『隕石家族』第1話より。みんな忘れちゃってるだろうから、伏線を拾っておく。予備校で大画面テレビに見入る結月(北香那)と、その恋人の翔太(中尾暢樹)。
コメンテーター「アラブの王族は、宇宙船を開発し、火星に移住する計画を立てているそうだ」
結 月「できることなら、みんな火星に逃げ出したいよね」
翔 太「一般人には夢物語だよ。みんなこの地球で、ただ何となく最後の時まで生きるだけさ」
翔太の複雑な表情、そして翔太の過去がまったく明かされない設定から考えて、この「アラブの王族」の王子が翔太なのだろう。で、宇宙船開発にも目処がつき、上級国民の火星移住計画が始動した。もちろんそんなものが全国的に明らかになると下級国民の暴動が起こるので、政府は「彗星が軌道を変えて地球は助かる」というフェイクニュースを流して目くらましをする。以下は第5話より。
老 人「お考えいただけましたか」
老 人「門倉結月さんには十分な謝礼を用意させていただきますので、どうか」
翔 太「その前にけじめをつけたいことがあるんです」
アラブの王族の御曹司である翔太のもとには、そろそろ宇宙船の準備が整ったので、結月と別れて帰ってくるよう召喚がかかる。そもそも翔太には親の決めたフィアンセがいるので、結月と別れるよう何度も要請されていたのだ。
で、翔太の出した結論は「門倉家の人々も火星に移住する宇宙船に乗せてくれるなら、自分は結月と別れて戻る」というものだった。交渉は成立し、翔太は結月に別れを告げて去っていく。
と、だいたい今はそのあたりまで話が進んでいる(一部、私の推定も入っています)。ほかにもいろいろ書きたいことはあるのだが、このレビューはまだ第4話までしかすすんでおらず、しかもまたちょっと週末の用事ができたので、さっそく本題に入ります。『隕石家族』第4話「どうにも止まらない」(2020年5月2日、原作・脚本:小松江里子/照明:生嶋航/撮影:布川潤一/監督:竹村謙太郎)だ。
東京の夜空に幾つもの隕石が鮮やかな尾を引き、地面が激しく揺れる。
揺れる部屋の中で、門倉家の長女で中学教師の美咲(泉里香)は、今日の学校での出来事を思い起こしていた
森 山「疎開することにしたの」
森 山「私はひとりでその時を迎える」
でも外出していたお祖母ちゃん(松原智恵子)がパニック状態で玄関に転がり込んで来て、ママの久美子(羽田美智子)が手助けを求めてきたので、階段を駆け降りる。お祖母ちゃんは少しずつ認知症が進んでいて、いまも門の前にいたのに、それが自分の家と分からず、帰宅できなくて周囲をおろおろしていたのだ。
パパ(天野ひろゆき)も帰宅。テレビでは臨時ニュースが始まった。
アナウンサー「緊急ニュースをお伝えします。午後7時20分ごろ、隕石が東京都多摩地区付近に落ちた模様です」
アナウンサー「ただ、これは現在地球に近づいている巨大彗星とは関連のない隕石だということです」
結 月「別の隕石なんだ……」
アナウンサー「各地の目撃証言から、隕石は和歌山県南東部から静岡、東京へと侵入していったものと見られており」
アナウンサー「その大きさですが、衛星写真からの推測によると、直径80センチから数メートル規模の隕石が、複数個落ちたとの情報が報告されており」
アナウンサー「重いものでは10トン程度はあるのではないかということです」
アナウンサー「また隕石落下と同時に、全国各地で電波が一時不通となる通信障害が起き、原因の究明と復旧が急がれます」
(電波が乱れ、テレビ画面が落ちる)
結 月「80センチから数メートルって……80センチって、こんぐらいだよね」正 子「ううんもうちょっと大きいかな」
久美子「それでこの騒動?」
和 彦「数キロもの隕石が落ちてくるっていったら……」
和 彦「おい、まだ揺れてないか?」結 月「えっ待って」翔 太「揺れて……ないです」和 彦「揺れてない? そう?」
久美子「はぁ」
結月のM(最後の時の実感が迫ってきた……)
普通に生活している限り、あと数ヶ月で地球が滅びるなんてもうひとつ現実感がなかったんだけれど、いよいよハルマゲドンが実感されてきた。ハルマゲドンって地名だけど。
私がこのドラマを古い友人たちに勧めてみた話は前回書いたけど、その一人からニール・スティーヴンスン『七人のイヴ』(日暮雅道訳、ハヤカワSFシリーズ/ハヤカワ文庫)という小説を教えてもらって、かなりの大作なのだけれどいま読み始めている。オバマ前大統領やビル・ゲイツもお薦めということで有名らしいけど、不勉強でよく知りませんでした。
