて教室を出て行って、後に取り残されてしまう。
いきなりの失態に凹む真琴。そこへ外線から電話がかかってくる。
真 琴「浦和医大、法医学教室です」凪 沙「そこは解剖してくれるところですか?」
電話の主は9才の少女、篠田凪沙(石上ひなの)だった。
凪沙によれば、父親(高橋洋)が自動車を運転中、女性を撥ねて死なせてしまい、罪に問われている。
でもお父さんは、普通に車で走っていたら、いきなり自転車が車道に飛び出してきて、避けられなかったと証言している。いつものお父さんの運転は慎重すぎるほど慎重で、交通ルールを無視して人を轢くなんて信じられない。お父さんの言う通り、女の人が何かの理由で車道に飛び込んできたんだと思う。だから原因究明のために、轢かれた女の人を解剖して欲しいのだという。
そこへ居合わせたのが、埼玉県警捜査一課の古手川刑事(尾上松也)。なんかもう、思いっきり歌舞伎役者っぽい雰囲気の刑事である(笑)。
古手川も、この事件を責任を全面的に運転手のルール違反と不注意に帰するのはおかしいと感じている。しかも過去のつき合いから、浦和医大の光崎教授をものすごく信頼していて、光崎教授に改めて検死をさせるべきだと考えている。真琴はいかにも取っ付き悪そうな教授が、意外に広く信頼されていることを知って驚く。
というわけで古手川刑事が資料をもっていくと、光崎はたちどころに解剖の必要性を主張するので、真琴は面食らう。
光 崎「検死報告書と検案調書に齟齬がある。不十分だ。うちに回せ」
真 琴「いや、でももう交通事故で処理はされていますし……」
光 崎「司法解剖が無理なら承諾解剖を。説得しろ」
真 琴「承諾解剖って!この状況でご遺族に解剖の承諾を求めるのですか?」光 崎「それがどうした?」
真 琴「おかしいですよ、そんな強引な。大事な娘さんを亡くしたばかりで、事故じゃないかも知れないから解剖させろって、納得できるわけないと思います」
光 崎「そんな考えでここにいるなら出てってくれ」
光 崎「法医学者が死因を救命するのは警察のためでも、場合によっては遺族のためでもない」
真 琴「じゃあ、何の……」
光 崎「国民の権利と安全のためだ。誰かが死んだとき、同じことが起きないためにはどうすればいいのかを検討する」
光 崎「法医学は社会医学だ。安っぽい感情移入は君の自己満足だ」
光崎の「法医学者が死因を救命するのは遺族のためですらない」という命題に始めは反撥していた研修医の真琴が、次第に医療倫理の何たるかを考え成長していく過程が、この物語の基本ラインである。
4. ヒポクラテスの誓い
でもいまは光崎教授の考え方がさっぱり分からない。法医学教室で続けていく自身をなくした真琴は、大学のエントランスに行って、高く掲げられた「ヒポクラテスの誓い」を見上げている。
能力と判断の及ぶ限り患者の利益となる治療法を選択し害と知る治療法を決して選択しない
どの家を訪れる時も自由人と奴隷の相違を問わない
この誓いを守り続ける限り私は人生と医術とを享受できるしかし万が一この誓いを破るとき私はその反対の運命を賜るだろう
そこへやって来たのが、真琴の敬愛する内科医の津久場教授(古谷一行)。
津久場「君は何かあるとここに来ているな」真 琴「研修先をここに決めたのはこれが理由なんです。授与式で暗唱させるのはここだけなんです」
真 琴「内科に戻していただけませんか」
津久場「偏屈だな。光崎君は優秀な男だ」
真 琴「私は生きている患者さんを治すために医者になったんです。柏木裕子を憶えていらっしゃいますか?」
津久場「もちろん。うちの患者さんだ」真 琴「大事な親友です。彼女を治せる医者になりたいんです」
真 琴「法医学で死因が分かっても、亡くなってしまったらもう終わりじゃないですか」
津久場「ヒポクラテスが生者と死者を区別しているかな?」
津久場「『どの家を訪れる時も自由人と奴隷の相違を問わない』」
津久場「医学においては生者も死者も分け隔て無く同じ患者じゃないのかな?」
津久場「親友を治せる医者になりたいなら、彼女の治療は僕にまかせておけ。いまは見識を広げなさい」
津久場「法医学が患者に寄り添う道はきっとあるはずだ」
津久場「君なら見つけられる」
教授との会話に、少し気を取り直す真琴。加えて、古手川刑事が警察の喫煙室で語る、刑事の仕事にかける熱い想いと悩みも、真琴の心を動かす。それにしてもすごい煙である。なぜ喫煙室を。
真 琴「タバコに含まれる一酸化炭素は、ヘモグロビンと結びついて体力の低下につながります」
真 琴「ニコチンは毛細血管を収縮させて血圧を上昇させると言われています」
真 琴「どうしてそんなに解剖にこだわるんですか?光崎教授は分かるけど、あなたは警察官なのに……」古手川「警察が年間で取り扱う死体の数はどれぐらいだと思う?」
古手川「26年度で約166,000。そのうち司法解剖に回せるのは約11%」
真 琴「たった11%……どうしてですか?」
古手川「予算がない。警察だって予算で動いているからね。9人のうち8人が、本当の死因が分からないまま火葬されている可能性がある」
真 琴「9人のうち、8人……」
古手川「犯罪者には天国だ。この国は」
真琴は次第に、自動車に轢かれた被害者本人のためにも、解剖して死因を特定する必要があるのではないかと思うようになっていく。でも解剖には遺族の同意が必要である。それで真琴は説得役を買って出る。
確かに柴田恭兵や濱田マリや尾上松也が来たら解剖なんてお断りだけど、北川景子が来たらちょっと納得かもね。何はともあれ、轢かれた女性の両親(遠山俊也・辻千春)を説得しなければならない。
栗 田「帰っていただけますか。無責任な男がスピードを出しすぎて娘を轢いた。原因なら分かっています」
古手川「今の状況では、加害者がスピードを出しすぎていたかどうかの断定は……」
栗 田「娘は自殺なんかしない。殺されるような子でもない」
真 琴「栗田さん、これを見ていただけますか?」
真 琴「娘さんの死体検案調書のコピーです」
真 琴「今回の、事故が死因だとした場合の疑問点を書き込んであります」
真 琴「警察で交通事故だと言われて信じるのは当然だと思います」
真 琴「でも、医者でも表面を見ただけでは分からないことが沢山あるんです」
真 琴「原因がわかっても娘さんは戻りません」
真 琴「でももし、後になって知りたいと思っても、調べることが出来るのは今だけなんです」
といっても、この時点ではAI(Autopsy Imaging, コンピュータースキャンなどによる画像検査。バーチャル解剖みたいなもん)の許可を求めただけで、遺族も「遺体にメスを入れないなら」という理由で納得したのである。
5. 真相
ところが遺体の搬送中、古手川刑事は突然、AIセンターではなく大学病院に運ぶよう運転手に指示する。もちろん大学病院では光崎教授が解剖の準備を始めている。
真琴は「話が違う、ご遺族だって身体に傷のつかないAIだからといって承諾してくれたのに」と猛抗議するが、古手川は取り合おうとしない。最初から光崎に解剖してもらうつもりだったのだ。
完全なる違法行為で、こういうのを『あぶない刑事』という。
大学病院に着いてからも、必死で光崎教授に抗議する真琴だが、まったく取り合ってもらえない。
真 琴「教授、これは犯罪ですよ!」
光 崎「責任は俺が取る」
仕方ない、こうなっちゃったのは自分の責任だから、と思い、手術着に着替えて現場に残る真琴。そこで光崎教授の天才的な手術の腕を目の当たりにする。
解剖の結果、腹の内出血は意外と少ないこと、そして被害者の死因が硬膜下出血であることを突き止める。つまり彼女は自転車で外出中、突然の脳の出血で意識を失い、ほぼ死んだ状態で車道に飛び出し、篠田の運転していた車に不運にも激突したのであった。死因は決して篠田のスピード違反ではなかった。
術後、遺体にメスは入れないという約束を破られて抗議をしようと待ち構えていた遺族に、真琴は穏やかに説明する。
真 琴「娘さんは脳に出血がなかったにも関わらず頭蓋内に出血が見られました」
真 琴「自転車で走行中に重傷の、内因性の硬膜下血腫を発症し、意識を喪失。その状態で車に激突したと推測されます」
真 琴「腹腔内の出血量から考えて、娘さんの死因は内臓損傷による失血死ではなく、内因性の硬膜下血腫による病死でした」