月が原因不明の大爆発を起こして七つに割れる。これがタイトルの「七人のイブ」である。その後、月の破片の衝突が観測されるようになって、無数の月のかけらが地球を覆う。シミュレーションの結果、このままいけば二年後には、月のかけらが地球に降り注ぐ時代に入り、それは五千年止むことはなく、人類は死滅するだろうことがあきらかになる。それでまあ前々回に紹介した映画『地球最後の日』みたいに、全員は無理だから選ばれた人々をノアの方舟(宇宙船)で脱出させようという計画が立ちあがる。今回の隕石のイメージなんか、ちょっと連想させられるけど、影響あるのかな。小松江里子さんがニール・スティーヴンスンを読むとは思えないけど。
まあいずれにせよ、こうなったら世界トップクラスの叡智と技術を結集して、タフな政治的駆け引きをこなして、たとえ一部でも人類の存続を計ろうとか、そういう高尚な志をもったキャラクターはこのドラマには出てきません。スーパーでレジ打ちのパートをしている久美子の同僚なんてこんなもんだ。
「なんか虚しいよね〜。昨日のことでもう実感。終わりが来るんだなあって」
「だったらさ、あの旅館のおもてなしドラマ『花嫁のれん』4シーズンぜんぶ観て、ポテトチップス食べてコーラ飲んでぐだぐだして、太るだけ太って……」
『花嫁のれん』て、2010年から2015年まで4シーズン制作された、小松江里子脚本、羽田美智子・野際陽子主演、東海テレビ製作の昼ドラじゃん。なにやってんだか。
でも当の羽田美智子は、不倫相手からのメールに上の空。
一方、大好きな森山先生から見合いを勧められた長女の美咲(泉里香)は、学校の廊下で、最後の授業を終えたあこがれの森山先生に、預かっていたお見合い写真を押し返す。
生 徒「さよなら」美 咲「さよなら」
美 咲「これ、お返しします」
美 咲「こんなお見合なんかさせて、私を遠ざけて」
美 咲「その隙に、独りで居なくなるつもりだったんですか?」
森 山「……最後の時は、独りで迎えるって決めたの」
森 山「会えて良かったわ。門倉先生」
森 山「今、ほかの先生方にも、お別れの挨拶をしてきたところなのよ」
美 咲「本当に辞めるんですね」
森 山「ええ」
森 山「じゃあ」
美 咲「私の気持ち知ってるくせに!」
美 咲「先生!」
森 山「さよなら」
この場面の泉里香が、油断していると実写版セーラームーンの水野亜美に重なる。たぶん中学校の廊下という場面設定と、同性に対する一途な思いというあたりがポイントだが、最も重要だと思うのは、両者の関係性である。もうちょっと後の場面で、パパとママがこんな会話を交わしている。
久美子「あの子、いじっぱりで負けん気が強いから、中学の時、少しいじめられていたことがあったでしょ」
和 彦「そうだったなあ」
久美子「ああいう子だから、私たちにも何にも言わなかったけど」
和 彦「変に聞き出そうとすると、ますます頑なになっちゃって」
久美子「そんなあの子の心の殻を、初めて破ってくれたのが、森山先生だった」
中学の時、孤独だった美咲の心の殻を、初めて破ってくれたのが森山先生だった。亜美とうさぎと同じそういう関係性が、どうしても亜美を連想させてしまうのではないかと思う。
話は戻って、その晩、もうほとんどかりそめの一家団欒のなか、帰宅した美咲は、自らの決意を家族に告げる。
正 子「そういえば、美咲も変だったわね、いつもの食欲がなくて」
美 咲「ただいま」
久美子「あ、帰ってきた」
一 同「おかえり~」
美 咲「私」
美 咲「この家を出る」
和 彦「え?」
亜美は、いや美咲は、家族を離れ、疎開先まで森山先生を追っかけていく決意をしたのだ。……って、このあたりで第4話はまだ半分くらいなんですけど、時間がなくなってしまった。続きはまた次回に、よろしく!
もう第5話までオンエアされているので少し予習をしておくと、美咲が家を出て、これで泉里香はドラマから退場するかというと、第4話の最後に、巨大彗星の軌道が急に変わり、地球直撃ルートを外れたために、人類は滅亡の危機を免れたようだ、というニュースが入る。(最初に書いたとおり、これはたぶん政府によるフェイクニュース)それで第5話になると、街には活気が甦り、疎開していた人々は都会に戻ってきて、森山先生も教師に復職、美咲もちゃっかり実家に帰ってきてしまう。だから泉里香は出演し続ける。ご心配なく。じゃまた。