真 琴「AIではなく解剖にこだわったのはそのためでした。数日経った遺体の場合、体内の出血はCTでは判断が難しくなります。AIでは見逃されていた可能性があります」
真 琴「それでも許されないことをしました。ほんとうに申し訳ございませんでした」
栗 田「これからずっと、娘を殺した相手を憎んで生きていかなきゃならないと思っていました」
栗 田「だけど憎む相手はいなかった」
真 琴「娘さんが教えてくれました」
こういうときの気持ちってよく分からない。たとえば残酷な事件が起こったとき、被害者の遺族が「犯人に極刑を望む」ってよく言うけど、あれは(想像だけど)愛する者を奪われた理不尽な怒りを犯人にぶつけて、それで何とか精神的なバランスを保っているのではないかと思う。ところがその憎む相手すら不意に奪われて「本当は病死でした」と言われるのって、どういう気持ちなのだろう。ただ「間違って無実の人を憎むところでした、ホッとしました」というだけのものじゃないとは思う。
ともかく遺族の許可無く解剖したのだから、常識的にはこれで済む話じゃないんだけど、これで事件はいちおう解決。
そして真琴は、法医学教室に電話を掛けてきた少女、凪沙といっしょに、事件の場所に花を沿えて拝む。
凪 沙「お父さんが帰ってきた」真 琴「そう。良かった」
本当いうとこのエピソードに、シリーズ全体にからむ謎(光崎教授が暴こうとしている浦和大学病院の闇)とか、第3話のゲストたちに対する前フリ(主人公の親友の女の子と、その看病にいかにも疲弊しきっている母親)とか、いろいろ伏線も挿入されているんだけど、そのへんは省略させていただきます。
総評。ウェルメイドでヒロインのキャラも立っていた『家売るオンナ』の後で、あんな風に楽しもうと思われている向きにはちょっと厳しい。『LADY』や『探偵の探偵』の後番組だったら良かったのに。でも、たとえば実写版セーラームーンのAct.33やAct.34で、升毅を相手にぶつかり稽古みたいな芝居をしていた北川景子が好きな人は必見である。
もちろん当時とは段違いに上手くなったけど、古谷一行とか柴田恭兵といった手練れのおじさんを相手にすると、北川景子の芝居は、やっぱりどこか「稽古付けてください。よろしくお願いします」みたいな雰囲気になる。もはや押しも押されぬスターダスト・プロモーションの看板女優が、そんな駆け出しの新人みたいな態度じゃいかんだろうと思いつつ、でもそんなむきだしの向上心が北川景子の魅力であることは、説明するまでもないか。そういう意味じゃ、ももクロや私立恵比寿中学やチームしゃちほこみたいに、ひたむきさを売りにするスターダストのアイドルたちとも重なる、かどうかは分からない。
ただともかく、私個人としては、北川景子と古谷一行以外のキャストがイマイチなじまないのだ。特に光崎教授。常に冷静沈着で先を見越していて、何かを企んでいるけどそれが分からない、という謎めいた人物像だ。
でも『家売るオンナ』の仲村トオルが、『あぶない刑事』のトオル君と一脈通じるキャラクターだっただけに、こっちの柴田恭兵も、何か突然、おちゃらけそうな気がして、観ていてもこっちの頭に光崎教授が入って来ない。困ったものだ。
北川景子とはたぶん『悪夢ちゃん』以来となる濱田マリも悪くないんだけど、さっきも書いたように何しろ原作がアメリカ人なので、ちょっとギャップに苦しむ。
そして古手川刑事。熱血で負けん気が強くて若気の至りでムチャもする。以前、朝日放送で同じ作者の別シリーズ『刑事 犬養隼人』がドラマ化されたときには、犬養刑事(沢村一樹)の相棒の古手川刑事を瀬戸康史が演じていたけど、なかなか良かった。尾上松也の古手川刑事は歳の割に重厚で、ちょっと落ち着きすぎな気もする。
というのが初回を観た私の感想だが、原作をぜんぜん読んでいなければ、また違った意見もあるかも知れない。全五話という短いターンなので、これからしっかり見守りたいと思う。ネタバレになるけど、第三話あたりがひとつのピークで、真琴は病死した大親友を解剖するかどうかという選択を迫られ、遺族に解剖の許諾を求めるよう光崎に命じられ、親友の母親から罵られる。そういう経験を経て成長していくヒロイン像を北川景子が演じる様子を追いかけていきたい。